ダメなキミがスキだから   作:効果音

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お久しぶりです。ウラインターネットが悪い。
後藤の日に間に合いました(偶然)


1681560562.zip>無題.txt

 とある音楽一家が居た。

 

 父親は音楽プロデューサー、母親は流れのロックシンガー。二人が何にかの縁で結婚して、その間に産まれたのが下北のSその人だと、筆者が当時本人から聞いた話だ。

 遺伝だったのか、一歳の時に母親の使っていたメトロノームに合いの手を入れ、代わりが出来る程には先天的な音楽のセンスがあったらしい。

 ところが、翌年になると全く音楽に興味を持たなくなったという話もある。

 別の事に興味を持つくらい珍しいことでもなく、飽きっぽい性格なのだと、その時は気にされていなかった。

 

 しかし、もう一年後に両親はSの体質に気付いてしまった。

 一年に一度の周期で記憶がリセットされること、その代わりに感覚器官が鋭く、長期記憶に分類される手続き記憶は忘れないという物だった。

 

 楽器を弾けるようになる年齢になってからは、Sの体質に目を付けた父親が一年で詰め込めるだけ音楽の知識を叩き込む日々が続く。

 勿論、純粋に知識を詰め込むとリセットされてしまうので、耳に覚えさせた。

 耳で良質な音楽を覚えた翌年は指。つまり、演奏を叩き込まれる。

 何も覚えていないSは自分の音楽の良し悪しだけは理解出来る状態で産まれ持ったセンスのままに演奏を覚えた。

 一年が経つ頃には、基礎的な技術を完璧に覚えて、愛着を持った楽器のことは忘れた。

 

 翌年はまた別の楽器を覚えさせられる。

 そして、一年でマスターしたら、また次の楽器へ。その年が終わったら次の楽器へ。その繰り返し。

 少なくとも高校生になるまでは、それが続いていたらしい。

 他人から見れば、体質を利用して何も知らない子供に自分の敷いたレールの上に乗せて意のままにしようとしているようにしか見えない。

 しかし、S本人は記憶のリセットせいか、そういうものとして受け入れていて、母親は薬物中毒で海外逃亡した。とだけSは聞かされている。

 更に、周囲の人間や親戚には存在を隠されているため、誰かが救い出すことも叶わない。

 

 ここまでが筆者が当時のSが残した手記と彼の父の研究資料から得た情報である。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 筆者とSの出会いは大学に入学して少し経った頃、帰り道を急いで路地裏に入ると日の当たらない室外機の上で気だるげに座り込んでいたところを発見したのが初対面だった。

 その時は何も無かったが、不思議なことに大学内やバイト先でも会うようになり、何となく会話をするようになっていった。

 それから半年程の時間と交流が積み重なると、彼の方からライブに誘ってきた。

 

 そうして連れてこられライブハウスで隣に彼の姿はなく、ステージの上で一人で立った彼の観客を一人残らず圧倒するパフォーマンスに魅入られ、同時に思った。

 

 ──あんな化物がソロのままなんて勿体ない。と。

 

 その結果、筆者は交際を申し込んだ。最初は断られたが、あの才能を逃す訳には行かなかったため、大学やプライベートで様々な手段を使って一ヶ月で彼を根負けさせた。

 渋られた理由は体質と年内に高校時代から付き合いのあった彼女と別れたからと記憶している。

 だけど、筆者にそんなことは関係なく彼に惚れ込んだ。

 

 それから筆者はバンドメンバーをかき集めた。

 大学内のサークル、バイト先の先輩やあらゆるコネクションを使って、メンバーを揃えた。

 そうして『幻のバンド』が始動する。

 

 それが一年目の活動内容である。

 二年目の始めはバンドメンバーとの顔合わせ、Sが常日頃から書き留めていた手記の読み込みをさせた。

 一つだけ施した細工が功を奏したのか、彼をスムーズに音楽活動にのめり込ませることが出来た。

 Sを筆頭に逸材を集めた『幻のバンド』が注目を集めるには時間はそう掛からなかった。

 

 筆者はSが余計なことに気を回させないために、ライターの追い払いや厄介なファンの対処等を行うマネージャーの様な役回りをしていた。

 時には危ない橋も渡ったが、大体はどうにかなった。

 全てが順調だった。これなら来年も同じ方法で関係性を保ちながら来年の活動も可能であると踏んでいた。

 だったのに、メジャーデビューも間近のところである日を境にSは楽器を握れなくなった。

 楽器を演奏しようとすると嘔吐と過呼吸を繰り返すようになり、ライブどころではない身体になってしまった。

 かかりつけの医師に相談しても、心因性のモノとしか説明されず、しばらく音楽から遠ざけることしか出来なかった。

 

 そんな身体になっても約一年の活動を無駄には出来ないと、Sは楽器を握ろうとした。が、どれもダメだった。

 Sのための『幻のバンド』はSが動けなくなってしまい、活動出来なくなってしまった。そうなると筆者のやることは成功する気配の見えないリハビリを手伝いながら彼を支えることしかなくなってしまった。

 

 出会った一年目はこんなことにはならなかったのに、何故二年目でこうなってしまったのか、色々原因を探る内に筆者は──

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 キーボードのエンターキーを乱雑に叩いて、そこで愛子の集中力が切れた。

 

(書いてはいるものの、こんなもので稼いでも嬉しくも何ともないわね。結局はスキャンダルだもの……一応保存してパスワード掛けて圧縮しておこう)

