ダメなキミがスキだから   作:効果音

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セーーーーフ(前回投稿1/6)


アン・ウェルカム・スクール

(酷い目にあった……)

 

 きくりの嘔吐のせいでジャージ一式をダメにされたひとりがFOLTの個室トイレで郁代がきくりの金で買ってきた代わりの服に着替える。

 ひとりの好みの服ではなかったがこの時間にやっている服屋は限られている中で揃えて貰った服でもある以上彼女も文句を言えなかった。

 

「……あ、お待たせしました」

「ん、皆帰ったし良いんじゃない?」

 

 FOLTの出口でひとりを出迎えたのは気怠げな表情でスマホの画面を見ていた男だった。

 ここ最近、男がひとりを待ったり出迎えるようなタイミングで毎度似たような反応をするせいか彼女の方も慣れてきて破裂することもなくなった。

 

(なんかメッセ飛んできたと思ったら喜多ちゃんから絶対ひとりを褒めろって来たけど……服を選んだの喜多ちゃんなんだし、ちょっと違うと思うんだけどな)

 

 ひとりの頭頂部からつま先まで男は観察してみる。

 ゆったりとしている白いブラウスにカーキグリーンのロングスカート。全体にふんわりとした印象を受けるコーデだが、絶対にひとり本人が選ばないセンスの服であるせいか、似合っているのに着させられている感が何処か拭えない。

 

「柏餅みてーな色合い」

「えっあっ、はい」

 

 そういうことではない。

 褒めたつもりもなければ無難に褒めるのも面白くもない。男の捻くれた部分が邪魔をしている。そういうことは致したものの、単純なビジュアルが彼の好みではないということもありそれ以上の言葉も出てこなかった。

 

「駅まで送ってくから、帰りなよ」

「あっ、帰る前に……少しだけ、その、お話したいことがあります」

 

 駅に向かうために背中を向けた男の服の裾をひとりが摘まむ。終電までの時間はあり断る理由もない。一番近いカフェに入る。

 店内に人は少ないものの、スーツはビシッと決まっているものの目の下の隈が深いサラリーマンがPCで作業している姿以外は落ち着いて話の出来そうなカフェである。

 

(は、働きたくねー! あんなんになりたくない)

(私も高校でデビュー出来なかったら、ああいう感じになるのかな……働きたくない……)

 

 適当に男が注文を済ませてから端の比較的に狭い空間の席に着く。彼はひとりが話出すのを待ってオレンジジュースを啜る。

 

「あ、あのっ……私のメイド服って需要あると思いますか?」

「なんて?」

「あ、あ、ないですよね……はい、死にます」

 

 男は自分の耳に絶対の自信があったからこそ、ひとりの発言を飲み込むのに時間が掛かる。そもそも周囲から見れば女子高生にメイド服を着させようとしている。と捉えられてしまいそうな会話をしてることが問題であることに気づいていなかった。

 

「文化祭で着るんだったら着れば良いじゃん。ライブはともかく文化祭くらいは遊びに行くからさ」

 

 結束バンドのライブがあるのは二日目。一日目は文化祭という物自体に興味があった男は遊びに行くつもりだった。

 きくりが何か余計なことを吹き込んでいないか心配していたがそれが杞憂であったことが分かり、安堵する。

 

「似合ってなかったら『現役女子高生なのにメイド服が似合わないで賞』で処刑されるのかなって……」

「○○で賞を受賞して処刑されることある?」

 

 注文したドリンクを飲み終わるまで程々に雑談をした後に、ひとりを駅まで見送ってから男も帰路に着く。

 

(ひとりのメイド服か……うーん。アレで、か)

 

 彼女の一部分を思い出す。らしくもないと感じる思考が出た辺りで男は帰りの電車で仮眠を取った。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 そして、秀華高校文化祭一日目。

 受付を済ませて入場を済ませると、運営に奔走する委員会所属らしき生徒や自分の子が文化祭を謳歌しているところを見守る父兄の姿が男の目に映る。

 流石のぽいずん某もここまでは来ないだろうと肩の力を抜く。

 

(多いな、人……少しぶらついてから行くか)

 

 香ばしい匂いに釣られて、足を進めると飲食物の模擬店が並んでいる。学生の間で流行っているようなものや、

 

