姫島朱乃は、それは変わらなかった。
それでも、考えが少しだけだが、変わり始めていた。
風鳴翼が父を失った悲しみ。
それは確かに共感できる事だった。
だが、彼女の考えが大きく変わったのは、おそらくは。
敵であるはずの錬金派の1人であるキャロルの言葉。
それを偶然知った事で、どうすれば良いのか迷い始めた。
「お母様、私は何を信じれば」
寂しそうに、今は無き、母に尋ねてしまう。
キャロルが考えた作戦は、ある意味大胆と言うべき内容だった。
俺達の世界での完全聖遺物であったデュランダル。
その持ち主であるゼノヴィアの協力を元に、そのエネルギーを直接俺に流し込む事である。
これまでは斬れ味だけなら最強だが、使い手の言うことを聞かないじゃじゃ馬で、必要以上の破壊を周囲に齎す危険極まりない代物。
それに着眼点を置いたキャロルの協力もあってか、その破壊力を純粋なエネルギーとして利用し、外部から供給する事によって、エクスドライブにする事が、キャロルの計画だった。
「それにしても、本当に上手く行くのか?」
「さぁ、俺もよく分からない」
そう言いながら、ゼノヴィアはデュランダルを取り出しながら、目の前で作業をしているキャロルを見ながら、俺に尋ねる。
これまで、この世界のデュランダルを何度も見てきたが、俺が初めて見たデュランダルとは大きく形が違う事もあって、違和感は確かにあった。
しかし、その性質も、平行世界だからこそ違う物だと考えていた。
それを既に自分の中で完成させていた。
「単純なエネルギーを変換するならば、チフォージュ・シャトーと比べたら、簡単だ。
問題は、どれだけ成功率を上げれるかどうかだ」
そう言いながら、キャロルは作業を止めずに、話し続ける。
「この作業は単純だが、それを制御するのは難しい。
元々は単純な破壊しかできないエネルギーを純粋なエネルギーとして変える。
これが以外にも面倒でな」
「アザゼル先生達は既に他の作業をしているから、手伝いはできないし、成功率は」
「良くて30%だ」
それは、確かに低い方だ。
それでも、未だに手がないよりはマシだ。
「頼めるか、キャロル」
「ふっ、まさか、お前と共闘する時が来るとはな」
そう言いながら、キャロルはそのまま、作業を続ける。
「それにしても、父親の問題か」
「それって、もしかしてバラキエルさんの一件、聞いていたのか?」
「これだけの空気で気づかない方が無理だ。
こちらとしては、羨ましい限りだ」
「それって、やっぱり」
その言葉に俺はなんとなくだが、察してしまった。
その中で、話に入れないゼノヴィアは首を傾げる。
「羨ましい?
それは、もしかしてキャロルには父親の事で何か辛い事でもあったのか」
「・・・もぅ、忘れたよ。
パパとの記憶は、既にな」
「忘れた?」
それに、ゼノヴィアは首を傾げる。
「キャロルの錬金術は、かなり特殊で。
その威力はかなり高く、様々な事を行える。
だが、その高い能力を引き換えにある物を燃やさないといけない。
それが、想い出なんだ」
「想い出だと」
その言葉に、ゼノヴィアは驚きに目を見開く。
「今の私に残っている記憶は、エルフナインを通して、覚えている記憶のみだ。
その記憶だって、未だに自分の物だという実感はない。
だからこそ、これが本当の意味でのパパとの記憶はない」
その言葉に自然と悲しさはあった。
それでも、俺は何も言わない。
既に、その戦いは終わりを告げたからだ。
「・・・そうか。
姫島先輩の事情はある程度知っているが、私自身は孤児だからな。
父親の問題とはある意味無縁に近い。
だが」
「無駄話をしている暇があれば、手を動かし続けるぞ」
そう、その話題は終わった。
そうして、キャロルによる作業が続き、いよいよ決戦の日。
その決戦では、ホテルに到着したロキとフェンリルに対抗する為に待っていた。
デュランダルからのエネルギー提供によるエクスドライブがどれぐらい行えるのか。
未だに謎が多く、正直な所、訓練を行ってからやりたかったが、それをする時間もない。
それと共に、戦いが始まろうとした。
「ふむ、やはりギャラルホルンの奴が一番厄介だな」
ロキはそう言いながら、その視線は俺に向けられていた。
「そこにいる錬金術士が何か企んでいるとは思った、なるほど。
確かに面白い。
だからこそ」
「っ!」
背後からの殺気。
同時に俺はその手に持った刀で、すぐに受け止める。
そこにいたのは、フェンリルだった。
それも、ロキの近くにいる奴よりも少し小型の二体のフェンリルだった。
「なっ、何時の間にっ」
「貴様に余計な力を与える訳にはいかないからな。
だからこそ、早々に始末する」
同時に俺に向けて、次々とフェンリル達が襲い掛かる。
ただでさえ、一匹でも厄介なフェンリル。
それが、まるで親子と言うべきか。
巧みな連携で、俺に襲い掛かってくる。
手元にある天羽々斬を二刀流にして、それらの攻撃を受け流していく。
「ちっ、仕方ない。
試すしかない」
その言葉と共にキャロルの一言と共に、術式が現れる。
その魔方陣は真っ直ぐと俺に向けられていた。
それを見ると共に、俺はそのまま走り出す。
同時に放たれた光は、そのまま俺に向かう。
「させるか」
そう、既にロキが罠を張っていたのか、そのままキャロルが放った光は僅かに遮られた。
それによって、全身を覆える程の光は、僅かに俺のギャラルホルンドライバーに当たる程度だった。
「このエネルギー量ではっ」
そうしている間にも、背後からフェンリルが襲い掛かろうとした。
『ソウゴっ!』
聞こえた声、それと共に俺は自分の身体を見る。
周りは、俺の身体を見て、驚きを隠せなかった。
それは俺自身もだった。
それは、巨大な牙が、俺の身体から生えていたからだ。
様々な模様が入れ交わる街。
その街の中央で、巨大な存在が横たわっていた。
力を無くし、色を失っていた。
だが、空から、光が降り注ぐ。
それは、一瞬だった。
だが、その光は、巨大な存在に色を取り戻させる。
赤い炎を思わせる機械の身体は、獰猛な牙と共に起き上がる。
「あの光は、呼んでいるのか。
俺達を」
そう、巨大な存在の近くにいた青年は、光のある方向に目を向ける。
同時に悟ったように頷くと共に走り出す。