ダンジョンで英雄を目指すのは間違っているのだろうか   作:おやしお

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02 剛剣((士))

 

「エイナさ~ん」

 

 ギルドの受付にエイナを呼ぶ元気な声が聞こえた。

 エイナ・チュール。十九歳のほっそりと尖った耳から判るようにハーフエルフで澄んだ緑玉色(エメラルド)の瞳とブラウンのセミロングの髪でエルフの完璧な美と違い親しみのある美しさと冒険者に人気の受付嬢であった。

 そして昼下がりの多くの冒険者がダンジョンに潜っていて暇な時間に自分を呼ぶ声に思わず頬がほころぶのであった。

 半月前にその綺麗な瞳を輝かせて冒険者登録を行った時には多くの受付嬢がファミリアでの門番と同じく例え神の恩恵(ファルナ)によって基礎能力が向上してもその純真な冒険者に相応しくない性格では早晩消えるだろうと。

 だからこそ、その様な評価への反発と少しでも生き延びる様にと受付を行った縁から彼女が迷宮攻略の為の迷宮アドバイザーとなって彼にはダンジョンとモンスターの知識と危険性を叩き込んだのだ。

 

 そして今、ベルの口から5階層に挑戦してそこでミノタウロスと接触しアイズ・ヴァレンシュタインに助けられたと聞いたのだ。

 

「ベル君、冒険者は冒険してはいけないと何度も言ったでしょ。君はダンジョンに夢を見過ぎているのよ」

 

 5階層迄足を延ばしたベルに苦言を呈するがそれもベルの安全を考えての事だった。

 実際ギルドの推奨する基本アビリティは5~7階層はGからF冒険者として半月のベルはHが大半であった。

 そしてソロである為に普通のパーティーで攻略している冒険者よりも更に危険性が高いのだ。

 それでも強くなりたいと出来るだけ適正階層でも深い方を潜り今の上層では敢えて切り札を使わずにいたのだ。

 

「で、ヴァレンシュタインさんの事ね」

 

 溜息を吐きながら「公然の情報だけよ」と前置きをして語った内容には当然彼女の趣味や好みなどプライベートは含まれていなかった。

 ただ一つ最近アプローチを掛けた冒険者を断って千人斬りを達成したとか。「ベル君が1001人目ね」と何故か嬉しそうなエイナ。

 

「それでも彼女も女性だから強い男性には憧れると思うの」

 

 別れ際の最後に強くなれば振り向いて貰えるかもと付け加えたのだ。

 何だかんだと彼女も弟の様に思えて無下にできなった様だ。

 

 ベルは今日はダンジョンへ再挑戦をせずに魔石などを換金後そのまま早くに本拠地に戻ったのだ。

 廃教会の地下がベルのファミリア【ヘスティア・ファミリア】のささやかな根拠地であった。

 

 そして、その中庭でベルは鍛錬を始めていた。

 

『闘の一文字を心に懐け。さすればその一文字は「牙」となる』

 心に念じ呟きその闘気が凝縮し。

 

「闘文字。剛剣()見参」

 

 切っ先より無数の刃を持った人型が現れる。

(ジン)輪廻(リンネ)

 

 そのまま振り下ろし遥かに長い間合いを更に鋭利な切味を持って人型が動く。

 この世界の魔法。魔力=精神力によって世界に干渉する力では無い、闘気=魂の力を具現化して敵を斃す「牙」とする剛剣()術。

 これがダンジョン探索で現状で力と基礎を付ける為に封印しているベルの切り札だ。

 

 キシュラナ流剛剣()

 ベルたちの世界には無いキシュラナという国の誇る流派。

 異世界の剣術を何故ベルが扱えれるのかと言うと、それは8年前ベル6歳の時だった。

 村外れでコボルトに襲われた時に突然空間から現れた男性が戸惑いながらもベルを救ったのだ。

 そこで駆けつけてくれた祖父と出会い、この世界と全く違う世界からの来訪者だと判明した。

 キシュラナ流剛剣()術の使い手ザル=ザキューレ。そう名乗った彼は何故か異世界でも言葉は通じて、

 説明する事によると本来禁じられた私闘を行い敗れて死んだはずなのに失ったはずの左目も復活し致命傷も治った状態で現れたのだと。

 彼の世界では極稀に人間を超えた力を持った者が世界の壁を超える事が有るので異世界が有っても驚かないがその様な力も無い罪人の自分が何故この様な境遇になったのかは不明だと。

