中原ミズキがスパダリ男装美女にレズ堕ちする話 作:あんみつ炙りカルビ
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「念願のお仕事につけて、人生楽しい?」
「楽しいよ。人を爆殺してた頃に比べたら万倍も」
「そう、よかった」
懸念事項が消えたとばかりに、カエデ──楠木司令の右腕であり、元ファーストリコリス上がりの秘書は胸を撫で下ろし、料理を口に運ぶ。
一口運ぶだけで、自然と笑みが出る。果たしてそれは料理が美味しいからか、相棒が元気にしていたからか、恐らく後者だ。
「あらやだ、美味しいわね………」
「任務遂行にはまず下調べから。女の子を口説いてお持ち帰りするときと一緒だよ」
「そしたら、私もお持ち帰りされるかしら?」
「君を持ち帰るには、店のレベルが足りないよ。君クラスなら三つ星ディナーがふさわしい」
気安いやり取りに、互いの声に歓びが混じる。道を違えたとはいえ、両者共に、互いの身を案じていたのだから。
このレストランにいる客たちは明日死ぬかもしれない、身の上で無事に再会できた事がどれだけ素晴らしいことか、彼女達以外に知る由もないだろう。
「その調子だと随分羽振りが良さそうね。海外で危ない目には遭ってない?」
「………海外は日本と違って、堂々と銃を持てるのがいいところだよね。あとは、これを持っていれば基本は安全だし、咎められてもマジック用と言い切れる」
軽く指を振れば、指又に現れるピンポン玉より一回り小さい玉。また手を振れば、その数は2から3へと増えていくが、その分、カエデの顔は静かに引き攣っていく。
「ちょ、ちょっと! ここで誘爆とかさせないでよ!」
「大丈夫大丈夫、これは火薬の量を抑えてあるから。癇癪玉くらいにしかならないよ」
再び、手を開いて閉じれば玉は跡形もなく、なくなっていて。焦りを飲み干すように果実水を口に運び、カラカラになった喉を潤していく。
それは余裕ありそうに見えて、彼女が抱えた心の影に踏み込むための緊張をほぐす為でもあったが、
「それで? 司令から何を言われて来たんだい? 規則第一の君が業務時間でわざわざ来てくれるなんて、何があるって言ってるようなものだよ?」
「わかっているなら、話が早いわ。率直に聞くけど、この間の地下鉄脱線事故………貴方が仕組んだ事じゃないでしょうね」
椿には最初からバレていたようで。逆に緊張が解けたカエデはスーツの内側ポケットから、グロックを覗かせて、脅すように問いかける。
椿はそれを見て、皮肉混じりに笑えば、
「やっぱりあれはリコリスの戦いの後か。脱線事故にしてはニュース映像がいかにも爆発によるものすぎるよ。情報隠蔽なら、画像処理もした方がいい」
「情報局の仕事が増えるわね………じゃあ、貴方は爆弾を売りに日本に来たわけでもないわよね?」
「だとしたら、今頃ボクはリコリスに殺されてる。君も知ってると思うけど、ボクは近接格闘も射撃もサードの上、セカンドの下でしかない。工作兵と観測主のスキルを買われただけだ」
「わかってるわよ、でも疑う事は許してちょうだい──貴方を信じてあげたいから、私達は疑うの」
「疑われれば疑うほど、僕らマジシャンの掌だよ、カエデ。ある意味、僕らは騙してなんぼの商売だ。信頼で目を閉じないでおくれよ」
試すような物言いに、呆れてカエデは物も言えない。
それではまるで疑って欲しいと言ってるような物ではないか。
「相変わらず、捻くれた物言いをして。そんなんだから、姑息な罠に頼らざるを得ないのよ」
「映画の世界でしか見ない狙撃を成功させる人に言われても」
出されたコース料理を食べ終わり、柚子のジェラートを食べながら2人は牽制の言葉を投げ合って。それでもそこに殺伐さは存在しない。
積み上げた信頼と、救えなかった罪がある。降るはずの罰がない。
「もう、帰るのかい?」
助けて欲しかった親友に椿は寂しげに声をかけて
「ええ、これ以上は皆が過労死してしまうわ」
救えなかった相棒に楓はさよならを告げて、
「「またね」」
互いに違えた道を再び、歩き出す。
いずれまた、交わる事を夢に見て。
*
日本について、まずしたのは拠点の確保だった。
目についたテナントビルを丸々借り切った。見た目は普通のグレーの建物。四階建ての周りにも溶け込んだ普通のビル。
通りに面したビル正面には看板もなく、さもテナントには何も入っていません。といった風に入り口もシャッターが閉まっている。パッと見空きビル。
しかし、中はお手製の罠だらけで。
一度入れば何かを失わなければ帰れないと自負している。
自分の護身用の武器を作る、工房も兼ねてはいる為、爆発してもいいような、場所を選択したのだ。偶に入り込んできた獣達が良い実験台になるからと。
慣れてしまった習慣だった。金がないなら考えたが、溢れるように湧いてしまうのだ。ならば身の安全を第一に考えた方がいいと、過去の出来事から判断してしまう。
車の出入りはビル裏側から、人目につきにくい場所を経由し、中への出入りもその地下駐車場を経由しなければいけない仕様だ。
それでも入って来るならば、容赦はしないがなるべく帰って欲しいとは本人も思っている。
スマホを操作して、地下駐車場のシャッターを開ける。滑り込むように降下していくと連動するように照明に明かりがつき一瞬にして地下全体の広さが視界に入るようになる。
地下駐車場に止めた、アストンマーティンをすり抜けて、レクサスを止めてアウディの鍵を引き出し、車に乗り込む。
