クリスマスイブという日は、恋人が居るのであれば基本的には、その人物にプレゼントを贈るのが普通である。
(店長の趣味とか知らね~。意外と日本酒よりワイン飲むことくらいしか知らん)
なのに男は、新宿のデパートで酒類を見て回っている。勿論、今日この日に人にプレゼントするものとして。
星歌の誕生日が今日で、結束バンドがFOLTのクリスマスライブに出た後に打ち明けパーティー兼クリスマスパーティー兼お誕生日パーティーに向けて何も用意していなかったのが原因である。
(それにワイン渡すたって、飲食は当たりハズレあるしな)
最近ただでさえ女性との接触を厳しい目で、何故か彼女以外から見られているということもあり、星歌が欲しいものも調査できていない。
(別に興味ない女に下心なんて出さないっつーの……はぁ、何かひとりに買っていって、彼女に渡すのに他の女にクリスマスプレゼントなんて渡すかよ。とか言っとくか)
そうと決まれば、酒類のコーナーから離れる。何を買うかは相変わらず何も決まっていない。
(あの子が欲しがりそうなのって何だ? 再生数とかチャンネル登録者数? 流石に買えないな……。
服とかはサイズ分かるけど……うーん)
とは言いつつも、結局は適当に服を何着か買って、差し入れとしてケーキ以外の菓子類を購入してFOLTへと向かう。
服に関しては荷物になるので宅配サービスを利用して送ることにした。
FOLTに着くと一時期居候紛いのことをしていた時期もあるせいか男を見たスタッフから久しぶりに見たとかまだ刺されてなかったんだという声を浴びせられながらも客席の定位置に座る。
(そういえば、今日は……なんだっけ、この前喜多ちゃんをひとりと間違えて自爆したらしい……青木だっけ? 青木でいいか……で、クリスマスライブに穴空いたから色々あってゲスト枠で出ることになったんだっけか……)
ちなみに、元々ライブに出る予定だったSICKHACKはきくりはマグロ漁船、志麻は人と会う予定、イライザは趣味の締め切りがヤバいから缶詰しているから。とそれぞれの理由で今回のライブには不参加らしい。
それはともかくとして、正しくは大槻なのだが、男にとっては彼女は一度会ったことある時のことと色々あって寝ながら聴いていた結束バンドのライブの時に哀れなことになったらしいことしか知らない割とどうでも良い存在だった。
ただ、自分が言えたことではないが、悪い大人を尊敬するのだけはやめておいた方が良いとだけは思う。
「横、失礼するわよ」
「ライターってのは売れないとストーカーになるんだな」
男が陣取っているカウンター席の隣に愛子が当たり前のように座る。目は向けてないものの、声と何となく覚えがあって彼女だということを察する。
挨拶代わりに弄ると直後に本気度の高い右ストレートが彼の脇腹に刺さる。
「痛いじゃん」
「シバくぞ! こっちは今日は取材目的で来てんの!」
男の抗議に対して更なる追撃が入る。実際ライターとして用事がないのであれば、こんな事をしている場合ではない。
「シバいてから言うな……今回は青木だかってのが出てるみたいだし、それが目的なんだろ」
「いや、青木って誰よ? SIDEROSの大槻のこと? 他のバンドにはとことん興味ないのね」
実際興味はない。
もう十二月も終わろうとしていて、年が明ければいよいよ対バンがあってその後のことも考えれば、彼にとって時間はあってないようなものだ。
今から何か別のことを好きになったり、時間を費やしているのは無駄とは言わないが勿体ない。
「そういうのは俺じゃない誰かが勝手に見てるだろ」
注文してから少し時間が経ってぬるくなったドリンクを一口飲んで、喉を潤すとライブが始まった。
一番槍を任された結束バンドがステージの上でライトを当てられて姿を表す。
「どうもー、今日のクリスマスライブにゲストとして呼ばれた結束バンドの伊地知でーす。
はい、言いたいことがあるのはわかってます。私だってこんなことになるとは思ってなかったです」
「どっちにしろ面白いから良いじゃん」
表したのだが、一名程、椅子に腰を固定されて登場しているメンバーが居る。実質拘束を受けていて、演奏以外は簡単なパフォーマンスしか出来ないような状態で本人は不本意そうな表情で少しむくれている。
少し離れて横に立っているひとりはいつものように地面と客席の中間を見てだんまりを決めている。アウェーでこのテンションで出てくるバンドは普通に嫌だなと男は思った。
「乗っかるだけは楽で良いよなぁ山田ァ! という訳で、うちのギターボーカルの喜多ちゃんはここ最近のライブで暴れっぷりが酷いので今回封印させてもらってます。喜多ちゃん何か言う事ある?」
「なんで初めて呼ばれたライブハウスでこんな仕打ち受けなきゃいけないんですかー!?」
「と、まぁ自覚症状無しでアウェーでトンチキなパフォーマンスされても困るし、山田はあんなで、ぼっちちゃんは絶賛バカつむりの冬眠中なので、まともにMC出来るのが私だけで胃が痛いんですけど、このままいかせてもらいます!」
文化祭ライブを経てから郁代のパフォーマンスは過激というか色々吹っ切れすぎているのも事実。他の二人もいつも通り。
問題なのは、今のMCを見ても常連の反応がホッとしている層と逆に今日はSICKHACKがいないんだからやってくれれば良かったのにと思う層で二分されていることだろうか。
