DERBYTRIAL: Last days of Europe 作:掘っ立て小屋以下の何か
昔々、『人類』は二つの種族から構成されていました。
一方は尻尾の生えていない、ひ弱だけど数は多い『人間』。
もう一方は尻尾と獣の耳が生えた、強いけど数は少ない『ウマ娘』。
二つの種族は互いに、仲良くしたり、争ったりもしました。
しかし、だんだんと争うことの方が多くなってしまいます。
原因は様々です。互いが互いを支配しようとしたり、天井したり……。
とにもかくにも、最後は人間とウマ娘の大戦争が繰り広げられてしまいました。
争いが激化する中で、最後に勝利したのは人間たちでした。
人間たちはウマ娘と彼女たちに協力した一部の人間を地下に追放しました。
そして、争いの中で発展した魔法を使い、地上に出れなくしてしまったのです。
……それから、長い年月が立ちました。
さて、地上に残った人間たちはというと……。
So long
また地下世界が微かに震えた。
ここ最近、何度も弱い地震が頻発していた。
鹿毛のウマ娘、シンボリルドルフは溜息をついた。
被害こそないが、鬱陶しく思えてくるのだ。
「やあやあ、ルドルフ。今日も揺れてるね」
執務室に一人の栗毛のウマ娘が入ってくる。
「……タキオン、何かわかったのか?」
「ああ、わかったのさ。
今回のこれは本物の地震じゃない。
人為的に引き起こされている。間違いなくね。
初期微動もその後の余震も一切なしだもん」
「……地上の人間たちが地下世界を破壊しようとしてるとでも?」
「いいや、それはないね。
君だって、それはわかっているんじゃないか?
……過去に落ちてきた六人の地上の人間たちは全員、私たちのことを知らなかった。
神話上の存在だと思い込んでたみたいだし、魔法のことも忘れてる。
何しろ、君は『六人目』とは色々と交流してたんだし、なおさら理解してるはずだ」
「ああ、確かにね……じゃあ、どうして地上の人間たちは地震を引き起こしてるんだ?」
「……多分、『六人目』が予言していたことが始まってるんじゃないかい?」
ルドルフの耳が、ピンと跳ねた。
「……『ヨーロッパの終わり』、か」
「ああ、それが私たちの頭上にある国家なのか地域なのかはわからないが……。
おそらく、この揺れは地上での巨大な爆発によるものだ。
試しに威力を計算しようとは思ったけれど……途中でやめたよ。
あまりにもおぞましすぎる。彼らは自滅する気なのか?」
「……私たちは、彼の言う通り、ヨーロッパとやらの支配者になれるんだろうか?」
「さあねえ……私としては地下世界に籠ることをおすすめしたいね。
どうせ残っているのは廃墟だけかもしれないんだし。
いや、もしかすると……もっと危ないものも残っているかもしれない。
あんな爆発を引き起こす兵器に、何の代償もないとは思えない」
揺れが止んだ。
また地下世界のいつもの日々が再開するだろう。
「……あと、ルドルフ、気を悪くしないで欲しいんだけどね……。
もしかすると、私たちはもう二度と地上に出れないかもしれない。
私たちの頭上のヨーロッパとやらに、もう人間は残っていないかもしれない」
「……そうか」
197×、一人の男性がふらふらと山中を歩いていた。
かつて木々が生い茂っていたであろうそこは、焦げた残骸しか残っていなかった。
彼は自分の人生を振り返っていた。
もはや名前も顔も思い出せない、両親のこと。
二人が殺されたであろう日、とある将校と彼が率いる兵たちに助けられたこと。
それから、西シベリアの奥地で、父親代わりの将校と共に連盟結成に立ち会ったこと。
自分の誕生日に、祖父代わりの将校が行方不明になったこと。
ルフトヴェッフェンバッハのクソッタレな空襲が止まったこと。
それと同時に、十年にもおよぶ熾烈な内戦を父親代わりの将校の指揮の下、戦い抜いたこと。
それから間もなく、『大審判』が始まったこと……。
「……もう、終わろうかな」
男は、山の中を進んでいた。
既に誰も彼も、どこかに行ってしまったようだった。
戦友も、父親代わりの将校も……皆、行ってしまった。
ここ最近は清廉潔白な国防軍にも狂った親衛隊も見かけない。
……あの世があるのかどうか、それはわからない。
でも、せめて、もう一度、皆に会いたかった。
天国だろうが、地獄だろうが、どこだっていい。
もう、終わらせたかった。
そんな彼の目の前に、地中深くまで続いているであろう穴が現われた。
「ああ、こりゃいい。ちょうどいいや……。
もうゲルマニアの狂人たちだって灰に還ったんだ。
皆、灰に還っちゃったんだ。もうおしまい。
『大審判』は、もうここでおしまいだ。アッハッハッハ……」
彼はひとしきり笑った後、穴の中に飛び込んだ。
『ヨーロッパ』からついに人間が一人もいなくなった瞬間だった。
All gone