兵藤家の最上階のVIPルームでオーディンが愉快そうに笑う。
当然、デートは中断してリアス達と合流して家に戻ることになった。
オーディンの気楽な雰囲気に対して、護衛であるバラキエルと娘の朱乃の雰囲気は明らかに重苦しい。2人とも相手を視界に入れることすら避けたいように視線を逸らしている。加えて、バラキエルは感情の読めない毅然とした態度、朱乃は露骨に不満げな表情と関係を察するには十分な様子であった。
「それで、やっぱり気になるのか、翼さん」
そんな様子を見ながら、ほとんどの人物に見えないように翼さんに話しかける。
『あぁ、遠くから聞く限りだと、親子というのは分かる。
だが、その中の亀裂がどうしても』
そう、翼さんはその様子を、心配そうに見つめる。
「やはり気になりますか?」
「木場」
それと共に、俺の様子を見に来たように、後ろで木場が話しかけてくる。
「過去に何があったのか、話せるか?」
「それは、僕の口からは」
『そうか』
その言葉と共に木場もまた迷いが出ていた。
グレモリー眷属同士という事もあり、互いに過去が何かがあったのかは知っている様子だ。
だけど、それを俺達に話すかどうかは、別問題となる。
それに関しては、納得すると共に、そのまま一階へと降りる。
すると、そこには偶然なのか、バラキエルさんが手に雷光を走らせる。
さすがにそのままではいけないと思い、俺はすぐに止めに入る。
「バラキエルさん。
そこまでです」
「っあなたは」
「ここは、一応は護衛対象がいる地です。
さすがにそれは、やりすぎです」
「あっあぁ、すまない」
そう言うとバラキエルさんは少し落ち着きを取り戻す。
「少し、頭を冷やしてくる」
その言葉と共に、バラキエルさんはそのまま出て行く。
「なんというか、結構複雑そうだな」
「あぁ、その、俺もよく分からなくてな」
その言葉には、思わず同意したくなる。
これまで、交流が少ない方だった姫島さんと、ほとんど初対面のバラキエルさん。
その両名の関係を聞くには。
『悪いが、少しの間だけ身体を貸してくれないか』
「えっ、あっはい」
俺はそのまま翼さんに頼まれ、同時に翼さんに変わる。
「こうして、面を向かって話すのは始めてだな。
風鳴翼だ」
「あっあぁ、兵藤一誠です!」
「姫島朱乃です」
そう、互いに自己紹介を行った後、翼さんはそのまま姫島さんに近づく。
「単刀直入に言う。
姫島さんは、過去に何があったんだ」
「っ」
それは、あまりにも地雷過ぎる内容だった。
「あなたには、関係ない事よ」
「そうもいかない。
今回の事もそうだが、内部で険悪な雰囲気が続ければ、護衛は務まらない。
もしも、連携が必要な時は尚更だ」
そう、翼さんは厳しい態度で言う。
確かに、その通りだが、さすがにこれは。
そう思いながらも、見守るしか出来ない状況が続く。
そして、ついに我慢の限界に達したのか、姫島さんはその口を開く。
「あなたに何が分かるんですかっ!!」
それはこれまで溜まっていた鬱憤のように、こちらに近づく。
普段の様子からは考えられない程に激しい怒声を放ちながら詰め寄る。
対する翼さんは無言のまま、それを受け入れる。
「あの男はっ、母を見捨てた!
そんな男に、私の気持ちなんて分かりませんよ!!
それは今まで溜めていた感情を全て吐き出すような叫びだった。
それを静かに受け止めるように、翼さんは口を開く。
「バラキエル殿の様子は、本当に娘を見捨てた父親に見えるのか」
そう翼さんは真っ直ぐと、姫島さんの瞳を見ながら質問をする。
それに対して姫島さんは一瞬だけ答えに戸惑う様子を見せる。
「あなたに!何がっ!分かるんですかっ!!」
「分からない。
私は姫島とバラキエル殿と間に何かあったのかを知らないからな」
「それならどうして」
「私が過去に、お父様の事で後悔したからだ」
「あなたの父と?」
その言葉に俺は憑依されており、何も言えなかった。
だが、それは確かに俺も知っていた。
「私は、とある理由でお父様から「娘ではなく、どこまでも汚れた家の道具」と突き放す態度をとっていた」
「えっ」
その話を聞くと、2人は思わず言葉を出せなかった。
先程までの父の事に後悔して欲しくないと言った翼さんからの言葉だとは思わなかった。
「だが、それはお父様の不器用ながらも彼なりの親心であった。
それに気づいた時には嬉しくあった」
「その人は」
「私を庇って、亡くなった。
本当に後悔した」
それに対して、今でも覚えている様子で、翼さんは悲しそうな表情をしていた。
「バラキエル殿は、どこかお父様に似ていた。
だからこそ、姫島には、後悔して欲しくないんだ。
私のように」
「……」
「すまないな、いきなりこんな話をして」
「いえ、大丈夫です。
ただ、少し考えてみますね。
少しだけですけどっ」
姫島さんはそれだけ言うと、そのまま小走りで部屋を出ていった。
それから少し経ってから、俺はようやく身体を動かす事ができた。
「なぁ、さっきの話は本当なのか」
「……あぁ、本当だ」
「別の世界の事だとしても、なんというか、信じられないな。
第一、そうしないといけない事情って、なんなんだ?」
「そこまでしないといけなかったんだ。
翼さんの家は、俺も色々と複雑に思うんだよ」
「複雑…」
そう言いながら、俺は手を強く握り締める。
「あの家は、翼さんを始め、確かな人格者に尊敬できる人がいる」
実際に、今でも尊敬している弦十郎さんや、翼さんの血ではない、本当の父親である八紘さんがいる。
けど、同時に俺はたぶん。
「この世で一番嫌いな人間がいる所でもあるんだ」
その3人と本当に血が繋がっているのか、どうか分からない外道に極まる訃堂。
奴の事を思い出すと、本当に。
「なんというか、平行世界と言ったら、もっと、とんでもない事を想像していたけど」
「世界が変わっても、以外と問題の多くは、こういうもんだ」