中原ミズキがスパダリ男装美女にレズ堕ちする話   作:あんみつ炙りカルビ

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空に消えていった、打ち上げ花火

「リンゴ飴って凄く食べづらいわよね………」

 

「でもお祭りだと買っちゃうよね」

 

 浴衣美女が2人、行き交う人に紛れて、屋台を巡る。

 群衆に流されないように繋いだ手は離さずに。

 

「日本のお祭りといえば綿飴、盆踊りだと思うんだけど、ミズキは?」

 

「そりゃ、金魚すくいに射的でしょ。あとは、理不尽なくじ引きとかね。あれでゲーム機当てるのに夢見た時あったわ〜祭り行けなかったけど」

 

「僕もだよ。大人になってから夏祭りとかを初めて体験したかな。10代の頃は寮生活だったからね」

 

 甘酸っぱい青い春を思い返すはずが、2人によぎるのは銃弾と血が飛び交う赤い夏。夏になると羽目を外して、馬鹿をやる犯罪者が増えるので、彼女達は寝る暇もなく、治安維持に勤しむのだ。

 

「ミズキ、僕。はしまき食べたい」

 

「いいわね。あ、かき氷もあるじゃない。たまには奢ってあげるわ。何味がいい?」

 

「宇治金時!!」

 

「リコリコ喫茶店に来て頼めば?」

 

「奢るとは?」

 

 だから、むしろ夏祭りを嫌う方が普通であり、大人になって冷静になったからこそ夏祭りを心から楽しめるとばかりに心ゆくまで屋台のご飯に舌鼓を打つ。

 

「ほら見なさい、椿。学生達が、何を食べるかで悩んでるわ。可愛いわね〜」

 

「大人の財力でビール飲みながら、肉串大量に持ってる人が言うとノスタルジー消えるよね」

 

「両手に持ってるフルーツポンチとクレープ下ろしてから言え」

 

 まあ、彼女達はいい大人なのでビニールのぷよぷよカップでビールを飲みながらの食べ歩きという、青春を取り戻すとは真逆の楽しみ方をしているのだが。

 

「ミズキ、たこ焼き食べる?」

 

「食べる! 酒のつまみには欠かせないわよね〜ソース味って………」

 

 たこ焼きを受け取ろうと片手を開けたミズキの口元に差し出されたのは、青海苔とソースが香るたこ焼きと椿の悪戯っぽい笑み。

 その意味を理解したミズキの顔に徐々に赤みが差していき、それでも付き合いに慣れた彼女は上目遣いで前髪をかき上げて、

 

「はい、あーん」

 

「あ、あーん」

 

 たこ焼きを口に運び、唇についたソースを指で拭って、舌で舐めとる。一連の流れを見ていた学生のカップルの片割れは生唾を飲み込み、連れに熱々のたこ焼きを押し付けられたくらいには視線を浴びる。

 

「ざまあ」

 

「それさえなければ大和撫子なのになぁ………嫁の貰い手なくなるよ?」

 

「うっさいわ。それにアンタがもらってくれるでしょうが………あ」

 

 思わず漏れた心の声に、繋がる手からじわりと滲み出す焦りがあって。心なしか歩く速さを上げたミズキだったが、とってもにこやかな椿からは逃げられない。

 

「ミズキ」

 

「ミズキシラナイ。ワタシハセーラームーン。ツキニカワッテオシオキヨ」

 

 颯爽と戯れに買ったお面を被り、偽物を演じるキャラの選択が古臭いミズキに椿は彼女の腰に手を抱き寄せて、耳元で甘く、未来を告げるように囁く。

 

「ミズキはさ、どこで式を上げたい? ハワイ島の海が見える小高い丘? それともカナダの静かな湖畔がいい? ミズキが好きなところを選んでいいんだよ? 式を挙げるなら関係者達呼ばないとね」

 

 瞬間、ミズキの脳裏に過ぎる関係者達の写真………具体的に言えば千束が見せて来たハリウッド映画やロマンス映画の主演達と肩を組んだり、ツーショットを取る椿の姿。

 

 そこにちょっとヘリの操作ができる一般人喪女が紛れたらどうなる?

