ダメなキミがスキだから   作:効果音

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今回から新章的な何かな気がしている。
久しぶりに地球を防衛しないとプロフェッサーも爆発している気もしている。


開戦前夜

「私の名前は喜多喜多です……あーっ! はっはっは! 目に物見せてやりましたよ! しばらく無になりたい……」

「喜多ちゃんがコンプレックスと達成感でぶっ壊れてる……」

 

 文化祭ライブが無事に終わった翌日。結束バンドのメンバーがSTARRYの虹夏の占拠スペースに出前で頼んだピザやら寿司やらを持ち込んで打ち上げを行っていた。

 代金はひとりに渡された男の金で支払われている。直接払わないのは、彼は今日は用事があるという事で欠席しているからである。

 

(……ライブ来てくれてたなあ。明日は褒めてくれるって言ってたし、ちょっと楽しみ)

 

 ひとりが寿司桶から寿司ではなく、ガリを摘まむ。金を出している男と繋がっている上に文化祭ライブでは色々と振り絞って歌ってみせたというのに宴会ゲージなるものが溜まっていないとしてピザにも寿司にも手を付けていない。

 

「ぼっち。今の内に聞いておくけど、彼氏の人のこと、どうするの?」

「あっ、えっ……どうするってどういう?」

「彼氏の人の記憶リセットが大体七月頃なら、そろそろリミットまで四分の一切るんじゃない?」

 

 来年も男がひとりとの関係を続ける保障はどこにもない。今年は最後の晩に一緒に居たおかげもあって関係が続いている現状を考えると、今から何かアクションを起こすこと自体は早すぎるということもない。

 ひとりとて、段々自分の扱いが御座なりになっていることに気付いている。だからこそ、明日を楽しみにしている。

 

「い、いや、でも、明日は会う予定ありますし……」

「そう、ぼっちが良いなら私が口出すことじゃないから良いけど」

 

 彼女が良しとしているなら外野が踏み込む話ではない。本当に踏み込むべきタイミングはもっと事が大きくなってからで良い。正解だけを踏まなければいけないのが人間関係ではないのだ。とリョウはひとりがまだ一つも口にしていない中トロのラスト一個を口に放り込む。美味であった。

 

「え、あっ……リョウ先輩。それ」

「ん。美味しかった」

 

 私食べてないです。と言おうと思ったもののリョウが何も無かったかのようにピザに手を伸ばしたため、諦めて黙り込む。

 ひとりとリョウは音楽的な面でもコミュニケーション能力的な面でも相性は悪くなく、黙っていても居心地が悪くならないのもあり、郁代が自己嫌悪から戻ってくるまでフォローをしている虹夏が居ない今が楽なのだ。

 この後、リョウが他人の分を気にせず食べていたことが虹夏にバレた結果説教が始まった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(清潔過ぎるから病院は好きじゃないな)

 

 数ヶ月に一回の検診を終えた男は今回も依然として変わりなしという結果だけ貰い。散歩がてらに周囲を散策していると、STARRYの大人組に呼び出されて飲みに行くことになった。どこから情報をキャッチしたのか不明のきくりもその場に居た。

 心底嫌そうな表情を彼にされても、退かぬ、省みぬ、媚びる。それがきくりのスタンスである。

 

「お前、何でいんの?」

「ただ酒飲めるって先輩が言ってたからさー。来ちゃった」

 

 その後、大して酒の飲めない男は素面で酔っ払い三人の相手をして、星歌とPAは何とか帰らせたもののきくりだけ酔い潰れて眠ってしまったせいで、居酒屋に捨て置くことも出来ずに背負って一旦警察に送って捨てる作業をしていた。

 

(重い、薄い、臭い……こうなるとひとりの方がマシだ……そういや、明日会うんだったな)

 

 男が明日の予定を頭の中で確認していると、横断歩道の信号が赤になってしまったので足を止める。

 信号が青になるまで立ち往生しているときくりを背負っているせいで出来た死角から誰かが接近してくる気配がした。

 

