中原ミズキがスパダリ男装美女にレズ堕ちする話 作:あんみつ炙りカルビ
みんな、男装美人による私生活ダメダメ女攻略好きだね?
私も好きさ!
頭痛さえ覚えるほどの蝉時雨が、暑さをいっそう追い立てる。
部屋の窓を全て開け、余計な家電のコンセントを抜いて、気休めに風鈴を吊るしても、半刻もすればシャツの色は汗で変わってしまった。
「やっぱり、胸元透けるな。このTシャツ………ミズキ、チラ見してるのバレてるからね〜」
「なんつーか、胸の谷間を見る男の気持ちがわかったわ………」
すっかり恋人の裸………女性の裸を無意識のうちに目で追うくらいには性癖を開拓したミズキは椿の部屋で溶けていた。
エアコンが壊れたからと避難しに来たらしいのだが、生憎こちらも電線工事で今日中の復旧は不可能と聞いて、ミズキは落胆したまま、ヨギボーと戯れている。
「仕事場のJKとかに手を出しちゃダメだよ? 合意なしは獣の第一歩だからね」
「人を本能で動く動物みたいに言うなっつーの………ねぇ〜どっかいかな〜い?」
冷蔵庫から水出しの麦茶を取り出し、冷やしておいたグラスになみなみと注ぐ。 氷がカランカランと涼しげに鳴って、すぐに露がグラスの表面に並ぶ。
「昼ご飯食べてシャワー浴びたらね。はい、麦茶」
立派な夏の風物詩を片手にミズキの猫撫で声に短く返して、彼女の待つベランダへ向かう。グランピングが可能!と謳っていた宣伝文句に違わず、広いベランダに冷水を張った金だらいに足をつける妙齢の美女が1人。
「……なんで、タワマンのベランダで、日本家屋の夏休みみたいな事してんのよ。もうちょい、なんかお洒落なのなかったの?」
「グランピングでも良かったけど、今日は夜に予定があるからだーめ。代わりに胡瓜の一本漬けはいかが?」
チェアに体を丸ごと投げ出して、顔をうつむけたままのミズキは不機嫌そうな声をぶつけてくる。 露出の激しい黒のタンクトップとブルーのホットパンツ姿は、汗で蒸れて、下手をすると下着姿よりも下着姿だ。
なのに、椿の目はいつもと変わらない。
男達みたいな獣を宿した情欲の炎がそこにはないのだ。
なんだか、それがミズキには悔しくて。
「はぁ…………浅漬け最高だわ。今日の天気予報、見た? 猛暑日よ、湿度80%よ。だ〜か〜ら」
「ビールはダメだよ? これからデートなのにお酒は入れさせないから」
「けち。拗ねるわよ? いい年こいた女が拗ねるのみたい?」
「録画して後々にキティ飲みながら楽しみたいくらいには」
「人の痴態でワインを飲むな!」
痴態を晒しているのは君だろ?とばかりに汗で多少よれたハーフパンツの露出された部分に、キンキンに冷えたグラスを押し付けてみれば、
「…っひ、!?」
それまでの緩慢な調子からは大きく外れて、活ける魚みたいに、大きく跳ねた………が、相変わらずチェアに投げ出された肢体は動かずに顔を挙げ、視線で椿に不満を訴えるのみ。
「……セクハラ」
「恋人の前で下着姿同然でくつろぐのはセクハラって言わないの?」
「私からするのはいいのよ。アンタからするのはセクハラを通り越して、事案」
「わあ、理不尽………」
彼女の手の届くところにテーブルを寄せ、そこにグラスを置く。
のどが渇けば、自分から手を伸ばして取るだろうと思って。
(いやでも基本、僕に取りに行かせるな………)
「なんか、失礼な事考えなかった?」
「いや? ふふ、それより暑いのが嫌なら、なんで僕の家に来たんだい? 涼しい場所に連れて行ってって望めば君の自宅に迎えに行って、海辺をドライブしたのに──」
「……貴方がいるからよ」
