リンリンのお兄ちゃん 作:U.N.
$月$日
リンリンに会いに事件の起きた都市へと行ったが既にそこにはリンリンはいなかった。そんな事が三度あり、ようやくリンリンと再開できたのた故郷を出た三ヶ月後だった。
そこは正に地獄だった。
赤く燃え盛る街。煙の臭いに混じる血の臭い。悲鳴。怒声。
この世の地獄のような街中で、記憶より少し大きくなったリンリンは見知らぬ小柄な男と雲と太陽を侍らせ、歩いていた。俺は建物の影にエムを隠すと、一人でリンリンの前に出る。
「久しぶりだな、リンリン」
「あ!クリム兄ちゃんだ!何でここにいるんだ?」
昔と変わらない無邪気な笑みに、この惨劇とリンリンは関係ないんじゃないのかと思いたくなるが、遠巻きに見る人々の怯えの目線がリンリンに向けられているのを見るに間違いではないのだろう。
だが、確認が必要だ。自分のためにも。リンリンのためにも。
「この街を壊したのはお前か?」
「そうだよ。」
「何故壊した?」
「こいつら俺の言うこと聞かない悪い奴等なんだ。だから、お仕置きしてやった。俺の言うこと聞いてれば皆幸せに決まってるんだ」
「誰かからそう言われたのか?」
「うん。シュトロイゼンがそう言ってた」
「シュトロイゼン?」
リンリンは小柄な男を見る。
あの黒髪の男がシュトロイゼンなのだろ。
俺はギロリとシュトロイゼンを睨んだ。
「強者に従うのは自然の摂理だろ」
悪びれもせずに言うシュトロイゼンに、怒りが沸いてくるが、冷静さをかき集めて静かに言い返す。
「確かにな。だが、俺達は人間だ。獣じゃない」
「人間も獣だよ。それもとびきり残酷な獣だ」
「お前の価値観を押し付けるな。人間は他者を思いやれる生き物だ」
「それこそ価値観の押し付けだ」
バチバチと二人の間で火花が飛び散る。
リンリンは二人の険悪な雰囲気は分かるが、何故険悪なのかは分からず、オロオロしていた。
その様子に此処に来た本題がリンリンを止めることだと思い出し、視線を外す。
「言いたいことは色々あるが今はいい。」
シュトロイゼンの野郎は後でぶん殴ると心に誓い、リンリンに向き直る。
そして、目を見て、優しく語りかけた。
「お前が優しいのは俺もパパもママもよく知ってる。でもな。言うことを聞かなかったからって暴力を奮うのは間違ってるよ。ママもパパも言ってたのは覚えてるか?」
「うん」
小さい頃からの植え付けもあり、説教モードの兄に頭が上がらないリンリンは、シュンと大きな体を縮こまらせる。
それを見てシュトロイゼンが怒声を上げた。
「何も間違ってなどいない!お前は暴君の器だリンリン!それを捨てるのは神に対する冒涜だぞ!」
誰よりもリンリンの才に惚れ込んだシュトロイゼンは謝る姿など見たくはなかった。そんな姿はお前には似合わない。お前は常に気高く、暴虐で、非道で、自分勝手であるべきだ!そんな姿に俺は惚れたんだ!
「今まで通り好きなようにやればいい!それが「平和」なんだ!」
シュトロイゼンの魂からの叫びだった。
しかし、その言葉は明確にクリムの怒りに火をつけた。
「何が暴君の器だ!勝手に他人の妹を決めつけるな!リンリンは誰よりも優しい子供なんだよ!ただ少し力が強くて、無知なだけの!」
「違う!リンリンは力の化身だ!その力を使う「支配」こそがリンリンにとっての王道なのだ!」
「ふざけるな!」
二人の言葉はどごまで言っても平行線だ。
暴虐の輝きを見た信者と
優しさを信じる兄。
どちらが正しくてどちらが間違っているのか?
それはそれぞれの未来を見た者にしか分からない。正しく神にしか分からない事柄だった。
しかし、正しい正しくないに関わらず、何時・何処の世界でも強者の主張が通るのがものの常である。
そして、皮肉なことに、今この場では暴虐を語るシュトロイゼンより、優しさを語るクリムの方が強者であった。
「ふざけてなどいない!リンリンは───「シュトロイゼン」」
底冷えするほど冷たい声だった。
しかし、対照的にクリムの中には身を焦がすような苛烈な怒りが渦巻く。
そして、嘗て無いほどのその怒りは、彼の奥底で眠っていた覇王の蓋を一瞬こじ開ける。
溢れ出て辺りを蹂躙する覇王の覇気。同時に、偶然ではあるが、クリムは自身の能力を最大限使った威圧を行った。
「身内の話だ。これ以上口出しするな」
その荒れ狂う覇気とオーラに当てられ、周りにいた人々はバタバタと倒れていく。シュトロイゼンも一瞬意識を失いかけたが、シュトロイゼンも十把一絡げの海賊ではない。すぐに気力を振り絞って意識を呼び戻した。しかし、体の力を入れる事は出来ずに尻餅をつくようにへたりこむ。
指先一つ力が入らない。
全身が震える。
脳が意識を手放せと悲鳴を上げる。
しかし、シュトロイゼンはその全てを無視して、爛々とした瞳でクリムを見ていた。
リンリンすら上回る程の圧倒的な覇王の覇気。その絶対的な姿に、リンリンと出会った時以上の衝撃をもって心を鷲掴まれる。
シュトロイゼンは「さ、流石リンリンの兄だ」と良く分からない驚きかたをした後、「ふひひひふひひひ」と狂ったように笑いだした。
クリムはシュトロイゼンを気味悪そうに見たが、これ以上口出しする気は無くなったようだと判断し、視界と意識から消した。
そして、リンリンに向き直り、優しく諭す。
分からないなら何度でも言えば良い。今迄通り。
「今すぐに分かる必要はない。これから一緒に学んでいけば良いさ」
「一緒に?」
「ああ、これからはずっと一緒だリンリン。もうお前を一人にはしない」
「ほんと?ほんとに何処にもいかない?」
「当たり前だ。俺はお前のお兄ちゃんだからな」
その夜、森の中で、四人は夜営をした。
リンリンは早々に眠ってしまったので、クリム、エム、シュトロイゼンの三人で、火を囲むように団を取り、これからの方針について話し合いをした。
「で、これからどうするの?」
しばし考えた後、クリムは答える。
「俺はリンリンと海賊としてやってくつもりだ」
「え?海賊?」
「その海賊団には俺も入れてくれるのか?」
驚くエムとは対照的に、シュトロイゼンはすかさず自推する。それに対するクリムの反応は凄く嫌そうな顔だった。
「流石に傷つくぜ」
「お前は教育に悪そうなんだよ」
でも、戦闘力はそこそこあるし、リンリンに好かれてるのも事実。妹に近づけたくないが仲間にするメリットはある。めんどくせー!
「まあ、一応アピールは聞いてやる。猫の手も借りたい状況だからな。船医と航海士ならポイント高いぞ」
「俺はククククの実の能力者だ。この世のありとあらゆる物を食材に変えることが出来る。」
シュトロイゼンは薪を切って肉に変えた。
「わあ!」
「!!………………職業は?」
「当然、料理人だ」
「なるほど。大変不本意だが合格だ。リンリンの暴食を考えればお前の能力は有り難いからな」
と、こんなやり取りがありシュトロイゼンが仲間になった。
ちなみに、エムちゃんは初めはクリムが海賊になるのに難色を示していたが、リンリンの手配書の額を見て納得した。そして、三人とも能力者で溺れたら心配だからと海賊としてついていくことになった。