中原ミズキがスパダリ男装美女にレズ堕ちする話 作:あんみつ炙りカルビ
「夜になりましたね〜たきなさん」
「温泉気持ちいいですね、千束」
白く濁る湯の中で月夜を見ながら溶ける2人。
うら若き女子たち2人のために、椿とミズキは近くの温泉を探したのだ。幾らリコリスでもシャワー浴びれないのは精神にくるのだから。
もちもち雪見だいふくみたいになってる千束の背後から、水面に波紋が広がっていく。振り向いた矢先にいたのはタオルを持ってお湯に入ろうとする椿の姿。
「やあ、ふたりとも。湯加減はどうかな?」
「さいこーでーす」
「ミズキさんはどうしましたか?」
「酔い覚まししてから入るって。多分、今日はお風呂に入らないんじゃないかな」
肩まで浸かった椿、男装しておらず、女性としてのありのままの肉体を曝け出しているが、ここには彼女の透き通る肌と、豊かな双丘に興奮するものはいない。
(ミズキが夢中になる訳だ………大人の色気ってのが見て分かる)
「千束、どうかしましたか?」
「ミズキは色気ないなって思って」
不思議そうに首を傾げるたきなを笑って誤魔化し、しばし柔らかく暖かなお湯の毛布を楽しんでいれば、たきなが思い出したかのように、
「そういえば、ミズキさんと同棲始めたんですっけ? ミズキさんが滅茶苦茶自慢してましたよ」
「言ってた、言ってた。閉店後の晩酌しなくなって、速攻で帰るようになったよね。愛しのダーリンが、ご飯作って待ってるって」
「うちのハニーが迷惑かけてすまないね。お詫びにアイスでも奢ろうか」
「ハニーの言葉に嫌らしさがないの、才能でしょ………」
同棲の話題を口にすれば目に見えて、彼女の口が速くなったのが分かるし、表情も随分と和らいだ。当初はミズキのことを利用しているばかりと思っていたが、本気でミズキと添い遂げるつもりらしい。
「ミズキといつ結婚するつもりなんですか〜? 出来たら後、2年以内が良かったり?」
「なんで2年なんですか………」
「いやほら、もしかしたら私が日本にいない可能性あったりするかもじゃん。ハワイ挙式されてもブラジルとかだったらキツくない?」
「ファーストリコリスは基本的には日本だよ。出荷されるのは主にセカンドやサード達だ。電波塔の英雄なら日本で飼い殺しじゃないかな」
「千束には無用な心配で………っ!?」
飛び交うはずのない単語を耳が聞き取るより、早くたきなは椿から離れるが、ここは浴場。銃もなければスマホもない。そもそも裸一貫でどう戦えばいいのだ。男でもあるまいし。
「………いつから、気づいてた?」
「最初から。リコリス喫茶店の店長ミカさんは僕がセカンド時代の元司令さ。でもまさか恩人が2人もそこで働いてるとは思わなかったけど」
「え、千束も気づいて、というかわかってたんですか!?」
「仮にもDAの古株だよ〜私。昔、悲惨な目に遭ってリコリス引退した工作兵がいるって話も聞いたことあったし。私が電波塔の英雄になったおかげでリリベルにそういう用途にされるリコリスが減ったって話もね」
何も知らないのは自分ばかりと、相方のしたり顔にたきなは不満顔だ。それを慰めるように千束は抱きつこうとするが、水鉄砲で反撃されて撃沈。
「まあ、そんなこんなで僕は女性しか愛せないというわけさ」
「そんな人からしたら、私らは格好の餌食では?」
「僕にだって理性はある。下半身にしか脳がない獣とは違ってね。それに今はミズキの体に夢中だし、恩人には手を出さないよ」
「私、上がった方が良さそうですね」
よくよく考えたら、同性愛者にじっくりと体を見られている事がわかってそそくさと上がる準備を始めたたきなに、千束は流石に苦笑い。ここまで邪な話をフルで曝け出す人なんていたのだろうか。
「千束さんは上がらなくていいのかな? あの話を聞いて上がらないのはある意味、身の危険を感じてないというか………」
「いやいや、幾ら私でも身の危険感じたらそれなりには対策しますよ。でもこれくらいなら裸でもなんとかなるので」
「技術に裏打ちされた自信ってわけだね………羨ましいよ。昔の僕が今の君ほど強ければ………いや、そしたらミズキには出会えていなかった。ポジティブに考えていこう」
月夜に咲く椿の花、立ち上がった彼女の肉体美とそのスタイルは月下美人と言うほかなくて。ミズキじゃなくても見惚れてしまうのは間違いない。現に千束でさえ、目を奪われかけたが、千束は別の方を見ていた。
「──いつ終わるか分からない人生だものね」
全部知ってるさ、と語る彼女の瞳を。
*
「「trick or treat!」」
