男がいた。
神を信じていた男がいた。
戦乱、疫病、飢餓。
彼はそれを目にした。
唯一かつ完全な主が創り出したはずの人類は、何故かくも不完全なのかと。
彼はいつしか楽園を求めるようになった。楽園へと導く最初の
彼の名前はアヴィケブロン。今回の聖杯大戦にて黒のキャスターとして召喚された英雄だ。
「先生、先生、これは」
「君自身が炉心になることくらい君なら理解してくれてもよさそうだが」
「だって!だって、僕はマスターだ。先生のマスターだ」
「今の僕は赤のサーヴァントだ」
「裏切ったんですか?先生」
彼はユグドミレニアを裏切った。そして元マスターのロシェを殺そうとしている所だ。
「僕を弾劾し非難してくれてもかまわない。いや先生と呼ばなくていい。もうその資格は捨ててしまった。確かに君が僕に向けてくれた感情は良いものだった。だがそれで夢を諦めるわけではない。さあ起動せよ『
「ああ、そう、そうですか。先生」
ロシェは悟った。そしてそのまま炉心として至高のゴーレムの一部となった。
「さようならロシェ、君には僕を恨む資格がある。さあいこう。楽園を作りに」
後悔のように嘆きのように彼は言い残した。
生前で人を殺さなかった英雄、アヴィケブロン。しかしサーヴァントとなって人を殺した。これは霊基に残る傷となるだろう。
「ミレニア城塞を襲撃せよ『
『
◆
場所は変わりミレニア城塞、ここには天草に反抗する者たちが集合していた。
それに相対するのはキャスターの作り出した至高のゴーレムとその肩にのるキャスターだ
それに黒のライダー、アストルフォが話しかけている。
「裏切ったのかキャスター!」
「ああそうだ。黒のライダー。僕はこの宝具を超えた奇跡、『
「そんな土くれで救えるもんか!」
黒のライダー、アストルフォとアヴィケブロンが問答をしていると、アヴィケブロンに向けて矢が飛んできた。ケイローンが放った矢だ。しかしそこはキャスターの英雄、勿論防御の魔術で弾いた。その時、「パンッ」という音がした。弾かれた矢と東堂が入れ替わる。そしてそのまま彼はアヴィケブロンを殴った。ブチュリという音と共にキャスターの半身が吹き飛んだ。
「ん?君はトウドウ!やったぁ、これであの土くれも消えるね」
「ああそうだなッッッ!ガッ!」
ゴーレムは東堂が油断している隙をついて鷲掴みにしてそのまま投げ飛ばした。アヴィケブロンの宝具、『
「おかあさん!」
「トウドウ!」
「な、何とか無事だ。だがまともに動けそうにもない」
「ふふ、僕がいなくても変わらないさ。世界を楽園へと導くだけ」
そういってアヴィケブロンはゴーレムに取り込まれた
ゴーレムは雄たけびを上げる。
「やかましい」
モードレッドが赤い雷の魔力放出でゴーレムの右肩を損壊させる。しかしその傷はまたたくまに再生する。
「なに!再生しやがった」
モードレッドの悪態を尻目にケイローンは自らの千里眼スキルを発動しゴーレムの正体を看破した。
「あのゴ-レムに心臓部分に炉心があります。そして頭部にも霊核が存在しています。さらには大地を踏み締める足から魔力供給を得ています」
「つ、つまりどういうこと?」
「つまり足を大地から離させた状態で心臓と頭を破壊しなければ奴は倒せないということです」
「え~!そんなことどうすればできるのさ」
「そんなの簡単だろ」
「ええ、トウドウの能力なら奴の足を浮かすことは容易でしょう。ですが、炉心と霊核を打ち抜く役が2人必要です。今は貴方しかいないでしょう」
モードレッドはいともたやすく答えた。
「いるじゃねぇかジークの奴がよ」
「ジーク?」
「こいつはジークフリートに変身できんだよ。あいつに『
ジークがジークフリートになれたことを知らなかったメンバーは驚いた。そして同時に希望が湧いてきた。
ケイローンはかのゴーレムを倒すべく思考を巡らせた。そして指示を下した。
「私とルーラー、アサシンは奴の足止めを行います。ライダーはトウドウを抱えて『
こうしてゴーレムを倒すためにフォーメーションが組まれた。
アストルフォはトウドウを抱える為に彼に近づいてきた。
