兵藤一誠から見て、彼、先記ソウゴという人物は学園の中でも最も謎の多い人物だと断定できる男である。
顔は確実にイケメンと言える人物だが、いわゆる電波と呼ばれる部類の人間であった。
いつも首元にはヘッドホンをつけており、いつもぼーっとしていた。
だが、時折、まるで王を思わせるカリスマがあった。
そういう事もあって、木場のように、学園の二大イケメンと噂されている。
だが、そんな先記がどういう訳か、この三大勢力の会議に参加していた。
「えっと、なんで先記がここにいるんだ?」
そう言いながら、一誠は首を傾げていた。
「それはな、そいつがある意味、今回の会議でも中心かもしれないからな」
「中心って?」
「コカビエルを倒した張本人だからな」
「なっ!?」
その一言に、説明したアザゼル以外の全員が驚きを隠せなかった。
「お前、まさか堕天使の勢力に」
「いや、そもそも俺、その堕天使とか知ったのは、本当にあの後なんだよね」
「はい?」
先記は困ったように頭を描きながら答えた。
どうも、彼は本当に堕天使とは関係ないらしい。
「だったら、なんで」
「いや、なんというか。
嫌な予感がしたから止めただけ。
にしても、まさか悪魔や天使も実際にいるとはなぁ」
そう呑気に言う姿に、誰もが呆れてしまった。
確かに堕天使とは無関係なのは分かった。
しかし、それでもコカビエルを打ち倒す実力を持っている事は事実なのだ。
だからこそ、彼らは彼を警戒する。
彼は強い。恐らく自分より圧倒的に強く、そして頭の回転もいいだろう。
だが、それ故に彼の本当の目的が読めないのだ。
「さて、こいつの事について聞くのは、とりあえず会議を終わらせてからにしようぜ」
そんな彼らを仕切るようにアザゼルは呟く。
それに他の者たちも同意するように息をつく中、一人だけ違う反応をした者がいた。
ソウゴは少し驚いたような表情をして、アザゼルへと言葉を漏らす。
「ん? 俺は別に話していいけど」
その言葉に、その場にいた全員の顔が引きつった。
あまりにも無防備すぎる発言に、むしろ不安を感じてしまう。
「まぁ、俺はある程度は知っているけどな。
にしても、まさかギャラルホルンの持ち主だとはな」
「ギャラルホルンって!」
その言葉に、会議に参加していたミカエルは驚きに目を見開く。
「あのぅ、部長」
「何、一誠?」
「ギャラルホルンって、なんですか?」
その場で、あまり話題について来れない一誠は思わず尋ねてしまう。
「ギャラルホルンというのは、北欧神話にある楽器だ。
終末を告げる役割を担っており、演奏すれば世界を滅ぼす事ができると言われている」
「はっはぁ!?
