リンリンのお兄ちゃん 作:U.N.
クリムはさっそくアルビダに王直の情報を取ってくるように頼んだ。しかし、どこで間違ったのか、二人の会話は微妙にすれ違いを見せていた。
「なるほど!そういうことだったんすね!(王直さん美人っすもんね!一目惚れってやつっすね!そう言う話大好きっす!いや、待つっすよ私!早とちりはダメっす!まずは確認をするっす!)」
「頼みって言うのは私のギロギロの能力で王直さんの情報を取ってくるってことっすよね?その理由は聞いちゃダメっすか?」
「あまり大っぴらにはしたくないんだ(やはり、事情をある程度説明すべきか?いや、だが、)」
「無理にとは言いませんが(大っぴらにはしたくない話、つまり恋愛!)」
「そ、そうか(ほっ)」
「でも、これだけは聞かせてくださいっす!それってやっぱり大切な事なんすよね(恋愛的な意味で)!?」
「ああ、とても大切な事だ(治療的な意味で)今後の人生を左右すると言っても過言ではない」
「今後の人生!?(それって恋愛を通り越して、け、結婚まで見据えてるってことっすか!?すでにそこまで………!?覚悟が足りないのは私の方だったっす!?)」
「マ、マジなんすね」
「マジだ。分かってくれるか?」
「ええ、分かります!分かりますとも!そう言う事ならこのアルビダに任せてくださいっす!情報は大事っすからね!」
「そうだ!情報は大事なんだ!分かってくれたか!頼んだぞ!」
「ラジャー!完璧な情報を持って帰るっす!」
何だか物凄い勘違いをされてるような気もするが、きっと気のせいだろう。変につついてヤル気が無くなってしまっても困るからな。
俺は上手くいったとホクホクして、夕食を食べに行った。
後で、アルビダには何か礼をしてやらんとな!
アルビダへの礼をどうするか考えたが、その答えは意外と直ぐに見つかった。
何せ俺達が今いるのはロックス海賊団。弱肉強食の摂理を至上とし、「勝者こそ正しい」「力こそ全て」と言う考えの下、強者が優遇され、弱者が不遇される規律が数多く存在する。
その内の一つが風呂だ。
ロックス海賊団の船は三階建ての巨大戦艦で、各階ごとに一つずつ浴室が存在する。
三階の風呂はロックス専用
二階の風呂は幹部専用
一階の風呂は一般用。
と分けられている。
しかし、幹部が二十人にも満たないのに対し、一般海賊はその十倍は軽くいる。毎日起こる仲間殺しにより人数が日に日に減ってきてはいるが、依然300人以上もいる大所帯。それだけの人間がたった一つの風呂に全員入るとなると相応に時間がかかる。
また、弱肉強食を最上の摂理とするので、風呂に入る時間や順番すら力による格付けがあり、ヒエラルキーの最下層に位置する海賊見習いは夜遅く日付が変わってからしか入ることが許されず、さらには、仕事のため朝も早く起きなければならない。そのため、アルビダは2時~3時に風呂のために一度起きて、また寝て、早朝起きると言う生活をしていた。
その話を聞いて俺は思った。これは礼をするまたとない機会だと。
「見習いも大変なんだなぁ。俺と一緒に二階の風呂入るか?」
「いいんすか!いや、でも、二階は幹部専用だって」
「供として連れてくぶんには問題ないんだよ」
「でも、恐れ多いっす!」
「大丈夫大丈夫。俺は基本一人で入ってるし、他の幹部に遭遇することはまず無いから。」
「でも、ご迷惑じゃ」
「一人や二人増えても問題ないよ。」
「あうぅ」
アルビダは押し負けるように了承した。
二人揃って風呂へと行った。
「電気がついてる風呂なんて掃除以外で入ったの初めてっす!うれしいっす!」
「え、何時もは電気消したまま入ってるの?」
広い浴室を走りながら衝撃の事実をさらっと告白するアルビダ。
彼女は苦笑いを浮かべて答えた。
「あははは、電気つけると眩しいって怒られるんすよ、それになるべく音も立てないようにしないといけないんす。私が入る時はもう皆寝静まってるので」
「なるほど」
予想以上に見習いの扱いが酷いな。いや、酷いっていうかもうこれは奴隷か何にかじゃないか?