ちりん、と吊るされた風鈴が風に揺られ、飛行機雲が飛んでいって、残された白い跡が映えるだるいくらいの快晴の下、2人の合間を沈黙が支配して。
「………ごめん、今のなし」
「………今更なかったことには出来なくない?」
お互いの顔が熱いのは、きっと暑すぎる夏のせいだから。
そんな言い訳したところで、言の葉の思いは消えないけれど。
*
「最近、めっきり暑くなったね〜たきな〜かき氷食べてかない?」
「何を言ってるんですか。店長とくるみにだけ任せていられないでしょう」
「ぶーぶー、少しくらいいいじゃんか………ってあれ?」
DAから振られた任務を片付けた帰り道、暑いのにたきなにベタベタしていれば、見つけたのは男女………と見せかけた女性2人組。
年休取ったミズキと、その恋人の椿だった。たきなでさえ、千束のだる絡みから逃れようとするくらいには暑いのに、2人の手は離さないとばかりに握られていて。
「ほうほう、お熱いですね〜御二人さん」
「帰りますよ、千束。人の恋路に好奇心は禁物です」
「まあまあ、いいじゃないですか、たきなさーん。2人がどんなデートするか、ちょっとだけでいいからさ!」
「………いやと言っても無駄ですからね。1時間だけですよ」
千束のゴネにたきなは時間を確認、ランチタイムは過ぎてアイドルタイムだ。最悪はくるみだけでも回せるだろうと判断して、許可を出す。
千束はいえーい!と高らかに拳を突き上げて、彼女達の跡を追いかけ始める。
「ところで、たきなは尾行訓練の成績、どんなん?」
「上澄ではあったと自負してますが。千束は?」
「ファーストリコリス舐めちゃあいけねえぜ」
「何故、急に江戸っ子に」
暫く尾行していれば、たどり着いたのはブティック。一応、ブランドではあるが頑張れば学生でも出せないくらいの店に入店した。どうやら二人は、ここでウィンドウショッピングをするようだ。
「ミズキはどうでもいいけど、恋人さんが何に興味あるのか気になるなあ」
「確かにミズキの話ぶりからだと、男装、もしくはユニセックスの服しか着ないらしいですからね、あの人」
ミズキに写真を見せてもらった限り、見れば見るほど男性としか思えない顔立ちや振る舞いからして、女性らしい服を買いに来たわけではないと推測。
ミズキの合わせをしているのを見れば、本日の主役はミズキの方なのだろう。
「あの2人、めっちゃ注目されてない?」
「美女二人がされないわけがないでしょう………」
一見すると恋人同士が仲睦まじくデートしている光景なのだが、肝心の椿は、穏やかな笑みを浮かべている為に、侍らせてる感がない。
どちらかというと、一歩引いて、話を聞きながら、周囲に注意を払い、ミズキが人や物とぶつかりそうな時など、さり気なく気づかせている。
そのさり気ない注意がさり気なさすぎて、ミズキや店員との会話が、変なところで途切れないのだ。
「やばい、椿さんってば、お気遣い紳士としてのレベル高すぎる……月9かよ」
「ミズキに彼氏を狙うって、宣戦布告でもしてきたらどうですか? 直接戦闘なら千束が勝てるでしょう」
「それしたら、情報戦で負けるからな………」
三角関係とか発生しようものなら、包丁で刺されるのではなく、情報戦による社会的な死をさせられそうだと、おどけて言う千束に、たきなは苦笑しつつ、視線だけで彼女達を追いかける。
「まぁ確かにミズキからしたら、高嶺の花以上ですからね………別れたりしたら、もう男じゃ満足できないんじゃないですか?」
「というか最近、ミズキの視線が私の胸や尻に行ってるし、既に性癖壊されてる自覚ないんじゃない?」
更衣室やテーブルを拭いてる時にミズキの視線が、自分の尻に刺さっているのを思い返す、千束。最近では無自覚とはいえ、美人なお客様を目で追ってる始末だ。
