「クソッ!あんなチョンマゲゴリラに宝具を使っちまうとは」
「あれで真名も敵側にバレただろうな。とはいえバレたもんは仕方ない、切り替えるぞセイバー」
東堂の襲撃から数時間後、獅子劫とモードレッドは拠点の墓場へと帰還した。そこでモードレッドは苦虫を噛み潰したような表情で東堂の顔を思い出し怒りがぶり返す。
サーヴァントでない男にしてやられて殴られた挙句にマスターを殺しそうになった。しかも女扱いまでされた。彼女にとってこれほどの屈辱はないだろう。戦闘中は比較的冷静であったが戦闘後はそうはいられない。
「それはそうだ。だが時にだ、マスター。やけにあのチョンマゲを詳しく知っているな」
「ああ、京都…日本で行われた聖杯戦争で共に戦ったことがあってな。そこで東堂のことを知った」
「他には何か知ってるか?入れ替えと強化の呪術以外に」
「後はそうだな、結界術を使っていたな。簡易領域とかいう名だったか。半径2mくらいの小さな結界だ。固有結界の効果を無効化していた」
「固有結界だと!?」
モードレッドが目を丸くして驚く。彼女の反応は当然だ。
有無を言わさない必中の入れ替え、サーヴァントと打ち合えるまで身体能力を引き上げる強化の呪術という1つ1つが封印指定級の代物を持つ男が、固有結界という魔術の最奥を無効化までするのだ。現代人としては余りに規格外すぎる。
「本人曰く無効化するのは必中効果だけらしいがな。あの時は名無しの森*1を無効化していたな」
「…まあいいか、俺は固有結界は使わん。要は勝ちゃいいんだよ」
「ほう、東堂に勝てるのか?」
「当たり前だ。サーヴァント並みの強さと厄介な入れ替え能力には驚かされた。だがもう慣れた。次は問題なく倒せる」
彼女の発言に嘘はない。
純粋なステータスでは彼女の方が格上である。
もっともそれは東堂1人の場合の話、この世界の彼にもブラザーがいる。
「問題があるとすれば黒のアサシンだ。スキルか宝具かは知らないが特徴が思い出せん。」
「アサシンか」
「赤も黒も気に入らねぇな。どうせ俺らの戦いを見ていたんだろあの
「だろうな、間違いなくアイツらにも真名がバレたな」
モードレッドは赤のアサシンと会った時のことを思い出す。彼女は赤のアサシンのことを
というか既に現在進行形でマスターと共に赤陣営を裏切り乗っ取っている。だがそんなことは知りようがないので赤のアサシンへの不快感だけが残っている状態だ。
「今は味方だがいつ裏切るかわかったもんじゃねぇ、警戒はしとくに越したことはないな。聖杯を手にするのは黒でも赤でもねぇ、俺らだからな」
モードレッドは赤のアサシンがいる方向を忌々し気に向いた。
◆
「あやつがアサシンのマスターか。噂通りの珍獣よの」
「そうですね。ですが実力は本物です」
件の人物である赤のアサシン、セミラミスはモードレッドと戦った東堂を奇異の目で見る。
彼女は拠点でマスターの天草四郎と共にモードレッドと交戦した珍獣東堂について話し合っている。
「情報によると去年、呪術の聖地、京都にて起こった聖杯戦争に乱入しシャドウサーヴァント5騎とサーヴァント1騎を1人で祓ったという話です」
「サーヴァント無しで聖杯戦争に乱入か、汝といい変わり者が多いのだな日本人というのは」
「否定はしません」
セミラミスは半分本心で半分からかいを込めて天草に嫌味を言う。
天草四郎はそれを聞いて自嘲するように笑った。彼は全人類の救済という途方もない願いを本気で叶えようとしている。もはや東堂を超える異常性だろう。
「しかし入れ替えか、厄介にも程がある」
「集団戦でやられれば辛いでしょうね。ですが生身の人間です。傷の治療も簡単ではないでしょう。長期戦には強くない」
「汝と同じようにな」
天草四郎は第三次聖杯戦争にルーラーとして召喚されたサーヴァントである。そして受肉を果たして生身の人間となりマスターとして聖杯大戦に参加している。
「そうですね。私も気をつけなければ。まだ生身の人間なのですから」
「ふん、可愛げのないやつめ」
「さてと、現実的な対策としては射程外からの遠距離攻撃と見晴らしのいい場所での戦闘を心掛けることですかね。距離を取れば入れ替えは発動しないようですし。後は柏手以外の入れ替えの発動条件さえ分かればいいのですが。それは今は保留しましょうか。それとアサシン、宝具の準備は大丈夫ですか?」
「問題はない、数日で全ての工程が完了する」
「それはなによりです」
それを聞くと、彼はユグドミレニア城塞がある方角を向く。
決戦の始まりは近い。
◆
天草四郎が向いた先にあるユグドミレニア城塞、そこの一室からはパンッパンッという軽快なリズムが城塞内に響く。
そこは東堂がいる部屋だ。だが
彼はハンバーグの空気抜きをしていた。つまり肉を捏ねているのだ。しかも人肌で肉の温度が上がって肉が変質しないように清潔な手袋を使っている。無駄に凝っていて衛生的だ。
「もうそろそろできる?おかあさん?」
「あとは焼くだけだブラザー。ブラザーが手伝ってくれたおかげだ」
「最初は大変だったけど野菜を人だと思ったら上手く切れたよ!」
「おかげでハンバーグに入れる野菜が少し多くなったがな。まあダーニックの爺さんも年だから脂っこいハンバーグよりはあっさりとしてたほうが胃に負担がかからずいいだろう」
ナチュラルにダーニックのことを高齢者扱いしつつ熟練の手さばきで東堂はハンバーグを焼く。東堂は黒陣営のマスターとサーヴァントの為にハンバーグのルーマニアワイン煮込みを作っている。ユグドミレニアが本拠を置く
しかしライネスの絆礼装からも分かるように魔術師は常に毒殺の危険と隣り合わせ。八枚舌と称され毒殺も散々やってきたであろうダーニックは当たり前のようにハンバーグを食べないだろう。もちろんフィオレ、カウレス、ゴルド、セレニケ、ロシェもそうだ。
だがそんなことは露知らず東堂はハンバーグを捏ねる。
そしてそれを眺めるジャック、彼女達は不安そうに東堂へと語り掛けようとしていた。
「おかあさん、」
「なんだブラザー?」
「おかあさんは聖杯に何を望むの?」
「聖杯か、興味はないな。俺は退屈が嫌いだ。英霊と戦えると魂が躍り上がり退屈が消える。聖杯戦争に参加した理由はそれだ。強いて言うなら高田ちゃんの握手券が欲しいぐらいか」
「おかあさんはそうなんだ。じゃあ、わたしたちが聖杯へ望む願いは知ってる?」
「知らないな。なんだ?」
「わたしたちはおかあさんの中に、母胎に帰りたい。…それだけ」
「…!?それは一体どういう?いやなるほど、不可能を可能にするのが聖杯か」
東堂葵は男である。精神的にも肉体的にも。
男が子供を産むことは不可能だ。呪術全盛の時代に生きた
ジャックは堕胎された水子の霊、最初から破綻した存在なので破綻した願いしか生み出せない。だが聖杯にはそれをひっくり返せる力がある。
「おかあさんはこの願いを否定しない?」
「否定しないさ、ブラザーだからな」
「ありがとう!おかあさん」
彼女達の顔が綻んだ。
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