ダメなキミがスキだから   作:効果音

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DLC出たので地球護ってきます。


海より浅く、空より低く

(しかし、今日は珍しく落ち着いてたな……)

 

 男とひとりは愛子と別れてから彼の自宅で特にやることもなく、各々の時間に浸っていた。

 ひとりはギターのメンテナンスをしていて、その少し離れた場所で男は本棚に置きっぱなしになっていたキャンプ雑誌を読んでいる。

 結局、愛子からはあまり情報は得られないままだったせいか、少しだけひとりもテンションがいつもより低めに見える。

 彼女がギターのメンテナンスを終えると決まって一曲聴かされることが通例化しているせいで、彼は昼寝を実質封じられている。

 過去に一度だけ眠ってしまった時には起きた後でかなり面倒なモンスターと相対することになったのは別の話。

 

(というか、これ五年以上は前の本だけど、前の俺はこれだけ読んで本当にキャンプ行ったんじゃないだろうな?)

 

 道具を家で見た覚えのない男はその身一つでキャンプ場に突撃したのかと過去の自分を疑う。だからなんだという話ではあるが、本棚を見るに釣りやら天体観測やら色んな分野の本が眠っていることに最近になって気づいた。

 飾る用の本というのも無くはないものの、男が今まで本棚に目が行かなかったのは用が無かったというのもある。

 

(暇だな……メンテやってる時に話し掛けるのも気が引けるし)

 

 男が船をこき始めかけたタイミングでひとりが顔を上げる。

 

「あ、終わりました……」

「ん。はい」

 

 ギターのメンテが終わったひとりが、ギターとピックを持って男の隣に座る。

 いつもであれば何も言わずに彼女が演奏を始めるのだが、今回は少しだけ要望があるのか何か言いたそうにしているのを見た男は、それを察して口を開く。

 

「……何も言わないなら、何も伝わらないままだけど?」

「あっ、その……私だけセッションしたことないなって、思ったりして……」

「妬いてる?」

「……結構、はい、羨ましいなって」

 

 普段から褒めろだとかアップロードした動画に直でコメントしてほしいだとか言う癖に。と呆れながら立ち上がる。

 実際、郁代に対して個人的にレッスンを行っていたり、リョウには集られているとはいえ、よく一緒に外食をしているし、きくりに対してはそういうこともしている。

 今までのことを振り返ると、今まで爆発しなかったのは奇跡と言っても良い。リョウの件に関してはまだしても他のことはバレていないからひとりが知らないだけということもある。

 

「ギターで良い?」

「はいっ……!」

 

 男が自宅のインテリアと化していたギターを手に取って軽くチューニングをする。インテリアにされていたにしては、妙に使い慣れたような感覚がして、このギターがどういうモノであるかを察した男はため息を吐く。

 

(アレだな。わざわざ辞めるって宣言したけど、なんだかんだで捨てられなくて、みたいな……あいつも言ってたけど、ダッせ)

 

 そういう事を口にする人間は大体が構ってほしいだけの人間で、本当にやる気のないことは口にせず忘れてしまう。

 何もかも忘れているのに、それでも楽しく思えてしまう彼はここで踏みとどまった方が良いという予感を抱く。

 

「で、何弾きたい?」

「じゃあ──」

 

 ひとりが、これと、これと、これと、と。いくつも曲のリクエストをする。

 今まで我慢していたのか、それとも純粋に実力が釣り合う相手とセッション出来るのが嬉しいのか。どちらかは男にはわからなかったが、楽しそうならそれで良いかとも思い、結束バンドの曲の演奏を始める。

 

(なに、これ……合わせてもらってるというより、背中を押してもらったと思ったら、その先にいる!)

 

 結束バンドとの顔合わせしていた時とSICKHACKの臨時で入った時の二回。ひとりは男の演奏を聴いたことがある。

 しっかりと聴いたのは二回目の、きくりと殴り合いのような演奏の方が印象に残っていた。だから、振り回されるのかとひとりは思っていた。

 

(俺に弾かせるんだから、もっと良い音出してくれないと困るんだよ)

 

 男はひとりの弾くギターが好きな理由は色々ある。純粋に上手いだとか、ジャンルが好きだとか。

 それ以上に彼女の積み重ねた三年間が感じられることが一番だったりする。

 

(自分が一年も積み重ねられないからとか、そういうんじゃないけど、努力し続けたやつが上手いのはなんだか──)

 

 その言葉の先は、セッションの気持ち良さで掻き消された。

 一曲目が終わっても二人は顔を合わせることもなく、二曲目の演奏を始める。曲をどうするかも何も言わずに、勝手に曲を選んでも互いに合わせることができた。

 

(ぐちゃぐちゃになるというよりは、満たされていく、こんなの結束バンドじゃ無かった感覚だ。お姉さんはこれに溺れたんだ……どうしよう、渡したくない捕られたくない)

 

 このセッションは昂るし、気持ち良い。しかし、ひとりはそれと同時に自分のメンタルが濁っていくのを感じる。

 それが良くないことなのはわかっていても止められないし、やめる気にもならない。

 

(じくじくと身体中を毒されていく感じ……あぁ、ああ)

 

 途中から語彙力すら溶けて、何も考えずに指だけを動かす。

 そうして数曲演奏していると男の方が満足したのか、手を止めてセッションが終わる。

 

(すごかった……すごかったけど……なんかおかしい気がする)

 