よく今迄我慢してきたな。
そう言う話を聞くと、笑顔を浮かべながら風呂ではしゃぐ姿は微笑ましく見える。やはり誘って良かったと思う。
もっとも股間にはあるはずの物がなく、胸にはないはずの膨らみがある事実に目を逸らせばだが。
「…………………………(お前、女だったんだな)」
全然気付かなかったよ。行動とか口調とか完璧男だったから何の疑いもなく男だと思ってた。いや、でも思い返してみれば一度も男だとは言ってなかったし、一人称は「私」だったな。いやいやでも、そもそも胸なんて無かったように見えたぞ。まっ平らだったぞ。地平線だったぞ。ありゃどういう事だ?────サラシ巻いてたんだよ!裸になると結構あったよ!B~Cくらい。
ま、まあ、いくら裸の女とは言え14歳の子供相手に欲情するなんてことはない。断じてない!
でも、なんだろうこの罪悪感は。いたいけな子供を騙す犯罪者になった気分だ。良心がジクジクと痛む。
でも、こんなに喜んでる姿を見ると、やっぱり別々で入ろうなんて言えるわけもない。───あああ!どうしよう!もっと早く気づいていたら!いや、でも、その場合ずっと不健康な生活を続けさせることになるし………!それはそれでマズイだろ!
「………………………………………(心の中で悶絶中)」
「はっ!すいません!自分だけはしゃいでしまって!直ぐにお背中お流ししますっす!」
クリムの葛藤による沈黙は非難と受け取られてしまったらしい。
クリムは慌てて訂正する。
「い、いや、別に怒っていたわけではない。誰かと風呂に入るのは久しぶりでな。こう言うのも良いものだとしみじみ思ってたんだ。本当だぞ。なんなら俺がアルビダの背中を流してやろう」
勢い余って余計なことを言ってしまった。
バカか俺は!これじゃあ本当にセクハラじゃないか!
いや、落ち着け!きっとアルビダなら滅相もないって断るはずだ。まだ全然挽回可能!慌てる状況じゃあないぞ!
「───うれしいっす!」
おっふ。
うれしいっすか。
うれしいっすか。そう言ってもらえるのはこっちも嬉しいけど、今欲しい返事はそれじゃあなかった。アルビダよ、何時もの過剰な謙虚さは何処いった?
でも、今さら、やっぱ自分で洗えとは言えない。うれしいっす!の返答がじゃあ自分で洗えって意味不明すぎだよ!
「じゃあ、洗うぞ」
「は、はいっす!」
俺は掌に石鹸を泡立たせ、アルビダの体にぬっていく。まずは首から肩、次いで背中。優しく、丁寧に。ゆっくりと。だんだんと腰の方へと手を下げていく。
幸いにして、アルビダの体を見ても触っても興奮することは無く、ちょっと罪悪感が薄らいだ。
でも、完璧に無くすのは無理だった。慣れれば無くなるかもしれないが、今すぐにはやはり無理。
せめて、自分の出来る最高の持て成しをしよう。そう思い、クリムは能力を発動して、優しいオーラを出した。オーラを変えても技術が変わるわけではないが、雰囲気は出るだろう。
「人の体洗うなんて初めてだから加減が分からないな。この位の強さで大丈夫か?」
「んっ!気持ちいいっす!」
「それは何よりだ」
「でも、やっぱり恐れ多いような気がしてきたっす!」
「今更だな。気にするな」
背中を満遍なく綺麗に洗う。
手の届きににくい所を洗っていく。
全体を綺麗にした後、シャワーで洗い流す。
「終わったぞ」
「感謝感激っす!」
アルビダside
「見習いも大変なんだなぁ。俺と一緒に二階の風呂入るか?」
唐突にお風呂に誘われたっす。
たぶんこれクリムさん私の事男と思ってるっす!
此処は私が女ってことを打ち明けて………、いやまだ早いっす!せっかく仲間に誘ってもらえたのに女ってバレたら捨てられるかもしれないっす!海賊は男がやるものだって船長も言ってたっす!
何とかバレずに断るっす!
「いいんすか!いや、でも、二階は幹部専用だって」
「供として連れてくぶんには問題ないんだよ」
「でも、恐れ多いっす!」
「大丈夫大丈夫。俺は基本一人で入ってるし、他の幹部に遭遇することはまず無いから。」
「でも、ご迷惑じゃ」
「一人や二人増えても問題ないよ。」
「あうぅ」
な、流されたっす!
ヤ、ヤバイっす!
今クリムさんの前で全裸っす!
視線が凄い突き刺さるっす!
女だって分かっても変わらず優しくしてくれるのは凄い嬉しいっすけど、顔から火が出そうっす!
