中原ミズキがスパダリ男装美女にレズ堕ちする話   作:あんみつ炙りカルビ

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夏祭りが書きたかったのに、そこまで行かなかった………次回から夏祭りでイチャイチャします。
時間軸はサイレント・ジン襲来した七夕まつり後くらい。


君がいた夏は遠い夢の中

 空に消えていく打ち上げ花火のように、この関係にもいつか終わりが来るのだろうか。

 

「ミズキ、起きてるよね………流石に」

 

 昼過ぎの痛いくらいの陽射しの中、椿は揺らぐ陽炎を車で駆け抜ける。恋人のミズキからのラブコールに合わせて、彼女のマンションにお邪魔する為にだ。

 

 そろそろ同棲を考えてもいいかもしれないとは椿は考えているのだが、実行に移せない理由があって。

 

「ミズキ〜まーた、散らかして。偶には自分で片付けたらどう?」

 

 床には散らばった服と下着、机の上には所狭しと酎ハイやビールの空き缶と瓶、焼き鳥の串などが乗ったまま、ミズキはソファの上で仰向けでスマホを操作している。

 

 つまるところ、ミズキの堕落っぷりである。

 

「今回は片付けた方よ〜それよりもさ〜浴衣、どれがいい?」

 

 空返事に椿は肩をすくめて、彼女の着替えと下着をかごにしまっていく。付き合いだしてから、せっせとお世話をしてばかりからか。ミズキの怠惰っぷりが増している気がする。

 

(実に、いいことだね………このまま僕なしで生きていけない体にしていきたい。偶にはミズキの手料理食べたいけど)

 

「ちょっと、聞いてるの? 椿」

 

「ミズキは若草色が映えるから、若草色を下地に好きな花柄でいいと思うよ。ミズキスタイルいいし、なんでも似合うとは思うけど」

 

「浴衣ねえ………胸潰すから嫌なのよね。苦しいし」

 

 豊かな双丘は寝ていてもその存在が崩れることはなく、夜に熱をかわす時にはその胸の柔らかさに椿でさえも理性を保つことがやっとなくらいなのだから。

 

「持つものの傲慢だよ、それは………ミズキ、服は脱ぎっぱなしにしないて、ちゃんと畳むか掛けないと。しわになっちゃうよ。せっかく買ってあげたのに………」

 

「んーっ! 椿、うるさ〜い」

 

「わあ、理不尽………ミズキ? 僕は君の恋人であってママじゃないんだよ」

 

 望むなら、赤ちゃんプレイさえやる覚悟の椿ではあるが、ミズキのママになるつもりはない。ミズキの恋人としてダメにしたいだけで、ミズキの都合の良い存在になりたいわけではないので。

 

「でも、キッチン周りは綺麗にした! だから、ごほーび、ちょうだい?」

 

 寝っ転がったまま、ミズキは艶やかな唇を指差して、椿からのキスをねだる。付き合い出した頃は時折椿からのキスに躊躇うことがあったけれど、今では自分からねだるくらいには性長してしまった。

 

 キッチンを見れば、確かに生ゴミやシンク周りに水垢はない。そう考えると、ご褒美をあげるのはやぶさかではないので、ソファの肘置きに頭を乗せた彼女を覗き込んで、唇をつける。

 

「んっ………もっと」

 

 ねだる彼女と吐息が混じり、生物のような粘膜の接触に欲望がふつふつと湧いてくるのを感じる。これ以上は我慢できなくなると、わざとリップ音を立てて、終わりにした。

 

「はい、おしまい。浴衣、買いに行くよ」

 

 ミズキも唇を尖らせていたが、渋々立ち上がると手荷物を持って玄関に向かう。椿も溜まっていたゴミを持って、階段を降りる。

 夏の匂いが濃くなる頃、開かれるのは花火大会。夜空を彩る花火に負けないくらい、恋人を飾る。

 

 いつ振り返っても色褪せないセピア色の記憶を作る為に。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ。いらっしゃいました。椿様。本日はどちらを御所望でしょうか」

 

「彼女に似合う浴衣を。勿論購入──」

 