 

 記事のデータを保存して圧縮した後にUSBドライブに保存、それを鍵付き金庫に入れてロックする。

 誰にも知られてはいけない記録を保管するために厳重な手段を取っているが、あまりにも無駄だという自覚は愛子自身にもあるにはある。

 それはそれとして、日銭を稼ぐのもキツくなってきた。

 下北のSの記事は公表すれば、かなりのアクセス数とそれに伴う広告料で稼ぎにはなるだろう。それに小出しにして情報を売り捌けば、それなりの収入にはなるだろう。

 

(そういうので稼ぎたいわけじゃないけど、食えなきゃ仕方ないしなぁ。センパイのことは直接書かないにしても、何かネタないかなぁ)

 

 愛子は暇潰しに動画サイトで音楽系の動画投稿者を漁るも大体はコスプレで男性視聴者を稼ぐタイプ、奇抜なことをやって無理矢理にも再生数を稼ごうとするタイプ等々……ちゃんと音楽が好きでやっている投稿者はあまりにも少ない。

 

(あ、久しぶりに投稿してる……って、ネットミームのやつじゃん! 相変わらず節操ないというか……演奏の腕は本物なんだけどなぁ……それこそ全盛期のセンパイに並べるくらい)

 

 最近の愛子は『ギターヒーロー』という動画投稿者の『弾いてみた』の動画をよく再生して暇を潰している。

 投稿頻度は落ち気味になっているが、その間に経験を積み、表現の幅が増えた。

 ちゃんと才能がある人間が努力を積み重ねているのは愛子としても好感触だ。

 

(……最近になって出てきた歳上の彼氏ってのはちょっと創作染みてるけど、ギター上手いしいいか……こういうのを取材したいんだけどなー。

 そうも言ってられないな)

 

 このままでは本当にコンビニバイトをしなければいけなくなってしまう前にちゃんと実在するバンドなりシンガーを特集しなければならない。

 そうとなれば、今目の前にある凄腕ギタリストJKのことを調べ尽くすしかない。

 

(なーんも情報出てこねー! 今時SNSの一つもやってないのかよ! 本当にJKかこいつ!)

 

 が、まるで情報が出てこない。

 通学している高校名どころか交遊関係すら出てこない。無論、正体は彼氏は居るものの同じ高校のバスケ部の所属などではないただのロイヤルニートの男で、リア充からは程遠い陰キャのボッチでしかないのだが、そんなことは愛子に分かる筈もない。

 

(やめやめ、最近話題になってるバンドとかないの?)

 

 SNSで学生バンドについて調べていると、少し前に下北沢の学校の文化祭で行われたバンドのライブ動画が目に止まる。

 

(こういうの素人目線でスゲーって囃し立てて勘違いさせるの本当にやめてほしい。

 そういうので潰れた若手バンドマンが数えきれないわよ)

 

 どうせ書く記事はないのもあり動画を再生する。

 

(あー、センパイの今カノの……意外と上手いな……。全然客席の方見ないわね……)

 

 二曲目に入った辺りで普通の学生バンドだとジャッジを下そうとした愛子はすぐに掌を返すことになる。

 

「は?」

 

 突然ギターボーカルがギターを投げ捨て始めた。しかし、それはどうでもいい。それ以上に愛子が驚いたのはその直前のギターソロである。

 

(ギターボーカルの子の演奏……間違いない、私が間違う筈がない。だってアレは──)

 

 動画を巻き戻して再生し直す。

 リードギターの不調に気づいてからのギターボーカルの動きを注視すると、その瞬間からアドリブに移行する準備を整えているような動きをしているように見える。

 ドラムとベースに目配せをしてからバッキングとしての役割を捨てるようにリードギターを食うような演奏を始める。

 少しずつリードギターの旋律を塗りつぶしてから完全にギターが止まる頃には自分のペースに持っていった。

 

「こんなの、いつでもポジションを奪えるような演奏するギタリストなんて一人しか知らない……」

 

 このボーカルギターの名前を調べてやろうと息巻いて愛子の耳に動画内でそんなことをしなくても名前くらい教えてやると言わんばかりのパフォーマンスが始まる。

 

『キターッ?』

『イクヨーーー!』

 

 キタ・イクヨ。名前は覚えた。後は直でライブを聴いて……やることが急に増えて、アクセス数稼ぎではない記事を書けると思った愛子は俄然やる気が湧いてくる。

 磨けば光る原石か上塗りだけの加工品か、それを見極める必要がある。どちらに転んでも、それはそれで良い。

 

「下北のSの後継がどんなもんか見せてもらおうじゃない」

 

 先日相談に来たピンクまみれの少女と付き合っているのに、結構なレベルまで演奏を仕込んでいる関係性に疑問はあるが、あの男はいつの時代もそんな物であるし、問題はそこじゃないということもあり、すぐに塵へと消えた。

 一先ずはSNSにて直近のライブである新宿FOLTでの出演に乗り込むことにした。

 

 学生の遊び半分でしかない人間に継いでほしくなんかない。そう思うと愛子はクリスマスに設定していたアポに対して全て断りの連絡を入れた。

 

 




今回からアンケート置いておきます。
なんか思いついたボツを単発で出すか出さないかとりあえず読者に聞いてみます。

久しぶりに承認欲求モンスターが暴れるのDLC感ありますね。感想・高評価されると追加でなんか出るかもしれません。油田とか。

ボツ・イクヨ

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