そんなミズキは椿にあれやこれやとキープしてる服を持たせては、店中を連れまわし、挙句の果てには1着しか買わないという男性が嫌うような時間の使い方をしている。
それなのに、椿は笑顔のままで支払いもしてあげて荷物も持つという彼氏を超えて従者の振る舞い。デートで100点を叩き出していた。
「それにしても、男装してるだけでちゃんと女性なんだね」
「どういう事です?」
「いやいや、男の人って女の子の長い買い物嫌うじゃん? こういうのにちゃんと付き合ってくれる。それだけでポイント高いんだけどなぁ………」
「いまいちピンと来ませんが………」
たきなが首を傾げると、千束はふむふむと思案した顔をしながら、手近にあった小物を二つ手に取った。
「ねぇ、この二つだったらどっちが私に似合うと思う?」
「え? その質問ってなんか意味あります? まぁどうしても答えろって言うなら、どっちも似合わないですよ。千束にだったらこっちの色が似合うと思います」
「え?」
「……? どうかしました?」
何やら真面目な顔で、こちらが選んだ小物に視線を落とす千束。
その姿に、たきなは首を傾げた。
「よく分かりませんけど、結局なんだったんですか、今の?」
「ちょっと想定外のコトが起こって混乱してる」
「?」
やっぱり千束の言葉が意味がわからないたきな。
普通のJKにしか分からない思考だろうか――みたいなことを思いながら、ミズキの方を見れば、そろそろ店を出ようかという空気になっている。
「よっし、後を追いかけようぜ!」
「ノリノリですね、千束………」
ブティックを出て、ミズキを連れた椿はお洒落な繁華街へと足をすすめていく。ちょっと楽しくなってきた2人は後を追いかけていく。
すると、椿が車を取りに行ってくるとばかりに鍵を見せて、ミズキをコンビニ前で待たせることに。
「変わり映えしないねー」
「そろそろ潮時ですし、帰りましょうか」
「せめて、2人がこれから何処に行くか、見たい」
「野次馬根性丸出しですか………」
携帯をいじるふりして、ミズキから見えない建物の角でわちゃわちゃする2人。ミズキからすれば制服でバレる可能性があるので、これ以上は近づけない、さてどうするかと思案して
「君達、僕達に何か用かな?」
反射的に拳銃を引き抜きそうになったたきなを持ち前の観察眼で察知した千束が彼女の肩を押しやり、背中に回す。前に出た千束が見たのは目を見開いたままの椿だった。
「椿さん!?」
「──なんで、僕の事を知ってるのかな?」
「あ、怪しいものではないです! 私達は、ミズキの後輩で………!」
「………もしかして、リコリコ喫茶店のバイトの子達? ミズキが言ってる千束とたきなって子」
こちらを値踏みするような目に、千束は愛想笑いでたきなは理路整然とした説明で取り繕うが、心臓はバックバックである。何せ、銃を見られたかもしれない。ミズキの恋人の一般人に。
ここからどう巻き返そうか、脳を高速で回す2人の背後からこれまた信じられないとばかりに驚いた声がする。
「ちょ、アンタら! 何でこんな場所に、いんのよ!?」
「げっ、ミズキ!」
「まさか、アンタら………尾行してたの!? 人の恋路を邪魔したら、馬に蹴られるって知らないわけ!?」
夜の繁華街で怒声と弁明が入り混じり、変に注目を集めてしまう。リコリスとしては失格もいい行為に、椿は目を伏せて、少し考えたまま、3人に声をかけた。
「良かったら、食事でもどうかな? 終わったら送っていくよ」
──リコリスが自分を尾行してきた。その意味を正しく知る為に。