アイドル×暴力=人気の逝かれた世界へようこそ   作:流々毎々

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未来の世界へようこそ

 

 今から凡そ百年前の2×××年、文明世界は一度滅びを迎えた。何処ぞの国が核ミサイルを世界各地に発射し、先制攻撃を仕掛け世界を牛耳ろうとしたのだ。

が、それが思いの外上手く決まらなず大半のミサイルは不発に終わった。

 しかし数発の弾がそれぞれ着弾し大いなる被害をもたらした。結果、世界は一気に泥沼の大戦へと発展してしまう。いくつもの国が滅び、見慣れた動物達も後を追うようにして姿を消してしまった。

 

 星は美しさを失いボロボロの姿となり全ての生命が尽き果てたかに思われたが、唯一人類はしぶとく生き延びていた。しかし決して余裕があったわけではない。彼ら人類もギリギリの内で生存していたのだ。

 

 このままでは生き残った人類さえ滅びてしまうと危惧した一部の勢力は心を同じくする相手と結託し周囲を説得。これにより何とか長年続いた大戦を終わらすに至った。

 

 既に人類には戦う余力が何処にも無かったとも言えるが、少なくとも表向きには皆手を取り合う道を選んだのだ。

 この大戦により衰退し無くなってしまった文化は星の数にも及ぶ。しかし皮肉な事に争いによって高度に発達した技術もまた存在していた。

 

 終戦後はそれらの技術のリソースを全力で復興へと投資したため、人類はゼロの状態から僅か三十年足らずで全てとまでは行かないがほぼ大戦前までの生活を取り戻していた。

 更にそこから二十年が経ち、既に人々は一部の技術が過去とは比べ物にならない程に突出した生活を送れるようになる。

 

 この大戦後からの三十年を第一次復興期と呼び、そこからの二十年間を第二次発展期と後の世代では言われる事となる。

 

 順調に人類は世界を取り戻し始めた時期ではあるが、しかし良いことばかりでは無かった。人類は生存するために争いを辞め確かに手を取り合った。だが、大戦の影響をまったく受けなかったわけではない。

 

 むしろそれの面影は人々に色濃く残っていた。そのお陰か復興と銘打ってはいるものの、その背景は力を前提としたいつ大戦に逆戻りしても問題のないような発展の仕方をしてしまっていたのだ。

 

 人類は確かに文明を取り戻した。しかしそれは見方を変えれば余力が生まれ始めたとも言える。元々が争っていた者たちの集合団体だ。余裕が出来れば、おのずとまた抑えていた隣人に対する蟠りが噴き出てて来る。また戦いが始まる。そう言った空気感が少しずつではあるが確実に伝播し始めた。

 

 だが人類は再び大戦へと発展する事はなかった。何故ならそれを良しとしない勢力が存在していて事前に悲劇を阻止したからである。

 彼らは考えた。人々が余裕を持てば争いに繋がる。ならその矛先を別の物に向けさせれば良い、と。

 当時、力や正論で押さえつけるだけではどうにもならないと判断した彼等はそう結論付けた。

 

 言うは易し行うは難しであるが、彼等は決して諦めなかった。二度とあの様な争いは起こさない。その一点を誓い、志を同じくする仲間と共にその方法を何ヶ月も何年も模索し続けたのだ。無論、その過程で少なくない犠牲も出たが、彼らの意思は潰えることはなかった。

 

 そして彼等は遂にその方法を見つけ出した。彼等が中々良い策が考え付かず手詰まりになった時、最後の手段としてほとんど残っていない大戦前の文化をダメ元でサルベージしたのだ。

 

 その結果老若男女、人種問わず全ての人間が魅力される輝かんばかりの極星(答え)に彼等はたどり着いたのだ。

 

 ーその名はアイドルー

 

 こうして、大戦を終結に導いた者達による新たな人類救済案ー

 全人類アイドル推しカツ大作戦が始動した。

 

 第二次発展期から約五十年。世は正に大アイドル時代!!

