ダンジョンで英雄を目指すのは間違っているのだろうか   作:おやしお

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13 神匡

「ここか」

 

 地図に描かれていた廃教会を一緒にメモられていた目立たない様に行く事という注意書きに倣って周辺の住民に聞く事も無く無事に着いたのは適切な地図だったからだろう。

 教会の陰になっている奥の方で人の気配を感じたヴェルフが目的の人物か?と行くとそこには一人の少年が素振りをしていたのだった。

 刀をLV.1とは見えない速さで振るっていて次々と繰り返していた姿に声を掛けられずにいるとヴェルフの気配を感じたのか振り返って「神様?」と声を出してそこで始めて見る顔に警戒をしていた少年に誤解を解かねばと挨拶を始めたヴェルフである。

 

「あぁ邪魔をして済まん。俺の名はヴェルフ・クロッゾ、ヘファイストス・ファミリアの下級鍛冶師(スミス)だ」

 

「ヘファイストスってあのヘファイストスですか!?」

 

「お前の言うヘファイストスが何を指しているか判らないがオラリオにあるファミリアはただ一つだけだ」

 

 剣を振るっていた時の姿と違い己の主神の名前を聞いてからの姿は年相応に、いや、それ以下の子供の様に見えたのだ。

 

「で、その主神様からベル・クラネルという冒険者を連れてきて欲しいと頼まれたのだが君で間違いないな」

 

 メモにあった白髪で赤い瞳のヒューマンという特徴に合っている少年に確認をしたヴェルフ。

 

「はいっ! ベル・クラネルは僕です」

 

 姿勢を正して返事をする彼に好感を持ちながら武器を持参して一緒に来るように促したのだ。

 道中何故呼び出されたのかヴェルフもベルも理由が皆目見当がつかず共に理由を聞くというギャグが有ったがとにかく何時もベルがバベルから帰る時に覗くショーウィンドーのあるヘファイストスの支店に着いたのだ。

 

「今日はここに主神様が居られてお待ちかねだ」

 

 そう言って3階にある執務室に入る二人。

 

「あれっ? 神様どうしてここに?」

 

 中には長身の神威から女神と判る女性と長身のハーフドワーフ?の女性と言う見知らぬ二人の他にベルの主神、ヘスティアも居たのだった。

 

「ベ…「お主がベル・クラネルか。手前は椿。椿・コルブランドだ。一応ここの団長をやっている」

 

 ヘスティアが声を掛ける上から被せてベルの両手を握ってブンブンと振り回す豪傑に目を白黒とさせていると言葉を続けて。

 

「お主が来るまでに神ヘスティアから惚気を聞かされておったぞ。剣ダコを見ても充分鍛錬を積んでいるようじゃな。

それに見た所骨格や肉の付き具合からあと10C(セルチ)は伸びそうであるな」

 

 バンバンと身体を叩き骨格を確認しながらそんな事を言う椿にヘファイストスは呆れていたがお構いなしに更に。

 

「ミノタウロスと戦って刀にガタがきてキラーアントとやりたくても不安だからウォーシャドウ相手に稼いでいるんだともな」

 

 

「そこまでにしとけ、彼も戸惑っているだろ」

 

「悪い主神様つい面白そうな冒険者だと思ってな」

 

「ベル・クラネル。悪いが地下の広場に来てくれないかな? 剣の動きを見たい、少し演武をしてくれないかな」

 

「???」

 

「地下には客の冒険者や鍛冶仲間が納品前に製品の性能確認で試し切りが出来る場所があるんだ」

 

 ヘファイストスの言葉に戸惑っているとヴェルフがそう小声で教えてくれた。

 

「流石世界的に有名な鍛冶(スミス)ファミリア。施設も凄いですね」

 

 そして、広場を見て感心した後に促されるままに幾つかの型を背中の刀を抜いて披露するベル。

 そうなると雑念が消え刀と一体となって次々と刀が振られていく。

 その動きは基本モンスターよりも対人の型であったが充分実践的で現状の6階層のウォーシャドウ相手にはソロでも余裕で7階層のキラーアントにも通用すると見ている者にも納得させるほどだった。

 それはミノタウロス相手に斃せなくても捌き、時間稼ぎが出来たのもデマでは無いとオラリオに来るまでどれほどの鍛錬を積んでいたか感じさせていた動きであった。

 

「有り難う、大体あなたの戦闘スタイルを理解出来たわ。今は背中に担いでいるけど将来的には背が伸びた時に腰に差す長さにして置くわね」

 

「もしかして、ヘファイストス様が鍛えてくれるのですか!? いやただでさえ高価なヘファイストス製の武具が主神様自らとなればどれだけになるか」

 

 ヘファイストスの言葉にベルは驚いたのだ。

 

「これはヘスティアとのプライベートだから他の眷属()の手を煩わせれないわ。それに代金についても彼女と話が付いているから君には負担が無いから安心して」

 