世界を滅ぼすって!?」
アザゼルからの説明を受けた一誠は、思わず先記を見る。
「さぁ、実際どうかは分からない。
まぁ、これが楽器かと言われると、どうか分からないけどな」
そう言い、先記はその場でギャラルホルンを実体化させた。
そこにあったのは一言で言えば、カラフルな貝だった。
伝承にあるような角笛ではなく、貝のような形をしており、横から管のようなものが何本も生えていた。
色は黒白黄色赤青紫緑ピンクなど、実に様々な色をしている。
その光景を見た一誠たちは、驚愕し、同時にそれが武器ではない事に安堵していた。
少なくともこれで世界が滅ぶなどと言われても信じられる訳がない。
「そんでもって、俺はこう使うけどな」
そう言い、そのまま腰の前に置くと、ギャラルホルンからベルトが伸び、腰に巻かれる。
それはまるでヒーロー物に出てくるような変身アイテムであり、その姿はまさしく特撮のようだった。
ただ、そこで問題なのは先記がそれを当たり前のように使ったという事だろう。
おそらく先記はその行為に、違和感を覚えていない。
その事がこの場にいる者達には恐ろしかった。
明らかにこちら側の常識を理解していないにも関わらず、平然としているのだ。
「なるほど、では、あの姿もギャラルホルンの力という訳ね」
「んっ、まぁ、そうかもな」
そう、サーゼクスからすぐに質問する。
それに対してはこれまでとは違い、少し先記は考える素振りを見せた。
「何か隠し事でも」
「いや、あれは確かにギャラルホルンの力だけど、ギャラルホルンの力じゃない。
なんて、説明すれば良いのかなぁ」
自分の力ではあるが、自分にもよく分かっていない。
そんな感じだった。
そんな時だった。
会議が行われている空間の時が止まった。
三勢力の会談の途中で突然、時間が停止した。
「んっ?」
その事に、気づいた先記は首を傾げていた。
同時に、その場にいた一部の者達も既に動いていた。
「な、何があったんすか?」
同時に一誠が思わず言った。
「テロかな」
同時に先記は何気なく、見つめた先。
そこには校庭、空中に至るまで、人影らしきものがあった。
見れば、それは黒いローブを着込んだ魔術師であり、こちらに魔力の弾を放っていた。
その事から敵の目的は会談中の各勢力のトップ達を殺す事だろうと推測できる。
「だったら、止めるしかないか」
そう言い、先記はそのまま立ち上がる。
同時にそのままギャラルホルンをそのまま構える。
「へぇ、見せてくれるのか?」
「まぁな。
それに、彼女に答えないといけないからな」
そう言い、何も言わずに、そのまま手に持ったペンダントを構える。
「変身」
『Imyuteus amenohabakiri tron』
その声と共に、先記の姿は変わる。
ギャラルホルンから出る光と共に、一瞬、その姿は黒い飛蝗を思わせる鎧を身に纏う。
だが、それは一瞬だった。
その身体には、青く軽装な鎧を身に纏う。
それと共に、身体の各部にはまるで刀を思わせる鋭いパーツが装着される。
そして、最後にその手には一本の鋭い日本刀を手に持っていた。
「この前とは違う姿」
以前、見せた黄色い姿とは異なる鎧。
それに疑問に思っている間にも、先記はその場から飛び出す。
「颯を射る如き刃 麗しきは千の花
宵に煌めいた残月 哀しみよ浄土に還りなさい……永久に」
同時に魔術師達はすぐに先記に向けて、魔力弾を放っていく。
その魔力弾によって、一瞬で先記の姿が消える。
思わず目を見開く一誠だったが、次の瞬間。
煙の中から先記は飛び出した。
それも、轟音と共に。
「えっ、あれって」
轟音の正体。
それは何時の間にか先記が乗っていたバイクだった。
青く塗装されたバイクのエンジンに乗りながら、真っ直ぐと魔術師達に向かって行く。
魔術師達は、一瞬、それに驚きを隠せない様子だったが、再び放っていく。
だが、それらはバイクの先端から展開された巨大な日本刀によって、切り裂かれる。
