ホビット、強し。あと、ヒロインはむちむち。

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武を極めし小人族

「なんの真似だ、ガキがっ!」

 

 適当に巻き付けた布で顔を隠し、目元のみを覗かせた得体の知れぬ子供に、男は焦っていた。恐怖している、といってもいい。

 

「邪魔をするなら、殺してやるぞ!」

 

 鏡のように磨き抜かれた長剣を抜き放ち、殺意の言霊をぶつける。けれども男はすぐさま飛び掛かるわけでもなく、慎重に機をうかがっていた。

 

「逃げれば追わん」

 

 威風堂々とした立ち姿である。隠している可能性もあるが、なんの武器も持っていないように見える。一般的な大人の背丈である男の肩の位置よりも頭の位置が低い。子供と思われた根拠は、背の小ささのみに過ぎなかった。それさえ、顔を隠している以上は確実ではない。

 エルフ族の集落がある、とされる迷いの森の入り口近くである。剣を構える男は奴隷商の関係者であった。ときどき現れる、好奇心の赴くまま森の外に出ようとする若いエルフの少女をさらい、商人に売りつけて金銭を得ようとしていたのだ。

 

「舐めるんじゃねえっ!」

 

 小柄な子供の背に庇われていたエルフの少女が身を竦ませる。しかし、肝心の子供はそよ風を受けたように微動だにしなかった。

 人さらいの男の腰がひけていることには理由があった。それは、子供が現れた瞬間の出来事である。男には仲間がふたりいたのだが、不意を突く形で子供が樹上から降ってきたと思うと、なんらかの手段でひとりは首の骨を折られ、もうひとりは振り向きざまに投げナイフで額を貫かれて瞬く間に殺されてしまったのだ。

 

「暗殺者か、てめぇ!」

 

 返答はなかったが、男はそこに可能性を見出していた。だとすれば、子供は正面からの戦いは不得手かもしれない。自分の方が強いかもしれない。

 

「ぬ、ぬぁぁぁぁぁっ!」

 

 冷静ではなかった。逃げという選択肢には飛びつかず、獣じみた雄たけびを上げながら、男は両手持ちの剣を振り上げて襲い掛かった。対して、子供はさっと距離を詰めて迎え撃つ。背後で縮こまっている少女に近づけまいとしてのことだった。

 剣を振り下ろした男は勝利を確信していた。それくらい、子供には避けようとする動きがなかった。男の打ち込みの鋭さは見事であり、達人といっても相違ない。だが、その達人の想定を、子供は軽々とうわまわっていた。

 

「バ、バカな……」

 

 まるで槍であった。ただし切っ先は鈍器のように鈍い。布の下の薄皮一枚を切らせる無駄のない動きで振り下ろしをかわすと同時に、子供は最短距離で強烈な蹴りを男の手首目掛けて放ち、片腕のみならず両腕の手首の骨を砕いてのけたのだ。

 踏みつぶした、といえばいいのか、一度目の蹴りは踏み込みの役割とセットになっていた。痛みと絶望のあまり、握っていた剣を手放して前のめりになった男の目の前に再度の蹴りが迫る。重いハンマーをたたきこまれたように、男の目の部分は陥没し、頭蓋に守られた脳までがひしゃげた。

 不安定な足場から放たれたとは思えない破壊力である。血をまき散らして倒れた男は息をしていなかった。そんな戦闘を見せつけられた少女は、腰を抜かしてへたりこんでいる。

 

「怪我はないか」

 

 振り返った謎の子供が顔に巻いていた布は、先ほど命を落とした男によって断ち切られていた。そして露わになった素顔を見て、少女は息をのんだ。美人揃いで知られるエルフ族の中にあっても、輝きをうしなわないだろう美貌がそこにあった。眼差しは凛として艶があり、視線を受けた側の背筋をぴんと伸ばさせる緊張感をもたらしながらも、この時間が永遠に続けばいいのにと願うような、目が離せなくなる魅力に満ちている。さらに意外なことに、女性と思われる顔立ちであった。