光るスマホには、1通のメッセージ。
『手料理作って、待ってるから。早く帰って来てね♡』
「はー好き」
フロントミラーに映るだらしなく緩み切った自分を切り替えるように、引き締めた顔にするが、彼女がエプロン姿で料理をしているのを考えるだけで頬が緩んでいく。
「しっかりしろ〜初恋の人に捨てられたくないだろ、椿」
自分に言い聞かせるように頷いて車を走らせる。
もし、あの日たまたま女の子がナンパに引っかからず、即日出会いOKのマッチングアプリを使っていなかったら、彼女と付き合えるなんてなかっただろう。
もしも、少しでもあの瞬間がずれていたら、きっと出会うことなく、目的を果たして日本を旅立っていただろう。
昔の懐メロではないけれど、ロマンスの神様がいたらならばこの出会いに感謝していたくらいには。
「──ずっと一緒にいれたらいいのに」
一人車内で口籠る。
元気で聞くだけで高鳴るような声も、手触りの良い緩やかにウェーブしたその髪も、赤緑のハーフリムの眼鏡が引く理知的な目も、均斉の取れたしなやかな肉体も、全部全部──自分のものになればいいのに。
何でも買ってあげたい、何でもしてあげたい。
何処へだって連れて行きたい、どこにだって行きたい。
貴方がいれば、たとえ地獄の底にだって戻っていい。
貴方の言葉がなければ、そこで朽ち果てていたのだから。
「ちょうどいい時間かな」
車を走らせて、目的地に着く。
さっきまでの拠点とは違う、ミズキと付き合い始めてから速攻で契約したタワーマンション、その最上階にて彼女は待っている。
うっきうっきの感情を隠して、髪を整え、深呼吸。
彼女が好きな理想の男性像を演じるために。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。椿! もう、連絡くらいしなさいよ!」
「ごめん、ごめん。旧交を深めてたら………ね?」
出迎えた彼女を両手を広げて抱きしめて、今朝ぶりの彼女の匂いを堪能する。甘いのに何処か爽やかなレモンの匂いが、鼻をくすぐり、頸に顔を埋める椿に、ミズキはくすぐったそうに身を捩る。
「ほら。はやく入りなさい。ご馳走、出来てるわよ」
腕から抜け出した彼女の手に惹かれ、北欧イメージの家具を揃えた部屋に入り、ダークブラウンのテーブルに置かれた料理に椿は目を見開いて、首を傾げた。
「こんなご馳走………季節のイベントでもないし、何か狙いがあるのかな?」
「ぎくっ」
ミズキは、非常に浮かれていた。千束にダル絡みし過ぎて閉店後に、爪先を撃たれかけるくらいには。
『彼女に作ってもらってばっかりの女はいつか振られるよ!』
ミズキ、衝撃が走る。
確かに家事に掃除、お弁当すらやってもらって自分が何かした覚えすらない3ヶ月。振り返れば自分が恋人だったら容赦なく捨てるくらいにはヒモだった。
これは不味いと瞬時に判断、即刻、椿のタワーマンションに向かって買い込んだ材料でご馳走を作り出す。
3ヶ月記念という、面倒な女ランキングを更新しそうな心情で。
「うーん、僕の誕生日もミズキの誕生日でもないからなぁ」
怪訝そうな顔で部屋の食卓に並んだ、料理の数々を見て、ひとまず座る椿に、ミズキは冷や汗たらたらになりながら飲み物を注ぐ。
料理を作り上げて気づいたのだ、あれ? 自分、大分面倒臭いことしてない?と。
「た、単なる息抜きよ。息抜き! 旬の料理が安かったからね! た、他意はないわよ!」
とうもろこしの缶と、コンソメを冷たい牛乳で伸ばして冷製ポタージュに。メインディッシュは夏野菜をふんだんに使った夏野菜カレーだ。
最後に渾身の力作、タルトを生地に流し込んで、葡萄のコンポートで飾り付け。
旬ということで、予算も思ったほどかからずに豪勢な食卓が出来上がり、その完成度と建前の完璧さにミズキはほくそ笑んだのだが、椿は更に上をいくので。
「まさか、いくらミズキでも安易に3ヶ月記念だからなんて、理由を持ち出すわけはないだろうし………ちょっと幻滅しちゃうな」
さあ、ミズキはもう後には退けない。
なんとかして、今日を3ヶ月記念以外の、何か別の記念日としてこじつけなければ。
「そ、そうよ! き、今日はね………なんて事ない当たり前の日々を──」
「冗談だよ。でもその顔を見る限り、驚いてくれたようだね」
「〜〜っ! いい性格してるわ! 貴方は!」
ミズキの顔色が変わったからか、あっさりと椿の方から種明かし。ミズキは嫌われるんじゃないかという恐怖に筋肉痛になりそうな心臓を抑え、深呼吸。その間に椿は料理に舌鼓を打っていた。
「エンターテイナーになるにはまだまだだね。ミズキ」
「………掌で踊るのは貴方の上だけでいいわ」
だけれど、ミズキの表情は歳上の包容力を隠さずに笑っていて。椿の心臓がまた別の意味で鼓動を速くする。明日には止まりそうなくらいに。
「無論、ベッドの上でもね」
けれど、やられっぱなしではいられないと、彼女が外したボタンの下、うっすらシャツから透ける紐でしかないその下着に椿は飲み込んだ料理が気管に入って噎せてしまう。
「今夜は──寝かさないでね? ダーリン」
椿は嗜虐的なミズキの誘いに、咳払い。
しかし、瞬時に椿は返す刃で、
「構わないよ──やだと、言ってもやめてあげないからね」
ミズキの箸を落とす事に成功したのだった。
「な、なぁ………27歳が♡ってやばくないかな?」
「知らんがな。たきなーご飯食べて帰ろ〜♡」