ブルアカも書きたいし、他の原作のも書きたい。
大槻ヨヨコは激怒した。
尊敬するベーシストのきくりが自分達よりも先に結束バンドなるダジャレめいた無名バンドが対バンライブを行うということが許せない。
(この間近所の文化祭でライブやった時のパフォーマンスがちょっと話題になってたってだけで、どうせ大したことない学生バンドなんて……)
SNSではギターボーカルの自虐が凄いとか、介錯ダイブだとか色々言われているが、それが話題になってるだけのバンドには負けられない。
今日ライブが行われるらしいSTARRYの扉を開けたヨヨコはドリンクを受け取った後に適当な位置で結束バンドの出番を待つ。
(前座のバンドもそこそこな学生バンドって感じね。こんなレベルの箱でやってるバンドと……あと姐さんが言ってた女の敵概念の擬人化しているみたいな人も来てる?)
以前にヨヨコが気になって下北沢に来た時には発見できなかったため、ついでにここで問い詰めてやろうという魂胆である。そのまたついでにその時に指を見ただけで楽器の腕を見抜けるあの人にライブチケットを渡して自分の音楽を聴いてほしいというのもある。
結束バンド以外は割とどうでも良かった彼女は周囲を見渡すと、何故か桃色の粘液のようなナニかにまみれた状態で隅の方で丸まってる男性を発見した。
(え、いや、何あの……ピンクの、何?)
見た目だけ見覚えがあるにはある。しかし、例の男と同一ではないと思いたいヨヨコは一旦それを無視する。結束バンドの出番が始まれば彼女もステージの方に目が向く。
ドラムがMCを始める。ぱっと見の様子で一番緊張しておらず、率先して喋り始めたことで彼女がまとめ役であることがわかる。
「どーもー、結束バンドの伊地知でーす。最近新規の固定のお客さんが増えてるのでベースの山田が唱えたMC寒すぎて新規離れる論が否定されたっぽいです」
どうやら結束バンドにも色々あるらしい。正直、それ以上にあの桃色粘液おじさんがノイズでしかない。どうにかこうにか頭を切り替えて演奏を聴くのに集中する。
(……姐さんが目を掛ける位だからほんの少しは期待したけど、やっぱり普通のバンドね)
結局は期待外れとヨヨコは一曲目が終わる頃には何となく辺りを付ける。
「ごとーーーー?」
二曲目のラスサビ前にギターボーカルが意味の分からないコールを始める。
「いや、それぼっちちゃんの本名把握してないとレスポンス出来ないからっ!」
ドラムが演奏の手を緩めずにツッコミを入れる。そもそも今回のライブでメンバー紹介をしていないのだからゴトーなるメンバーの名前なぞ知る訳が無い。
それ以降ギターボーカルのクオリティが上がり、それに引っ張られるように演奏も良くなっていくのをヨヨコは耳で感じ取る。
(いや、上手いには上手いけど……違う。アレくらいのギターボーカルなら、ただ上手くて変なだけ……もう一押し何か……)
ヨヨコは尊敬しているが変人だとも思うきくりが目を付けるにはあのギターボーカルはパンチが弱過ぎて今一確信が持てずにいた。
彼女から結束バンドに所属しているメンバーと決着を着けるために対バンをすると聞いたのに、この質では勝負にすらならない。
(一言文句言ってから帰ろう)
他の観客がぞろぞろと帰ったのを見計らって観客席まで降りてきた結束バンドのギターボーカルに向かって詰め寄る。
「……アンタが後藤?」
「違いますけど?」
場が凍った。というより、ヨヨコの中で恥ずかしいやら気不味いやら色々なマイナスの感情が渦巻いているだけで、ギターボーカルもとい郁代には何もダメージはない。
「ひとりちゃんはあっちで桃色粘液おじさんを拭いてる方ですよ? あ、初見のお客さんなら誤解を生むパフォーマンスしちゃってごめんなさい。私喜多です」