ううう、恥ずかしく死にそうっす!
こ、こう言う時ってどうすればいいんすか?
たしか船長が昔言ってたような気がするっす!
「失敗しても何食わぬ顔で何時も通りにしてれば案外バレないもんだぜ」
そうだったっす!何食わぬ顔で普通にするっす!
「電気がついてる風呂なんて掃除以外で入ったの初めてっす!うれしいっす!」
無邪気に喜ぶふりをするっす!
実際嬉しいのは事実だから演技に身が入るっす!でも、やっぱり恥ずかしいっす!
今からでも手で隠しちゃダメっすかね?
いや、ダメっす!最後まで演技をつきとうすっす!船長も途中でいも引くのは一番ダメって言ってたっす!あ、でも、諦めも重要だって言ってた気もするっす!
そこで、ふと、クリムが長い沈黙をしてることに気づく。
し、しまったっす!自分の事ばっかり考えて、ここ幹部用風呂だって忘れてたっす!しかも、クリム様置き去りにはしゃいじゃったっす!凄い不敬なことをしてしまったっす!
慌てて謝る。
「はっ!すいませんっす!自分だけはしゃいでしまって!直ぐにお背中お流ししますっす!」
「い、いや、別に怒っていたわけではない。誰かと風呂に入るのは久しぶりでな。こう言うのも良いものだとしみじみ思ってたんだ。本当だぞ。なんなら俺がアルビダの背中を流してやろう」
クリムさんはやっぱり優しいっす!
でも、背中を流すっすか!背中を流すっすか!?背中を流すっすか!?今でも死ぬほど恥ずかしいのに、体なんて触られたら心臓止まるっすよ!本当に死ぬっすよ!
でも、断るのは不敬っすよね?いや、背中を洗わせるほうが不敬な気も………
どっちを選ぶのが正しいんすか?!
「───うれしいっす!」
クリム様の指が首に触れ、肩に触れ、背中に触れる。指の先から、掌から、直接体温が伝わってくる。
恥ずかしいのに、気持ちいいっす!
でも、やっぱり恥ずかしいっす!
心臓がうるさいっす!
これ絶対クリム様にも聞こえてるっす!
《しばらく後》
「終わったぞ」
極大の緊張から解放され、ホッとする。
同時に少し口惜しいような、もう少しだけ体温を感じていたかったような気持ちが芽吹くが、自分の中だけに隠し、蓋をする。
そして、一緒にお風呂に入るのもこれで最初で最後だろうと思って最大限の感謝を込めてお辞儀をした。
「感謝感激っす!」
その後、毎日一緒に入ることになるとはこの時は思わなかった。
★
「ど、どうする?」
赤い髪の男が、自室の中で顎に手を当て、うろうろと歩き回っていた。
彼は凶悪狂暴なロックス海賊団の幹部で、海賊殺しとして海賊からも海兵からも恐れられる男だが、今の彼にはその強者としての威厳は見当たらない。
それだけ彼──クリムの今抱える問題は大きいのだ。
「今日もアルビダを誘うべきか?いや、でも、女だし……でも、凄い喜んでたんだよなぁ………お風呂が暖かかったのは初めてだって」
ケイの発言には何度も驚かされた。
お風呂は冷たく、音も電気も立ててはならず、しかも、朝の2~3時に入っている。
「お風呂って普通暖かいもんだろ?てか、見習いの扱いが酷すぎないか?」
アルビダが男なら何の迷いも起こらず誘っていたが、相手は女。それも、クリムにとっては子供とは言え、そこそこ成熟してる年頃でもある。さすがに気を使う。
「ふぅー、此処で悩んでても拉致が明かないな。一度誘ってその反応を見て決めよう。断られたり、嫌がられたり、不快そうにされたら今後は誘わない。嬉しそうにOKしたら今後も一緒に入る。よし!」
そうと決まれば善は急げだ。クリムはアルビダを探しに自室を出た。
「あ!アルビダ!今ちょっといいか?」
「はい!大丈夫っす!何っすか?」
「今日も風呂一緒に入るか?」
「い、いいんすか?嬉しいっす!」
「そうか、じゃあ、今日も昨日と同じ時間に集合な」
「了解っす!」
その後、アルビダ
(きょ、今日も誘われてしまったっす!うぅ、恥ずかしいっす!でも、暖かい風呂は正直嬉しいっす!)
L月L日
ロックス海賊団結成から四年が経った。
王直籠絡作戦もいよいよ大詰めである。