ダンジョンで英雄を目指すのは間違っているのだろうか   作:おやしお

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06 ベート・ローガ【凶狼(ヴァナルガンド)

『ここで、良いんだよね!?』

 

 夕方遅くまでダンジョンに潜り ステイタスの更新後に何時もの習慣の姿見の前での素振りなどの調整を終えてから朝のシルと出会ったメインストリートに向かうと朝のカフェテリア街といった健全な雰囲気から仕事帰りの労働者や冒険者などが徒党を組んで呑み騒いでいる大人の世界になっていた。

 「豊穣の女主人」という覚えのある看板を見付けて中を見たらオッサンたちの出来上がった姿よりもウェイトレスや奥に居る調理人の全店員が見目麗しい女性(ヒューマン、亜人共に)にベルの敷居が高くなっているのだ。

 その様に躊躇っているベルをシルが発見して強引に店内へ引き入れる。

 

「お客様一名入りまーす」

 

 元気な声と共にカウンターの角の場所。一人隣を気にしなくて済む場所に気を使って選んでくれたと察するベル。

 そしてメニューの値段を見て驚く普段の食費は50ヴァリス前後なのに無難なパスタを頼んでも300ヴァリス。

 先ほどシルさんが大食漢と女将さんに紹介していたがどれだけ使わせる心算だったんだと慄くベルであった。

 

 その後仕事が一息ついたシルがベルの隣に座って会話をしていた。

 

「ミアさんはドワーフの元冒険者で主神からの同意で半脱退状態なんですか」

 

 この店の女将はミア母さんと呼ばれていて最初ベルよりも身長が有りハーフドワーフかと思っていたのだ。

 

「そう、そして訳ありの人が結構集まっているの。私は人を観察するのが好きで働いているんですけどね」

 

 だから、「ミア母さんは懐が広いのよ」と続けていた。

 

「確かにシルさんは一般人みたいですけど皆は……」

 

「あれ!? ベルさんはエルフが好みなんですか」

 

 エルフの店員に視線を向けるベルに揶揄ったら。

 

「確かに気になるね」

 

 見事に返されて致命傷を負うシル。

 

「動きを見ると体幹がブレていないし食器を運ぶ時のバランス感覚や膂力を見ただけで只者に見えない。ウェイトレスとしての動きよりも武人の動きに見える」

 

 店員に注視してシルの拗ねた顔を見ていないでそのまま気が付かずに言葉を続けていたのだ。

 それを聞いて女性として見ていないからとシルは安心したが。

 

「ベルさんは冒険者として長いんですか?」

 

 今日始めて見たし、初々しい様子だったのに下級冒険者なら見逃す店員(リュー)たちの身のこなしに注視するベルに疑問を持ったのだ。

 

「半月前にオラリオに来て冒険者になったばかりですよ」

 

 苦笑しながら「漸く5階層に挑戦できたところですよ」と続けていた。

 それを聞いてシルが言葉を続けようとしたら店内がザワッとしたと思ったら十数人の集団が入って来た。

 店内の幾人かの客が声を低めてエンブレムを確認して「ロキ・ファミリアだ」「巨人殺しの【ファミリア】か」などと語っていたがベルは既にアイズを確認して心臓がバクバク言っていてその様な小声は聞こえていなかった。

 

 そしてベルの座席と対角線に有った不自然に空いていた座席が【ロキ・ファミリア】の予約席でエルフの(ベルが身のこなしを注視していた)店員の案内で席に着いていた。

 遠征に出ていたファミリアのメンバーが多く店内には一軍、幹部連中が主役の十数人だけで残りはテラス席でお偉方が居ないと気楽に騒いでいたがベルはそこまでは気が回っていなかった。

 熱心にアイズを見ていたベルに対しシルはこそっと「主神のロキ様がお気に入りで【ロキ・ファミリア】はお得意様なんです」と小声で教えてくれて、いつかは常連となる位に稼いで出会いの機会を増やそうと決意をするベルであった。

 

 

 【ロキ・ファミリア】の席ではアルコールが入って賑やかになっている中に狼人(ウェアウルフ)が酔いが回って発言を始めた。

 

「そうだ、アイズあの話をしてやれよ!」

 

 アイズは最初狼人(ウェアウルフ)。ベート・ローガの言葉が判らなかったが次の言葉で何を言いたいが理解をして思い出を汚さないでと声にならない声を上げていた。

 

「ほら17階層で逃げ出したミノタウロスの最後の一匹が5階層迄逃げた時の雑魚を」

 

「ミノタウロスが上層迄逃げて、他の冒険者は無事やったん?」

 

 流石にロキは主神として他の【ファミリア】への被害を気にしたが。

 

「あ~、腰を抜かした雑魚は居たが怪我人も出なかったぜ。で、最後の一匹だが如何にも貧乏な初心者というギルド支給の防具をしているのが居たんだよ」

 

「それをアイズたんが救ったん?」

 