「ようやく捕まえたわよ『幻のバンド』のフリーポジション、下北のS!」

「いや、誰? あと幻のバンドってどのバンドの話?」

 

 きくりを背負っている男からは話掛けてきた人物は声でしか判断出来ないが、佐藤愛子の声である事を耳で判断する。

 面倒なタイミングで出くわしてしまった上に、向こうも向こうで何か情報を揃えた上で接近してきたらしい。幻のバンドやら下北のSなどという情報は男ですら一切知らない情報だが。

 

「すまんけど、これ持っててくんない?」

「あ、持ちます……って何であたしがこんな酔っ払い預からないといけないのよ!?」

 

 男がきくりを佐藤愛子に渡して顎に手を当てて考える。

 去年度のノートには関連性が思い当たるような情報は入っていなかった。ぽいずん♡やみとしての彼女の評判からして全くの嘘ということもない。

 真実だとしても、今はもう関係の無い話にまともに取り合う気もない。

 

「じゃ、それを警察に届けるのよろし──」

 

 きくりを愛子に預けたまま逃れようとすると、いつの間にか酷く動揺したひとりがその場に居た。

 明日は学校は休みであるなら、わざわざ待たずとも男の家に転がりこめば良い。そう考えて先回りしようとしていた結果彼女はこの場に偶然にも居合わせてしまった。

 

「あっ、あの今の話って……」

「あ~あ、私が寝てる間にとっておきの話がひとりちゃんにバレちゃってんじゃん……あ、ごめん吐きそ」

 

 男が知らない過去が原因で追い詰められている。問題の根の深さは彼自身でも掴めていなかった。が、目を覚まして愛子の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわしながらドッキリに失敗したようなきくりの発言で危機を感じる。

 

「ぎ、ぎゃあああああああ!!!」

 

 きくりに頭頂部に吐かれる前に愛子は脱兎の如く逃げ出す。この場を作り出した人間が居なくなってしまったが、ある意味で一番常識を持った人間が居なくなってしまったことの方が問題であったりする。

 人通りが皆無な横断歩道で残された三人が取り残される。

 

「下北のSとか幻のバンドとかくっそどうでも良いついで話なんだけどさぁ……」

「いや、まず説明を──」

「どうせ覚えてないんだから黙ってなよ。今は私が話してん、だっての!」

「う゛っっお゛ぉ……」

 

 何一つ話に着いていけない男だが、きくりが今からしようとしている話だけは想像が着く。それを止めるために口を挟むが、愛子の置き土産に関しては覚えていないことは事実であることと下駄を履いた足で思い切り飲みの後だったことも手伝って強制的に胃の中の内容物を吐き出させられてしまい妨害出来ない。

 

「もう遅いし、一つだけ教えてあげるよ。

 そこに居るひとりちゃんの彼氏ね。私の元カレくんなんだよね」

「──えっ? そう、なんですか?」

 

 ひとりの不安そうな視線を男に送る。

 

「そんなの聞いても意味ないよ、覚えてないんだからさー。覚えてるの私だけ、知らない間に横取りされてたってのはあんまり面白くないけどね」

 

 男の口から元カノが居ようがなんだろうが、ひとりは今、自分と付き合っているという現状を聞かせて貰えれば良かったのだが、きくりがひとりを逃がさない。

 

「細かい話はまた今度しよっか。まーでも、決着はバンドマンらしく対バンとかで着けようじゃない」

 

 きくりは言うだけ言ってへらへらとして調子で飲み直しのために、また飲み屋街の方へと向かって行った。

 ようやく吐き終わった男を、ひとりが立ち上がらせようとするが先程のきくりの言葉が反芻する。

 

(私がこの人に見つけてもらったあの時みたいな事が、お姉さんにもあったとしたら? 私は下北のSとか幻のバンドとかはよく分からないけど、それがお姉さんにとって大切な思い出で、それを私に取られているとしたら……私は、私は──)

 

