ダメなキミがスキだから   作:効果音

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ホグワーツに行く衝動に負けてなるものか。


孤独の宙に舞う星

「SICKHACKと対バン?」

「あっ、はい……お姉さんが、その……元カレだって」

 

 対バンライブの件をひとりが説明をするために結束バンドのメンバーをSTARRYに集めていた。必然的にきくりが男の元カノだったことも暴露することにはなる。

 そこで正直に言う度胸は無く、連れてきた男を横目にひとりはぼそぼそと説明をする。郁代と虹夏は大体の経緯は察することができたが、リョウはバナナで久しぶりの甘味に夢中になっていたせいであまり聞いていなかった。

 

「あー……うーん。大体わかった。喜多ちゃん」

「そうですね。とりあえず吊るしますか」

「え、あっちょ」

 

 郁代と虹夏の行動は早く抵抗する間もなく男は縄で簀巻きにされて天井から吊るされる。

 

「流石にこの扱いは不当じゃないかなぁ!?」

「妥当ですけど?」

 

 勿論男も抗議の声を上げる。しかし吊し上げた二人は真顔で彼に向けてリョウが食べていたバナナの皮を投げる。

 

(大学時代にあいつからこいつのこと冗談半分に聞いてたから、適当に抱かせれば? とかアドバイスしてたなんて言えねぇ)

 

 そんな様子を見ながら星歌が内心で過去にきくりに雑にアドバイスしたことを後悔する。

 大学時代に男のことは酔っぱらっているきくりの口から聞いただけで存在を七割くらいは架空の存在として流していたが、いざこうなってしまうと責任を感じなくはない。

 それはそれとして、きくりから聞いている話を真に受けるとなると、吊るされる男は未成年に手を出している可能性が高い。

 

(まぁ、当人同士の問題だし、増してやアイツらが出るならとやかく言うことでもないな)

 

 結束バンドが解決しようとしているのなら、まだ大人の出る幕ではない。動くべきはライブのセッティング等の諸々と、ラインを越えた時で良い。今はまだ子供を見守る時間だ。

 

「そもそもこの勝負受ける意味あんの? 現状浮気されててとかではないなら──」

「いや、多分してますね。アレは……思い出してくださいよ。あの代理で入ったライブの頃の時、一番イキイキしてましたよ」

「あー、そっちの意味?」

 

 そういう意味できくりに気持ちが持っていかれているかと聞かれればイエスと男は言わざるを得ない。あのステージの上での満足度は普通に演奏するだけでは得られない快感があったことは否定できない。

 

「そもそも、あの人が浮気するとしたら肉体的じゃなくて音楽的な意味合いの方が大きいと思うんですよね」

「浮気前提の話するのやめなーい?」

 

 メンタルの比重として、まだきくりに傾いている訳ではない。というよりはまだどっちがどうという物を考えていないとも言える。

 が、口を挟んだ瞬間黙っていろという念の乗ったプレッシャーをぶつけられた気がした男は黙るしかなかった。

 

「私達がどうこう言うより、文化祭ライブと同じで喧嘩を売られたぼっちが決めることでしょ」

「あっ……私は……正直よく、わからないです……」

 

 男に褒められると嬉しい。脳に得体のしれない液体で満たされて、心がぐちゃぐちゃになる。その時だけは何も考えられなくなる。

 だけど、それが切れるといつもの陰キャのダウナー思考に引き戻される。そういう意味では後藤ひとりという少女は彼という実像を見れているのか。

 今、自分に問い掛けて自分の想いがきくりを押し退けられるものであると明言出来る自信はない。

 

(そういうの、何からしくないわね……ああ、何となく理解出来た気がする)

 

 持ち直したメンタルがまた崩れて、苦しそうな表情のひとりを見て郁代以外は流石に真面目な面持ちになって口を閉じていたものの、逆に郁代だけはそうでもなく違和感を持ち始める。

 休業日作業をしながら話を聞いていた星歌ですら黙っている中で、郁代はセッティング中だったギターを弾き始める。

 

