──今日はインタビューに応じていただき、ありがとうございます
「こちらこそ。初めてなんで変なこと口走るかもしれないッスけど、その辺は上手いことお願いしますね」
──大丈夫です。掲載前には必ずゲラを確認してもらうので、その際仰ってくだされば
「あはは、プロの仕事に文句つけたりしませんよ。信頼してます」
──期待を裏切らないよう頑張ります。さて、いま話題のギタリストである
「はい、おなしゃーす」
──奏汰さんは今時のアーティストにしては珍しくSNSをやっていないということで、ファンの間でも様々な憶測が飛び交っていますね
「あー、そうッスね。SNSは一々投稿するのがだるくてやってません。筆無精なんで、メッセとかも三日経ってから返信したりします。あとやっぱほら、実態が掴めないとミステリアスじゃないですか(笑)」
──なるほど。では何故今回はオファーに応えていただけたのですか?
「まあ……興味? オレを記者さんがどう切り取って、それがみんなにどう映るのかが気になって」
──責任重大ですね。誤解のないようありのままを伝えます
「あざす」
──さて、本題に移ります。奏汰さんの魅力は様々なジャンルに通ずる曲調の広さにあると言われていますが、どのように培われてきたのでしょうか?
「あー……長くなりますけど、いいッスか?」
──大丈夫です。いい具合に切り抜きますので
「助かります」
*
オレはそもそも田舎育ちなんスよ。自転車で山一つ越えて、三十分も漕げばそこそこの都市に出るんで、そこまで悲観するほどじゃないんスけど。
ウチの親父が趣味でレコードを集めてて、それが見事なまでにロックばっかだったんで、自然とハマりましたね。お袋によるとあのクソ親父、子守唄にプログレ流してたらしいんスよ。いくらなんでも英才教育過ぎんだろ。
そんな環境ですくすく育って、遊び場なんてない幼少期におもちゃ代わりにギターを渡されたらハマっちゃって。
もう延々と弾いてましたね。純粋だったんで適当にコード繋げて曲作って遊んでました。いや、ガキの戯れなんでマジで聴けたもんじゃないッスよ。最悪なことに、ビデオ残ってますけど。
で、転機は高校の時ッスね。その頃になるともう、地元ではイチバン上手かったんで、調子乗ってバンド組んで、将来はこのままギタリストだなって浮かれてて。
その日もバンド練の帰りでした。いつもはメンバーでつるんでマクドでも寄ってから帰るんスけど、なんかたまたまみんな用事があって、一人で帰ることになって。運動部の前を一人で横切るのも気まずいんで、裏門から出ようと思って校舎を大回りしたんスよ。そしたら、遠くなってく運動部の掛け声と反比例するみたいに、どこかから歌声が聞こえてきて。
それでなんとなく、声の方に近づいたの。校舎裏、ネットのフェンスに寄っかかって、そこでアイツは歌ってた。
「♪~」
上手いっていうか、純粋に綺麗だったんス。声も景色も。
西日に照らされて靡く稲穂と、茶気味の長髪。どこか切ないメロディなのに、楽しげな表情。すっげー陳腐なこというと、なんか一枚の絵画みたいで。で、曲が終わるまで見惚れちゃって、目が合っちゃって。
「…………もしかして、聴いてた?」
「あー、まあ……たぶん、Cメロくらいから」
「忘れて! っていうか誰にも言わないで!!」
アイツの顔は赤くなってた。そこでようやく、同じクラスだったなーとか、こんなに感情出してるとこ初めてみたなーなんて思って。
「恥ずかしがることねーのに。上手かったぜ」
「そういう問題じゃないの! ……でもまあ、ありがと」
アイツ──
んで、そっから交流が始まって。目立つのが嫌だから教室では絡まず、夕暮れ時の校舎裏を待ち合わせ場所にして、だらだら喋ったり、歌ったり、弾いたり。
惑歌はいつも、傍らにバイオリンケースを抱えてました。なんでも両親ともにプロで、幼少期から習ってるらしくて。
「いいなあ。ウチなんて、ただロックに被れてただけのオヤジだぜ? 英才教育じゃん」
なんて言ったのは、心の何処かに舗装された道を歩くことへの羨ましさがあったからだったと思う。オレだってコネの一つや二つあれば、今頃デビューしてんのにな、みたいな。でも、惑歌は顔を顰めるばかりで。
「むしろ私は、あんたが羨ましいけどね」
当然なんスけど、そんな家庭だから周りからの重圧とかなかなかだったらしくて。ここに来たのも元々は、あまり目立たずに練習ができるからだったとか。
「もううんざりなの、親の圧感じながら楽器触るのは。音楽は好きなのに、全部嫌になりそうで」
「ふーん……」
背負っていたケースを下ろして、テレキャスを手渡す。
「ならさ、これ触ってみろよ。教えてやっから」