魔力弾を日本刀で切り飛ばす。
それに驚きを隠せない魔術師達は、瞬く間に先記の接近を許してしまう。
同時に先記はそのままバイクから降りると同時に、その手に持った日本刀で切り裂く。
「なっ」
先記はそのまま魔術師の一人を切り捨てると、すぐさまに別の魔術師へと向かう。
その動きは、まさしく電光の如き速さと言っても過言ではなかった。
「てめぇ!」
一際大きな魔力弾を先記に放つ。
しかし、その魔力弾を先記は一閃。魔力弾ごと、魔術師を切り伏せる。
さらに続けて、三人程の魔術師達がそれぞれ同じ様に魔術を放つ。
それに対し、先記は冷静に対応する。
刀を構え、相手の攻撃を弾き返す。
「いざ往かん……心に満ちた決意 真なる勇気胸に問いて
嗚呼絆に すべてを賭した閃光の剣よ」
そして、隙を見つければ、一気に相手に斬りかかる。
それはまさに剣術において完成に近い戦い方だった。
「まさに非常識と言った所だな」
「あぁ、しかし、なぜ歌いながら、戦うんだ」
そうして、先記の戦いを見ていたアザゼルを始めとした多くの者達は疑問に思っていた。
「ギャラルホルンか。
なかなかに面白いじゃないか」
「ヴァーリ。
お前、何か見えるのか?」
「まぁな。
それにしても、あれが歌う理由なのか」
そう笑みを浮かべながら言う。
「ほぅ、それは一体何なんだ?」
「さっき、先記の奴が言っていた彼女。
その彼女と合わせる為だろうな」
そう面白そうにヴァーリは笑みを浮かべ、見つめた先。
そこには先記の動きに合わせる青い髪の少女の姿が確かに見えた。
「くくっ、どうやら、少し予定を早めないとな」
「なに?」
その一言と共にヴァーリは飛び出す。
その身には、白龍皇の鎧を身に纏って、先記に襲い掛かっていた。
「……何のつもり?」
「何、予定が思った以上に早くなっただけだ」
その言葉と共に、ヴァーリはその光輝く翼から白い魔力弾を放っていく。
「戯れるには飽きた 否、緋の藻屑と消えよ」
放たれたその魔力弾は、先程までの魔術師と比べても明らかに威力が高く、地面を簡単に抉る。
それに対して、先記は日本刀で、全てを切り裂く。
また、それと同時に歌をやめる事なく歌い続ける。
その動きを見て、ヴァーリはさらに口角を上げる。
(こいつは本当に面白い)
相手の持つ剣の腕は、まさしく、剣士として完成された存在と言える。
そんな相手を目の前にして、ヴァーリの心は完全に沸き立っていた。
その時だった。
『雪音、頼めるか』
『了解、先輩! 行くぞ、先記!』
不意に聞こえてきた声、同時に先記は頷くと同時に日本刀を真っ直ぐとヴァーリに向けて、投げる。
その一撃に驚きながらも、受け止める。
同時に
『Killter Ichaival tron』
鳴り響く歌声と共に、その姿はまた変わる。
先程の青い姿から一変、その身体には赤く染まる。
同時に身体の各部にある刀が納められた部分は、別の何かが納められていた。
そうして、日本刀の代わりに手に取ったのはクロスボウだった。
「姿が変わった?」
そんなヴァーリの疑問を余所に、その手に持ったクロスボウをそのままヴァーリに向ける。
「疑問? 愚問! 衝動インスパイア6感フルで感じてみな
絶ッ! Understand? コンマ3秒も背を向けたらDie」
同時に起きた光景に、ヴァーリは目を見開き驚く。
クロスボウのその形は4門の3連ガトリング砲に代わり、火花を散らす。
「っ!」
ここに来て、銃。
それに疑問を思う前に、ヴァーリ自身、そこから放たれる弾丸を前に、瞬時に避ける。
同時に地面は一瞬で蜂の巣に変えられる。
しかし、その弾丸の嵐は、未だに止まらない。
ガトリング砲は、まるで弾切れを知らないように、ヴァーリに襲い掛かる。
その攻撃から、すぐに空を飛びながら、避けていく。
校庭に響き渡る銃弾の雨。
これまで、銃を持つ存在と戦っておらず、仮に普通の弾丸を受けたとしてもヴァーリには大した脅威ではない。