「やっ!トウドウ。どう入れ替える奴は使えそう?」
「残念ながら数々の戦いと今回の吹き飛ばしのダメージで体が1ミリも動かせん。もう拍手すらできん」
「そんなぁ、じゃあどうするのさ」
「だが呪力はまだある。俺の手に向けてお前の手を使って叩け。俺の術式はそれでも発動する!」
大声で東堂は叫ぶ。ゴーレムにも届くように。術式の開示による性能の強化だ。
こうして東堂はヒポグリフに抱えられて空を飛んだ。翼を羽ばたかせたヒポグリフから羽がまう。幻想種の羽、それはつまり神秘がこもっているということだ。
「パァン」という音が辺りに響く。ヒポグリフの羽とゴーレムは入れ替わった。これにより巨大なゴーレムが天高く舞う。
「さあ行くぞ!」
「ああ!」
「
「『
2つの剣からでた2つの魔力砲が頭と心臓の2部位に命中する。足は東堂、アストルフォ、ヒポグリフの手によって大地についてない。つまり詰みだ。ゴーレムはアヴィケブロンの夢と共に崩壊した。
「よぉし、完全勝利だ」
モードレッドが高らかに勝鬨を上げる。
彼らは勝利したのだ。
「おかあさん!」
ジャックが東堂の下にかけよる。彼女達は自らの外科手術スキルで東堂を治そうとしていたる。
「怪我人の治療を優先してください。それと城塞の修繕も可能な限り」
フィオレが指示を出す。こうして一夜が明けた。
◆
ここはミレニア城塞、そこにはユグドミレニアとその同盟者たちが一同に会していた。
まず口を開いたのはユグドミレニアの代表、フィオレからだった。
「トウドウ、傷はどうなのですか?」
「結論から言おう。当分、少なくとも数年は治らないそうだ。今は呪力で体を補強してようやく動けてるくらいだ。おそらくサーヴァントとまともに打ち合えないだろうな」
「大丈夫おかあさん?」
アタランテ戦、無銘の怪物戦、アダム戦、1日にこれだけの連戦をしたのだ。東堂の体は限界を超えて既にボロボロであった。東堂がサーヴァントであれば魔力で修復できたのだろうが、残念ながら彼は人間。徐々に治していくしかないのだ。
「ああ、安心しろ。腕利きの人形師が友人にいる。時間をかければなんとかなる傷さ。だが問題は」
「カチコミする時に戦力にならねぇことだな。時間をかければ逃げられちまう」
モードレッドが残念そうに言い捨てる。天草側にいる最大の障壁は2人、アキレウスとカルナだ。
彼らトップサーヴァントに加えて他のサーヴァントを相手にするには天草側より多くの戦力が必要なのだ。
だがそんなことで諦める東堂ではない。
「だがMiss.フィオレ。空中庭園には乗り込ませてもらうぞ。俺の体は死んだが術式までは死んでいない。不義遊戯で援護くらいはできるはずだ。それにここで折れてはブラザーの夢を否定してしまうしな」
東堂はそう言ってジャックに目を移す。
ジャックは感激している。
「おかあさん…」
「ええ、わかりました。貴方の意思を尊重しますトウドウ。では空中庭園の乗り込み方ですが、ライダーの報告によると通常時の庭園には迎撃術式が貼られてあるとのこと。そうでしたよねライダー」
「そうなんだよねぇ、月が出てない夜の僕なら話は別なんだけどねぇ」
「え?」
「だから月が出てない夜なら『
「月が出てないということは新月なら大丈夫ということですね」
「うん。そうだよ」
「わかりました!ならば計画を発表します。まずは空港を貸し切りジャンボジェット数機を手配します」
「じゃ、空港を貸し切り?ジャンボジェットを手配?」
フィオレの発言に田舎娘のジャンヌが驚く。空港を貸し切りジャンボジェットを簡単に買えてがトップクラスの魔術結社の財力なのだ。
「新月の夜に間に合うようにジャンボジェットで空中庭園に突撃します。いいですね」
「わ、わかりました」
「おう、いいぜ」
「了解」
「了解した」
「オッケー」
ユグドミレニアに所属していないジャンヌ、モードレッド、獅子劫、ジーク、アストルフォも同意した。
「新月の日までは後3日あります。それぞれ英気を養うように」
最終決戦が始まろうとしていた。
触れれば転倒「僕の出番は?」