ほら、勉強の休憩はゲームじゃなくて、別の教科の勉強──って言うじゃないスか。音楽でもそれはあるな、と思って。実際アイツが歌ってたのも、たぶんその一環だし。
「そう、それが
教えたコードを適当に繋げたり、細かく弦を弾いて音階を確かめたり。そんなことをしてるうちにすっかり暗くなってきてて。
「……ギターって面白いね」
「だろ? 次はなんか、歌いながら弾ける曲教えてやるよ」
「なら私も、バイオリン教えるよ」
「それはムズそうだからヤだな」
まあ、オレの提案の甲斐あってか、無事惑歌の機嫌は直ったみたいで。で、そっから流れで色んなジャンルの音楽に触れるようになったんスよ。アイツが案外凝り性だから、一日間が空くとめちゃくちゃ知識つけて戻ってきて。オレも負けず嫌いなんで対抗して、どんどん増えてったんスよ。
ポップス、トランス、EDM、ヒップホップ──マジで何でも調べて、二人で聞いたり
でも、そんな日々も長くは続かなくて。
「惑歌は卒業後はさ、やっぱ音大いくん?」
「うん、ちょっと迷ってるけどね」
高二の冬頃ともなれば周りがそういう話で浮足立つから、その日は何となくそんな話を。ただ、それは完全に失敗で。
「奏汰はどうするの?」
「そりゃコレで食ってくよ。そのためにとりあえず、東京に出る」
「やめたほうがいいよ?」
そう淡々と言われて。
「いいじゃん、東京なんていかなくても。今時配信でも音楽活動はできるし、わざわざそんなリスク負う意味ないって」
「素人の配信環境なんてたかが知れてるんだから、オレの実力を十全には見せられないだろ。それに、やると決めたんだから手は抜けねえよ」
周りの大人みたいなわかったような口を、よりにもよってコイツに言われたのが癪で──つい言い返しちゃったんスよ。
「お前こそ、日和ってんじゃねえよ。歌いたいのか弾きたいのかハッキリしろや!」
「……そんなの、できるならとっくに──!」
……まあ、くだらない喧嘩ッスよね。気づいたら家帰ってて、ふて寝して。教室で喋んないのはいつも通りなんで別に気まずくはなかったですけど、流石に校舎裏には行きづらくて。落ち着いた頃にまた通い出したんスけど、予定が合わないのか会えない日が続いて。そのうち学年も上がって、クラスも変わって──オレもバイトとかが忙しくなってきたんで、いつの間にかあの場所にはいかなくなって。で、気づけば卒業式。
「よう」
「お、卒業おめでとう」
「そっちもな」
いつもの校舎裏。喧嘩したのとか一年会わなかったのとか、何もなかったみたいに言葉を交わして、自然と楽器に手を触れた。
「じゃあ、やろっか」
「そうだな。好きなの歌っていいぞ、伴奏はやるから」
「じゃあ──あの曲で」
惑歌が選んだのは、初めて会ったときに歌ってた曲だった。変わらねえなと苦笑して、前奏のリフを弾く。
「♪~」
アイツの歌は一段と上手くなってた。ずっと練習してたのが伝わってくる。けどオレだって遊んでたわけじゃない、そんな思いで弦を掻き鳴らす。
ラスサビ前のギターソロを派手にアレンジする。別に技術を披露したいわけじゃない。ただ、Cメロでアイツの声が少し、震えたのがわかったから。
「っ、♪~……!」
折角オレが場を繋いでやったのに、アイツは明らかに泣いているような、掠れた声で歌う。泣き顔を拝んでやりたかったのに、夕焼けが眩しすぎて、難しくて。
「「ららら」」
あまりに情けなかったから、最後のスキャットは二人で歌った。ひどい顔で、目を見合わせて笑ったのを覚えてる。
「私ね、音大行ってバイオリン学ぶことにした」
「本当にそれでいいのか?」
「ううん。歌もやりたい。だから専門も通おうと思ってる」
「いいじゃん、やりたいもの全部やれよ」
「うん。当面はバイトしてお金貯めながら、大学行く」
「しばらくお別れだな」
まあオレの姿はすぐに、テレビとかネットとかで見せてやるよ──なんて大口叩いたら、頭叩かれましたね。
「私もいずれ追いつくからね」
「ああ、待ってるよ」
*
──素敵なお話をありがとうございました。
「いえいえ。まあ、今更言うまでもなかったッスね」
──そうなんだけどほら、ちゃんと奏汰くんの言葉で聞かないとインタビューにならないから。インタビュー中ずっと恥ずかしくてしんどかったけど
「そりゃオレもだよ! で、最近は何やってんの?」
──無事お金も貯まってきたし、そろそろ仕事やめて専門いこっかなって感じ
「あー、そうなのか。ライターも向いてそうだけどな」
──これはこれで好きなんだけどね。やっぱり歌の道でも、やれるだけ挑戦したい
「ふ、いーじゃん。女性ボーカルやりたくなったらいつでも言えよ?」
──それはこっちのセリフだよ
「まあとりあえず──再会を祝して、カラオケでも行くか」
──そこはスタジオでしょ