「ノリノリね〜ハロウィンもう終わってんでしょ」
「可愛いですね。千束。魔女ですか?」
温泉から上がったたきなとミズキがキャンプで焚き火を眺めていれば、何故かコスプレした2人が襲来。
十中八九、主犯は椿ではあるのだが、ドラキュラをモチーフにした貴族スタイルが様になりすぎていて文句は消し飛ぶ。
女子高生らしく、魔女っ子コスプレした千束の可愛らしいハートマークを見てもたきなの表情は変わらない。褒めてはいるが、変わらないのはムカつくので、
「たきなは私の使い魔の黒猫って事で!!」
「やりません!!」
流れるような動きで猫耳をつけられ、反撃しようとするたきなの手を容易く抑え、制圧し、水性マジックで髭を書いて、黒猫ガールたきなが完成。
ファーストリコリスの実力を無駄に活かした無駄な攻防だったが、いざ千束と写真を取り出せば、たきなも千束とノリノリで指先ハートマークを作り出している。
「さて、ミズキはどうする? ゾンビメイクにするかい?」
「………ちなみになんで?」
「いつも2日酔いでゾンビっぽいから」
「ニンニク入りアヒージョぶつけっぞ、エセドラキュラ」
ミズキが作るのはアヒージョ。オリーブオイルをたっぷりの鍋に投入して、冷凍タコイカ、ホタテ、ブナしめじ、トマトを加えて塩と胡椒で味つけて5分煮れば完成。
ニンニクはなし。同じテント内では毒ガスとほぼ同意義だからだ。
椿は笑いながら、バゲットを切り分けて、クーラーボックスに入れていた安い赤ワインを取り出して、ジンジャーエールで赤ワインを割る。
「こちら、キティになります。お嬢様?」
「あら、お上手な伯爵なこと」
「千束さんとたきなさんには葡萄ジュースでいいかな? ジンジャーエールもあるけど、辛口なんだ」
「私、ジンジャーエール!」
「私は葡萄ジュースでお願いします」
たっぷりの鍋に入ったアヒージョをつまみながら、葡萄ジュースを口に運ぶ千束たきな。
「何これ、美味しい………」
「え、マジ? たきな、一口!」
ワインはスーパーの安物だが、葡萄ジュースはイタリアのファンからいただいた芳醇な葡萄の香り、舌に残る僅かな渋みとさわやかな甘みが絶品の代物。
千束も葡萄ジュースを一口飲むと、曇らせていた目を輝かせて、椿と葡萄ジュースに視線を行ったり来たり。
本当に美味しいものを食べると、黙って目を白黒させてしまう。
現にたきなの目はきらきらしっぱなしだ。
「さて………と」
「あら、珍しいわね。ビールなんて。アサヒ? サントリー?」
「ヴァイツェン。ドイツのビールだよ。ファンからのプレゼントさ」
「なんか入ってんじゃないの〜?」
「大丈夫。調べてあるから。さて、乾杯」
クーラーボックスに大量に入れた氷で冷やした生ビール。ぬるいのが最高と言われようと冷たいビールに勝るものはないと、アヒージョをつまみながら、ビールを煽る椿。
「足りなかったら言ってね。締めにオイルパスタでも作るから」
「やっふぁー!」
「口に入ったまま、喋らないでください。千束」
爽やかな秋の夜長を焚き火の暖かさと流れていく。
ゆっくりではあるが、大切な時間。時間に追われる普段の日常からかけ離れた贅沢な時間の過ごし方に、椿は満足そうに頷く。
「タコもイカもぷりぷりで美味しい〜!」
「野菜もトロトロでいいですね。リコリコ喫茶店の新メニューにいかがですか?」
「新メニューなら、アンタのパフェあるじゃない」
「あれはお蔵入りです。黒歴史って奴です」
「パフェ?」
「実は、たきなが作ったパフェが………」
「千束!!」
焚き火の灯りに照らされて、夜空が見下ろす星の下。
非日常に身を置く者達が過ごす、かけがえのない日常。
楽しい時間が終わらないようにと願いながら、夜は朝へと向かっていく。
*
「………椿?」
鳥の囀りと人肌の熱がない事に違和感を感じて起きたミズキは、手探りで眼鏡を探すと冷たい空気が満ちる朝の世界に足を踏み入れる。
目的の人物はすぐそこにいた。香り立つその匂い、コーヒーを淹れて。
「おはよう、ミズキ。まだ寝てていいのに」
「目が冴えたのよ………コーヒーちょうだい」
澄み切った空気をたっぷり吸い込み、身体中に巡らせて漸く脳が機能したミズキはコーヒーを受け取って、朝露の椅子を拭いて座る。
椿は静かにコーヒーを飲みながら、山の中腹をただぼんやりと眺めていた。
「ねえ、椿」
「なんだい、ミズキ」
「貴方──元リコリスでしょう?」
決定的な言葉、それを何故今なのか。それはミズキしか知り得ない事だが、少なくとも今でなければまた先延ばしになってしまうと分かっていたからだ。
