ダメなキミがスキだから   作:効果音

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明けましておめでとうございます。新年もなるべく週一更新目指したいと思います。


アクセラレーター

「毎日居られると流石に曜日感覚狂ってくるわね」

「元々ミスターオールサンデーだから分からない感覚だね」

 

 新宿FOLTの楽屋で男が明太かまたまバターうどんを食している横で店長の吉田銀次郎は開店前作業でレジ金を数えていた。

 ここ最近の男はSTARRYではなくFOLTに居座ってだらだらと怠けているのであった。開店から閉店まで居るせいかついぞ専用の椅子が用意され、開店前に出入り出来るようにされている。

 

「ピアノマンまたイルー」

「それって記憶喪失は偽装だった上に、ピアノをちょっとだけ弾いたことあるってだけのやつじゃなかったか?」

 

 男はアニメみたいな体質という理由でSICKHACKのギター担当の清水イライザに興味を持たれている。隙あらばアニメや漫画を布教してくるので多少面倒くさい程度である。

 そしてイライザが居るということは、そういう日だと言うことを察して彼は少しだけげんなりする。

 

「俺、用事あったかもしれねぇ」 

「ニートで彼女と距離置いてるのに用事あるノ?」

「それに変な女に付き纏われてるから匿ってくれって言ったのそっちだしねぇ」

 

 二人に本当の事を言われてしまうと男も何も言えない。

 ぽいずん♥やみ・14歳。本名は佐藤愛子・23歳。音楽関係をメインに活動しているフリーライター。というのが以前にトイレでぶつかろうとしてきた少女のことを調べた男が手に入れた情報だった。

 痛いキャラ付けがキツイ、鬱陶しいと悪評が広まっている。そういう手合いとひとりを会わせた時にギターヒーローの件が周囲にバレるには、時期が悪いと彼は考える。

 

「てか、イライザはリハ良いのかよ。今日ライブじゃなかったか?」

「どうせきくりが来なくてメンバー揃わないカラ……」

 

 イライザがあっけらかんとしながらサブスクでアニメを見ている。約一週間の付き合いでしかないが彼女の反応を見てきくりがリハに来ないのはいつものことであることを男は察する。

 結束バンドも結束バンドで、主にひとりの世話をさせられるが彼女の場合は意識が無いことが多く、抵抗されることもなくライブ等に遅刻することもない。そういう点でSICKHACKよりは楽だと他人ごとのように男は比較していた。

 

「記憶喪失不便じゃないノ?」

「その話題。飽きた……ねみ」

 

 作業を終えた銀次郎が始まったリハに目を向けていて二人の会話を聞いていない。話題が話題だったのもあってかイライザが声のトーンを落として聞いた。

 自問自答は腐るほどしてきて、他人にも度々聞かれる話題を出されて辟易しながら欠伸をする。

 

「……なんかあったら起こしといて」

 

 睡眠不足から来る眠気に負けて座ったまま男は眠る。

 環境音が程よく聴こえる状態で心地よく睡眠と覚醒の狭間の状態で漂っていた。その平穏を彼の背中を叩いた誰かが破る。

 

「……ねみ。こしバキバキする」

「起きたー? そろそろ出番来るよー」

「酒くっさ……あぁ、はいはい」

 

 腰をぐねぐねと動かしながら骨を鳴らす、眠る前に隣に居たイライザがきくりになっていることでライブが始まる頃合いであるのを男は把握する。

 聴いて行かないと彼の自宅に彼女が乗り込んで来て酒盛りをされ、延々と文句を言われることだけは身体が警告しているため、彼は渋々客席の方へ移動しようとする。

 

「あっ、違う違う。元カレくんは今日はこっち」

「は?」

 

 楽屋から出ようとする男の手首をきくりが掴んで引っ張る。彼女の言葉を理解しようと言葉を飲み込もうとするが、何度頭の中で反芻させても意味が解らず疑問符が消えない。

 

「だーかーら、どっか行ったイライザの代わりに今日出るって話じゃなかったっけ?」

「聞いてねーよ、初耳だわ!?」

 

 あーだこーだと楽屋で騒いでいるとドラムスの岩下志麻が楽屋に入る。半ば取っ組み合いになっている二人の間に入って仲裁する。

 

「うちの廣井が失礼を働いたようで申し訳ない。

 私が目を離している最中に店長まで悪乗りして、気が付いたら止められない状況になっていた。一回で良いから付き合ってやってほしい」

「はぁ……一回だけだからな」

 

 志麻がきくりの後頭部を掴んで一緒に頭を下げる。許すか許さないかは別として、頭を下げられてしまった以上、男はその場は収めてライブを出ることを了承する。

 リハにも参加してなければ、一回も合わせもしたことがない。そんなシチュエーションで万全に弾ける気はしない。

 

(そういうコト以上に、音楽から離れたヤツがもう一度こんな形でライブに出るのもどうなんだ……とりあえず弾いてから考えるか)

 

 男が悩んだところで時間が止まったりイライザが戻ってくる訳でも無く、あれよあれよと準備は進み、ライブステージの上に立っていた。

 

(メッチャ観客から見られてるな。そりゃ当たり前か、女性メンバーしか居なかったのに男が急に居るんだもんな……気分的アウェー過ぎる)

 

 ライブが始まる前の静けさと空調の風が頬を撫でる。

 SICKHACKが出るライブに来るような人間は良くも悪くも、廣井きくりのパフォーマンスに付き合える人間の集まりである。

 見る分には楽しいかもしれないが、最前列で吐かれたり顔を踏みつけにされるかもしれないライブということも理解しているため、面構えが堅気のそれとは違うファンも少なくないとはいえ男に掛かる精神的プレッシャーは重い。

 

