ダンジョンで英雄を目指すのは間違っているのだろうか   作:おやしお

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07 左武頼(さぶらい)

「これが僕の師匠の教え左武頼(さぶらい)は命ある限り戦えと。例え()を失っても、まだ他の()があって戦えるのならば、勝つのを諦めるなと。そして僕なんかより遥かに強い師匠を侮辱するなと」

 

 ベルは吠える己の師匠をもっと強く尊敬できる人物だと。

 【ロキ・ファミリア】の面々は165C(セルチ)の少年が一回りも二回りも大きく見えた

 その背後には剣の化け物が現れている姿も幻視していた。

 

 ロキは神の力(アルカナム)を封じて零能力者と一般人以下だが横から見ていたフィンは理解していた。

 最初の攻撃。右足を前に出して順手で撃ちこんだ拳。

 予備動作も肩の上下動も無く真直ぐに伸びた無拍子と呼ばれる正拳。

 ベートからしたらいきなり顔面に拳が飛んで来た様に見えたであろう。

 もしも相手が上級冒険者かもっとベートが酔っていたらそれで終わったかもしれないと。

 

「吠えるな餓鬼が!」

 

 ベートは雑魚から餓鬼へとベルの評価を向上させていたがそれでも所詮LV.1の初心者に毛が生えている程度と装備などから判断をして手加減をしていたから酒と怒りが有ってもまだ自制心が残っているのだろう。

 

 手加減をしたスピードに拳ではなく掌底による攻撃。

 それでもLV.3程度なら充分斃せるはずだった。

 

「なぁ、フィンうちは動きがほとんど見えないんだが、何故あの武士(さむらい)は斃れないんだ?」

 

「うん、ヒットポイントを上手くずらしている上に受け流してダメージを減らしているみたいだね。

 それに中途半端に強いから下手に中る様なスピードにすると下級(LV.1)冒険者の耐久なら致命傷になりかねないからベートも苦労しているよ」

 

 神の力を封じているロキには見えない動きをフィンは説明していた。

 

「ベートも誤解されやすいけど意外と優しい男だからね」

 

 フィンはそう言って苦戦の理由も話したのだ。

 

 攻撃の瞬間に敢えて前進して腕が伸び切る前に弾いたり肩で受け止めていた。

 だがそこまでで、カウンターを最初の様に決める事は出来ていなかった。

 そして微妙にベルの名乗りを誤解していたロキ。フィンもだが師匠を極東の戦士と思い込んだのだろう。

 

 例えダメージを受け流していても基礎能力が違い過ぎるから斃れるのも近いだろうと言う第一級冒険者たちの読みの中ベルは闘気を溜めてチャンスを窺う。

 その時ベルは背中に刻まれた【恩恵(ファルナ)】がベルを支援するかのように熱く燃えているのを感じていた。

 

「これで終わりだ!」

 

「合気!」

 

 中々倒れないベルに苛立つベートの叫びと同時の大振りとそれを最後のチャンスと叫ぶベルの声が重なる。

 闘気による身体強化と同時にベートへの気に同調しての身体操作。

 ベートに直接触れずに誘導して自ら頭部からの落下。

 だがそこまでであった。

 これ以上の追撃を行うのにはダメージが有り過ぎベルには無理であり、逆にベートにとっては酒場の床ではほとんど痛くも無かったのだ。

 これが石畳やダンジョンであっても落下速度が不足でダメージは少なかったであろう。

 

「この野郎!」

 

 案の定ベートはすぐさま立ち上がり拳を握り殴りかかろうした。

 

「ベートそこまでだ」

 

 フィンがすかさず止めに入りドワーフの重戦士ガレスも間に入った。

 

「邪魔をするな」

 

 激昂するベートにガレスは「もう気を失っている、それ以上はやり過ぎじゃ」とベルを後ろ向きのまま親指で指差していた。

 それを見たベートも漸く気を静め酒場を出ていく。

 

「白けた、俺はもう帰るわ」

 

 一言だけ残して消えていくベートと立ったまま気を失ったベルが残されていた【ロキ・ファミリア】の宴席。

 空気を読まないアマゾネスのティオナがベルに近付いて叫ぶ。

 

「これ傷だらけで失神ていうレベルでは無いよ。ねぇリヴェリア治してやって」

 

「これなら私よりも専門の治療師(ヒーラー)の方が良いだろ、リーネ頼む」

 

「へっ!? 私が」

 

 ハイエルフで副団長でもあるLV.6のリヴェリアは本来三つの魔法しか使えない眷属の枠を超えて詠唱呪文の長短による効果を変える事による治療呪文も使えるのだった。それ故に二つ名は九魔姫(ナイン・ヘル)

