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テロリスト等の犯罪者を暗殺することでテロ・犯罪を未然に防ぐ治安維持組織『Direct Attack』、通称『DA』に所属するのは、「リコリス」、「リリベル」と呼ばれる暗殺者達なのだが、その中には、ただ一人でありながらDAを相手にして勝ると噂されている謎の実力者『モンクス』が居る。
モンクス。正式名称を、モンクスフッド。和名を―――『トリカブト』。
「さて…やるか。」
ストライクフェイスと呼ばれる、棘々しい形をした特殊パーツを付けた銃――フルオートとセミオートを切り替える事の出来る機能が搭載された現代の最新型自動式拳銃「GLOCK18C」ストライクカスタムを握り締め、敵地へと入り込む青年―――「啼鳥兜」こそ、そのモンクスである。
首元のボタンを外し、黒いネクタイも少し緩めたシャツの上に黒いパーカーを着た、最近の高校生のような格好をして、彼は工場の中へと突入する。
扉を静かに開き、すぐにGLOCKを構えて、慎重に歩いて、
バンバンバンバンッッッ!!!!
行く事は、なく。
彼は直ぐに駆け出し、数秒にも満たぬ時間で周囲を徘徊している敵にバレる事もなく接近して、標準を正確に頭に向けて引き金を引き、撃鉄を引き起こした。
轟音が工場の中、大きく響き渡る。まるで、咽び泣くように。
「か」
「な」
発せられる言葉は短い。脳天を撃ち抜かれた敵は、全員漏れなく脳漿を撒き散らして斃れていく。
発砲音によって、その他の敵は青年の存在に気付き、全員が一斉に銃口を兜へと向ける。
武装の殆どはアサルトライフル。つまり、今の状況は八方塞がり、袋小路も良い所なのだ。
“普通ならば”―――そうなる筈だった。
ドドドドッッッ!!!!!!―――と、四方八方から放たれる銃弾を、兜は自分の銃弾を以て跳ね返す。
セミオートからフルオートへと切り替え、引き金を引いて、残った弾丸を一気に発砲する。
跳ねて、跳ねて、弾き、弾く。連射された兜の銃弾が、アサルトライフルの弾丸全てを弾き敵へと跳ね返す。
それは、普通の人間に出来る技などではない。あまりにも現実離れしたその技術は、人がどれだけ努力しようとこなす事の出来ない技である。
だが、兜は容易にやってのけた。それは何故か?
才能? それもあるだろう。だが、それよりも大きな理由があるのだ。
それは――常人が持つそれよりも遥かに高い異常なる集中力。
ある少女に頭を撃たれた時から、兜は脳のタガが外れてしまったのだ。
所謂、リミッターとなる部分が故障してしまっている訳であり、それが作用しているのか中枢神経系の活動が劇的になっているのである。
それ故に、思考能力や判断力も常人以上のものであり、それはもはやスーパーAIと比較しようと遜色ない。
「なんで当たらねぇんだよ…!」
短機関銃「MP5」を兜へと撃ち続けながら、最後の一人が涙を流しながら悔いるように愚痴る。
銃口から放たれる最速の弾丸全ては、本来であれば眼の前の青年の脳天、顔面、体を撃ち抜き鮮血を吹き出させる刃物の如き物である筈だ。
だが、現実は酷なものだ。本来有り得るべき筈の現実は有り得ない筈の現実によって上書きされている。
放たれ、そして青年へ向かっていく弾丸を全て、撃たれている本人である兜は涼しい表情でひらりと躱す。
避けきれない弾丸を、自分の銃から放った弾丸で弾き、壁の方へと、窓の方へと追いやる。こんな状況に恐怖を抱くのも、致し方無いというものだろう。
が、そんな事など知ったことかと、兜は加速して更に距離を詰める。
「くそがっ!」
毒を吐きながら、敵は距離を取るようにバックステップし、MP5を投げ捨てて腰に隠していた拳銃を取出し、すぐさま眼前に迫っている死神に構え、引き金を引いた。
だが、そんな抵抗は虚しいもの。もはや死ぬ事は確定しているのだ。
兜は首を右側へと少しずらし、放たれた弾丸を回避すると同時に敵の鼻孔に銃口を向けて、
「死ね」
過去のように、冷たい一言を放って、引き金を引いた。
銃声が虚しく鳴り響き、そして血と共に男が目を開いたまま、ばたりと斃れた。
そして、それと同時に。
(っ…あぁ、くそっ。なんで…まだ“三時間”経ってないぞ…いや、まさか…“また短くなった”か…?)
