ダンジョンで英雄を目指すのは間違っているのだろうか 作:おやしお
ステイタスも5~7階層の適正値GからFにほぼ達成しており出来る限り資金集めをしたい今、エイナの助言を無視して潜っていたのだ。
昨夜の酒場の賠償金でロキが払ったと知らず不足(床まで破壊)していると思い込んで払わなければと少しでも多く稼ごうとしていたのだ。
更にギルド支給の安物の刀がミノタウロスの攻撃をいなしたらガタが来て寿命が近いと買い替えが必要となったのだ。
6階層の新米殺し、ウォーシャドウは攻撃力と速さはあっても耐久力はゴブリンやコボルト並みと刀の負担と魔石の引き取り価格から見てベルにとっては美味しい存在であった。
頭部が扁平な楕円型で目などが無くてどこを見ているか判らないが身長が160
ルームに入った時ベルにダンジョンが遂に牙を剥く。
行き止まりの唯一つの通路からは蛙のモンスターであるフロッグシューターが。
壁からは新たに産まれるウォーシャドウが。ダンジョンのモンスターは成体。直ぐに戦える完全体として生れ落ちるのだ。
更に次々とルームに侵入するモンスターたち。
そして、その発生頻度は4階層までと5階層以下では全く異なり危険性が跳ね上がるが故に、エイナはベルに口を酸っぱくしてでも「冒険者は冒険をしてはならない」と無謀な挑戦を戒めていたのだ。
無論10階層以下、特に中層と言われる13階層以下の大量発生による襲撃、
「周囲は全て敵。どこを振っても中る訳だな」
危機感は無かった様だ。
それでも、基本一対一で同時に複数当たる様な位置取りは避けて次々と切っていくのだ。
「ふうっ。今日はこれくらいにしようか」
ルームに襲ってきたモンスターを一掃した後、魔石やドロップアイテムを回収の為周囲の壁を傷付けた後(壁が修復中はモンスターは現れない)ベルはそう呟いたのだ。
今日は既に地上へバックパックが一杯で何度も往復をしていたのだ。
「魔石やドロップアイテムも4階層迄よりも高く換金出来るけれどその分大きくて直ぐに一杯になるからサポーターが欲しいなぁ」
「ろ・く・階・層?!」
報告に向かったベルの前には瘴気を纏った笑顔でエイナが区切りながら確認してきた。
「は、はい。エイナさんに教えられ通りにウォーシャドウは耐久が低くて刀に負担が掛からず斃しやすかったです」
『そうではないでしょう』
ベルの言葉に内心頭を抱えるエイナ。
「とにかく! 今のベル君には新人殺しの出る6階層はおろか5階層でもステイタス不足で厳禁だと今日は夜通し教育させるわ」
「いや、今日は用事があるから、それに昨日でステイタスのほとんどがG以上になったから」
「G以上?」
「そうです」
これ以上の学習は困ると主張するベルに疑わし気なエイナ。
「神様の言う事では今は成長期で伸び盛りだと」
「確かに一昨日はミノタウロスと戦い、昨日は第一級冒険者と喧嘩と経験値は得やすかったでしょうけど」
「どうしてそれを?!」
エイナの言葉に冷汗を掻くベル。
「ロキ・ファミリアと喧嘩をするって何を考えているのっ! 一歩間違ったらファミリア間の抗争になって瞬殺されていたのよ」
「す、すいません」
ヘスティアからも言われていて謝るしかないベル。
「それで、サポーターね。
5,6階層で何往復もする位の稼ぎの今なら雇う事は出来るでしょうけど、
「わかりました」
そう都合よくいかないかと我慢をするベル。
「色々言いたいことがあるけど、今日は我慢してあげるからお帰りなさい」
「ありがとうございます」
しばらくしてお茶を持ってきたミィシャは「エイナは弟君に甘いわね」と言ってきた。
「仕方が無いわよ、あんな顔をされたら。でも熟練度の上昇が早すぎて心配になるわ」
「単なる農民ではなくて、剣士だったんでしょそれなら成長する人もいるでしょう」
尤も初対面の様子だとそんな凄い子に見えなかったけどね。と続けるのはミィシャらしかったが。
「これ以上無茶をしない様に、そして巻き込まれた時の対策としてダンジョンの知識をもっと叩き込まないといけないわね」
「ウッヒャー、お手柔らかにね」
そう言って通常業務に戻る二人であった。
この後ベルはご機嫌であった。無事にエイナの説教から逃れられて、残りの魔石を換金したら今日の総額は8,000ヴァレスに近い金額と過去最高の最近の2倍近い稼ぎとなったのだ。
その足でベルは昨夜の酒場「豊穣の女主人」に向かったのだ。
丁度昼のカフェテリアから仕事帰りの職人や冒険者相手の酒場へと変更の準備中で客が途絶えた時だった。
「すみません、シル・フローヴァさんと女将さんがいらっしゃいませんか?」
キャットピープルの店員に声を掛けるベル。
「あーっ!昨夜店を壊して逃げたシルの客人ニャー。あれから片付けや弁償でシルも大変だったニャー」
「ご、ごめんなさい」
「煩い! シルは買い出しで留守ですがミア母さんは居ますので呼んできます」
思わず謝るベルを他所にキャットピープルの後ろから現れたエルフの店員が頭にチョップを喰らわせて黙らせると引き摺って行った。
その実力行使にエルフの幻想がガラガラと崩れたベルは黙って見るしか無かったのだ。
「なんだ、坊主態々来てなんの用だい?」
ドワーフと思えない巨体にそれ以上の威圧感に押されながらも「昨日の迷惑料を持ってきました」と答えるベル。
「律儀だねぇ。昨日だって食事代よりも余計に支払っていたのにまた払おうって真面目さに気に入ったよ」
「それから金は気にしなくて良い。神ロキがお前さんの戦い振りを見て感心したのとベートの方が非が有ると全て立て替えたから」
更にミアはそう言って昨日の支払った金も返そうとしたのだった。
「追加は有難くロキ様に甘えますが借りは作りたくないので昨日の分は受け取れません」
「意地っ張りだねぇ。……坊主」
「なんですか?」
しばらくベルの顔を見て告げた。
「冒険者なんてカッコ付けるだけ無駄さ。最初のうちは生きる事だけに必死になれば良い。背伸びしても碌な事にはならないからね、それでも師匠の為に、他人の為に意地を通すのは嫌いではないよ」
そしてニカッと笑い続けた「みじめだろうが、最後まで立っていた奴が一番なのさ」と。
師匠の最期の言葉「生き伸びて最後に勝てれば良い」を思い出し胸が熱くなったベル。
そう言って胸を叩き「邪魔だから帰るんだ」と追い出されたのだった。
寝込まずにそのままダンジョン挑戦して「豊穣の女主人」に向かったので埋められると言う警告が有りませんでした。
そして、6階層をメイン狩場にしているベル君です。