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ーーー

 

『みんな~、今日は私のライブに来てくれてあっりがとぉー!』

「「「お”お”お”!まゆゆーー!!!」」」

「うるせぇ・・・」

 

 どうやら人類の文明は一度滅んだらしい。百年も昔に起きたバカでかい諍いのせいで、大戦前のあらゆる文化・娯楽はロストし荒廃した更地だけが残された。そこからどうにかして、文明を復活させた人類は大戦前の文化的な生活が送れるようになった。

 当時の人たちが文明復興に全力を注いだせいか、科学技術が飛躍的に上昇し世界は大戦前に比べて比較できないほどに発展を遂げていた。過去の偉人様々である。

 

 しかし、これほどの発展を遂げようとも今だ過去にロストした数多くの物を取り戻せないでいた。その一つが娯楽である。大戦前はそれこそ様々な暇を潰せる代物が溢れかえっていたらしい。生活水準を整えるのに万進しすぎたせいか、それともゼロからの構築が容易ではなかったのか定かでないが大戦前にあったそれらはまとめてロストテクノロジー扱いされている。

 

 人類は戦いによって数多くの物を失ったのだ。しかし、そう言った過去のロストテクノロジーを諦めずに探し出す勢力がいた。現代ではトレジャーハンター等と気取った名前で呼ばれているが、彼らの活躍によっていくつかの過去の財産がサルベージされている。

 

 サルベージされたのは現代ではどれもこれも有名処でみんな知っているが、その中でもぶっちぎりで今の世界に馴染んだものがある。

 それがアイドルである。

 過去の文明曰く、アイドルとは老若男女すべてを魅了し何よりも光り輝く選ばれた尊き者たち・・・らしい。

 

 そんな都合の良い物が本当にあったのかは定かではないが、そのアイドルの定義が荒み切っていた人類の心にクリーンヒットしたのだ。人々はアイドルと言う極星に出会い、癒され本当の意味での生活のゆとりを取り戻した。これが俗に言う、第二次発展期に続く第三次休息期である。

 アイドルのおかげで人々は心の余裕を取り戻したが、全てが良い方向へ進んだわけではない。

 

 単純にアイドルの効果は疲れっ切っていた人類には効き過ぎたのだ。初代アイドルの弾頭から現代までの約数十年、アイドル人気の爆発は凄まじく増加の一途を辿っていた。最初は数えるほどしかいなかった彼女たちであるが、今ではアイドル飽和期とさえ言われるほどになった。

 また、このアイドル効果が凄まじく他の娯楽やロストテクノロジーの再現・発掘に支障をきたしている。要はアイドルがいるんだしそこまで必死こいて取り戻す必要がなくないか?といった状態になってしまっているのだ。

 

 さもありなん。今では情報端末を開けばどこかしらのチャンネルでアイドルのライブ映像が時間単位で観ることができる。右を見ても左を見てもアイドルアイドル。外に出れば、毎日一人くらいはアイドルとすれ違えるだろう。

 

 そんな時代に俺は人類復興計画の一環、第六期生デザインベイビーとして生を受けた。性別は雄。産みの親は機械。歳は二十。食い扶持はアイドルの守護者(ガーディアン)雇用主(ボス)は、たった今目の前のデカいステージの上で歌って踊っているアイドル本人。

 

 ”黒神まゆゆ”それが俺のボスの名前だ。おそらく本名でなくアイドル名だろう。いくつかの勘違いと俺自身の事情から彼女に直接雇われる身となったが、正直に言えばもう少し考えてから雇用されれば良かったと今では思っている。

 

 別に理不尽な扱をされているわけではない。仕事内容も俺にあってると思うし、給料の払いも高く人気アイドルということで気前良く配給されている。肝心の仕事の時間も長くて一日数時間程度。ぶっちゃけて言えば、今日の分の仕事は終わっている。

 

 福利厚生の一つとして、仕事が終われば人気アイドルの生ライブを最前列のビップ席で観ることができる。同僚の守護者など隣で感動してか、涙やらなんやらいろんな体液をまき散らしながら声を張り上げている。

 俺も最初の方はこれが噂に聞いていたアイドルのライブかと感動したものだが、正直、今は連続で見過ぎて飽き始めていた。もちろんこんなこと同僚やボスの前では決して言えない。

 

 文句があるなら帰ればいいじゃないかという話だが、それも中々に難しい。と言うのも、今の時代アイドルの活躍は皆が熱狂している事だ。特にライブなど大きなステージでの活動は、場所と権利を勝ち取らないと行うことができない。