「あー、今日はイライザが欠席なんでそこらへんで捕まえてきた臨時くんに弾いてもらうんでよろしくー」

 

 そんなんで良いのか。と男はきくりのMCに心の中でツッコミながら言葉ではなく、ギターの音で返す。

 合わせが出来ないのなら自分から合わせる必要はない。きくりと志麻に合わさせれば良い。その意思表明も兼ねて、全力でスラップをする。

 その勢いに少し不満そうだった観客も息を飲む。

 

「やる気満々じゃーん? ──じゃあ始めよっか」

 

 そうしてドラムカウントが刻まれてライブが始まる。

 セトリはここ数日FOLTに入り浸った結果聴いたことのある曲で構成されているため、旋律が分からずに止まることもなく進行していく。問題はそれよりは別に存在している。

 

 元々きくりが好き勝手することをある程度折り込んでいるのがSICKHACKの曲である。全員に遊びが許されている都合で原曲は参考にすらならない。

 泥酔したベースがギターに喧嘩吹っ掛けるように音を被せてくる。それに対してギターもやり返す。

 

((邪魔だ、すっこんでろ!))

 

 ギターとベースで音の殴り合いが発生していた。何とかドラムが制御してギリギリのところでチームプレイが成立しているが、合わせる気のない男ときくりが演奏しながら喧嘩している。

 結果として全員の経験値が高いせいで演奏としては質は良い。それを制御するドラムの胃に穴が開きそうになっているのは誰も気にしていない。

 

(ああうざってえ……)

(懐かしいなぁ、この何度目かの地獄。多分元カレくん覚えてないんだろうけど、ドツキに付き合ってくれてるなぁ)

 

 あっという間に二人の殴り合いでラストの曲が始まる。男は視界の隅で結束バンドのメンバーとイライザが観客に交じっているのを発見していたが、事ここに至ってはもうどうでも良いことと処理して無視をした。

 

(始まったら始まったで滅茶苦茶アガる……悩んでたのがアホらしい。やっぱりコイツ多分元カノだわ)

 

 曲の切れ間ごとにクールダウンする瞬間が無くはないが、それでも音の殴り合いは止まず、ステージの上の三人は目がキマり切っていた。

 ラストの曲も終わり、観客の目もキマりボルテージが絶頂を迎える。

 

(ああ、もうここまで盛り上がったなら、着地はもうどうでも良い)

 

 一応やりきった男は観客の歓声を受けながら気持ちの良い汗を流して両手をだらんとぶら下げる。クールダウンするも何か物足りなさを感じ、ギターを降ろしてきくりに近づく。

 それに感づいた彼女もベースを降ろして両手を広げる。

 

「せーのっ! どぶれあぁ!!」

 

 男がきくりを観客席に投げ飛ばす。彼女が良く観客席に飛び込んでくることに慣れていて鍛えられている常連のファンだからこそ受け止めて胴上げが成立した。それで満足して、その場で彼は大の字で寝転ぶ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 会場の熱気が何とか収まってから三人が楽屋に戻ると、結束バンドとイライザが居た。男に元気があるのならイライザに詰め寄るところではあるが、なんだかんだでライブを楽しんでしまったことと疲れていることもあってそうしなかった。

 

「あーー良くもハメてくれたな……」

「そう言う割には滅茶苦茶気分よさげじゃん」

 

 男がクールダウンのために首元にタオルを巻いて、買っておいたミネラルウォーターの蓋を開けて頭の上でひっくり返す。

 ミネラルウォーターが頭から流れて首元に吸われて冷え、それで熱を外に逃がす。

 

「あっ、あの……!」

「何?」

 

 ひとりに声を掛けられるものの男もそれなりに疲れているため、反応が多少淡泊になってしまう。その様子を見た虹夏が少しだけ二人を見守る。

 

 

「ライブ……出たんですね……」

「あー、なりゆきだけどな……先に言っとくと、きっかけはなりゆきだけど、最終的なとこは俺が出るって決めたから」

 

 男はひとりの目を合わせるように顔を上げるが、彼女は顔を真下に向けているせいで二人の視線は交わらない。

 

「それも、ありますけど……私、文化祭ライブ……まだ悩んでて……」

「うん。それで?」

 

 ひとりがぽつりぽつりと言葉を漏らすが、彼女からしたら精一杯絞り出している言葉でもあった。

 

「でも、ああなりたくて……お姉さんも昔は陰キャだったって聞いてちょっとだけ、出たくなりました」

「そ」

 

(出ます。じゃないのかよ……まぁ良いや、まだ甘やかさないけど、一歩前進って感じか)

 

 それで話は終わりかと思いきや隣にひとりが座り始めて、モジモジし始める。

 いつもは何か言いたげな雰囲気とは違う種類のオーラを放っている。約一週間近く会わないようにしていたのもあり、ロクに褒めてないという事を男は思い出す。

 

「あ、あの……ライブ、その──」

「ひとりちゃーん! 妹ちゃんがいじめるぅー!!」

 

 虹夏に言葉の火の玉ストレートを投げられたらしいきくりがひとりの膝に縋りつく。何か作為的なものを男は感じなくはないが気のせいとして処理した。

 

「え、あ、あの……とりあえず私の膝の上でうってなるのや、やめてください」

「ごめんねぇ、ひとりちゃん。ぶん投げられてから、うっぷ、結構限界来てんだよね……」

 

 きくりが吐く予兆を見せたため楽屋に居たひとり以外の全員が彼女達から距離を取る。その後、男は志麻がライブ後によく荒れているという話が、どんなに良いライブをしても全部飲んだくれたベーシストに台無しにされるということが原因だったことを目にすることになった。

 




新年一発目なので承認欲求モンスターが飢餓なので感想や評価お願いいたします。
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