 結論は省くが、間違いなく死ぬ。

 

「射的………」

 

「え?」

 

「射的で決めるわよ! 私が、勝ったら先ずは同棲から!」

 

 自分の顔がいいことをわかっている使い方の椿に、ミズキの体から力が抜けていく………が、辛うじて踏みとどまって、射的を指差して吃りながらも会話の矛先をずらすが、

 

(焦ってて可愛いなぁ、ミズキ。どっちにしろ、段階を踏んでいけば合理的に連れ帰る事出来るし………ミカ元司令に交渉してみようかな)

 

 椿からすれば、焦るミズキも可愛いのでヨシ。第一に射的勝負を仕掛けてはきたが、ミズキはリコリス脱落生、椿は元セカンドリコリスの上に射撃は今でもたまにやっている。

 

「いいよ。アメリカでも射撃はやってるからね。僕の勝ちは揺るがないけど、それでもやる?」

 

「ふふ、貴方は勘違いしているわ。椿。勝負ってのは──終わるまで分からないものよ!」

 

 意気揚々と射的を始め出す美女2人だが、椿の構え方があまりにもサマになり過ぎているので、次第に人が集まりだす。顔立ちが整っているだけで、全てが絵になるのだから、仕方ないのだが。

 

「………あれ?」

 

「よっしゃあ! 1個目!」

 

 椿がかっこよく品物を落とす事はなかった。

 

 椿は基本的に、『誰もが理想とする男性』を演じる傾向がある。この場合、連れてきた彼女をがっかりさせない為に高得点の品を迅速に撃ち落とすのが、いいのだが。

 

(調子に乗って、見ないふりしてたけど………僕、あまり射撃が上手くなかったな………そういえば)

 

 自分が何故ギリギリセカンドにいれたか原点を思い出し、右手を額に添えて、神妙な趣に。その上、射的の屋台では高い品物には基本的に錘が入れられており、ちょっとできる程度では落とせないようになっている。

 

 たきなクラスの射撃の腕前があるならともかく、パートナーにさえ、『乱戦中には銃は使わないで』と言われるレベルの自分にはあまりにも無理があったようだ。

 

「よっしゃ、2個目! 椿! アンタは!?」

 

 コルクを使い切って、狙っていたお菓子の詰め合わせを落としたミズキが振り向いた先には空になったコルク皿に向けて手を合わせて必死に拝む椿。

 

「お願い! コルク増えて!」

 

「増えねーよ?? 悔しいなら金魚すくいやる?」

 

 ミズキの研ぎ澄まされた言刃に、椿は無表情のまま屋台の人に銃を返すのでミズキは居た堪れない空気を変えるために、近くの金魚すくいを指差した。

 

「ふふ、さっきまでの僕とは違うよ、ミズキ。今度こそかっこいい僕を見せてあげるから、応援してね。では………いざ!」

 

「期待してないけど頑張ってね」

 

 そして、期待を裏切らない椿はいい所を見せたいがあまり、力みすぎて豪快に金魚ごと水をぶちまけて頭から水を被るという非常事態が発生。

 

「これを使うか………」

 

「はいはい、おしまい。おじさん。金魚返すわね。行くわよ、椿」

 

「金魚取れなかった………」

 

 終いにはミズキの前に使うつもりもなかった爆弾型スーパーボールを取り出す始末。水ごと金魚を打ち上げた為に、おまけの金魚ですらもらえず、しょんぼりと肩を落とす彼女をミズキは慰めたまま、そろそろ時間かと手を引く。

 

「ミズキ どこへ行くんだい?」

 

「そろそろ花火が上がる時間だから、花火を見るに決まってんでしょうが。早く行かないと場所取られるでしょう?」

 

 何しろ、ネットでも話題の花火大会だ。

 学生達や仕事帰りの社会人達でごった返す中で早めに席を取りに行かなければ、花火を立って見ることになってしまう。

 

 それはそれでいい思い出ではあるのだが、2人とも20代後半。

 膝や腰への負担をなるべく避けていきたいのだ。

 

 そんな考えの下、群衆をすり抜けながら進むミズキを椿が止めた。

 振り向けば、さっきまでの萎びた椿はおらず、いつも彼女が、優しく手を引いて。

 

「こっちに穴場があるんだ。ベンチもあってね」

 

 椿に言われた穴場の場所に誘われたミズキは、小さな高台から祭りの会場を見下ろせる場所で、椿が隣に並ぶ。

 差し出されたのはコンビニで買って来たのだろうアイスコーヒーがあって。

 

「………………」

 

「………………」

 

 花火が上がるまでまだ少し時間がある。話を切り出すには最適な時間だろう。椿は深く呼吸を一つして、ミズキを真っ直ぐ見つめる。

 

(この空気感………ドラマでしか見たことないけど見たことある! 告白の空気! 私、されたことないけど! というか私達恋人同士だけど! ってことはつまり結婚!? プロポーズ!?)

