ダンジョンに吸血鬼がいるのは間違っているだろう 作:灯火四季
気づけばそこに居た。
見慣れない建築物、時代錯誤な道路、何より道を行き交う彼らは人から離れた容姿を持っていた。此処が何処か?分かったのは、少なくともかつての自分の住んでいた街では無いって事だけ。
状況は分かった。タチの悪い悪戯では無い事も、自らの身体に走る尋常では無い痛みが証明している。でも、理解だけは出来なかった。
「……はぁっ、はっ、ぁあっ」
乱れた呼吸。吸った酸素が全身に回らない。どうした事か、当たり前の事が、当たり前の様に出来なくなっている。明らかな異常、だが止まる事は許されない。まだ、自分は死なないのだから。
「……くそっ、動けよ」
力の入らない両足で、見慣れない街を闊歩する。
足取りは覚束なく、きっと酔っ払いと呼ばれる彼らも、側から見たらこんなもんなのだろうと思った。
「…………っ!?」
全身の力が抜け、無様にも泥水が溜まった道路に倒れ込む。少しでも酸素を取ろうとして、泥水から頭だけを上げる。たったそれだけなのに、酷く疲れた気がした。
──まるで糸の切れた人形の様だ
今までの空虚な人生を振り返り、少しばかり皮肉を込めてそう思った。
天気は最悪の土砂降り。視界は悪く、肌を流れる水滴が体温を奪う。動かなければ行けない。何処か、雨風が凌げる所を。
「…………」
だが一向に動かない。全身の力は抜け切って、その頭だけが固定されたかの様に前を見ている。身体に打ち付けられる雨は視界を遮り、それでも高く聳え立つあの塔は視界に焼き付き離れない。
──一体あれは何なのか?
無性に心が惹かれる。死に体の癖して、何とも呑気なものだ。
時間は刻一刻と過ぎる。通りかかる人間の多くは面倒事を恐れ、関わろうともしない。白状だ、と少年は思うと同時に、そうだろうな、と少年の理性は彼らの合理的な判断を認めていた。
だから、最初は理解できなかった
「そこの人、大丈夫ですか!?」
白髪の赤目、まるで兎の様で、物語の多くで採用される吸血鬼かの如き容姿を持つ少年が、理解できなかった。
*
廃棄された小教会。その地下にて、ある少年と女神は考えていた。議題は少年が拾ってきた瀕死の少年をどうするか、だ。瀕死の少年が何故衰弱しているのか。その理由が分からない以上、少年も女神も容易に手は出せなかった。
「……神様、この人助かるんでしょうか?」
「助かるじゃないよ、助けるんだよ。ベル君」
零細ファミリー、主神ヘスティアは至って冷静だった。衰弱した少年の身体には明確な病床もなく、当時懸念していた低体温症の症状もない。だとすれば、極度に虚弱か、あるいは貧血などで倒れただけか。
いつまで経っても思考は水平で、答えは見つかりそうもない。一応神の権能を通して、少年が生存するに必要な生命力を欠いている事はわかっている。だがやはり、理由が分からない。何故?一体どうして?
──堂々巡り、答えは出そうにもない
なら必要なのは決断だ。眼前の弱った少年を救うためとは言え、今から自分は彼に対して生き方を半ば強制することになる。
「……ふぅ、よし!」
覚悟は決めた。なら、後は実行するのみだ。
女神ヘスティアは白髪の少年、ベルを見てから倒れ伏す少年へと視線を移す。死んだ様に眠る彼から聞こえて来る寝息はない。比喩ではなく、本当に死んでしまったのではないかとすら思える。
「……でも、それが諦める理由になんてなるもんか。僕の初めての家族が、彼が生きる事を望んでいる。それだけで、僕は何だってしてやるさ」
この日、ヘスティア・ファミリアに二人目の眷属が誕生した。