 だからこそアイドルの生ライブはファンからすれば垂涎の賜物なのだ。彼女らもそれを理解してるので、守護者などの配下や身内は自分のファンで囲ってる。

 

 つまり雇用主からすれば自分のライブの観賞権は頑張った配下へのご褒美なのだ。俺の同僚である守護者共も、仕事の対価はお金よりこっちの方が本命な奴らばかりだ。

 そんな連中を前にして、ライブを見ずに帰りますねなどと発言すれば確実に面倒なことになる。ただでさえ俺はとある出来事のせいで仕事仲間との関係性に溝がある。これ以上、仕事に余計な労力を掛けたくはなかった。

 

 しかしそんな俺の愁傷な思いもそろそろ限界に近づいて来ている。アイドルの生ライブは確かに集中できれば楽しいだろう。

 だがそれがなくなれば、人の熱気で暑苦しい会場での爆音や目に優しくない光源を長時間受け続けることになる。素直に言えばかなりのストレスだ。俺からすればこう言ったイベントを見るのは短くて月に一度程度で良いとさえ思っている。

 

 そんな風にグチグチと考えていると、ボス(黒神まゆゆ)のライブは終盤に差し掛かっておりそれに呼応するかのようにステージのボルテージも最高にぶち上って行く。

 結局今回のボスのライブはこのままの状態を突っ走り、盛り上がりが止まないまま終わりを迎えるのであった。

 最後まで俺の心は置いて行かれたままに・・・

ーーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

「今日も最っ高のアイドル活動ができたわ。これも皆が強奪戦を勝ち抜いてステージの権利を持って来てくれたお陰だよ。本当にありがとう!」

「はい、まゆりんの守護者として当然の事をしたまでです!むしろこちらこそ、まゆりんの尊きアイドル姿を見ることができ感無量です!!」

 

 黒神まゆゆ。ファンからの愛称はまゆゆもしくはまゆりん。アイドルとしての活動歴二年の今人気急上昇中のアイドルの一人である。そんな彼女は先ほどのライブを成功させた後、プライベートルームで自分の配下であり身内でもある守護者たちに向けて今日の働きを労っていた。

 

「ふふ、リーシェは毎回大げさだなぁ」

「そんなことありません!私たちなんぞまゆりんの尊さに比べれば石ころのようなものです!」

「こ~らっ、私の守護者がそんなこと言っちゃダメでしょ?あなた達がいるから私は輝けるんだから」

「お、お、おおぉぅ。何と勿体なきお言葉!感動です!!」

 

 まゆゆからの労いの言葉にリーシェは言葉の通り滂沱の涙を流す。かなり面を食らうがこの女は毎回、黒神まゆゆ対してこんな調子なので心配するだけ損である。

 リーシェ・アリス・桜・キャシー・リラ・皐月、そして零こと俺の以上七名が黒神まゆゆの守護者である。ものの見事に俺以外異性の女所帯だ。まあだからと言って気後れなどは特にしないのだが。

 

 俺と彼女たちは同僚の守護者ではあるが仲自体はあまりよろしくない。特にリーシェなどからは対抗心からか目の敵にされている。こいつらにとって、狂信している主人に不純物である男の俺が傍にいるのが気に食わないのだろう。

 また、俺自身彼女たちのような熱狂具合を持ち合わせていなく黒神まゆゆとはあくまでビジネスパートナーのスタンスを崩さないでいる。そこも食い違いを生んでいる原因の一つだろう。

 

「さて、一息付いてお祝いしたいところだけどお仕事の話をしてもいいかな?」

「もちろんです!!」

 

 まゆゆの言葉にリーシェが即答する。一応彼女がチームのリーダーなので文句はないのだが、もう少し悩んだりしないのだろうか?しないんだろうなぁ・・・

 

「ありがとうリーシェ。それで皆には急な話になっちゃうんだけど明日にあるステージの強奪戦に参加してもらいたいの」

「承りました!必ずやまゆりんに勝利を捧げます!」

「いや、待てよ」

「なんだ零、文句でもあるのか!」

「文句と言うか疑問がある」

 