 

「──ミズキ、話があるんだ」

 

 ミズキは黙って頷いた………が、彼女の呼吸が荒い。獰猛な野生動物が今すぐに目の前の獲物に食らいつかんばかりの形相。

 まさに今すぐに結婚したいミズキからしたら、まさしくそれはぶら下げられた高級肉。食いつかないわけにはいかない!

 

「ミズキ、僕は来年の年明けにはここを出る」

 

「………え?」

 

「1年限りの休業なんだ。これはニュースでも取り上げられていてね。やるべきことはまだ果たせてないけれど、復帰を待っている子猫達を待たせるわけにも行かないんだ」

 

 青天の霹靂、というかすっかりくるみが言っていた話が記憶からすっぽり抜けていた。確かに大事な話でだけれど、大好きな人と大切な思い出を作りに来て、それはあんまりではないか。

 

 ミズキは震える体を抑え込んで、彼女に手を伸ばして。

 

 

 

「その時に………君にもついてきてほしい」

 

 

 

 震えが止まった。手が引っ込み、腕が出る。

 衝動が、葛藤が、全てがない混ぜになった感情のまま、ミズキは椿に抱きついた。

 

「あっったりまえじゃないの!? 馬鹿じゃないの!? 私が断ると思ってたの!?」

 

「だって、君。リコリコ喫茶店、結構好きだろ?」

 

「………ええ、そうね。好きよ。生意気な妹みたいな奴がいて。コーヒーが美味い店長がいて。最近また生意気な妹が2人増えたけど。それでも私の家みたいな場所だもの」

 

 中原ミズキは孤児である。DAに拾われたがリコリスになれず、情報局で働き続け、これから先の未来を犠牲にして、平和を維持する子達を見て、ミズキは嫌気が差して、ここに来た。

 

 リコリコ喫茶店は──彼女にとっての家族である。

 そう近くない内に終わるとしても、だからこそ、

 

「彼女達が歓迎してくれないわけがないもの。馬鹿だけど、気がいい奴らだから」

 

「………うん、分かってるよ。ミズキ」

 

 分かっている。彼女がいる今の場所がどれだけ居心地いい場所なのかも。その中心………自分の恩人でもある錦木千束がもうすぐ死ぬことも知っている。

 

「だから改めて、キミに言わせてほしい」

 

 彼女の瞳が自分を写し、自分の瞳に彼女が映る。2人だけの世界で、互いの顔がよく見えるように夜空に花火が咲いて──

 

「僕に君を幸せにする権利をください。君に救われた僕がこれから先、全てをかけて貴方に返すと約束します」

 

『また、貴方に会ったら好きだと言っていいですか!!』

 

「………ん?」

 

 告げられた彼女の言葉に妙な引っ掛かりを覚えた。花火照らされた彼女の顔に、何故か過去のセカンドリコリスの残影が達成感と焦燥感が入り混じる乙女な顔をしていて。

 

 彼女の服の裾を握る手に力が入る。

 その先を語ることは容易いけれど、きっと言ってしまえばこの関係が壊れてしまいそうで。

 

「どうかしたかな? ミズキ?」

 

「………ううん。何でもない」

 

 ミズキは口を閉ざすように、椿に唇を寄せた。

 彼女の過去と未来が繋がってしまった、裏取りをしてからでも事実を告げるにはおそくはない。

 

「──大好きだよ、ミズキ」

 

 花火の煌めきが椿の幸せそうな笑顔を縁取った。

 恋多き女の子の可愛らしい笑顔を。

 

「私もよ、椿」

 

 今日という花火と記憶に刻み込むように。

 ミズキは夏の夜空に愛を打ち上げた。

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