問おう、どんな女が好みだ   作:でかすぎ史郎

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7話

大聖杯の奪取。

それはユグドミレニア側にとって絶対に避けたい状況だ。

聖杯大戦とは聖杯の奪い合い。聖杯が奪われてしまえばいくらサーヴァントを倒そうが願いを叶えることができなくなってしまう。これでは大望たるユグドミレニアの復興も水の泡となってしまうのだ。

 

「ここが敵の本拠か」

 

東堂がそうつぶやく。

現在、奪われた大聖杯を奪還すべくダーニック・東堂・ジャック・ヴラド・ケイローン・アヴィケブロンの6人と雑兵のホムンクルス複数名で大聖杯の在り処、『虚栄(ハンギング・)の空中(ガーデンズ・)庭園(オブ・バビロン)』に乗り込んでいる。

黒のバーサーカー、フランは既に消滅した。アストルフォも戦闘不能状態だ。

 

「殺し合おうじゃないか……なぁっ!!」

 

「お前が望むなら、それに応えるべきだろう」

 

彼らを迎え撃つは赤のライダー、アキレウスと赤のランサー、カルナのトップサーヴァント達だ。

 

「黒のアーチャーは赤のライダーを抑えろ。アヴィケブロンは雑兵を散らしつつ此方の援護。他は赤のランサーと戦うぞ」

 

「待て、Mr.ランサー」

 

「なんだ?」

 

「問答をしたい。おい。赤のランサー。問おう、どんな女が好みだ?ちなみに俺はタッパとケツがデカい女がタイプだ」

 

「バカ者!そんなことをやってる場合か!」

 

ダーニックが東堂を叱責した。

 

「どうやらお前の主君は望んでないようだな」

 

「そうか。それは残念だな」

 

こうして戦いが始まった。

だが戦いは黒側が押される結果となった。

アキレウスとケイローンは互角に渡り合ったが問題はカルナの方だ。

 

「本調子ではないようだな。黒のランサー」

 

「ぐぅ、おのれぇ!」

 

庭園につく前ならアキレウスがケイローンが抑えてカルナをヴラドが抑えることができただろう。だが今は違う。

聖杯大戦の開催地、ルーマニア。ここは黒のランサーの地元、ヴラドの領域だ。だからこそ彼がルーマニアの大地にいる限り知名度補正やスキル:護国の鬼将によるトップサーヴァントとも互角に渡り合える圧倒的な強化が受けられる。しかしこれは裏を返せばルーマニアで無かったら力を発揮できないということだ。

この空中庭園はルーマニアの大地ではない。ルーマニアではないということは彼の領域ではなく強化が得られないのだ。

 

ヴラドは碌に強化されてないので押されるばかりだ。東堂やジャックもいるが格が違い過ぎる。不義遊戯で入れ替えて翻弄してヴラドが倒されないようにしているが決定打にはならない。ジャックも女性特化のサーヴァントなので相性が悪い。

 

東堂が本来いた世界でランク付けするなら赤のランサー、カルナは文句なしの特級だろう。一級術師ですら敵わない強豪の中の強豪だ。対()宝具を持つ彼ならば国を相手取れる特級術師とも互角に渡り合える。

 

「まずいなMr.ランサー、Mr.ダーニック。」

 

「…領王(ロード)領王(ロード)よ。状況の不利は明らか。今こそ第二宝具、『鮮血の(レジェンド・オブ)伝承(・ドラキュリア)』を使うべきです」

 

ヴラドには吸血鬼の風評被害がある。そしてそれは本人的には耐えがたいことなのだ。聖杯戦争の目的とするほどに。ゆえに自らを吸血鬼へと転身させる第二宝具のことを嫌っているのだ。

 

「痴れ者が!それを使用は許さんと言ったのを忘れたか!」

 

ヴラドは激昂する。無理もない。吸血鬼の風評被害を解消するために吸血鬼になっては本末転倒だ。

ここにきてダーニックとヴラド、同じ夢を持つ(風評被害解消)彼らは決裂したのだ。

 

「忘れているのは貴方です!我々は夢の為に聖杯を手に入れなければなりません。汚名を晴らすという夢を!令呪を以て命ず、第二宝具、『鮮血の(レジェンド・オブ)伝承(・ドラキュリア)を発動せよ」

 

「き、貴様、や、やめろ」

 

「令呪を以って命ずる聖杯をこの手にするまで存続せよ。令呪を以って命ずる我が存在を魂に刻み付けろ」

 

「やめろ!やめろ!やめてくれ!余はワラキアの王!!ヴラド二世が息子!!余の中に入ってくるな!」

 

ヴラドの悲痛な叫びをダーニックは無視する。だがそんな叫びと裏腹にヴラドはダーニックを喰らう。3つ目の令呪の命令の効力だ。魂喰いなどというチャチなものではない物理的に刻み付ける為に取り込んでいるのだ。ダーニックは喰われながら笑った。