「いえ、レンタルで! レンタルでお願いします!」

 

 ミズキは真夏なのに冷や汗が止まらない。案内された呉服店が一見さんお断りのお店で、なおかつ値段が想定よりもゼロが一つ多い上に、所作や立ち振る舞いから歴史を感じる。

 

「ここからアレまでを前株で〇〇で領収書で」

 

「これを彼女へのプレゼントに、現金で」

 

 周りを見れば、若い女性を連れたブランドスーツの男性が、領収書で和服を購入していたり、恰幅のいい男性が小洒落た女性に購入していたりと、何処となく漂う高級店に胃が痛くなってきたミズキ。

 

「それでは椿様、奥の部屋に。奥様はこちらへどうぞ」

 

「お、奥様………ってそんな、やだぁ、もう!」

 

「ミズキ、ミズキ。戻ってきて」

 

 さらっと貢ごうとしてくるスパダリ彼氏の足を踏みつけ、レンタルを強く訴えれば、くすくすと笑った店員に連れられて、奥の部屋に。

 畳の匂いと芳醇なお香の香りが入り混じる部屋にて、奥様という言葉を反芻しながら、待っていれば、1着の浴衣が運ばれてきて。

 

「ミズキ様。こちらはいかがでしょうか。若草色の下地を基調として、赤と白色の………椿の花を模様としております。椿は『長寿』などを意味しており、格式ある浴衣になります。椿様の隣に立つには相応しいかと」

 

「あ、じゃあ、それで………」

 

「ありがとうございます。一度着付けした後、レンタル予約をしておきますので、お時間になったらいらして下さい」

 

 店員に誘われるまま、一度着てみることに。

 何しろ、浴衣なんてミズキからしたら初である。

 正確に言えば、恋人と浴衣を着て夏祭りデートなんて、過去の自分からすれば信じられないくらいだ。

 

「奥様はスタイルがいいので、タオルを詰めないといけませんが………色合いは申し分ないですね」

 

 姿見に映った自分は、いつもの喫茶店の和服とは違う品の良さがあって。浴衣に着られている感はあるけれど、それさえも手直しによって自分の色に馴染んでいく。

 

 その後も、帯の色や髪を纏める簪などの合わせや由来の説明を受けながら、差し出された抹茶とお茶菓子に舌鼓を打っていれば、別室にいた椿が合流。

 

「ミズキ早かったね。気に入った浴衣は見つかった?」

 

「ええ。アンタの方こそ、長かったわね」

 

「色々、いい浴衣があったからね。目移りしてたんだ。どんな柄かは楽しみにしておいてね?」

 

 人差し指を唇の前に持っていく姿があまりにもサマになっていて、ミズキは赤べこのように真っ赤な顔で頷くばかり。その初々しさに店員も微笑みながら、2人に頭を下げて見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

「それでは始めていきますね」

 

「え、あ、はい??」

 

 美容院でセットしてもらおう、と椿に連れてこられたまではいい。

 その美容院、サロンだけで5階までフロアを占めているのもまだ分かるし、恒例のように顔パスなのも驚くが納得はする。

 ちょっと、隣で受けているのが最近映画で話題の有名女優やすれ違う人がゼクシィで見たモデルばかりでミズキは言葉を失う。

 

 最初に5階に連れて行かれて、椿と共にスパトリートメントを受ける為に、石鹸だけで数千円なものを選択し、施術室に。

 海賊達が舞い踊るような大海原の船上で、気づけばマッサージを終えていたミズキは椿に連れられて、階を降りる。

 

「髪はいかがいたしましょう。浴衣を着るとお聞きしていますので、夏風に涼しげに。簪をお使いになるならば、長い髪を纏めてアップにするようでよろしいですか?」

 

「あ、はあ、お任せします………」

 

「椿様は、髪を編んでカチューシャ風にいたしましょう。椿油を軽く塗って艶を出します」

 

「隣の彼女のエスコートなんだ。気合いを入れて頼むよ」

 

「かしこまりました。心を込めてやらせていただきます」

 

