リンリンのお兄ちゃん 作:U.N.
G月L日 ロックス海賊団結成から5日目
「うわあああアアアアアアっ!? 腕がぁっ!?」
クリムが大食堂でシキと酒を飲み交わしていると、唐突に入り口の方で殺傷事件が発生した。
特別何か事件に至る言い争いがあったわけではない。ただ食堂から出ようとしていた男と食堂に入ろうとしていた男の肩が、偶然にぶつかり合っただけだ。
ぶつかった片方の男が「気いつけろ!?」と言ったのが切っ掛けと言えば切っ掛けだが、それを見ていたクリムとシキは、仮に何も言わなかったとしても同じことになっていただろうと思った。今まさに仲間の腕を根本から切り落とした男は要注意人物の一人。スパスパの実を食べた処刑人の異名を持つ、シリアルキラーだからだ。
「ダメじゃないか。 人にぶつかったら謝らないといけないって教わらなかった? 」
仲間の腕を切断したのに彼の声はまるで平坦、あるいは無知な子供を叱るようでもある。何も知らないものが見たらインテリな美青年にも見えたかもしれない。だが、新鮮な血の滴る刃物に変わった腕と、薄暗い殺人欲求に歪んだ鋭い目を見れば彼がまともな人間ではないと一目で分かるだろう。
「来世があったら気を付けるといいよ」
スパンッ!!? コロコロコロッ!?
処刑人は腕を抑えて踞っていた男の首を切り落とす。その様は異名の通り断頭台に掛けられた罪人を断罪するようであった。
「ジハハハ!? あの野郎これで何人目だ?」
処刑人は殺人そのものを目的とする変態だ。
凶悪で残忍な性格の多い海賊の中でも更に異質。人の命を奪うと言う行為自体に本能的な喜びを感じる変質者。
当然、その気性故多くの者から恨みを買っているが、なまじ実力があるぶん質が悪い。殺そうとしても返り討ちに合い、オモチャを壊すように殺されてしまう。
もちろん、白ひげやシキなどがその気になれば簡単に殺せるが、彼等は強者の余裕故か、あるいは無関心故か、処刑人の凶行を今迄放置していた。
かく言うクリムも凶行を直接目にしながらも、眉すら動かさず酒を啜る。
「20人くらいだと思うけど、どうでもいいでしょ。弱い奴が死んだ。それだけだよ」
「ジハハハ!? 違いねえ!?」
クリムが冷たく言い捨てる。
シキは同意をしながらも、驚いた表情を見せた。
「だが、意外だな。 俺ァ白ひげみたいに怒ると思ったぜ? 仲間殺しは許さねえって噂はデマだったか?」
「許さないよ。
「ジハハハ!? そう言うことか!?」
暗に今殺された奴は仲間ではないと言うクリムにシキは得心する。クリムにとってこの船のクルーの殆どは仲間ではないのだろう………自分を含めて。
「ジハハハ!? 面白ェ!?」
ところで、クリムとシキが親しげに話しているのを疑問に思うかもしれないが、これには双方にとって理由がある。
シキはクリム、ひいては彼の部下であるシャーロット海賊団の力を認め、部下にしたいと思っていた。
同じロックス海賊団なんだから部下も上司も本来は無いのだが、ロックス海賊団は普通の海賊団とは違う。世界征服と言う目的を叶えるために集まった個の集まりでしかなく、世界征服を成し遂げた後は国を作るなり、新たな海賊団を結成するなりして、クルーはそれぞれの道を歩く事になる。
強欲であり、策謀家でもあるシキはロックス海賊団が役目を終えた、あるいは崩壊した未来を見据え、既に動き始めていた。
一方のクリムは、海賊らしい海賊であるシキは好ましい人間とは言えないが、理知的であるので話しやすく、他の海賊と比べれば仲は良い方である。特に、会話をしてたら突然キレて切りかかってくる、なんてことが無い点が気に入っている。
基準が可笑しいって?可笑しいのは基準ではなく、この船だ。一日でもこの船にいれば分かるが、会話をしてたら突然切りかかってくるのはこの船では常識である。
そんな双方の思惑もあり、シキとクリムの座るテーブルは、つい数日前まで違う海賊船を率いていた船長同士の会話とは思えないほど、ある意味呑気な空気が流れていた。しかし、ある者の乱入により穏やかな空気も一変する。
「─────ん?」
初めに気付いたのはシキである。
シキは処刑人に近づく影を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
次に気付いたのはクリムだ。彼はその影を見て驚愕に目を見開いた。
「何やってんの、リンリン」