 だが治療なら専門家が良いとLV.3のヒューマンの少女に任せたのだった。

 ベートが出て行った事に気を取られていた少女は突然の指名に間の抜けた声を出したが、本来優しいヒーラーの彼女は直ぐさまベルに近寄り様子を見て驚いた。

 拳が砕けベートの足を挟んだ肘と膝も出血をしておりそのまま蹴りが入った肋も折れていた。手加減をして居た筈のベートの攻撃を受けていた腕や肩にも罅が入っていたのだ。

 むしろ激痛で意識が残っているのでは?という酷い有様を聞いたロキは根性はあると感心しガレスも一度手合わせをしたいと思ったりしていた。

 

「ミア母ちゃん、酒場の修理費を含めた賠償金とこの坊主の食費はうちが持つから」

 

「随分と甘いんだね」

 

 ロキの言葉に女将は珍しい事もあるもんだと言っていた。

 

「ベートが言い過ぎたのは確かだし、これだけ根性を見せてくれたんや褒美で坊主の借りや無いんで今度来たら気にすんなと言うとき」

 

 ミアの言葉にニヘラと笑うロキ。

 

「これ、治療魔法だけで間に合わないけれどハイ・ポーションを使って良いですか?」

 

「おう、構よんよ。それにしてもリーネは準備が良いなぁ」

 

 治療の結果怪我も癒え暫くして意識を取り戻したベルは己の身体を動かして不思議そうにしていたが、ロキから手当てをして貰ったと聞き慌てたのだ。

 

「申し訳ありません。師匠を侮辱されたとは言え酒宴を邪魔という無粋な真似をしてしいました」

 

「ベートも言い過ぎたからお互いだよ。それよりも君の師匠は今はどうしているのか聞いても良いかな?」

 

「構いませんがただ、僕の師匠であるザル=ザキューレは既にこの世に居ませんからもう会えません。都市の外の人でこの世界で僕がただ一人の弟子で同じ技の使い手もいません」

 

 フィンの言外にキシュラナ流剛剣()術に付いて問いかけている事を察して答えるベル。

 但し異世界の剣術と言う事は隠しているがそれ以外は本当の事であり、神ロキも嘘は言っていないとフィンに視線で返答していた。

 

「そうか、眷属で無い一般人の剣士だったんだね」

 

「それでも岩だけでなく鋼も切り裂ける人でした」

 

 殺文字剛剣()を使わずに刀だけで兜割りや岩石を切り裂き、弱体化した都市外のとはいえこの世界のモンスターを実際に斬った姿を見た過去の経験とアシュリーナでの魔獣の戦いの話を聞いていたベルの言葉に嘘は聞こえなかった。

 

 その後フィンに再度謝罪をした後にシルにも一言声を掛けて店を出ていくベルであった。

 

 

 

「ただいま」

 

 廃教会の地下室に戻ったベルは習慣で挨拶をしながら俯いたまま扉を開けると魔石灯が点いていて思わず顔を上げるとヘスティアが立っていてこちらを見ていたのだ。

 

「神様…… 今日はバイトの打ち上げで遅くなるのでは」

 

 ベートとの喧嘩で食事もそこそこに帰った自分の方が早いと思っていたベルは思わず聞いたのだ。

 

「嫌な予感がして早く帰ったんだけど、正解だったようだね」

 

「はい、丁度雨が降り始めたから濡れずに済んで良かったですね」

 

 ベルの的外れな台詞に眉を顰めながら指摘する。

 

「ベル君。その服はどうしたんだい? 傷は無いみたいだけどボロボロじゃないか」

 

 ヘスティアの指摘通りベートの蹴りを挟んだ肘と膝の部分は破れ受け流した腕や肩の部分もほつれていて、何よりも血の跡が残っていたのだ。戦闘衣(バトル・クロス)ではない普通の服では一般の冒険者の喧嘩でも耐えられないのに手加減をされたとは言え第一級冒険者の拳撃に耐えられる訳が無かった。

 最初は黙っていたが、漸く口にしたのは祖父に対しては否定できなかったが師匠に対しては莫迦にされて許せなくて喧嘩になったと。

 レベル差で歯が立たず逆に同情されて治療をされてしまったと。

 

「判った。まずはシャワーを浴びなさい」

 

 着替えを持ってシャワーに向かったベルを残し破れた服をチェックしたヘスティアはズボンは繕えそうだが、上着はもう駄目だと、一体どんな喧嘩をしたんだと思ったが、シャワーから上がったベルにはもう寝なさいととだけ告げたのだった。

 

「神様。僕は強くなりたい」

 

 ソファーベッドに横になったベルは一言呟き顔を隠したのであった。

 

「ベル君。君はソロで頑張っているしステータスも成長期で向上している。充分強くなっているよ。

 兎に角もう今日は忘れて寝なさい」

 

 バイト先のマスコット扱いや初めての眷属で浮かれている普段の駄女神振りが嘘の様に本来の権能竈の守護者として家族や孤児への守護者慈母女神としての顔を見せるヘスティアであった。

 




 ベル君敗北しました。
 治療魔法にハイポーション使用を知ったらその必要経費にベルもヘスティアもきっとぶっ倒れていたでしょうね
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