「おっす、おはようたきな♪」
「…おはようございます」
喫茶リコリコへ向かう道すがら。
出勤途中で錦木千束と井ノ上たきなはばったりと鉢合わせた。
フレンドリーに肩を叩く千束に対し、たきなの対応は相変わらずしょっぱい。
先日のウォールナットの件で多少は打ちとけたかと思ったのに、と千束は苦笑い。
「―――それよりも、千束さん。つけられていますよ」
「わかってる。敵意はないみたい」
肩を並べ、正面を向きながら小声で会話を交わす。
揃って曲がり角を曲がり、距離を取ってくるりと反転。
サッチェルバッグからいつでも銃を取り出せる態勢のたきなに対し、千束はあくまで自然体。
すると、あとをつけていたらしい人物も、続いて角を曲がって来た。
でかい唐草模様の風呂敷を背負った少女。
待ち構える二人に対し、少女はペコリと頭を下げる。
「おはようございます。いや~、都会の女の子ってのは、みなめんごい人ばっかりですの~」
切りそろえられたおかっぱの髪型にツンと上を向いた鼻。
つぶらな瞳で人懐っこい笑みを浮かべているのは、声音ともに実に可愛らしい少女だった。
しかし、口から飛び出したイントネーションというか訛りが凄い。
そのギャップは、千束が目を見張り、警戒していたたきなでさえ一瞬呆気に取られるほど。
「え、えーと、私たちに何か用なのかな?」
千束が訊ねる。
「はい! ちょっど先生の言いつけでの」
笑顔で話す少女の顔つきを、まるで兎みたい、とたきなは思う。
「東京に行ったら、これと同じで赤いべべを着ている人を探せって~」
「べべ…?」
首を捻る千束の前で、少女はまるでコートのように着ていた大きな半纏をめくる。
中に着られていたものに、たきなは目を見張った。
「それってセカンドリコリス…!?」
紺色の都市型迷彩服とされるそれは、たきなの着ているものと一緒だった。
「あなたもリコリスなの?」
訊ねる千束に、
「それはよっぐと分がらねっす」
少女はニコニコとしたまま、
「先生は、赤いべべきた人を探して、んーと、たしか『でーえー』ってとこさ行げって…」
ちょんちょんと肩を叩かれて千束は振り返った。
たきなが小声で言ってくる。
「…もしかして、店長の関係者なのでは?」
「そうかもね。DAのことも知っているみたいだし」
「取り合えず、リコリコへと誘導してみますか?」
「そうしよう」
二人して頷きあう。
それから振り返ると、千束は言った。
「よし。それじゃ、ちょーっと着いてきてもらっていいかな?」
「ここが『でーえー』なんですかの?」
開店前の喫茶リコリコを、風呂敷を背負った少女が見上げている。
「ううん、ここは喫茶店だよ。まあ、一応DAの支部ではあるけど」
「喫茶店!? いや~、なんともハイカラですの~」
驚く少女。
この純粋なリアクションと強烈な訛りに、さすがの千束も微妙に絡みづらそう。
「ま、取り合えず、入った入った~♪」
千束がドアを開けて中へ誘う。
風呂敷少女の後ろにはたきな。一応、いつでも銃を抜けるよう気を張っていた。
「ありゃ~」
店内の様子にも少女は目を見張っている。
「なんとも中もハイカラだごと! 棚さもすこだま*1ビンが載ってるし…!」
「誰? 今度は何を拾ってきたの千束?」
カウンターでゼクツィを広げていたミズキが怪訝そうな表情を浮かべた。
そのミズキに気づいた少女は、目を輝かせたまま一気に詰め寄ると、
「はあ~! ごっだな別嬪なお姉さん見たことねえべ! おらが村のへなこ*2たちとは比べらんね!」
「うお、なになに!?」
「さすが東京の女子だなっす。髪もつやつやでキラキラすて…」
呆気に取られていたミズキだったが、どうやら褒められていることに気づいたらしい。
「ま、まあね? これが大人の女の魅力ってやつ?」
ミズキが髪を搔き上げよく方向性の分からない自画自賛ムーブをしていると、奥の厨房からミカが出てくる。
「どうした、何の騒ぎだ?」
「どひぇーーー! 外人さんでねが!? 困ったっす、おら外国の言葉なんてこれっぽっちも話さんね…」
目を丸くする少女に、
「落ち着きなよ、ちゃんと日本語話してるじゃん。って、君の名前はなんていうの?」
そこでようやく少女の名前を聞いてないことに気づく千束。
そして少女自身もそのことに気づいたようだ。
「これはぶじょほう*3しました」
風呂敷包みを背負ったままピンと背筋を伸ばすと、
「おらの名前は杉菜わらびと申します。よろしくお願いするっす!」