「ももも、勿論わかってるわ。私は大槻ヨヨコ、SIDEROSのボーカルの……」
「あー……ごめんなさい。知らないです」
悪いのは少なくとも七割以上は自分の側にあるのに郁代に謝られてしまったヨヨコはプライドの高さもあるせいか、素直に間違えたことを謝罪出来なかった上に自分の知名度が思ってたより低かったため、メンタルをズタボロにされてしまう。
「貴方が後藤……? で合ってるでしょうか?」
(あ、ちょっと自信失くしてる。あと私に聞いた時より丁寧)
ひとりとは別方向でコミュニケーション能力に難がありそうなヨヨコを見た郁代は、助け舟を出さない方が良さそうという自分の直感を信じて放置することを選ぶ。
「え、あっ……後藤はあっちの……」
「消去法で貴方しか居ないでしょうが!! あとあっちはMCで伊地知って名乗ってたわ!」
初対面でプライドが高そうで威圧感のあるヨヨコにビビったひとりは虹夏になすり付けようとしたものの、普通に失敗した。
「私は貴方が、結束バンドがSICKHACKと対バンするなんて、認めないから……っ!」
「あっ……あの、その話今のところ延期になってます」
「あああああああああああっ!?」
「ミ゜ャ゜」
今日やる事なす事全てが空回ったヨヨコは自身の心を守る為にと叫ぶ。突然の発狂で物理的に弾けたひとりとそれを見た星歌が出張る準備をしたのを察した虹夏がヨヨコの元に向かう。
「あのー、何かありました?」
「…………殺してちょうだい」
「本当に何があったんですかね!?」
どこかで見たことあるような無いような。虹夏はそんな引っ掛かりを覚えながら満身創痍になっているヨヨコを落ち着かせ、散らばったひとりの破片をハンドサイズの箒でかき集めて踏まれないように未だに動こうとしない男の横に置いておく。
その後ライブの片付けをしてから詳しく話を聞こうとしたのだが、ヨヨコはその間に復活して帰ってしまい用件は聞けなかった。
◇ ◇ ◇
「俺、お前に連絡先とか教えた覚えないんだけど?」
「そりゃないでしょうね。あたしだって使いたくなかったし」
ヨヨコがSTARRYにカチコミを掛けたものの自爆していった翌日、男は覚えのないメールアドレスから指定の場所に来いという旨の連絡を受けて、不審者からのメールだと切り捨てようと思ったがアドレスから相手がわかったため待ち合わせ場所のファミレスまでノコノコと出てきた。
「で、だ。ぽいずん佐藤が何の用で? 記憶喪失の一般男性とか書く記事ないだろ」
「ぽいずん♥やみじゃい! って素面の時にぽいずん弄りすんな!」
普段は媚び媚びな痛々しいメルヘンの化けの皮を被る癖に面倒な女だと思いながら男は注文したソフトあんみつの白玉をソフト部分に付けて口に運ぶ。
「本題に入るけど、あの後どうなった?」
「あー、アレ? 滅茶苦茶ぐだぐだになってるぞ。
クリスマスらへんにやろうとしたら、会場は取れないしメンバーの一人が同人誌? とかいう趣味のために缶詰するから嫌だと断られ、年始は帰省してる連中が居るわで対バンライブやるにしても二月くらいって話」
半分くらいは愛子の仕業なので、あまりどうこう文句は言えないが、自分自身が蒔いた種があまりにもしょっぱいことになっているのを聞き呆れる。
男もスケジュールを聞いた時に呆れて何も言えなかったこともあり、彼女の気持ちは何となく理解出来る。
「ところで、この前言ってた下北のSとか幻のバンドって何?」
「あんたのことで、あたしの元カレのことだけど?」
「お前もその手のやつかー!!」
数年前の自分のことであるということは考えずともわかっている。しかし、後者の方は予想外だった。たまに郁代にどうせまだ居るとか冗談で言われることはあったが、その時は男も冗談で返して笑い話にしていた。
が、今こうして目の前に出てきた以上受け入れるしかないの事実である。
