ダンジョンで英雄を目指すのは間違っているのだろうか 作:おやしお
「まだ早いけど、これから行ってくるか」
朝の9時。今日は待望の新作の刀を渡される日と有って何時もの5時起きからの鍛錬も身に入らず時間が過ぎるのを待っていたベルであった。
「行って来ます」
無人のホームだが習慣で出かけの挨拶をして切味を確認する為にもそのままダンジョンに潜れるようにと何時もの皮の軽鎧と武装をして飛び出していくのだった。
早朝の黄昏の館
昨夜ロキに心配を掛けた罰だと
そして、玄関先でのアイズをみて興奮したロキといつもの
「朝食ですか?」
「それもあるけどな」
予め予約をしていたのか店員にスムーズに案内され店内へ入ったが言葉を濁すロキ。
「またせたか?」
「いえ、今来たばかりよ」
気軽にロキが声を掛けるのは声からして女性とわかるフードで顔を隠した神物であった。
その時アイズは周囲が時間が止まった様に他の客が身動きもせずに静寂に満ちていた事に気が付いた。
紺色のローブのフードから僅かに見えるプラチナブロンド。一言聞こえた声だけで心奪われる美声。
これは美の神の持つ権能。
一般人にはそれだけで魅了されて動けなくなるのも納得だとアイズも得心いったのだ。
「それで何時紹介してくれるのかしら?」
そのまま食事を頼んだロキに対し後方で護衛として控えるアイズを見ながら訊ねる美の女神。
その素顔を見るとハイエルフのリヴェリアを始めて越える美貌を見たと思うアイズ。
そして油断をすると魅了を発揮していなくても心が持っていかれそうになり思わず心を引き締めると会話が聞こえてきた。
「今更そんな必要が有るのか?」
「一応彼女とは初対面よ」
「それもそうか」
ロキも納得したのか【ロキ・ファミリア】と同等の戦力を有し何かと対立もする都市最強のLV.7【
紹介が終わり一頻り雑談が済むと雰囲気が一変した。
隣にロキから座る様に促されたアイズも未だ美に魅了されている周囲の客すらも緊張したのだ。
「それで私を態々呼び出した理由は? あなたの所の
「あんの連中~」
フレイヤの言葉に歯噛みするロキ。
「それで? 興味が無いと言ったガネーシャんトコの宴に参加したり、今もウチの噂を知っているように情報収集をしている理由はなんだ?」
二柱の女神の神威の圧力に一般客は我に返り恐れて逃げ出したらしい。気が付けば二柱とアイズの三人だけになっている。
「男か…」
しばらく睨み付けていたロキがそう結論付けた。
「またどっかのファミリアの子供に目を付けた訳かこの色ボケが」
その眷属が普段から対立している【ロキ・ファミリア】や最大人数を誇りギルドに協力して治安維持を行う【ガネーシャ・ファミリア】他には武闘派では無いが都市郊外に広大な農場を持っていてオラリオの食糧供給に重要な働きをしている【デメテル・ファミリア】など都市最強派閥であっても迂闊に触れると火傷で済まないファミリアも幾つもあるから事前に確認をしたと言う事かとロキは見抜いたのだ。
遅れてアイズもロキの言葉を理解したが、フレイヤは黙って微笑んでいるだけだった。
「それで? 今度はどんな奴なんや。色々悩ませたんだから教えろ」
「そうねぇ。私の所やロキの所の子と違ってとても弱いわ今はね。でも透き通ってて綺麗だったわ…」
そこまで語って窓の外を見ていた彼女は突然立ち上がり「用が出来たわ」と言って一方的に席を立ったのであった。
「なんじゃ? 弱い子などはあの女の好みでは無いだろうに、どんな冒険者だ?」
フレイヤの視線を追っていたアイズも一瞬白髪頭の少年が駆けて行ったのを見かけていた。
『まさか、フレイヤが気にしているのは』
アイズの内心も懸念と否定を往復させていた。
一方ロキはガネーシャの所でのヘスティアが明確に本人が拒否をしたと言ったのに執着をする様な性格と思っていなかったからベルが相手とは思っていなかった。
「まぁ兎に角腹ごしらえが終わったらアイズたんとフェリア祭でデートや」
ロキ派閥との対立をする気が無い事を確認した後はアイズとお楽しみやとばかりに宣言をして喫茶店を出るのであった。
『どこに行ったのかしら?』
