月の光を浴びて輝く銀色の髪は同性の私から見ても美しいと思った。
「ん?どうした?」
首をかしげて彼女が尋ねてくる。
「…別に」
気付かれたことが恥ずかしくて、短くそう返すことしかできなかった。
「…なぁ妹紅」
「?」
唐突に名前を呼ばれ、今度は私に疑問符が浮かぶ。
「月が…綺麗だな」
「!!」
そう言った彼女のアンニュイな笑顔に心臓が跳ねた。
「そ、そうだね、慧音が変身してないからだいたい待宵月ってとこかな」
動揺からか吃ってしまう。
「…あぁ、そうかもしれないな」
「月もいいけどそろそろ急がないと私がいるとはいえ危ないよ」
尤もらしい理由をつけて慧音の前を歩き始めた。
歩く速さは変わらないのに鼓動だけが速くなったままだった。
「なんでか分かるか輝夜ァ!!」
「なんでって、そりゃ普通に恋したからでしょ」
「はぁ!?あぅ」
ピチューン
「き、汚いぞ、輝夜!動揺を誘って被弾させるなんて!」
「いや、勝負の最中にそんな相談してきたあんたが悪い」
「うぐっ!でも、だって…」
「でももだってもないでしょ。あんたはあの半獣に恋してんのよ」
「そう…なのかな。あと半獣言うな」
「にしてもなんでまた今更惚れたのよ?」
「…笑顔」
「へぇ、また随分とありきたりね」
「いいだろ別に!月が綺麗だなって言った時の慧音の笑顔にやられちまったんだよ!」
輝夜がきょとんとした顔をする。
「ねぇ、その台詞を言ったのはあんた?それとも白澤?」
「慧音だけど?」
それがどうしたというんだろう。
「そうよね…ぷっ、あはは」
今度は突然笑い出す。
「…キモいぞ?」
「あんたねぇ…ふふっ、姫に向かってキモいとは何よ。でもまぁ、あんたの滑稽さに免じて許してあげるわ」
「どういう意味だよ?」
「教えてあげないわ、せいぜい悩みなさい」
「お、おい待て輝夜」
私の制止も聞かずそのまま輝夜は帰って行った。
「なんなんだよ」
「知りたいのなら教えてあげましょうか?」
「!!」
振り返るといつぞやの紫がいた。
「ごきげんよう」
「…何しに来た」
「随分な物言いね。親切心で教えてさしあげようかと思っただけですわ」
「余計なお世話…と言いたいところだが気になるのも事実だ」
「ふふっ」
「だが、教えてもらうのは気に入らない。だから、あんたを倒して聞き出すことにするよ」
「難易度はnormalでいいかしら?easyがいいと言うなら合わせてあげるけれど」
「何言ってんのさ。こんな月夜なんだ、お互いlunaticといこうじゃない」
「…では始めましょうか」
「結界『夢と現の呪』」「時効『月のいはかさの呪い』」
「なかなか楽しめましたわ」
「…ちくしょう」
「今なら勝利の余韻に浸って口を滑らしてしまいそうね」
「……なぁ」
「何かしら」
「あれには意味があったんだよな?」
「どうかしら?」
「…………」
「ところで」
「?」
「筍が食べたいですわね」
「…後で使いを寄越せ」
「あらあら、催促したつもりはなかったのですが、せっかくですからお言葉に甘えさせてもらいますわ」
「白々しい」
「くすっ、ではごきげんよう。ご自愛なさい」
そう言うとあいつは境界の中へ消えていった。
一人残った私は仰向けに倒れたまま月に向かって手を伸ばす。
「慧音…」
「はあぁぁぁ~……」
今日だけでももう何度目か分からない溜め息を吐きながら、私は机に突っ伏していた。
妹紅最後に会ってからしばらく経ってしまった。
仕事が忙しいんだとか自分に言い聞かせて会いに行こうとしていなかったからだ。
なんであんなこと言ってしまったんだろう。
妹紅に見つめられて舞い上がっていたのかもしれない。
まぁ、肝心の妹紅には伝わらなかったんだが。
伝わってない以上、私さえ気にしなければ、これまでと変わらずにやっていけるはずだ。
関係を壊さずに済む安堵と気持ちの伝わらないもどかしさがせめぎ合い、結果として私の中から溜め息漏れ出していた。
「…馬鹿妹紅」
「誰が馬鹿だって?」
「妹紅!?どうしてここに」
「返事なかったけど玄関開いてたから、念のために入らせてもらったよ」
「そ、そうか」
そんなことも忘れて、しかも人の侵入に気が付かないほど重症らしい。
「それよりさ慧音、ちょっと外歩かない?」
妹紅の誘いに乗って二人で里を歩く。
言葉は交わさない。
二人で歩いているだけだ。
それだけのことなのに先程までの憂鬱さはなくなっていた。
不意に、妹紅が足を止めた。
「どうした?」
「ねぇ慧音」
そう私の名前を呼んでから少しだけ沈黙が流れた後、妹紅が次の言葉を紡ぐ。
「月がさ、綺麗だなって」
「!!」
そうか、それが妹紅の答えか。
その答えに対する私の答えは決まっている。
「あぁ…そうだな――」
――綺麗な新月だ。
おまけ
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
「どちらに行かれていたのですか?」
「少し人形遊びをしてきただけよ」
「…そうですか。それでは汗もかかれたことでしょう。今すぐ沸かしますのでしばしお待ちください」
「ねぇ、藍」
「なんですか?」
「『月が綺麗ね』」
「な、なにをいきなり」
「言いたくなったのよ」
「…………」
「それじゃ、お風呂頼むわね。後、後日竹林に行って筍貰ってきて――」
「―――」
「なっ」
「了解しました。では」
「ちょっと待ちなさい」
「嫌です」
「主の命令よ」
「承服しかねます」
「ねぇ~もう一度言ってよ~」
…………
………
……
…
fin
P.S.
タイトルが決まらない…