当然、只の魔術師ならこんなことしても取り込まれるだけだ。しかしダーニックは魂に関する魔術師の第一人者、冠位の大魔術師。不可能をを可能にできる腕前(禁呪)がある。

 

「ふははははは!」

 

「ミ、Mr.ダーニック?」

 

こうしてダーニックは令呪で強要するに飽き足らず禁呪をもってしてヴラドと合体してしまった。

そこにあるのはダーニックでもヴラドでもない無銘の怪物だけであった。

 

「■■■■■■■■■―――!」

 

無銘の怪物は苦しそうに悶える。そしてそれを見逃すほどカルナは甘くない。彼の日輪の槍が無銘の怪物の胸に刺さった。

 

「効かぬわぁ!」

 

「心臓、いや霊核を破壊しても死なぬとは、サーヴァントではないな」

 

「私は!聖杯を手に入れる…聖杯を手に入れて後に続くものを増やさねば。退くが良い」

 

無銘の怪物は叫ぶように語り掛ける。もはや領王であったブラドの面影はない。吸血鬼としての血族を増やす本能と一族の繁栄という妄執がかけ合わさったただの魔である。

 

「ガアアアア!!!」

 

そう言って傍らにいたホムンクルスの首筋を噛む。噛まれたホムンクルスは吸血鬼と化した。

 

「ふははは、いいぞ。実にいい力だ。聖杯を手にしたあかつきにはこの力をもってして全人類を吸血鬼にしてやるわぁ!」

 

無銘の怪物はもはやヴラドの願望どころかダーニックの願望ですらない願いを口にした。

完全に魔性、人類の敵へと堕ちた証である。

 

「そうはさせません。黒のランサー」

 

「む?貴様はルーラーか」

 

ルーラーが現れた。彼女も空中庭園での戦いを裁定するべく乗り込んでいたのだ。

 

「貴方の願いがただの我欲によるものなら干渉はしなかったでしょう。ですが貴方の願いは世界の崩壊を招きます。これはルーラーとして見過ごせません」

 

「むう。ならばユグドミレニアのサーヴァント達よルーラーを打倒すが良い!」

 

だが誰もが動かなかった。彼ら黒のサーヴァント達はユグドミレニア側だがそれ以前に英雄なのだ。英雄の矜持として怪物には組しない。ただ例外もいた。

 

(おかあさん。ヴラドとダーニックのおじさんが命令してるよ。一緒に戦わないの?)

 

(いや、あれはもはや我らの主ではあるまいさブラザ―、俺も吸血鬼になる趣味はない。それにな)

 

「そうはさせません。この場にいる全サーヴァントに令呪を以って命じます。元黒のランサーのサーヴァントを打倒せよ!」

 

ルーラー、ジャンヌダルクが令呪を露わにした。

神明裁決、彼女は命令を執行するために令呪を持っている。それをこの場にいる5騎に無銘の怪物を倒すように強制させた。

 

「黒側のサーヴァントが1人減るとは幸運だな」

 

「黒のランサー、ここまで来たら仕方ありません。英雄としての務めを果たしましょう」

 

「パンッ」という音が辺りに響く。東堂の近くにいたホムンクルスと無銘の怪物が入れ替わる。無名の怪物は突然の入れ替えに反応できずそのまま東堂に殴られて吹き飛ばされる。

 

「ぬぅ、想定はしてたが思ったより混乱するな。それに貴様の術式があると想定して戦うとやりにくくて仕方ない。まずは手始めにお前だぁ」

 

そう言って東堂へと襲い掛かるしかしゴーレムと入れ替わり攻撃は避けられた。

その後も令呪で強化されたサーヴァントの猛攻は続く。ケイローンが矢を放ち、カルナが槍で突き、アキレウスが蹴飛ばし、ジャックが切り刻み、アヴィケブロンのゴーレムが磨り潰し、東堂が術式で翻弄する。

だがこれほどの猛攻を受けようとも無銘の怪物の体は再生する。

そこでジャンヌが令呪を発動した。

 

「令呪を以って命ずる。黒のランサー、自害せよ」

 

「ぬぅぅぅ、効かぬわぁ!」

 

令呪の効果で少しは止まったが抵抗された。半分が人間であるせいか、サーヴァントであることをやめたせいかは分からない。だが隙が出来たのは事実だ。英雄たちがまたもや猛攻を加える。

 

「もはやサーヴァントの範疇を超えてますね」

 

ジャンヌがそう言って自分の聖旗で無銘の怪物を殴る。ジャンヌの馬鹿力による物理的なダメージはもちろん、吸血鬼の弱点である聖なる武器なので相性が悪い。無名の怪物は悶え声を与えた。

だが彼には妄執はそれすらも耐えた。

 

「全く大した生命力だ」

 

東堂は呆れた声で吐き捨てる。

 

「ですが、彼は吸血鬼。弱点があります」

 