怖いもの、知りたくないもの、全てに蓋をして何でもないように笑ってしまえば、いつか来る試練に対応できないのもわかっていて。
「罠と爆破を得意とした元セカンドリコリス。現在はマジシャンをしながら、爆破解体の訓練官も担当している。パートナーは楓。今は楠木司令の右腕、凄腕の狙撃手さ」
静かな世界に彼女の声だけが語りかける。ミズキはただ耳を傾けて、彼女の話を聞いていた。
「僕が罠と爆破で敵を追い立て、楓が仕留めるのが黄金パターンだった。リコリスで働くことはある種の親孝行だったし、それに対して何か思うことはない」
「………でも、貴方はリリベルに誘拐された」
「──任務帰りで、銃弾も爆破物も尽きていた。そこに多勢で襲い掛かられたらひとたまりもないさ。『私』という花は散らされ、楓に助けられたのは1週間後だった」
リコリスが電波塔事件が起きる前は扱いが悪かった事はミズキでさえも知っている。リリベルからしたら、ただのおもちゃでしかなかったのだろう。
結果、1人の女の子は壊れた。
魂を汚され、彼女の誇りは踏み躙られた。
「復讐も考えた………けど、電波塔事件に主犯達が出向いて抹殺された。その後は千束さんによってリコリスの地位は盤石なものになった。だから、千束さんは僕にとってはある意味恩人のようなものなんだ」
寂しげな目にミズキは顔を逸らしたくなったが、それは逃げだと涙を滲ませながら、彼女を見る。語りたくない過去を語るのにどれだけの勇気を出しているのか、計り知れないけどそれを受け止めたいから。
「幻滅………したかい? 君の恋人はとっくに汚されていたんだ」
「幻滅は、しない………でも泣きたくはなった」
「泣かなくていいさ。『椿姫』だった『私』はもういない。渡米して過去を捨て、『椿』になった『僕』が今はここにいる。他でもない君の言葉でね」
「………思い出したわ。ベッドの上で全てに絶望した女の子がいた事。私が情報局としてバイタル管理をしていた事もね」
今より若いとはいえ、そのくすみきった瞳の色をミズキは忘れられない。下水のヘドロより汚れきったその色は大人の誰でさえも理解できない色に染まっていたのだから。
けれどミズキは近づいた。
明日には死ぬかもしれない女の子を前にして、話せる事なんてわかりきっていたけれど、笑わなくなってしまったその子の明日を考えて、
『泣いてるより、笑顔でいなさい! 人生笑えば、幸せな未来は自分からやって来るわ!』
「今更ながら、臭い台詞よね………そんな言葉が本当に救いになっていたの?」
「なっていなかったら、今頃僕はリコリスを裏切ってテロリストか、自殺していたからね。何でもない言葉だから救われた。名前も知らない人だからこそ、心に沁みた。それだけさ」
「………ずるい人。それでこんな酒浸りな堕落しきったお姉さんを嫁にしようとするなんて。貴方の人生狂わせた私が責任取らないといけないじゃない」
山頂から影が引いて、光が満ちていく。
暖かな太陽が、ミズキの前にあった闇を消していって。
「──椿。貴方のプロポーズ受けさせていただきます。貴方の人生を狂わせた、その責任を持って貴方の人生を側で見てあげます」
「──ミズキ、いいのかい? 男装してるし、まだ僕はリコリスだ。任務があれば人をまた殺すかもしれない。マジシャンとして多忙で復帰したら今みたいに関われないかもしれない。だから」
「だから、私は貴方に相応しくない? そんな弱音、こちらから願い下げよ。ばーか、貴方以外に私を嫁にするのに相応しい人物なんていないわよ」
ミズキに手を引かれて、椿が立ち上がる。陽光に照らされた彼女は日陰にいた椿を朝日の下に連れ出して。
「だから………不束者ですがよろしくお願いします」
ミズキの承諾にひぅ、と椿の喉が小さく鳴った。
そのまま彼女は頬に手を当てて、堪え切れない涙をぽろぽろと流し始める。手を伸ばして、ミズキは彼女の美しい髪を梳くようにして撫でた。柔らかに柔らかに、優しく。
「いいの、かな。僕が……私なんかが、こんな嬉しいことばっかりもらって。こんなに幸せな気持ちで、贅沢な思いで……好きな人と結ばれて………」
「今までが不幸だったんだから、これくらいの贅沢は許されるわよ。受け切れないなら周りに分けたらいい。そん時は私も一緒にね」
言葉にならない彼女をミズキはゆっくり抱きしめた。
椿を覆った暗い夜は終わりを迎え、新しい朝が今、登る。
テント内
「さて、たきなさんや。我らはいつ出ようかのう」
「何キャラですか、千束」