そこには自分の妹がいた。
★
殺しの余韻に浸っていた処刑人の体を大きな手が鷲掴んだ。
処刑人は身長1.8m程もあり、片手で人形のように掴めるほど軽くも小さくもないのだが、それを掴んだ存在は身長6mを越える巨躯の持ち主である。
処刑人が眉をしかめながら、伸びる手の先を見ると、良く見知った水玉模様のワンピースを着たピンク色の長髪の美女がいた。
「テメェ何やってんだ、処刑人?!」
「痛いな。離してくれない?殺すよ?」
「ハ~ハハマママ、やれるものならやってみなァ!?」
リンリンが何故怒っているのか不明だが、躊躇する理由もないので、処刑人はリンリンの手を切り刻むつもりで、全身を刃物に変えて脱出を試みる。しかし、リンリンの無意識の武装色で守られた肌は鋼鉄よりも硬く、擦り傷一つ付けることすら叶わなかった。
その有り得ない現実に処刑人の顔に焦りが浮かぶ。
「っ!? 僕君になにかしたっけ!? 何で怒ってるのさ!?」
「仲間を殺す奴は許さねえ!? クリム兄ちゃんも言ってたんだ!? 仲間殺しは大罪だ!?落とし前ってやつをつけなきゃならねぇ!? 寿命全部頂くぜ!?」
「くっ!? 待て、話を」
「うるせえ!? テメェに選択肢はねえんだよ!? Life(寿命) or dead(死)」
それを見ていた外野が沸き立つ。
「リンリンの
「いいぞ!? やっちまえ!?」
「ギャハハハ!? 殺せ殺せ!?」
特に、処刑人に恨みを持つものは祭りでも始めそうな勢いである。
当然それ以外の者も多数観戦していたが、処刑人が男を殺した時のように誰一人止めることはなく、むしろさっさと殺せとヤジを飛ばす。仲間の命さえ彼等にとっては暇潰し程度の価値しかないのだ。
ちなみに、ソウル・ポーカスとは『人間が持つ生への執着に話しかけ、わずかにでも死の恐怖を感じた者の体から寿命を抜き取る技』である。つまり、その性質上、恐怖を一切感じなければ寿命を抜き取られる事はない。何も渡したくないのならLifeを選んで恐怖を感じなければいいのだ。もっともそれが分かっていたとしてもリンリンを前にそれが出来る人間はそうはいないだろうが。
そして、残念ながら選択を迫られた男はそれが出来るほどの胆力は無く、人生で初めて感じる死の恐怖と言う感情に、あっさりと寿命の全てを抜き取られて死んだ。
「ギャハハハ!? 腰抜けが!?」
「処刑人も大したことねえな!?」
「良い気味だぜ!?」
「今日は良く眠れそうだ」
嘲笑と歓声を上げるクルー達。最後の一人だけは切実な感想だったが………。彼は処刑人と相部屋と言う実に不運な男であった。
「───見習い、この死体片付けときな」
「はーい」
リンリンの言葉に、一人の少年がやってくる。
ボサボサの茶髪をした、そばかすが特徴的な少年だ。
彼は死体の足を片方づつ掴み、引き摺るように雑に運ぶ。処刑人が切り落とした男の頭と腕は処刑人に抱き抱えさせるように持たせて。
「シュールな光景だな」
「………そうだな」
しかし、死体ゆえに持つ力などなく、しばらく歩くと背中から伝わる衝撃で頭が転げ落ち、コロコロとクリムの足元まで転がってきた。
クリムは、少しの打算も持ちながら頭を拾いあげる。
「すいませんっす!お手汚しを、すぐ持ちますんで」
「いや、いい。俺が運ぼうか?」
「え?いやいや、そう言うわけには」
「お前と少し話がしたかったんだ。そのついでみたいなものだ。お前名前は?」
「アルビダって言うっす!でも、やっぱり私が運びますっす!」
クリムは少し迷ったが仕事を奪うのもあれかと思い、頭を処刑人に抱えさせると、バリバリの能力で胴体と固定した。
「シュールっすね」
「今更だろ」
「それもそうすっね!」
「そんじゃ、さっさと運んじまうぞ」
「了解っす!────ところで私に何か用っすか?」
「ああ、うん、そうだな………本題の前に一つ訪ねたいんだが、お前どうして海賊になったんだ?まだ十四歳くらいだろ?海賊やるには早すぎるぜ?」
「自分っすか? 自分は親が海賊だったもんで、その成り行きっすね」
「ふぅ~ん、じゃあ、その親とか船長もこの船に乗ってるのか」
「船長は初日の戦いで死にましたっす。「ひゃっほ~い!船医長は俺がやるぜぃ!」て言ってたのが船長っす。」
「あいつか」
クリムは嫌なことを思い出したと顔をしかめる。アイツのお陰で直ぐにシクシクの実の能力者を見つけられたのは良かったが、