「別に人間生きてりゃオトコやオンナの一人や二人出てくるでしょ。特にバンドマンなんて殊更よ」
「そこまで気にしちゃあいないけど、元カノが二人目が出てくるとそれはそれで微妙な気持ちなんだよ」
「そんなことより段々相手の年齢差が広がってる方を問題視したら?」
今の相手に関しては新成人でもない相手となると救いようがないと愛子は呆れる。
「お前、当時何歳か答えてみろ自称十四歳」
「十四歳よ」
愛子が真顔でスマホの画面に、当時の男と愛子が撮ったであろうツーショットの写真を映すと、そこには今とそこまで見た目の変わらない二人が写っていた。
しかし、愛子の方は今の痛いファッションではなく、落ち着いた年相応のファッションである辺りまだライターとして活動はしていないことがわかる。
「反応に困る写真を選ぶなよ! というか当時絶対ぽいずん♥やみやってないなら、やっぱり十四歳じゃ──」
「それ以上喋ると死ぬことになるわよ」
真顔通り越して必死な表情になった愛子の気迫に押された男は閉口せざるを得なかった。
「あーあ、ソロでも何でも良いけど復帰するならさっさとしてよねー。あたしが記事書いて食い扶持稼ぐためにもさ」
「そんなのスキャンダル記事でも書けばすぐだろ。皆好きじゃん炎上系の話題はさ」
下北沢で少し話題になっていた結束バンドのメンバーの探っている時に出てきた男の情報と、この間のSICKHACKのライブで代理で演奏した男を見て、今も昔も大して変わってないことを知って、スキャンダルで彼が話題になるのは面白くなかった上に愛子にもこだわりがある。
「バーカ、そんなの下北のSの元カノの佐藤愛子だから知ってること色々書けるだけで、ぽいずん♥やみは音楽記事で伝説の元バンドマンの復活を小細工無しで書き上げたいのよ。
バンドマンに音楽のこだわりがあるように、音楽ライターにも書く記事にはこだわるのよ」
「で、良い記事書けてんの?」
「……さて、会計持ってもらって良い?」
「おい、成り上がりはどうした」
露骨に話を変えようとする愛子を逃がさずツッコミを入れる。
「いや、今月本当にピンチなんで……この前書いた記事のアクセス数公開出来ない位しょぼくて収入が……」
「あ、これガチなやつだ」
「来月のバイト代入ったら返すんで……お願いします」
男は金の無い女に何人か覚えがあるが、この手のタイプが一番扱いにくい。結局は男が会計を持って、その日は解散になった。
別れ際にふと気になったことのあった男は愛子に一つだけ問い掛ける。
「そういえば、今日は何の目的があったんだ?」
「単純に、久しぶりに何となくセンパイの顔が見たくなっただけ、元気してるかなーって、じゃあね……あ、ちゃんと来月お金返すから、忘れんじゃないわよ」
(何というか三人の中で一番カラっとしたやつだったな……四人目とかあんまり考えたくねぇな)
ファミレスから出て散歩をしていると時刻は午後三時、もう十一月半ばでビル風が少しキツいものの、暖房に当たっていると風に当たりたくなる。
こうして目的も無しに歩いて、その場で感じたものだけ考えることは男は嫌いではないが、どうしても愛子からサラッとカミングアウトされたことが頭から離れない。
(ギターとベースの次はライターかよ……せめて演奏する人間であれよ……いや、まぁ過去の自分に何言っても帰っちゃ来ないけどさぁ)
来年にもつれ込みそうな問題が膨れ上がって頭が痛くなる。
最初大槻クンの話書こうとしてたのに佐藤の話になってました。
承認欲求に溺れたストレイト・クーガーが情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして感想と高評価が足りない! と言ってるので感想と高評価お願いします。