(いや……文化祭に求めるクオリティのハードルって低くあるべきなんだろうな)

 

 軽食ばかり並んでいるところを見て、罠だということに男はすぐに気づく。

 こういった模擬店は調理が単純故にクオリティの上限も下限も安定しているものの、結局は胃を無駄に満たすだけで、その後の物が入らなくなる可能性がある。

 ひとりから事前に貰ったマップを頭に叩き込んだ男が目指すべき場所はただ一つ。それは食堂である。

 

(今日のここは体力の無いご老体が休む場所……と思わせて、PTA役員が軽い食事を販売している。そして、そこのメニューにはアレがある!)

 

 フランクフルトやら綿菓子の誘惑を断ち切って食堂に向かうと男が一番の目当てとしていると言っても過言ではないモノが並んでいた。金額帯毎に食券が設定されており、昼時には少し早い時間を狙って来たため、特に待つこともなく食券の購入を済ませて受け取り口に進む。

 

「おにぎらずでお願いします」

 

 化石のようなメニューに誘蛾灯に惹かれた蛾のように吸い込まれていった男は求めていたモノはおにぎらずであった。

 他のメニューが定番で王道であるが故の古臭さがある中で異彩を放つのがおにぎらずである。一時期おにぎりよりは楽に作れて食べやすいとされたこの料理は、結局はおにぎりのシェアを勝ち取れず、巻くわけでもなく握るわけでもないという中途半端さのせいか、すぐに存在を世間から消した。

 それが現代にあるということに男は運命的な何かを感じざるを得なかった。

 

(スパム、ツナマヨ……コンビニのおにぎりでは見なくはないな)

 

 食堂を出て、人通りの少なく陽当りが程よく良い校庭の隅を選び、おにぎらずを食べ始める。

 

(あー……うん。やっぱり微妙だ。その微妙さを目当てに来たんだけども)

 

 安心の中クオリティに安心しながら咀嚼していると校舎に繋がっている扉を、ひとりを除いた結束バンドのメンバーが開く。

 

「ん。何やってんの?」

「いや、こっちの台詞なんですけど」

 

 口の中に入っていたおにぎらずを飲み込む。何故か郁代の髪の毛や制服に木の枝や葉が付いているせいで疑問を抱く。

 ひとりがクラスの出し物が始まる直前に逃げ出したらしく。それを探している最中であることを聞いた男は簡単に解決する方法を思いつきスマホを操作する。

 

「これで多分見つかると思うから、全員隠れててくれない? 扉の横辺りで」

 

 結束バンドの三人に指示をして入口から死角になる位置に待機していて貰い、数分程待つとひとりが校庭の隅にやってくる。

 飛んで火にいる夏の虫。そんな単語が男の脳裏に過る。

 

「あっ、お待たせしました……似合ってますか……?」

「うんうん。似合ってる似合ってる」

 

 男がやったことは至極単純。ひとりにメイド服を褒めるから指定の場所に来てほしいとメッセージをアプリで飛ばしただけである。ここまでチョロい女であると期待通りの動きをしてくれるのは助かる反面もうちょっと頑張ってほしいとも彼は思いながら彼女の手首を掴む。

 

「はい、確保」

「えっ」

 

 次の瞬間。死角から現れた三人に確保されて、教室に強制連行されるひとりであった。

 途中嗅いだ覚えのある匂いがしたため、結束バンドの面々と別れた男は綿菓子を千切りながら食べ歩ているきくりを発見した。

 

「おー、こんなとこで会うなんて偶然じゃん。ぼっちちゃんのメイド服見た?」

「お前、酒飲めないとこに来る事あるんだな」

 

 流石に校内では禁煙禁酒が徹底されていることもあり、きくりの放つアルコールの匂いは通り過ぎる生徒達に嫌そうな表情をされているため、匂いのことを含めて分かりやすいものである。

 

「私のことなんだと思ってんの?」

「飲んだくれの人でなし」

 

 正解。と無駄にキメ顔で答えるきくりにムカついた男は彼女を放っておいてひとりの居るメイド喫茶に向かおうとするが服の襟を掴まれる。

 