「そうだよ、ボクと彼女の仲だから君に迷惑が掛からない様にしているから安心しておくれ。何よりも天上では神匡と呼ばれた腕前だから絶対に満足するよ」

 

 二柱の女神の言葉に安心したベルだが副音声で『ヘスティアに何十年掛かっても払わせる』『ボクの生活どうなるの?』と言うのは幸い聞こえなかった様だ。

 

「どれ、ガタが来たと聞いたが少し見せてくれ」

 

 そして、椿がベルの刀を取り上げ検分したが唸って言葉を続けた。

 

「鍔は違っているが随分前にヴェル吉がギルドに初心者向けに打った刀だな」

 

「鍔は師匠の形見です。茎の銘を見たらからヴェルフ・クロッゾ作で合っています。サイズと値段で購入しましたけれど本気で悩んで予算が有れば別のにしたんですけどね」

 

「何故だ性能も充分だと自負しているんだぞ」

 

 ヴェルフの抗議にベルも反論する。

 

「冒険者、剣士は験を担ぐんです。いちご丸なんて可愛い名前の刀を持っていると知られたらどれだけ莫迦にされる事か。第一武具として情けないです。

 何よりそんな名前のが遺品として残されたら死んでも死に切れませんよ」

 

「俺が打った極東風刀の販売第一号だからいちご丸。何も可笑しくないだろ」

 

 ヴェルフの返答を聞いて駄目だこの人と思い、ヘスティアは額に手を当て、ヘファイストスと椿は諦めた目をしていた。三人ともベルの後ろに居たから気が付かなかったが。

 

「それでいちご丸は幾らで購入したんだ?」

 

「椿さん、7,000ヴァリスです。他の刀と比べて6割くらいだったから仕方なく。兎に角バベルに担ぎ込まれるような怪我だけはしない様にと誓いました」

 

「ほぼ捨て値の半額の値段にまで下げて漸く売れたんだ、自分のネーミングセンスが悪いと認めろ」

 

 椿に切って捨てられてぐうの音も出ないヴェルフ。実際数年間店晒しになっていて半値で売られていたら文句も言えないのも事実だ。

 

「ほれ、アフターサービスで打ち直して修復を今からしてやれ。手前は主神様の手伝いで見てやれないからな」

 

「飽く迄も仕事で無いから手伝いは無用よ」

 

「そう言わずに主神様の本気の仕事を間近で見れる数少ない機会。金を払っても観たい位だし、手伝いも鍔や鞘と言った装飾品だから許してくれ」

 

「仕方が無いわね、言い出したら聞かないから手伝って貰うわ。それからベル君、明後日の9時いえ10時に来て頂戴、受付に話をしておくからその時に渡してあげる」

 

「は、はいっ!」

 

 ヘファイストスの言葉に喜色を浮かべ返事をするベル。そしてヴェルフが自分の工房を案内して修復すると言って出て行ってから表情を変え彼女は言った。

 

「繰り返すけど代金はキッチリ返して貰うわよ、そしてあなたも作るのに手伝って貰うからね」

 

 彼女は執務室に戻り白銀色の金属塊「ミスリル」を選んだ。

 零能力の女神の細腕でも操れる上等級金属の精製金属(インゴット)だ。

 一方椿は最硬金属(オリハルコン)を選んでいた。

 

「ヘスティア殿はまだファミリアのエンブレムは決めていないが、天上での権能は竈の炎で合っているのですな」

 

「椿君それがどうかしたのかな?」

 

「鍔のデザインでヘスティア殿とベル殿、両者の物と一目でわかるデザインにしようと思ってな」

 

 そう言ってニヤッと笑って主神に続いて鍛冶場に入っていった。

 一方ヘファイストスはミノタウロスにも生き延びたがそれでも新人でありステイタスがこれからも伸びる事を考えると更に性能が良いのが将来必要になるが始めから高性能なのは最初に言った様にベル本人の為にならないのは確か。

 一方ヘファイストスのブランド力だけでなくヘスティアが言った様に神匡として手抜きの武具を鍛えるのも良しとは出来なかった。

 

『難しい物ね』

 

 刀の刃長や身幅は将来175C(セルチ)の身長になるとの予想と演武からの戦闘スタイルから直ぐに決まったが、初心者とは言えないが下級冒険者に持たせる第一級装備と言う相反する要素をどの様に実現するか……。

 

『これこそが神匡として腕とセンスの見せ所ね』

 

 難しい条件を前に燃えるのは職人の性。そこは地上の子供も神も関係が無かった。




 ベルは既にヘファイストス派閥のトップとヴェルフに出会ってしまいました。
 ヴェルフの作品が売れないのはやはり遺品として残された時に我らのPCのデータが消去されなかった様な状態ですからそりゃあ売れないと
 日本刀の場合は刀匠の銘だけでその後の活躍で自然と二つ名が付くがこの世界は違うようだからセンスで売れ行きが違ってしまう。
 頑張れヴェルフ。
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