「喜多ちゃんいきなりどうした?」

「……お気になさらず、ちょっと思いついただけなので」

 

 不審な挙動をし始めた郁代を見てリョウがベースを合わせ始める。

 バラード調のメロディーで、衝動的に出た音なのに、もう既にそこには無かったかのようなテンポが聴覚に染みる。

 曲にすらなっていない音に釣られて引き気味だった虹夏もドラムを──と思っても出来なかった。

 

「こういう時ドラムは持ち運びとかの都合でハブられるんで止めてもらえるかな!?」

 

 あまりにも虚しくなった虹夏の訴えでセッションは中止させられた。

 

「わっ! 私、一度帰ります!」

「ぼっちちゃん!? あ、行っちゃった」

 

 二人のセッションを聴いたひとりは何かに気付いたような表情でSTARRYから飛び出してしまった。普段の彼女からは考えられない速度だったせいで、吊し上げられている男は勿論誰にも止められなかった。

 

「いつも以上に変だったなぁ……」

「多分アレは閃いた時の顔だから心配しなくて良い。私達はぼっちが持って来た曲に備えよう」

 

 取り残されたメンバーはひとりを抜いた状態でそのまま練習をするために移動を始めるのであった。

 

「あの~、良い感じのとこ悪いけど降ろしてくんない?」

 

 結局その日は星歌が退勤するまで男は吊し上げられたまま過ごすはめになった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 帰宅したひとりは自室の押し入れのダンボールの封を開けていた。

 

(今年の春先に貰ってたノート……読むなら今かもしれない)

 

 男が記憶を失う少し前に、ひとりに渡された一冊のノートがある。気が向いたら読めば良いと手渡されたそれを今になって思い出した。

 

「見つけた……」

 

 ひとりが見つけたそれには特に表紙には何も題が書かれていない。おずおずと一ページを開くとそこには何も書かれてはいない。またしても白紙である。

 少しだけ肩透かしを食らった気分で、息を吐いて次のページを捲る。

 

 もう音楽に関わるのはやめよう

 

「──っ」

 

 比較的新しい筆跡のその文を読んだひとりは息を呑む。男の演奏を聴いたのは片手で数えられる程の回数しかない。

 しかし、その数回でも心臓ごと心が揺さぶられた。実質的には別人かもしれないが、そんな演奏をする人間がそう思うようなことを綴ったノートをこれより先を読み進めるには、数分時間を要した。

 

 家を出た。これからは一人で身の回りのことをしなければならない。

 料理は手作りじゃないもので良い。クラスの誰かしらが言っていたレンチンとかカップメンとかいうやつで良い。

 部活に入ってみても良い。どうせお遊びなら囲碁とかやってみても良い。運動部は暑苦しいから嫌だ。

 

 かなり古い筆跡の日記のような走り書きを読み込む。新生活に希望を見出しているような文面ではあるが、家出少年のその場だけの勢いのような無軌道さを感じる。

 それに少しだけ見え隠れする単語に自堕落という名の自由に縛られているようにも思いながらページを捲る。

 

 なんだかんだで流されて楽器を握らされていた。

 そのままアレよ、アレよとバンドに加入させられていた。この後の結果は目に見えている。

 一曲一緒に演奏してみても、始めたてだなっていうだけのバンドだった。

 練習をするわけでも無いのに、連れ出されるせいで、部活をする時間もない。

 

 少しだけ、楽しいかもしれない。

 

 どうやら、部活には入れなかったらしい。読み進めると少しずつでもバンドとして成長して、文化祭でライブに出る事になるところまでは楽しそうだ。

 ところどころ自分に重なる部分を感じつつも、メンバーと上手くいっているところに少しジェラシーも感じる。

 

 バンドは辞めた。ライブは成功した。だけど、バンドとしては決定的に間違っていた。それは随分前から分かってた。

 SNSというやつで、一人だけ抜きん出た演奏をしたことが話題になって周りが叩かれた。

 滅茶苦茶気不味い。

 