ぐらり、と。兜の視界が歪み、突然体が怠くなり、力が抜けていく。
だめだ、駄目だ…まだ、倒れるな。倒れたら、死ぬかもしれないんだぞ。せめて、連絡を取らなきゃ…
「“ファースト”、こちら《モンクス》。敵の殲滅を完了した…」
『こちらファースト。こっちも敵の殲滅を確認しました…けど、大丈夫ですか? 声色が…』
「大丈夫じゃない…また、時間が短く、なっ…た…悪い、“フキ”…回収を、たの」
そこで、声が途切れた。ばたりと、崩れ落ちて横から倒れ、意識が徐々に消えていく。
『モンクス、モンクス? 応答しろモンクス! 兜さん、兜さん!』
声が、聞こえなくなっていく。
もう、眼の前は真っ暗になっていた。
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ゆっくりと、眼を開く。目に写ったのは、やはり見慣れた白い天井だった。
むくり、と体を起こそうと兜は体に力を入れたが、何か重たいものが腹に乗っているのか上手く起き上がれない。
何が乗っているんだ? と視線を腹に落としてみれば、其処には黄色がかった白髪に赤いリボンを結んで付けている、赤色の制服を着た少女が、腕を組んで枕代わりにして机に顔を伏せるように兜の腹に顔を伏せていた。
彼女の名を、錦木千束。ファーストリコリスと呼ばれる少女であり、それでいて最強のリコリスとも呼ばれる少女でもあり―――そして、啼鳥兜という青年に、命を蝕む怪我を負わせた張本人でもある。
「千束、起きてくれ。そこに居られると起きられん」
「んっ…あ、かぶとぉ…」
顔を少し上げ、瞼をこすりながら、にへらと笑いながら兜の名を呼ぶ千束。
それを愛らしいと感じながら、兜は挨拶を投げた。
「おはよう。」
「おはよー……。あ、兜ォ!?」
「何に驚いてんだよ。」
兜が起きたという事実を再認識し、一気に意識を覚醒させて顔を上げ、千束は兜へと更に近寄る。
「大丈夫? 体痛めてない? 頭は痛くない?」
「質問が多い。するなら一気にするんじゃなくて一つずつしろ。」
体を起こし、こてん、と手刀を彼女の頭へと落とせば「あ痛っ」と、頭を抑えて質問が止まった。
起きたばかりの病人に質問攻めは愚行だろうが…ったく、と兜は愚痴を本人の前で零す。
「体は痛めてない。頭は少し痛い。あと…また、時間が短くなった。」
「え…」
先程の元気は、どこへやら。千束の顔は、驚愕の色と真っ青に染まっていた。
「遂に三時間が二時間になってしまった。このまま行けば一時間…最悪、50分かそこら。どうやら、止まる事は無いらしい。」
「…そっ、か…」
暗い顔をして、千束は俯く。
それもその筈。何故なら、彼の命を蝕む怪我の原因は千束自身であり、彼女の誤射が原因で兜は脳にダメージを負い、命を蝕まれるようになってしまったのだから。
千束の扱う銃弾は非殺傷弾。しかし、実弾ではないとは言えども、放たれたのは当たれば死んだ方がマシとすら言われる激痛を催すレベルの弾丸だ。
そして、それが脳の意識を司る部分に直撃してしまったのだ。無事な訳はなく、最初は言語能力すら失いかけていた。
リハビリや手術の末にどうにか意識回復、言語能力回復にまで漕ぎ着けたが、事態は更に悪化した。
脳のリミッターが外れ、常に中枢神経系の活動が劇的になるという諸刃の剣を背負う事になった上に、それが原因で脳に多大なる負荷が掛かり生命活動時間が減少するという破目になった。
最初は問題無かったそれは、徐々に時間を削り、丸一日動ける肉体は今となっては二時間という短い時間の間しか動けなくなってしまった。
二時間経てば、その日は起きる事はなく、次の日になるまでは眠ったままだ。
徐々に生きる事が出来る時間は減っていく。そして、時間を減らす原因を作り出したのは千束。
人の命を奪う事を嫌い、生きる時を限られている千束が兜に抱く罪悪感は、尋常ではなかった。
そして、その事を知っている兜は
「だから、その顔止めろって。」
うんざりしたような表情を浮かべ、手を潜り込ませ千束の額へとかなり力を込めたデコピンを叩き込んだ。
「いったぁ!? ちょ、そんな力込めなくても良いじゃん!」
「前から暗い顔すんなって言ってるのにお前が暗い顔するからだろうが。いいか? 何度も言うが、俺は別に誤射の事を気にしてないし、死ぬことも怖くはない。だからお前も気にするな。こんなのでも充実した世界は出来てるんだ、不満も無い。」
「で、でも…」
「でも、じゃない。撃たれた本人が気にするなって言ってるんだから気にするな。それに、お前が介護してくれたお陰で俺はこうして喋っていられるし、生きていられるんだよ。お前は既に俺を救ったんだよ。」
笑いながら、兜はわしゃわしゃと千束の髪を撫でる。
ちょー、崩れるってー、と言いながらも、しかし千束はその手を払う事はしなかった。寧ろ、笑っていた。
「そう、それで良いんだよ。お前は笑ってる方が良い。」
「…うん。」
「よし。じゃ、さっさと体調良くしてリコリコ行くか。手伝ってくれよ、千束。」
「もっちろん!」
だが、死ぬ事に変わりはない。
だが、死は変わらない。