 4階では、漸くとばかりの髪のセットに入る。

 怒涛の店員から来るマシンガントークに、ミズキは美容院に初めてきたぼっちみたいな受け答えをしてしまう。

 対して、椿は堂々とした態度で受け答え。本来の彼女はショービジネスを舞台にしているのだから、当然だといえば当然なのだが。

 

「次は3階で、スキンケアとヘアケアをさせていただきます。2階でメイクアップをしていただいて、終わりとなります」

 

「因みに………お値段はおいくらでしょうか?」

 

「22万になりますが、椿様からいただいておりますので大丈夫ですよ?」

 

「ひえっ………」

 

 普通に考えて、絶対に一人では訪れないであろうサロンのお値段に戦線粛々しながら、流れるように飾り立てられていく自分の姿に嬉しさ半分、22万の数字に思考が邪魔されて、背筋が冷える。

 

「大丈夫だよ、ミズキ。僕はミズキが綺麗になる姿が見たいんだ」

 

「椿………」

 

「因みに結婚してくれなかったら、全額返済ね?」

 

「椿!?!?」

 

 ここまで貢がれて平気な人達は一体、何を考えて生きているのかとミズキは常々思いつつある。スパダリ彼女とはいえ、本気で将来的に身請けするレベルでなければ吊り上げが取れず、胃が痛くなる勢いだ。

 

「冗談だよ、ミズキ。まだ………ね」

 

「まだって………そんな、期待しちゃうじゃない」

 

 ヒモやニートには才能がいるとはいるが、自分にはつくづく才能がないと実感する。代わりにあるのは花嫁になる才能しかないとミズキは深く頷いた。

 

 千束が聞いていれば、養豚場の豚を見るような可哀想な目をするだろう。何、夢見てんだ、この女は、と。

 

「お熱い空気感の中、申し訳ありませんがヘアメイクさせていただきますね。いちゃつくのはお祭りまで取っておくべきかと」

 

「「ごめんなさい、お願いします」」

 

 それより先に店員が限界だった。

 プレイボーイをプレイボーイに売るくらいには。

 

 

 

 

 

 

 美人が一人、賑わう祭り、行き交う群衆で君を待つ。

 待ち合わせをしたいと、切り出したのは自分だっけと思い返すように携帯を開いて、過ぎる時間を惜しんで思いを馳せる。

 

(どんな浴衣を着てくるのかしら………暗い色が似合いそうよね。美人でスタイルいいから、なんでも似合いそうだけど)

 

「ミズキ」

 

 浴衣を見て、なんて声をかけようかなんて。

 選んでいた言葉全て夜の帳に隠された。

 

「──お待たせ。寂しくなかった?」

 

 彼女が着ていたのは………黒地に帯は赤、柄は花火と儚げな印象を与える浴衣姿はとても綺麗で儚くて。

 初めて出会った第一印象を思い返すような透き通るガラスのような美人がそこにいた。

 

「あ、その………に、似合ってるわね。浴衣」

 

「ミズキこそ。僕が見立てた通り、若草色が似合ってる。可愛いよ、惚れ直した」

 

「あっ………うっ」

 

 先手を取ろうと告げた言葉をナチュラルに返されて、言葉の弾が虚空に消える。じわじわと上がっていく心臓が、暖かで心地よい熱を顔に運んでいく。

 

 熱帯夜だと言うけれど、この暑さは夏の暑さじゃ足りなくて。

 

「ミズキ、あまりにも綺麗だから………エスコートさせて貰えないかな?」

 

 差し出された手が心地よい冷たさを帯びている。手が冷たい人は心が温かいなんて言うけれど、今はそれより着飾った彼女の美しさと凛とした佇まいに目を奪われて、

 

「さ、させてあげるわ………だから、離さないでよね」

 

 握り返した手からしっとりした柔らかさを感じて、指先が絡んで恋人の繋ぎ方に変化する。今更ながらに学生時代の思い出のような恋愛に、ミズキは柄にもなく、10代に回帰して、先導する彼女を追いかける。

 

「──離さないよ、もう二度と」

 

 学生時代を捨て去った2人の、初めての夏が今、始まる。




次回タイトル
「空に消えてった、打ち上げ花火」
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