超昂大戦SS さらばエスカレイヤー! 胸の鼓動は不協和音?! 〜レジェンド戦士よ、また逢う日まで〜 作:環 藍河
「今回の実験失敗…技術的な要因はナシ!」
司令室でさやかが解析レポートを解説する。
「つまり…エスカレイヤーもルビーも、DDD自体に故障や異常動作は無い、ってこと?」
「いぇーす。もっと言えば、伝達経路や入出力の接続バス、チャージの貯蔵部分まで、実験中も終了後もオールグリーンだったの。」
「…エスカレイヤーが、ルビーのエナジーを全部取り尽くした…?」
「それはノー。残量は十分だった。」
トキサダの仮説は、即座に否定される。
「…じゃあ、失敗の原因は…?」
資料から目を離し、ユーノが問う。
「おそらく…メンタル。何らかの精神的要因で、エナジー伝達が遮断されちゃった。」
「精神的…何らかのトラウマとか?」
「う〜ん…ルビーの心の内面だから、はっきり断言はできないけど、それだったら直後にルビーは錯乱や恐怖心、怯えの表情が出ると思う。」
いわゆるPTSD…心的外傷後ストレス障害のような、過去の傷の疼き。
「でも、今回はそれは見受けられないんだよね…。」
「それじゃあ、原因は…?」
「現段階ではわからない。潜在意識の領域は、変にいじると洗脳になっちゃうから、あまり深掘りしたくないなあ…。」
倒せない強敵が現れたわけでもなければ、この失敗でエンジェリック・エスカレイヤーを運用できなくなるわけでもない。成功を急ぐ実験ではないのが救いだが…。
「…でも、できるならアカリちゃんが、自分自身で答えを見つけてほしいな。いざ勝負のときに、何か心が遮られて力を出せなくなったら大変だし。」
…
……
「はあ…。」
アカリは自室のベッドで、天井を仰ぐ。
実験の最後に押し寄せた感情を整理しようとしながらも、出るのはため息と、ためらいばかり。
「…あんな気持ちに、なるなんて…。」
なぜ、エナジー供給を止めてしまったのか。
アカリの中では、答えはもう解っていた。
オルタナテオトルとの最終決戦で、ルビーはADDDを究極形態…インテグラル・フォームへと進化させ、勝利を掴み取る。
それは、アカリが持つすべての感情をエネルギー化してしまう、途方もない進化形。
「嬉しかったことも、悲しかったことも、嫌だったことも、全部、全部…!
私の全てを力に換えて…、貴方を倒します!」
…それゆえに、アカリは他の誰よりも、自分の感情を深く覗いてしまった。
みんなを笑顔にする、優しさ、温かさ。
美しいものに憧れ、人のぬくもりを尊び、弱いものを慈しむ心。
友や家族、出会う全ての人々を大切に思う、親愛の気持ち。
そして…そんな綺麗な部分と鏡合わせの、心の陰の闇。
救えなかった人も、今の力でさえ救えない人も、沢山いる…。そんな非力な自分への呵責と嫌悪。
エリーがトキサダを篭絡しようと迫ったときの、声を荒らげ、独占欲を露わにした自分…またいつか、何をきっかけに湧き上がるかわからない、自分の中に息吹く、怒りや嘆きや嫉妬の芽。
そして、好きな人に寄りかかりたい、甘え。
今やエスカ・ルビーは、ダイビート最強の戦士、人類の救世主とみんなから呼ばれる至高の存在。
それはアカリ自身が望み、求め、叶えた夢なのに…。
今は、思ってしまう。
その誇りを…重荷を降ろし、一人の平凡な、弱い自分に戻れたら。
長官に、抱きしめられたい。もっともっと、長官が応援してくれる手応えと、温もりが欲しい。
初めて会った日のように、エスカレイヤーに護られたい。あの瞬間、高鳴った胸の鼓動に、何度でも身体を預けたい。
…そんな、強さゆえに失ったものへの渇望。
食欲、怠惰、性、名誉…煩悩とも言うべき欲望も引っくるめて、アカリは自分の心の弱くてカッコ悪くて情けない部分も、澄んだ部分以上に覗かざるを得なかった。
…
……
最終決戦の場では気にする余裕も無かったが、全てが終わり、自分を振り返るゆとりができたとき。
(わ…私の中に…、こんな感情が…?
…や…やだっ…、違う…!
こ、こんなに私、ワガママで…イジワルで…甘えん坊なの…?
…あっ、あああ〜〜〜!!!)
アカリは羞恥の念に囚われ、身悶えた。
「は…恥ずかしい…よお…!」
実験でエスカレイヤーにエナジーを分けたとき、呼び覚まされたのは、あのとき垣間見えた自分の内面だった。
もちろん、ADDDで変換済みのエナジーには、元となる感情は残っていないし、それが供給相手に伝わることもない。仮にそうなら既に、マッハやハジメ、ななかの心が沙由香に流れ込んでいるはずだが、そんなことは無い。
だが、アカリの中で気持ちの整理が…自分の負の感情への向き合い方ができていないまま、その成果であるエナジーを与えてしまうこと。
とりわけ、自分が超昂戦士を目指すきっかけとなった憧れの戦士、理想の先輩にエナジーを与えることに、アカリは潜在意識レベルで恐怖を感じ、拒絶反応を示してしまった。
「…どうしよう…」
怖い。
自分の嫌なところ、知られたくない心。
もしもそこに、自分でも未だ知らない、野獣のような欲望や闇が潜んでいたら。
それを最初に知られるのが、沙由香だったら…!
こんな情けない気持ちが障壁になって、沙由香の力になれないことの方が、もっと恥ずべきこと。…頭では、それはわかっている。
それでも…その第一歩を踏み出せない。
この夜、羞恥心と向き合えないまま、アカリは眠りに落ちた。
…
……
そして翌朝。
わだかまりを残し、さらに寝不足のままアカリが知らされた、沙由香の帰郷。
「…私…心を開かなかった…。
あんなに憧れて…、あなたみたいになりたいって、何度も言った人に…!」
無意識とはいえ、憧れの人に心を隠し、かけがえない人を拒んでしまった自分。
(だから…だから沙由香さん、悲しんで帰っちゃったのかな…)
心を許した後輩から、最後の最後で受けた拒絶。
そのショックが、いかに辛いものか…。
その言行不一致と裏切りを悔やみ、戻らない時を嘆くアカリ。
「う…っ…、…~~~っっ!!!」
贖罪は、もう沙由香に届かない。
その偽善に、自分の心の弱さに。
アカリはうなだれ、嗚咽する。
(沙由香さん…ごめんなさい…、ごめんなさい…!!)
時すでに遅く、アカリはもう届かない謝罪を心で繰り返すしかなかった。