 ↑多分これが原因で追い回された。

 

 急に筆跡が変化した。しかもそこからは以前の事をまるで覚えていないような日記が続く。

 

「そっか、多分この辺りで、リセットされたのか……」

 

 楽器なんて弾いたことない。しかも、ベースとかやらない。音が地味で、ギターと間違われるし、何か楽しいのか。これは。

 釣りが楽しい。川魚を釣るのも気楽で良い。独りの時間が緩やかに流れて眠たくなるような感覚が心地いい。

 

 別の趣味にハマったらしい。

 そこからまた数ヶ月経つと受験勉強を始めたような文章が散見される。

 

「……もしかして、中学生の頃?」

 

 推薦受験で学校が決まったこれで来年忘れても勝手に進学が決まって楽だ。秋以降のシーズンも釣りが楽しめる。

 

 すっかり釣り人になってしまったらしい。この文章で途切れているため、恐らく次のページを捲ると──。

 

「……あれ?」

 

 次のページからは十ページほど破られていた。次の可読ページになると既に高校生活は終わっているらしい。

 この破られていたページを持っているであろう人物の顔は、考えずともひとりの脳裏に浮かんでいた。

 

 何もわからず、街を練り歩いていたら指がごつい中学生を見つけた。

 何も分からないが指を見た途端に声を掛けてしまった。その場で声を上げられて冤罪をかけられなくて良かった。

 

「……私だ……って、もう何も書いてない」

 

 身に覚えのある事案を目にして、その頃のことを思い出す。その先のことはひとりも知っていることもあり特に読む必要もない。

 重要なのは、一番最初の文は中学時代以降で自分と出会う以前であること、このノートが書かれる以前に何かがあったに違いない。

 

「……でも、どうして」

 

 音楽に関わらないという考えに至ったのだろうか? 結局は音楽から離れられていないことも気になる。今日、STARRYで聴いたメロディーから何かしらのインスピレーションを得て、漠然と消えていきそうな、消えていってしまったものをイメージした先にあったものがこのノートであったのに、肝心な部分が抜けている。

 

「……書こう」

 

 きっと、きくり程の強いモチベーションは自分にないことはひとり自身にもわかっている。

 高校時代の記憶を誰にも共有させたくないくらいには思い入れのある関係だったこともわかる。

 それでも、今胸の内に生まれた衝動は歌詞にして、あのメロディーに乗せたいというものとして一番初めの空白のページに書き連ねていた。

 

(この曲をちゃんと完成させるには、今ここにないページも必要なんだ……だから、対バンで勝ち取るんだ……音目当てかもしれない。女として勝てないかもしれない。

 だけど、今浮かんだ曲、結束バンドで演奏したい)

 

 そうしたら、また、彼に褒めてもらえるかもしれない。最近は自分一人で演奏するより結束バンドとして演奏した方が彼の満足度も高いことをひとりは感じ取っている。

 故にひとりの中の欲求も少し変質している。

 

(……今どう思っているかわからないけど、結束バンドを良いって思っていても、いつかこのノートの後ろに私以外の事が書かれるのは……嫌かもしれない……)

 

 文化祭ライブに向けた郁代のボーカル詰込み訓練のおかげで多少は歌唱力が付いたひとりは、声にならない声量で、歌にならない発音の声を、あのメロディーを自分になりにブラッシュアップした演奏に乗せる。

 

(……そういえば新しいギター買ってから……新しい曲書いてなかったかも……)

 

 新調されたばかりのギターに音を染み込ませるように演奏する。新しい出発点を、新しい目標を刻み付けながら気が付いて押し入れから出た頃には朝日が昇って眩しい光が目を焼く。

 

「……今日、月曜日だった」

 

 一睡もせずに登校する羽目になったひとりは普段より一層死んだ表情でその日を過ごすことになった。




最近ここすきが少なくていっぱいかなしい。
いっぱい感想と高評価があるとうれしい。(小学生並みの獣)
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