「ちょいちょい、一緒に回る位してくれたって良くなーい?」

「酒臭い匂いがしたから、もしやって思って来ただけだし……あともう一緒に来てるであろう店長に連絡してるし」

「通報助かったわ」

 

 保護者というより監視役としてきくりに着いてきていた星歌がきくりにアイアンクローをキメながら持ち上げていた。校内で暴力行為がなされているというツッコミはせずに、お勤めご苦労様ですと一言星歌を労った男はその場を離れる。

 

「先輩、揺らされると吐きそうなんでやめてほしいなー!」

「うるせぇ、少しは禁酒しろ」

 

 去り際の二人の会話を聞いて明日のライブまでに出禁になるのではないかと、蛇の足程心配する。

 今はそれよりは半ば騙して連行したひとりのアフターケアをしなければいけないことの方が男としては心配するべき事案でった。

 

「あ、い、いらっ、ら、ら、ら、ら、ら、ら、ら」

「早速かぁ……」

 

 メイド喫茶を訪れた男を迎えたのは、壊れたレコーダーのように途中から同じ部分を再生し続けるようなひとりだった。

 流石にメイド服を着た女子にほぼ白目を剥き、口の端から涎でもない謎の液体を垂らしながら出迎えられる趣味は男にはない。

 何とか席に案内させた上で、メニューを注文するところまでこぎ着けた。

 

「これ、全部オムライスじゃねぇか!」

「……どうせ、皆女子高生のメイド服目当てなんで味とかわからないです」

「身も蓋もねぇ……」

 

 周囲を見渡すと男が素人目に見てもメイド服自体のクオリティが高いことが分かったため、本当にオムライスは低予算で作られていることを察する。

 何種類も枕詞が付いているオムライス一つと美味しくなる呪文なるものを注文した。

 

「あ、お待たせしました……む、むねきゅんトキメ……うっ」

 

 お盆の上に置かれたオムライスをひとりが運び、配膳しながらメニューを読み上げるようとした途端に絶命した。勿論比喩である。

 急に倒れ掛けた彼女に周囲の目が向く、それまでは特に気にしていなかったクラスメイトが駆け寄ってきた。

 

「ご、後藤さーん? 大丈夫?」

「あ、え、あっいつものことなので、はい」

「いつものことなの!?」

 

 若干物理的に溶けかけている状態でそう言われ、流石に困惑が隠せないクラスメイトはひとりを強制的に休憩に行かせた。

 そうなるとわざわざ来た意味が無くなるため、手早くオムライスを完食して彼女と合流する。

 

「……あっ、まともに接客出来ないメイドでごめんなさい」

「別にメイドではないでしょ……ひとりにそういうの期待してないし」

(……せっかく皆に気を遣って二人きりにしてもらったのに、喜多さんに凄い圧力でたまにはそれらしいことしてきてって言われたのに……)

 

 メイド服を着ているひとりとそれなりに身長の高い男が並んで歩いていて目立つ筈が、普段から影が薄く学校内で認知されていないこともあり、変な二人組が一緒に歩いているくらいの認識で済んでいた。

 

(そういえば、文化祭に親御さんが来てる可能性もあるんだよな……エンカウントしたら面倒だ)

 

 ひとりのバンド活動を応援しているらしいこととたまに行動がおかしいことは知っている。拗れている家族仲ならまだしも、少しぶっ飛んでいるだけの両親に実は娘さんと付き合っていました。などと正直にぶちまける勇気は男にはない。自殺するにはまだ人生は長い。

 

「まぁいいや……とりあえず何か色々あるし、回るか」

「あっ……はい」

 

 手も繋がずに二人は歩き始める。今まで男の記憶中でもひとりの記憶の中でもここまで年相応の恋愛イベントが無かったせいか、彼女の表情が溶ける。

 

(ふへっ……私もしかして今までで一番恋人らしいことしてもらってるかも……)

 

 今までそうしたくてもひとりのせいで、そうして貰えていないということはまた別の問題である。

 それでも傍から見たら仲の良さそうな変な距離感の男女に見えなくもなかった。

 




推敲時間なんかねぇよ(パワー系承認欲求モンスター)

そういえばここすきの機能の仕様がほんのり変わったせいでここすき押しにくくなったらしいです。

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