 アイドル飽和期と言われているこの時代はとにかくどこを見渡しても、アイドルが活躍をしている。しかし同一人物が毎日ライブを行っているかと言われればそうではない。

 そもそもライブと言うのは体力を使う。連日それを行えば必ず体に負担が掛かる。長期的に見れば、パフォーマンスを損なうのだ。故に、最低でも二、三日は間に休息を設けるのが常識だ。ライブが終わった翌日にまたライブと言う強行軍は、このアイドル飽和期においても中々に珍しい。

 

「うん、零が疑問を持つのは当然の事だと思うわ。連日でライブを行うなんて私は今までしてこなかったもんね」

「理由があると?」

「ええ。私もついさっき知ったんだけど、明日Aアリーナδステージのライブ権利を掛けた強奪戦があるらしいの」

「なんと!Aアリーナのですか!?」

 

 ボスの言葉に俺を含めた守護者全員が驚く。アイドルの立つステージにも格というものがあり、上からA・B・C・Dアリーナとランク付けされている。そしてそれぞれのランクにも順位がα・β・γ・δと四つに分けられている。ボスが普段からアイドル活動をしてるのはCアリーナのαステージだ。

 

 今回ボスが持ってきたのは一番上の四番目のステージである。人気急上昇中のアイドルとは言え、ボスは全体的に見れば未だに中堅。

 普段であればAアリーナの強奪戦など参加できるわけがない。

 

「普通に考えて私のファンの総数や人気を考えてもAアリーナに挑戦できる条件を満たしてないわ。けど今回のは、条件の下限が設けられていないの」

「なるほど!普段では挑戦できないAアリーナの強奪戦に出れる絶好の機会と言うわけですね!」

「うん。リーシェの言う通りだよ」

 

 それを聞いた俺は思わず唸った。どうにも話が上手過ぎるというか胡散臭い感じがする。せっかくのチャンスに対してそう思ってしまうのは俺が捻くれているからだろうか?

 

「うわぁ、では我らのまゆゆ様がAアリーナの大舞台で輝くことができるのですねぇ」

「強奪戦に勝利できればね。私としてはこのチャンスを是非、ものにしたいと考えてるの。皆はどうかな?」

「拒否する訳がありません!」

「・・・」

「零はやっぱり反対かな?」

「雇われている身としては、雇用主がやれと言えば断る通りはありませんよ」

 

 俺のそんなぶっきら棒な発言にリーシェは何事か!と目力を強めて睨みつけてくる。こいつからすればボスの望みは二つ返事で叶えることが常識である。そんなリーシェからすれば俺の態度は認めらるものではないのだろう。

 一応、ボスがそれを咎めていないので表立って避難してくることはないが。

 まあ俺からすれば、ボスが許しているからと言って雇用主を愛称で呼ぶ方がどうかと言う思いもあるのでお相子である。

 

「そっか。皆私の我儘を聞いてくれてありがとう。もし私がステージに立つことが出来たら、今まで以上の最高のパフォーマンスを披露するわ。だからお願い、私にチャンスを頂戴」

「もちろんです!必ずや勝利を貴女に!!」

 

 この後、皆で明日の打ち合わせを終え解散。それぞれが自分の住居へ帰る流れとなった。俺がボスのプライベートルームから外に出た時、外はすっかり日が落ち夜になっていた。

 

 さて、働くと決まったならいつまでも悩んでないでそれに全力を注がなければいけない。これこそ守護者(俺たち)の存在意義。

 この世界でアイドルとして活動をするにはいくつかの条件がある。一つはライブを行う際その会場の席の過半数以上のファンがいること。次に身体能力や容姿・パフォーマンスが基準値以上であること。最後に俺たち守護者がいること。

 

 前二つの条件は本人の才能と努力があればどうにかできる。しかし守護者の役目はアイドルには担えない。その俺たちの役目とは、アイドルがライブを行うためのステージの使用権利を力を持って奪い取ることである。極論、守護者がいなければ彼女たちはアイドルとして活動することが出来ない。

 故に彼女たちは例外なく俺たちを身内として囲い込むのだ。

 

 つまり俺の仕事とは、暴力を持ってステージを勝ち取りボスにそれを捧げる事なのだ。

 

 これを、俺たちの間では強奪戦と呼ばれている。

 