近くで隠れている護衛のオッタルなどに探させても良いがこのまま歩けば見付かる様な気がして一人気ままに散策するフレイヤ。
「よう、早かったな」
ホームの廃教会から完全装備で駆けてきたベルを店前でヴェルフが待っていた。
「ヴェルフさん、どうして?」
それなりの距離を走って来たのに息も切らさずに尋ねるベル。
「何、待ちきれずに時間前に来るだろうと思って待っていたのさ。それに俺もヘファイストス様の本気の作品をもう一度見たいと思ってな」
そう言いながら背中をバンバン叩きながら店の勝手口から入る二人。
「おお、待っていたぞ」
社長室に入ると既に椿が待ち構えていて、どうだ見て見ろと刀を差し出すのだった。
柄も黒絹で固められ鞘もまた黒漆で全てが黒き刀。
刃長が更に伸びて約85
そして背が伸びた時には腰に差す事も出来る長さでもある。
ベルが緊張しながら抜いた刀身は紫紺に輝き自分には読めない
それがベルの手に渡った時歓喜するかのように刻印が光り輝いた。
「これは…」
「ヘスティアの髪の毛と血を混ぜて
成長する武器であり、ベル、君の成長に合わせて威力が増して至高へと至る刀だ。
逆に言うと君が成長しなければ何時までもニ流三流のままと言う事よ。
銘はこれは神の刀その物、ヘスティアブレイドね」
そう説明するヘファイストスの言葉も耳に入らない位魅入られているベル。
同じく主神の渾身の作をヴェルフも見ている。
鍔を見ると4つの炎が囲み間にベルがあるデザインだった。
「手前の傑作の鍔だ。ヘスティア殿の権能の竈の炎とお主の名前のベルを掛け合わせたお主だけの刀だと一目でわかる様にした」
鍔を見るベルに気が付き椿がそう説明をする。
「それで試し切りをするか?」
椿の提案に賛同し地下室に向かう四人。
ヒュン! ヒュン! 幾度か素振りを行い予め準備されていた試し切りのポールに向かうベル。
上下で50
『違う、一昨日の素振りからもう鋭さも気合も違っている。本当に半月前に恩恵を受けた新人冒険者か?
これではもう少し堅い素材でも良かったか』
第一級冒険者でもある椿すら瞑目するベルの剣速。
「闘っ!」
気合一閃。八双の構えから切りかかる。
刻印だけでなく刀身からも光を放つように見えた(実際は闘気を感じられる椿が見えただけだが)ヘスティアブレイドがポールに唐竹で切り裂く。
次に返す刀で左切り上げで次のポールを両断更に袈裟切り迄そのまま止まらずに切っていった。
四本目に斬りかかった右薙は途中までで引き抜きざまに袈裟切りを行いそれでも切断できずに次のポールに向かう。
一瞬力と気を貯めて上段からの唐竹を再び行ったがやはり刃が食い込むだけであった。
「残念ながら、ここまでですね。もう少し斬れたら良かったんですが」
爽やかな笑顔で「実力が有ればもっと切味が上がって最後まで斬れたのに残念だ」と言っているベルに何とも言えない顔で椿が告げる。
「最初の三つのポールはキラーアントを想定した硬さで、後ろはハード・アーマードより少し柔らかい程度でキラーアントのは途中までで後ろの方は弾かれると想定していたんだが」
その言葉に「えっ?」と驚く顔をするベル。ついでにヘスティアとヴェルフも。
「それでは今日はこれからダンジョンに向かって7階層で確認してきます」
「まぁ、待て。今日はせっかくの
「
椿の言葉に疑問を浮かべるベルにオラリオに来てから一月も経っていなかったなと後頭部を掻きながら説明をする。
ギルド主催で【ガネーシャ・ファミリア】協力で行われる催しでモンスターを
それもテイムが難しい迷宮産を行う事で人気が有り都市外の人間も見物に来るほどだから行ってやれと。
それで昨日のコンテナとエイナさんの忙しそうな理由も判ったベルであった。
「なら神様行きましょうか」
「うん!」
ベルの言葉にヘスティアは頷いていた。
「服装は仕方が無いが刀二本は見た目が物騒だ。いちご丸だけは俺が預かってやる」
ヴェルフの言葉に素直に従って切り裂きの剣(仮)とバックパックを渡し街に向かう二人だった。
剣技は凄くてもダンジョンばかりでオラリオの常識に疎いベル君。
やはりアイズとお似合いですね。
日本刀の試し切りなら死刑囚や遺体で、なければ巻き藁ですが流石にどれも無いからポールになりました。