 クールダウンのために水分補給をしていると、ひとりは違和感に気付く。今のセッションはかなり満足のいくモノであったが、それ故に違和感がある。

 うまく行き過ぎている。男が何度もひとりの演奏を聴いているから合わせることができるにしても、彼女が既に何度かセッションをしたことがあるような錯覚を覚えるのはおかしい。

 

(まるで同じという訳じゃないけど、私はどこかで……このギターと何度もセッションしたことがある気が──)

 

 何かに気付きかけて、疑問が膨れ上がっていく。数ヶ月後にはきくりとの対バンを控えている状態でそんなもやもやは無駄だと切り捨てた。

 それよりは身体が火照って意識が宙ぶらりんになって集中できない。

 

「……いや、毒電波か何かか、俺のギター」

 

 そんな様子のひとりを見た男は、自分でやったことに若干引きながら彼女を介抱する。

 今回のセッションは彼としてもかなり満足した。それと同時に心の底の部分で嫌な感触がする。その正体が何なのかわからないからかストレスになる。それの発散のために何かしようと男は考える。

 目の前に、無防備な年頃の女が転がっている。

 

「……いやあ、ダサくない? 大の大人がそれはダサい」

 

 もう既にダサいかダサくないかで言うとかなりダサいよりの大人である男にとっては杞憂でしかない。

 色々落ち着く必要があると判断した男は軽く身支度をして、ひとりを置いて散歩に出る。

 

(ひとりもライブの後は興奮気味というか承認欲求不満気味というか……今に始まったことじゃないか)

 

 ふらふらと歩いているとコンビニの前に見覚えのある二人の姿が見えた。

 郁代ときくりがコンビニの前で何か話しているらしい。触れぬ神に祟りなしと、スルーして離れようとすると二人揃って気配でも感じ取ったかのように目が合ってしまった。

 

「あ、ここセブンじゃん……ファミチキないなー。じゃ」

「いやいやいや、良いじゃないですか、ファミチキなんていつでも買えますよ!」

 

 郁代に手首を掴まれる。運動用の服を着ていてほんのりと汗を掻いている彼女の姿を見て、自主練メニューに精神論半分遊び半分で入れた筋トレをこなしているのを察して、男は少しだけ申し訳ない気持ちになる。

 それ以上に、この酔っ払いと二人きりにするな。という圧を感じて、それに負けた男は渋々付き合うことにした。

 

「元カレくんこんなとこで〇×☆##”””?」

「なんて?」

「さっきからずっとこんな様子なんですよね。このまま放置するのもほんのちょっとだけ気が引けますし、とはいえ絡みがアレだったんで困ってて……」

 

 気が引けるのはほんのちょっとなのかと、男は郁代の変化に何とも言えない気持ちになりながら少し雑に彼女の手を振り解く。

 きくりの様子もいつも以上におかしいのは確かなため、このまま帰るのも気が引ける。

 

「なんでこうなってんのこれ」

「それがさっぱりで。そもそも泥酔し過ぎて会話にならないんですよ」

「普通に警察に連絡したら?」

 

 そもそもコンビニ前なのだからコンビニの店員に預けることも出来たのでは? という疑問もある。それを問うと郁代は嫌そうな顔で答える。

 

「この人とそういう繋がり出来ると今後そういう役回りにされそうで嫌というか……」

「ちょっとわからんでもないけどさぁ……とりあえずもう帰ったら? 俺がどうにかしとくから」

「じゃあ失礼しまーす!」

 

 男が引き受けると言った途端に脱兎の如く逃げ出した郁代を見て、流石に驚きを隠せなかった。

 

「バンドマンらしくなったなぁ」

「お゛ろ゛お゛ぉ……あー、ようやく吐き切った気がするー」

 

 せめての気遣いか郁代が置いていったエチケット袋に嘔吐してようやく会話可能なレベルまで落ち着いたきくりが呻き声染みた声を上げる。

 

「お前、ボーカルならもう少し喉大事にしろよ」

「だってさー、対バンの件で志麻に滅茶苦茶どやされちゃったし、イライザは追い込みだって言って飲みとか付き合ってくれないしさー。暇なんだよねぇ」

「半分以上はお前が悪いだけじゃん」

 

 どこからかパック酒を取り出して飲み始めたきくりに呆れながら、男は通知音の鳴ったスマホの画面を見る。

 どうやらひとりの方も落ち着いて、もう帰るとのことらしい。その連絡を見て今日が日曜日であることを思い出す。曜日が関係ない男はひとりが家に居るかどうかで曜日を判断することも多い。

 

「でさー、実際どうなん? 私とひとりちゃん。どっち選ぶん?」

「少なくとも日常生活の面ではお前に軍配が上がることないと思うぞ……」

「とか言ってどうせライブで音の良かった方とか言い出すんだろー私は知ってんだぞー!」

「俺は知らんわ」

 

 その時にならないとどっちを選ぶかなんて分からない。

 代理ギターの時はそれはそれで充足感はあった。付き合っていた当時の話を聞けばそっちに心が揺れる可能性はある、ひとりとのセッションは悪くはなかった。しかし、ひとりのギターは聞いてる方が好みだなというのもある。

 

「やっぱ今決めることじゃねぇわ。俺も俺でやらなきゃいけないことあるし」

「ちぇ、まぁ良いよ。やることは変わらないしね。

 だからさ、一回ぐらいは付き合ってよ」

 

 きくりに無理矢理パック酒のストローを口に突っ込まれた男は、その方が何となく後腐れがないような気がして、飲みに付き合うことにした。

 

 

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