 自分が薬物のように男に依存していたからこそ、きくりがどういう感情を自身に向けているか想像しただけでも脂汗が止まらない。

 

「あーくそ、アイツ、マジで! おーい、大丈夫か?」

 

 グロッキー状態から復帰した男が過呼吸気味になっているひとりを落ち着かせる。入れ替わり立ち代わりで男も脳のキャパシティを越えそうになっているが、今自分がそうなると大変なことになるので必死に抑えながら、彼女に肩を貸して近くの植え込みの縁に座らせる。

 

「……わ、私……別れた方が……」

「俺が何時、アイツの方が好きって言ったよ」

 

 この際、きくりを前に抱いたことは頭の隅に置いておくとして、それでも関係を解消していないことが、一応でもまだひとりの方に男の心が傾いていることの証明ではある。

 しかし、知ったばかりでショックのデカいひとりにそこまでの考えに至るには時間が足りない。

 

「でも、それって忘れてるからじゃ……」

「アイツの事は忘れてもひとりの事は忘れなかったじゃん」

 

 どんなに男が言葉を掛けても、でも、でも、と繰り返すひとりが徐々に面倒になってきたので、そのまま自宅に連れ帰って寝かせることにした。

 結局は人間のメンタルは万全な栄養と万全な睡眠を摂るところから始めなければどうにもならない。

 

 

 翌朝、ひとりは昨夜の記憶が曖昧な状態で目を覚ますと、ジャージの上着だけ脱いだ状態で男の家のベッドの上で彼が横で寝ていた形跡がある。

 軽くシャワーの音が聞こえるため、彼がシャワーを浴びていることがわかる。それに加えて何となく満たされた感覚もあってひとりは何があったかを察する。

 

「……昨日は、えっと……」

 

 まだ少し思考がふわふわしている。何か重要なことがあった気がするのに、蓋をしたように思い出せない。ひとりはベッドから離れた所に落ちていたジャージの上着を着る。

 しばらくして男がシャワーから出てくるのを待ち、入れ替わりでシャワーを浴びる。

 

(昨日は……打ち上げやって……あ、そうだお姉さんとばったり会って……あ、そうだ、お姉さんがあの人の元カノで……)

 

 目が覚めてきて昨日あった出来事を思い出す。一瞬血の気が引くような感覚がした。が、今日は文化祭ライブの件で褒めて貰えるということも思い出した瞬間にどうでも良くなってしまった。

 それにきくりがバンドマンらしく対バンで決着を着けると言ったのだ。ひとりは調子に乗っていることもあって、あまり負ける気はしなかった。

 

「おはよ」

「あっ、おはようございます」

 

 ひとりがシャワーを出ると、冷凍ピザを電子レンジでトーストしている男の姿があった。

 冷凍ピザを食べようとしている時は基本的に機嫌が良い彼に対してひとりは文化祭ライブの話を切り出す。

 

「あっ、あの……文化祭ライブのことなんですけど」

「あー、良かったよ。ギター壊れて大変そうだったけど……まぁ何とかしてくれるメンバーが居て、まだ下手だけどやりたかったボーカルも出来て、バンド組んで成長したんじゃない? 組む前のことは知らないけどさ」

 

 男の傍に近寄ってちょこんと頭を差し出すと、彼に撫でて貰えたひとりの承認欲求が満たされる。直接自分が褒めて貰えただけではなく、結束バンドその物が褒めて貰えたことが嬉しい。これを手放したくはない。誰にも渡したくないという感情も同時に膨れ上がってくる。

 

(……あぁ、お姉さんが言ってた幸せスパイラルってこういうことなのかな……ちょっと嫌なことくらいは吹き飛んじゃうな……)

 




何か酒カスとの関係がバレたけど、承認欲求モンスターの前には匙でしたというお話。

あと滅茶苦茶久しぶりに前に書いてたデアラの二次更新したので読んでくれると嬉しいです。
https://syosetu.org/novel/288454/

両作とも感想等貰えると狂い悶えます。喜びで。
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