 そして英雄に憧れるベルが剛剣()術を学びたいとせがみ、祖父の承認の下教える事になったのだ。

 だがベルのその真直ぐな綺麗な心から殺気の具現化による剛剣()を生み出す事は不可能と早々にザル=ザキューレは見抜き殺気から闘気へと変えていったのだ。

 黒き殺気ではなく自らを高みに向かう白き闘気へと。

 それが殺文字から闘文字へと変わり6年後の2年前に不完全ながら顕現したのを見てから数日後にザル=ザキューレの刀が折れて現れた時の様に姿が薄くなって消えたのだった。

 

「どうやら何者かが、この世界に剛剣()術の芽を残す為に失った命を永えさせられた様だな。

ザル=ザキューレ最後の弟子ベル・クラネルよ今後一人で精進するように。

 そして向こうでの弟子が私の仇を討とうとして返り討ちになった様だ」

 

 折れた己の刀を見て全てを悟ってそう言ったのだった。

 元の世界での最後の弟子サイ=オーと共に最後まで見取れないのは残念だ。これも「四天滅殺交わる事かなわず」を破った報いか。ベルよ一度の敗北で諦めず生き延びて再戦を喫して最後に勝てば紛れもなく勝者だ。

 そう言って最後の力で自らの刀の鍔だけをベルに託し消えていったのを昨日の様に覚えていた。

 師匠が消えた次の年の昨年には祖父も亡くなり、共に遺体が残らずに亡くなった事で信じたくなかったが、心に整理を付けて、祖父のハーレムと冒険、そして師匠からの技を完成させるためにダンジョンのあるオラリオで冒険者を目指して半月前に着いたのだった。

 

「果たして、この剛剣()でも斃す事が出来たのか?」

 

 心の中では自信が無いベルであった、真の一刃である刀であっても掠り傷であってより鍛錬をしなければと思っていた。

 その脳裏には師匠であるザル=ザキューレだけではなくあの時助けてくれたアイズ・ヴァレンシュタインの剣筋もあった。

 素早い太刀筋に筋肉や骨の継ぎ目に精確に切り裂く技。

 決して高レベルのアビリティによる力任せでは無い鮮やかな攻撃に女性としてだけでなく剣士としても憧れを抱いているのだった。

 いつかは彼女の横にそして共に力を合わせる時が来ることを一目惚れと共に夢見ていた。

 

 そして更に振るう。

 剛剣()(ジン)四手(ヨツデ) 剛剣()(ジン)(カイナ)

 殺気ではなく闘気の具現化による巨大な岩をも切り裂く刃。

 何時しか剛剣()が消え無心に振るうベルの太刀筋はあの時見たアイズの太刀筋をなぞりほぼ同じ身長の彼女があの巨体の急所を容易く切り裂く様を自らの物にしようとしていた。

 

 パチ・パチ・パチ

 

「ベル君、今日は早かったけれど鍛錬かい」

 

「神様」

 

 教会の中庭に拍手と共に現れた彼女はベルの主神「ヘスティア」であった。

 黒髪をツインテールに結わえており童顔に140C(セルチ)程度と低身長の為にベルの妹の様にも見えるがそれでも彼女も神の一員。超越存在(デウスデア)である。

 超越存在(デウスデア)、神であっても団員が一人の弱小ファミリアでは彼女も下界の人間に混じってアルバイトで生計を立てなければならず、そのバイトも夕方になり丁度帰って来たところであった。

 そうして二人は本拠地(ホーム)である廃教会の地下室へと入っていく。

 




 ベル君も剛剣死(士)術の使い手です。
 コミックスを見ると刀身が変形している様でありながら剛剣死(士)を搔い潜ると実剣が襲っても来ると言うから切っ先から闘気が出る事にしました。
 あとはベル君には殺気は似合わないので闘気にしました。冒険者に似合わない白い魂ですからね。

 エレたちセヴァールが複数いたら主人公補正も含めて三大クエスト達成できそうだし負けたとはいえ追い込んだザル=ザキューレなどもレベル6~7位ありそうだが世界の強制力でそこまで強くないベル君です。

 素手の格闘技は多くても剣術は飛天御剣流や鳳龍の剣など少なくてベル君に似合う技が中々日本の創作に無くて悲しい。
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