 

「せ、精霊さま……?」

 

 恐怖も忘れるほど驚いた少女は、見とれるあまりに目の前の子供が人ではないのではないか、と疑っていた。

 

「エルフ族に伝わる月の精霊マナディーアか。あいにく、この髪は黒であって、月の銀色を宿してはいないが。小人族であることに誇りを抱いている身としては、光栄だとも言い難い」

 

 小人族……? 改めて、少女は命の恩人である人物の足のつまさきから頭のてっぺんまでをまじまじと眺めた。年齢を重ねて成長しきってもあまり身長が伸びないという彼らの種族的な特徴を耳にしたことはあったが、実際に初めて出会った小人族は想像とかけ離れていた。美しいのはいうまでもないが、あのような……

 見ない方がいい、とでもいうのか、小柄な小人族の体が少女の視線を遮り、男の死体を隠した。

 

「さて、ここは危険だ。エルフ族の里まで送ろう、といいたいところだが、きみたちが他種族を嫌っているのは分かっている。森はエルフ族の庭であって、迷うこともあるまい。気をつけて帰るといい」

 

「え!? ……待って、待ってください!」

 

 未練なく背を向けた相手を、慌てて少女は呼び止める。

 

「ご、ご恩返しを、させていただきたく。あなたさまがいらっしゃらなければ、わたしはきっと、酷い目にあっていたのでしょう。その恩に報いる機会を、どうか。里の者たちはわたしが説得いたします」

 

「……思いのほか、丁寧に話すのだな」

 

 やんちゃをする割にはしっかりとした物言いであった。貴族に連なるような、気品さえ感じられる。

 

「申し遅れました。エルフの族長の娘、アフラニドと申します。あなたさまのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「カーラだ。それよりも、礼がしたいといったな。ならば、彼らの墓を建ててやってもいいだろうか。野ざらしのまま、獣どもに食い散らかされるのは忍びない」

 

「は、はい。それは、構わないと思いますが……」

 

 確実に男たちは悪人であった。にも関わらず、供養をしてやりたい、というカーラの気持ちがアフラニドには理解できなかった。

 

「い、いえ、お墓は里の者とわたしが建てますので。お姉さま……カーラさまは里までお越しください。歓迎いたします」

 

「……実は、ひとりで戻ることになるきみを心配していなかったといえば嘘になる。送らせてもらえるならばありがたい」

 

「そ、その……わたしも、心細かったもので。お礼をいうのはこちらです」

 

 非常に幼い見た目の小人族に、妹のように振る舞うことに、エルフ族の姫であるアフラニドは違和感を抱いていなかった。

 

「……顔を隠したのが無駄になったな」

 

 三人の死体を見て、カーラがぽつりとつぶやく。

 

「この見てくれだ。口でやめろといっても聞かんのは分かっていた。だから、力を見せつけるためにふたりは殺めたが……」

 

 本当に、最後のひとりは逃げるのなら追う気はなかった。復讐などの面倒な事態になることを考慮して、顔を隠したのだ。

 

「あの、カーラさま……」

 

 こくり、と喉を鳴らし、アフラニドは羞恥に頬を染めながら言った。

 

「手を、お貸し願えないでしょうか。足に力が入らなくて、立とうとしても立てないのです」

 

「……なぜ、座ったままでいるのかと思っていたが」

 

 ひょい、と無造作に抱き上げられ、アフラニドは一瞬、身を固くしたが、すぐに全身の力を抜いた。

 

「ありがとう、ございます」

 

 耳元で熱い吐息交じりに礼を述べられ、カーラはくすぐったそうに顔をしかめた。肉付きのいい体といい、無自覚に男を誘うたちの女だな、との評価は、口には出さず胸のうちだけにとどめた。




バトル描写が書きたかった、ような気がする。
続きは未定。

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