超昂大戦SS さらばエスカレイヤー! 胸の鼓動は不協和音?! 〜レジェンド戦士よ、また逢う日まで〜 作:環 藍河
「ここは…!」
沙由香がアカリを連れて来たのは、郊外の山の中腹、街を一望できる高台。
「本当に、こっちの世界の閂市って、私の世界とそっくりなんだよね。」
途中で買い込んだシュークリームの箱を開けながら、沙由香がつぶやく。
「はい。アカリちゃんが正直に自分の気持ちを打ち明けてくれた、ご褒美だよ。」
「えっ…、あっ…。」
一つをアカリに渡し、一つを食べ始める沙由香。
「今日はもともと、ここから街を目に焼き付けようって決めていたんだ。一年前は…来たばかりの時、ホントは好きになれなかった、この街を…ね。」
「えっ…?」
自分が生まれ、そしてダイラストの侵略から護り抜いた、閂市。
それと鏡写しのような街並みを持つ、平行世界のこの街。
トキサダとユーノの呼び掛けに応え、やってきたばかりの頃。沙由香はこの街に複雑な思いを抱いていた。
景色は同じでも、誰も自分を知らなくて。
侵略の魔の手を知る由もない人々が、平和に…しかし呑気に生活している。
それは、自分の決死の戦いがリセットされ…否定されたような感情を沙由香に与えた。
自分の故郷が全て油絵の具で上塗られ、自分はそのキャンバスで助っ人として…他所者として戦うんだと感じて…。
その寂しさが今も沙由香の胸に去来する。
「本当に私は、こっちの閂市でも戦い続けられるのかなあ…心を強く持ち続けられるのかなあ…、って、実はちょっぴり不安だったんだ。」
「そう…だったんですか…。」
ゲストルームの簡易キッチンで淹れ、魔法瓶に詰めてきた紅茶をすすり、一息ついた沙由香の独白。
「だから…アカリちゃんが来てくれて…貴女が私みたいになりたいって、ダイビートに来てくれたとき、この街が…この世界が、初めて私を受け入れてくれたように思えたの。」
「あっ…!」
前の世界で共闘した戦士…マドカ、ななか、ミストレーヌは全て身内。
血縁どころか何のゆかりも無く、戦士の経験もゼロの全くの他人が、エスカレイヤーに憧れ、同じ戦士になりたいと決意し、寄り添ってくれた…。
それは、元の世界でも無かった、初めての経験。
そして、初めて自分に後輩ができた瞬間だった。
「あれから1年かあ…。ルビーもダイビートもこんなに成長するなんて、想像もつかなかった。」
決して順調ではなかった。
新人の見習い超昂戦士たちは、何度もピンチに陥り、壊滅の瀬戸際へ追い込まれた。
船出間もない正体不明の組織は、国防軍や久世、神騎や魔女、そして何より市民の懐疑の目に耐えながら作戦を展開してきた。
その苦境と冷遇の中、沙由香は奮闘した。
あの子たちの精神的支柱になりたい。
私がみんなの勇気になりたい。
その決意に、想いに、行動に。
アカリも、ヒビキも、うららやエリーも。
エスカチームと戦士たちは何度も心打たれ、傷ついても倒れても、自らを鼓舞し、戦地に立ち続けた。
そしてエスカレイヤーも戦い続けた。
想いに応えてくれる後輩たちを誇りとして。
「…恥ずかしいけど、勢いで言っちゃう。
アカリちゃん…ありがとう。
私に…エスカレイヤーに、この世界で戦う勇気を与えてくれて。私の決意の、背中を押してくれて。」
「沙由香さん…?!」
「あなたがいたから、戦えた。
そしてきっと、これからも戦える。」
それは沙由香の新たな決意と、この世界に必ずまた戻る約束。
「だって、私も知りたいんだもの。
アカリちゃんが目指す、みんなの護り方。
力で護れない、助けられない人たちまで護っちゃう、今よりもっと凄いアカリちゃんの未来を。」
オルタナスタインの本拠地へ乗り込む直前、沙由香がアカリに尋ねた、アカリが目指す強さ。
その答えは…まだアカリも見つけていないもの。
これからも探し続けるもの。
そして、今のアカリと沙由香を繋ぐ、新たな絆。
「沙由香…さん…。」
憧れ、追いかけ続けた人。
空の彼方、雲の向こうの輝き。
いつか届くその日を夢見て、いつも、いつも、小さな翼を拡げ続けた。
そんなヒーローからの最大級の賛辞を受け、アカリの鼓動は最高潮に達し…瞳を、頬を、熱く伝う。
「私もです…。沙由香さんに会えて…本当に良かった…!」
「もう…シュークリームが塩味になっちゃうよ。」
青空に茜色が差すまで、二人は未来を語った。