だが、先記の放つ弾丸。
それは、ヴァーリに脅威を持たせるには十分だった。
ヴァーリが一発の魔力弾を放つ間に、先記は100発程の弾丸を放つ。
そして、それを受け、よろめいている間には、銃弾の嵐によって、大きなダメージを受ける。
その緊張感にヴァーリは。
「あぁ、実に良い!」
戦闘狂としての血が騒ぎ出す。
そのまま空高くに飛びあがりながら、その手には少しずつ魔力を溜めていく。
(やはり、こいつとは戦いたいな)
本当ならこのまま仕留めておきたかったのだが、流石にそこまで都合よく行かないようだ。
それに少しだけ残念に思いつつも、ヴァーリの手からは巨大な魔力球を作りだす。
「HaHa!! さあIt's show time 火山のよう殺伐Rain」
だが、同時に見えたのは。
「なっ!」
ミサイル。
それも、簡単に人間を乗せる事ができる程の大きさ。
そのミサイルに乗りながら、先記は空を飛ぶヴァーリに近づいていた。当然のように、この程度ではダメージも入らない。
それは予想しているのか、先記はそのまま更にミサイルを放ち続ける。
ただでさえ凄まじかったガトリング砲による攻撃に加えて、次々とミサイルを放ってくる。
それらを対処する為には、ヴァーリは、先程まで溜めていた魔力弾を放つ必要があった。
だからこそ、ヴァーリは、その魔力弾を放った。
その一撃で、ミサイルに当たる。
同時にミサイルを中心に凄まじい爆発が起きる。
爆発は、ミサイルに乗っていた先記を巻き込み、消える。
それを見つめながらも、ヴァーリは構える。
ここまで苦しめた相手が、この程度で終わるはずはない。
だからこその警戒。
しかし、その警戒は
『Change! Fantastic Beasts』
同時にヴァーリの上空を見上げる。
「傷ごとエグれば忘れられるってコトだろ?
だったら涙なんて……邪魔なだけなのに……」
そこには、ドラゴンを思わせる翼を生やした先記の姿だった。
それと共に確かに見えた銀髪の少女もまた、似た姿をしていた。
『これはっ、魔剣グラムの力っ』
同時に、ヴァーリの中にいたアルビオンが驚きの声を出す。
それを合図に、先記はドラゴンの翼を広げると共に、そこから幾千のビームをヴァーリに向けて放つ。
「っ」
先程とは違う魔力弾。
その脅威は、ヴァーリがこれまで感じた中でも一番の脅威だった。
通常の魔力弾よりも威力が高い事もあるが、何よりも龍殺しとして有名なグラムの力が、その一つ一つに宿っている。
一発でも受ければ、即死は間違いない。
エネルギーを吸収すれば、龍殺しの力で自らの首を絞めるだけ。
だからこそ、ヴァーリが狙うべきはその膨大なまでの数。
だが、先記はそれを全て叩き落すのではなく、最低限の回避を行うに留めている。
(くそっ)
空中では避けられないからこそ、地上に誘導しているのだ。
そして、それに乗らないと判断すると直ぐに別の攻撃手段に切り替えたのだろう。
ならば、このまま迎撃を続けるしかない。
だが、その攻撃は止まる。
「何のつもりだ」
「俺の役割はここまでだ。
どうやら、お前の相手は俺じゃないようだ」
それだけ言うと、先記は言い終えると共にそのまま校舎に降り立つ。
同時に、彼の隣には先程までの青髪の女性が少し首を傾げ、銀髪の少女は怒鳴っていた。
「ふっ、そうか。
どうやら、君と戦うには因縁を先に決着をつける必要があるようだな」
それと共に見つめた先には、ヴァーリが本来ライバルとする相手である兵藤一誠。
赤龍帝の籠手の持ち主だった。
「さて、赤龍帝と戦う前に、先記に質問だ」
「なんだ?」
「君の彼女達。
名前は一体なんだい?」
「……翼、クリス」
それに対して、3人はなぜか恥ずかしそうにしていた。
恋愛方面ではあまり興味のないヴァーリだが。
「なるほど、愛の力という訳か」
「『『そこで、なぜ愛!?』』」
そう、重なった声を聞きながら、笑みを浮かべる。