 いや、おかしくね?俺も最初はそう思った。と言うかこの仕事に誘われた時は字面から単純にアイドルの護衛でもするのかと考えていた。しかし蓋を開けてみれば血沸き肉躍る血戦への誘いであったのだ。

 ちゃんと仕事内を確認せず条件だけみて判断した俺にも悲はあるが、正直そうはならんやろと何度思ったことか。だが、以外にも守護者の仕事があっていたのか仕事初出勤からそれなりに良い結果を出し続けているため、辞めることが出来ずズルズルと続けてきてしまっている。

 

 そしてアイドル活動を行うためにこんな戦闘じみた暴力的な手段を使われるようになったのは現代に至るまでの過去の歴史と密接な関係がある。

 そもそも人類の文明社会は一度滅んでしまっているのだ。それも大戦と言う最悪の形によって。すでに大戦から百年の時が流れ当時を知る人間はいないとは言え、それでもその影響が現代社会にいまだこびり付いている。

 

 そんな中で数多いるアイドルたちを押しのけて自分が活躍しようとすればどうしたって穏やかな方法にはならない。さらにこの過去の背景から全体的に力を用いて行使する活動が肯定されやすい社会であり、よりそれに拍車をかけている。

 むしろ守護者同士の争いはイベントの一つとして生中継されている。今では俺たちの仕事はアイドルのライブの次に人気のあるものと化していた。

 

 また俺たちの活躍や勝利が雇用主である彼女たちの魅力の一つとされており、強い守護者を囲うことは一種のステータス扱いされている。

 逆に言えば活躍できない弱い守護者には存在価値がない。俺のいる場所も意外とシビアな世界なのだ。どうやら人類と言うのはどこまで行っても競争社会から逃れることができないらしい。

 

 大戦前の過去のアイドルたちは別の方法で仕事を確保していたらしいが、その部分はサルベージ出来ず未だブラックボックス扱いされている。一体どうやって大戦前の彼女たちはアイドルとして活動していたのか、謎は深まるばかりである。

 

 余談であるが、アイドル同士でのステージ強奪争いが始まった当初は自分で戦うアイドルも少なくなかった。しかし権利を勝ち取ったのにも関わらず、その時負った怪我でライブが出来ないことが多発した。このことから原則として、強奪戦ではアイドル本人が決めた代行者が参加する流れとなったのだ。

 それが俺たち守護者である。

 

 これらの事を踏まえると、ボスの言う明日の強奪戦は修羅場となる可能性が非常に高い。なんせ下限を設けないAアリーナのステージ権利を掛けた戦いだ。実質アイドルであれば誰でも参加可能なのだ。必ず上澄みだけでなく、他のアイドル達も出張ってくるだろう。

 ボスの俺以外の守護者の実力を言えば、今いるCアリーナの強奪戦では過剰だ。十戦やって一・二回負けるかもしれない位で今はほぼCアリーナの強奪戦は独占状態だ。正直、上位のBアリーナにも手が届くだろう。

 

 しかしAアリーナで活躍している守護者共は次元が違う。俺も何度か中継で奴らの戦いっぷりを見たことがあるが、素直に言えばその戦闘力は人間の範疇じゃない。

 科学的な技術が高度に発達している現代社会では、人の身体能力が飛躍的に上昇し体はとても頑丈になっている。大戦前では超人と謳われていた一部の人間の能力が、現代ではデフォルト扱いされているのだ。

 そんな俺たちから見て化け物と思えるのが人気上位のアイドルの守護者たちなのである。勝てる負ける以前に勝負になるかも分からん。

 

 ボスもそれは分かっているはずなのだが・・・。

 俺がボスの守護者として雇われて約半年。短い付き合いではあるがそんな無茶をする人ではなかった筈だ。ボスは見た目の派手な装いと違い日々、勝てる戦いを選び確実に勝利と輝きを手に入れてきた堅実な人なのだ。それともAアリーナでのライブはボスでさえ判断を狂わせてしまう魔力があるのだろうか。

 どちらにしろ既に匙は投げられた。ボスの守護者として俺に出来ることは覚悟を決める事だけだ。

 

「明日はタフな仕事になりそうだぜ」

 

 俺のつぶやきは未だ眠りそうにない夜の街に静かに消えていった。

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