ここにいる英雄や東堂とは違う声が庭園内に響いた。

天草四郎が現れた。

それに驚いたのは無銘の怪物だ。

 

「ぬぅ!貴様はぁ!なぜ生きている!天草四郎?」

 

彼にはダーニックの記憶が混在している。ゆえに第三次聖杯戦争にいた天草の存在を覚えているのだ。

 

「貴様は第三次聖杯戦争でマスターを失い消滅したはずだぁ!」

 

「受肉を果たしたのですよ」

 

あまりの事態に英雄たちの手が止まる。

東堂は疑問を投げかけた。

 

「おい貴様。一体どういうことだ。第三次聖杯戦争、なんのことだ?」

 

「それは後で答えましょう。まずは」

 

そう言って天草は黒鍵を無銘の怪物に刺した。そして洗礼詠唱を唱え始めた。

 

「私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。

我が手を逃れうる者は一人もいない。

我が目の届かぬは一人もいない。」

 

洗礼詠唱が庭園内に響き渡る。

 

「打ち砕かれよ。

敗れた者、老いた者を私が招く。

私に委ね、私に学び、私に従え。」

 

無銘の怪物は苦しみだす。手足が溶け始め悲鳴をあげる。彼のような吸血鬼にとって聖旗や洗礼詠唱は天敵中の天敵なのだ。

 

「休息を。

唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる。」

 

無銘の怪物は反撃できない。なぜなら先の英雄の猛攻で少なからずダメージを受けているからだ。もはや物理的にも霊的になすすべがない。

 

「装うなかれ。

許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生ある者には暗い死を。」

 

体は崩れかかりもはや慟哭としかいえない叫び声しか上げられない。

 

「休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。

永遠の命は、死の中でこそ与えられる。

許しは此処に。受肉した私が誓う『この魂に憐れみを《キリエ・エレイソン》』」

 

こうしてヴラドでもないダーニックでもない無銘の怪物は消滅した。

半分が生身の体である彼は伝承通り灰となって消えてしまった。

 

ヴラド3世、自らの風評被害を覆そうとしたが風評通りになってしまった。

ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア。彼も「ユグドミレニアの血は濁っている。五代先まで保つことがなく、後は零落するだけだ」という風評通り彼をもってしてプレストーンは魔術刻印を失い零落することになった。

 

彼らはその無念を思いながら消滅していった。

 

「さてと。どういうわけだ。Mr.ダーニック?の言うことを信じれば貴様は第三次聖杯戦争の生き残りだそうだが」

 

東堂が天草に問おうとするが彼が答えるよりも先にジャンヌが答えた。

 

「間違いありません。彼はルーラー、それも第三次聖杯戦争で召喚され受肉を果たしたサーヴァントです」

 

ルーラーたちを除いた全員が衝撃を受ける。まさか大戦で召喚されたサーヴァント以外にもサーヴァントがいたとは思わなかったからだ。

 

「ええ、そうです。その証拠をお見せしましょうか?ケイローン、ジャック・ザ・リッパー、アヴィケブロン」

 

辺りに衝撃が走る。味方にアキレウス(顔なじみ)がいるケイローンは例外としてジャックとアヴィケブロンは真明を確定させる宝具の情報すら敵側に開示していないのだ。これはルーラーの持つ真名看破スキルに違いない。よって彼が元ルーラーであることは確定的になったのだ。

 

「こっちからも質問があるぜ天草神父」

 

そう言ったのはアキレウスだった。

天草四郎、彼には隠し事が多い。

 

「なんですか?赤のライダー?」

 

「俺らのマスターはどうした?自らの本拠に敵に攻め込まれてるのに具体的な指示がねぇのは明らかにおかしい。前々からおかしいとは思ってたがアンタ、なんかやっただろ」

 

アキレウスがいい機会だと言わんばかりに質問をした。

 

「いえ彼らは既にマスターではないですよ。既にマスター権は穏便に譲渡されました。彼らには危害は加えてませんよ。なにか不満はありますか?」

 

「そうかい。()()は加えてないか。どうせあの毒婦が召喚前に洗脳でもしたんだろうな。まあいいさ。俺も特に聖杯にかける願いもない。それに召喚する前に操られるようなマスターなぞこっちから願い下げだ。それでいいかい赤のランサーさんよ」

 

「問題はない。マスターが危害が加えられてなければな」

 

「ええ、賢明な判断をしていただきありがとうございます」

 

赤側の両名この事実を受けいれた。天草は内心で胸をなでおろす。ここで彼らに敵対されるのが最大の負け筋だったからだ。

天草への質問はまだまだ続く、今度はジャンヌが問いかける。

 

「何が目的なのですか天草四郎時貞は。返答次第ではただではすみませんよ」

 

「…そうですねぇ。ここで煙に巻いてもいいのですが。もう隠しきれませんか」

 

天草は穏やかに話す。

この場には誰も侵してはならない神聖な空気が流れる。

 

「知れたこと。全人類の救済だよ、ジャンヌダルク」




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