「そうだが、その雑魚は武器だけは如何にも英雄譚からの憧れから選んだような両手剣を使っていたからかミノタウロスの打撃にも折れていなくて、その上に咆哮(ハウル)にも動きは止めていなかったから間に合ったんだが」

 

「ほぅ~」

 

「ほえ~」

 

 ベートが下級冒険者を褒めるのは珍しく団長であるフィンや普段喧嘩をしているティオナは驚きの声を上げていた。

 

「アイズがそれで切り刻んだが、その後その雑魚がアイズの手を握って告白なんかして、直ぐに逃げて行ったんだよ」

 

「なに~!? アイズたんに告白だと」

 

 ベートの言葉にロキは怒りの声を上げていた。

 

「どうせアイズの1001人目の犠牲者になっただけさ、なぁそうだろ」

 

 アイズは兎との思い出を大切にしたく思っていて黙っていたのだが、更にベートは調子に乗る。

 

「どうだアイズ俺と違ってあんな雑魚は嫌だろ」

 

「少なくとも今のベートさんは嫌いです」

 

 明確な拒絶に更にヒートアップするベート。

 

「戦った姿で少しは見直したのにアイズを口説き直ぐに逃げ出す事など冒険者としての品位を下げるんだよ。あんな雑魚に剣術を教えた奴も大した事は無いさ」

 

「ベートも好い加減にしな、流石に酒が不味くなる」

 

 ロキもくどいベートに苦言を呈した。

 

 ガタッ! だが遅かった。アイズに声を掛け逃げ出したのも、ミノタウロスに歯が立たなかったのも事実で悔しくても我慢していたが、尊敬する師匠を馬鹿にされて黙っている事が出来なかったベル。

 

「ベルさん?」

 

 立ち上がったベルを不安そうな顔で声を掛けるシルに「手持ちが少ないけど、迷惑料込みで」と言いながら金貨(1,500ヴァリス)をテーブルに置き【ロキ・ファミリア】ベートに向かうのだ。

 

「そこの狼人(ウェアウルフ)の冒険者。今の言葉を訂正して貰いたい」

 

「あ~ん!?」

 

 ベルの言葉に酔いが回って座った目で睨み付けるベート・ローガ。

 

「確かに育ての親(祖父)から女の子(おなご)は大切にしろと言われたし。美女美少女を褒めなければ男でないとも教えられていたのは事実だ。そしてアイズ・ヴァレンシュタインさんは褒めるに値する素晴らしい人だ。

 だが、あなたはどうだ、既に一度振られたのか? それとも1001人目が怖くて僕を出汁にして誤魔化している卑怯者ですか?」

 

『まるで糞爺(ゼウス)の台詞だな』

 

「なんだと! このクソガキが」

 

 ロキの感想と同時に図星を点かれたベートが吠えた。そして殴りかかる。

 

 酔って動きが鈍っている上に相手が初級(LV.1)冒険者だからと手加減をしていたとは言え中ればベル程度の冒険者ならタダでは済まなかっただろう。

 周囲の冒険者も思わず制止の声を上げていたが遅かった。

 

「グワッ!?」

 

 僅かに首を傾けてベートの拳を避けてそのまま人中に拳を叩き込むベル。

 ベートの顔が衝撃で変形したのを見て周囲の仲間は驚いた顔をしている中、潰れ流血した右拳を見ながら「流石第一級冒険者の耐久。岩を叩いたみたいだ。だがミノタウロスの鋼の鎧のような硬さよりまだ柔らかい」などと呟いていた。

 

「てめぇ、俺がミノタウロスより弱いと言うのか」

 

 プライドを傷付けられ立ち上がり様に素早くバックハンドブローを繰り出すベート。それを避けるベルと始めから予測していて驚きもせずそのまま後ろ蹴りを叩き込んだベート。

 その蹴り足の間合いを見切って膝にベートの踵を乗せ同時に肘を挟み込むように打ち込む。

 ミスリルで出来たブーツと同じくLV.5の耐久力でダメージを与えられず逆に自らが傷付くベル。

 軸足をひねり更に踏み込み足を延ばし蹴りを届かせるベート。

 その衝撃に骨を逝っても耐えて見せるベルを見て表情を変えるベート。

 

「これが僕の師匠の教え左武頼(さぶらい)は命ある限り戦えと。例え()を失っても、まだ他の()があって戦えるのならば、勝つのを諦めるなと。そして僕なんかより遥かに強い師匠を侮辱するなと」

 

 ベルが吠える。





 ベル君酒場を逃げてダンジョンに潜らずベートと乱打戦です。
 酔って油断のベートに拳が当たってもダメージはほとんど無しの模様。
 レベルの暴力はダンまち世界では厳しい。
 原作でもレベル2になったばかりでアイズとの特訓前だとレベル3のヒュアキントスに手も足も出なかったけれど、ベートが手加減していたと思って下さい。
 原作だとザル=ザキューレも潔い生き方で剣術のみのようだがクルダを支配下に置いた過去があり侍モデルなら武芸百般格闘術もありという独自設定です。
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