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ふぅー…と、深く、されど静かに、溜め込んだ息を吐き出す。
体を強張らせていたものを、二酸化炭素と一緒に吐き出して、全身から力を抜いて遠慮無く脱力する。
緊張がほぐれた様な気がするが、それはきっと気のせいだ。だって未だ、心臓の音は煩いのだから。
こんな事、可笑しいのかもしれない。知られれば、馬鹿にされて、笑われるのかもしれない。
でも、これは正しい事の筈だ。これこそが、本来の姿で、今やろうとしている姿が間違っている姿だ。
普通なんかじゃ、ない。明らかに異常な事だ。
「…でも、やらないと。」
やらなければならない事だから。為さなければならない事をやらねば、目を背けたい現実に目を向けなければ。
すぅ…と、息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
右手に握っていた黒鉄を、力強く握り締めて、左手を添えて構え直す。
全身に力を込め、重たい腰を上げて、顔を上げる。
左足と右足を入れ替え、体の向きを右方向へと転換させて―――少年は、勇気を振り絞って壊れ欠けた穴だらけの壁から我が身を躍らせた。
少年の登場に、体を固まらせた大人達へと、少年は静かに、されど素早く黒鉄を向け、その引き金に指を掛けた。
バンッ、バンバンバンッッッ!!!―――と、乾いた轟音が四度も鳴り響き、舞台の廃ビル、その壁に反響する。
パァン―――と、綺麗な赤色の液体が、大人の頭から、腹から、喉から溢れ落ち、ばたりと、意識を無くしたように大人達はその場から崩れ落ちる。
「てめぇ!」
一人の大人が叫んで、懐から少年と同じ黒鉄の塊を取り出し、紅蓮を放った。
眼光を鋭く、そして集中を一点に向ける。
その直後、視界が変化した。緩やかだった世界が、突如として緩やかを失い、ゆっくりとした世界へと変わり果てた。
自分の首を、少しずらすように動かす。
世界が戻った。
ひゅん、と、熱を纏った細い鉄屑が、顔面の真横を風に乗った燕の如く、通り過ぎて行く。
一時の静寂が訪れた。だが、少年は静寂を黒鉄で撃ち破り、恐怖を拭い捨て脱兎の如く大人達へと突っ切った。
「く、来るなぁ!」
悲痛な叫びと、轟音が鳴った。少年の耳には、届かぬ雑音だ。
身を小さく翻し、鉄屑を躱して、更に加速する。脱兎から、獲物を喰らうが為に全力を尽くす狼へと変貌して、走り出す。
どんどんと距離が縮む。どんどんと寿命が縮む。
そして、眼前。大人の額に向けられた黒鉄から
「死ね」
その一言と共に、鉄屑が放たれた。
パァン―――と、何かが弾け跳んだ。
赤色が、虹のように架かった。
「…終わっ、た…」
狼と化した少年は、戦闘の終了と共に再び人間へと戻り、全身から込めていた力を解き放ち、緊張という支配から抜け出した。
体の熱は、まだ残ったままで冷え切らない。心臓の鼓動は、未だ喧しいままで落ち着かない。
呼吸は、少し荒い。つい先程まで、緊張し切っていた証拠だ。
だが、警戒を解く事は出来ない。もう居ないとは思うが、もしかすれば生き残りが居るかもしれないという可能性があるのだから。
もう隠す必要も無し。少年は黒鉄の塊を――黒い拳銃を構え、周囲を警戒しながら進む。
先に何かが有るという訳でもないが、敵が隠れているという可能性は捨てきれない。だから、先に進まねばならないのだ。
一歩、一歩が重たく感じる。まるで、両足に足枷を付けられたようにも思えた。
こつ、こつ、と自分の足音が静かに響く。そして、その足音が自分を更に緊張させる。全く厄介なものだ、と少年は心の中で愚痴った。
ぱんっ。
そんな音を最後に、少年の頭部に激しい衝撃が迸り、そして赤い液体をばら撒いた。
千束…君は優しい。だが、そんな君だからこそ罪悪感を持たせて、苦しんでほしいんだよ。