「好い人なんすけどね!」
「まあ、賑やかそうな奴ではあったが………親は?」
「親は私が3歳の頃に死んじゃったす!」
「それは、その、悪いことを聞いたな」
「気にしないでくださいっす!会った記憶も無いっすから!」
逆に気にするよと思ったが、敢えてそこにはこれ以上触れずに、本題に入る。
正直、この流れで入るのはどうかと思ったが、そこまで慎重に運ぶような事柄でもなかったので、断られても良いかと思いながら尋ねた。
「お前俺の仲間にならないか?」
その言葉は驚愕を持って船内を駆け巡った。
見習いのアルビダはそれなりに良く知られた船員だった。だが、それは彼が一目置かれる実力者と言うわけではなく、雑用として良く使われていたからであり、海賊としては全くの才能無しと言われているからでもある。
アルビダは十四歳と言う年齢もあるが、基礎身体能力が低かった。一般家庭の同年代に比べれば高い方だがロックス海賊団の基準で言うと赤子レベルのカスである。
また、アルビダは悪魔の実の能力者でもあったが、この能力がまた問題だった。アルビダが食べたのはギロギロの実。所謂、千里眼のような能力である。この能力は索敵において非常に優れた力を発揮するが、見聞色の覇気の使い手がいるととたんに存在価値が低くなる。この船にはロックスと言う超弩級の怪物の他、白ひげ、シキ、リンリン、クリムなど強力な覇気の使い手が沢山いるので彼の能力が必要とされる状況はこの先も訪れないだろう。
それゆえ、アルビダは無能、カス、ザコ、見習いなどと呼ばれていた。名前で呼ばれたことは皆無である。
そんなアルビダが今迄無事に生きてこれたのは、単にロックスが「見習いには手を出すな!出した奴は責任持って後一年間雑用をしろ!」と厳命したからである。つまりは、めんどくさい、と言う感情だけで生かされてきたのだ。
しかし、ここでクリムがアルビダを誘うとなると途端に話が変わる。
クリムは押しも押されぬ大海賊であり、この船でも上位に位置する実力者。そして、自分が仲間と認めた者の死を絶対に許さない男である。
現に、クリムの仲間を殺した男は翌日クリムの手により殺害された。あの時の事は記憶に新しい。クリムと言う海賊の強さと恐ろしさを知った事件である。
「私がクリムさんの仲間にっすか?」
現在、クリムの仲間と言えば彼が元々率いていた海賊団のクルー20人くらいで、(残り30人は実力的に無理と考え、縄張りの一つに隠してきた)、それ以外の人間を仲間と認めたことは一度もない。それは今迄クリムが仲間殺しをした者達に何の干渉もしていないことを考えれば明らかだった。
それゆえ、言われたアルビダは勿論、話を聞いていた海賊達も顎が外れるほど驚愕する。
「いやなら断ってくれても構わないが………」
「い、いえ!滅相もないっす!でも、どうして私っすか?自分で言うのもなんですが、メリット皆無っすよ?」
「メリットならあるさ。お前のギロギロの実だ」
「いや、でも、あれは」
「見聞色の覇気で代替出来るって言いたいんだろ?」
それはクリムも知っている。だが、見聞色の覇気は気配を読み取るだけで、ギロギロの実のように視覚情報が得られるわけではない。それでも、敵の接近や数、力などを探るだけなら見聞色で事足りるが、俺が知りたいのは敵ではなく味方、つまり、王直である。
彼女の趣向、好き嫌い、交遊関係、一日の生活の流れなど、あらゆる情報を知りたい。
予め情報があった方が籠絡するにも、交渉するにも、やりやすい。また、無計画に話し掛け、地雷を踏み抜き、決定的な傷が入るのを避けるためでもある。
家族愛主義なクリムは妹のことになるとすこぶる慎重になった。
だから、ギロギロの能力者を仲間にするか、脅して、王直の事を調べさせようと思ったのである。
だが、それを素直にこの場で言うのはマズイと言うことくらい分かる。
「お前の能力は視覚に特化したものだ。その点において見聞色をも上回る。それに俺はお前を気に入ったんだ。それだけじゃ、ダメか?」
「い、いえ!うれしいっす!」
「それじゃあ、今日からお前は俺の仲間だ」
「はいっす!」
蛇足。ボツ案。
「いいか?覇気ってのは極めると相手の見ている景色を読み取ることも出来る」
「はぁ」
「お前が能力で○○を見るとする、そして、その風景を俺が読み取る。」
「天才かお前!」「そんな使い道が!」