「センパイの彼女一言も喋らないし演奏も普通にちょっと上手いだけなんだけど、本当にあんなんが良いの?」
「……そういう子だから」
彼の趣味を熟知しているからこそ、結束バンドのホームのハウスでのライブのアーカイブを見た時はそこそこ実力に納得したのだが、今の姿を見ていると愛子はとてもそうは思えなかった。
そもそもとして、今日の彼女はひとりではなく、今拘束されながらも安定した演奏している郁代の方に用事があって来ているので、そっちはどうでも良いと言えばそうだった。
(本当の意味で入れ込んでるのはどっちなんだか。あ、今のアドリブ差し込もうとしてドラムの子に牽制させるのもセンパイがよくやってたなぁ。自分からフォローさせるような振りしといて梯子外して無理矢理フォローに入った誰かを主役にさせるようなムーヴ……これやるとグルーヴ感強くなるのよねぇ。
アレとの違いは全員乗っからないのと、ちゃんと余裕のあるパートでやってることね)
愛子が郁代の演奏に注目すると、手癖は違うものの演奏している上で意識していることは記憶の中のSと一致するところが多く見受けられる。
そして、それを楽器を始めて一年未満の素人に伝授出来るのは一人しかいないという確信もある。
それはそれとして、久しぶりに好きだった音楽のジェネリックを聴けて悪い気はしない愛子だった。
クリスマスライブが終わった直後の交流会で多少強引にターゲットに突撃してコンタクトを図る。
焦ってテンション高めに行けば、純粋なファンという第一印象を与えやすい。男がインターセプトしてくる可能性も考慮していたが、そちらは疲れ切った自分の彼女の方の介護に忙しそうだった。
「あの~結束バンドの喜多さんですよね! 少し話良いですか~?」
「えっ……そっち?」
ヨヨコは自分達がメインだったライブでファンかライターが寄ってきた時の練習をしていたのに、よりにもよって敵視していた結束バンドの方に行ってしまったため、割とショックを受けていた。本番まで眠れなかった三日三晩の内一晩は使ったのに。
「わー、ファンの方ですか!? 今回は変な格好だったからちょっと恥ずかしいですけど、ありがとうございます!」
「どこでその演奏を身に付けたんですか? 幻のバンドのSのインスパイアですよね?」
「え、いや、何ですかそれ?」
幻のバンドも下北のSもとっくに風化した時代の話で、それを現役女子高校生の郁代が知る訳がない。
(それはそう。今日は暴れも無かったけど材料は揃った。あとはタイミングだけね……)
愛子は確信を得て今回の主目的は果たした。そうとなればこんなところには居られない。足早に退散することにした。
「あ、そうなんですねぇ。あたしは好きなバンドなんですけど……あ、もう帰らなきゃなので~」
そそくさと退散する愛子の背中を見送り、何か違和感を覚える。
今の会話は断片的な情報を自身に与えるだけが目的にしか思えず、その意図がわからない。
(何だったのかしら? 知らない人の話をされても関係ない……)
そんなことより、この後は楽しいライブの打ち上げ兼クリスマス会兼星歌の誕生日会がある。
よく分からない変な名前のバンドよりもそちらの方が大事な郁代は思考を切り替えて待たせているメンバーの方に合流する。
◇ ◇ ◇
『メリークリスマース!』
ありきたりと言うべきか定番とも言える音頭で幕を開けた。
「店長三十路おめでとう。ここの支払いはさせて貰うから好きなだけ飲んでどうぞ」
「ブッ殺されてぇのか、オメー」
「どうどう」
最初にオーダーしておいたグラスを乾杯して、酒を一口煽る。
結局酒の味は苦手なせいで男はすぐにフライドポテトにケチャップを付けて口の中を更新する。
「クリスマスなのに彼女でもない女と酒飲んでんだか」
「それはこっちの台詞な……。
実際ぼっちちゃんとはどうなんだよ」
二人の座っている場所から未成年の居る方を見る。
折角だからというのもあり、SIDEROSのメンバーも打ち上げに参加しているが、そのせいで分かりやすく二組に別れていた。
ひとり、リョウ、ヨヨコの三人のコミュニケーションが死んでるグループ。
それ以外で若者らしくやいやいやっているグループの二組。
後者はまだしも、前者は誰か死んだのかというレベルで空気が悪い。
「これだけ女子高生が居て色恋の話があるのがぼっちちゃんだけってどういうことなんだろうね」
恋ばなをしていたらしい陽のグループの空気が一瞬でお通夜になったのを男は聞こえなかったことにした。
「あの空気で入りたいと思う?」
「そこら辺ドライだよな。お前は」
それから今日のライブの話やら酒の話やらをしていること、十分前後。耐えきれなかったひとりが男に近づいてくる。
「どしたん?」
「……あ、その、大槻さんの圧強くて逃げてきました」
「……あー、確かあの酒カスのこと尊敬してんだっけか」
ほぼ初対面のひとりがそういうことを対処出来るかと聞かれると絶対に出来ないというしかない。
「もうお前ら帰ったら? 一応クリスマスだろ?」
「一応って……」
「帰れ」
「……はい」
結局星歌の圧に負けて、男とひとりは途中抜けすることになった。
ライブ直後というのもあり、家に入った瞬間にひとりが男の背中にぴったりとくっついてきた。
「これ動きづらいからやめてって前言わなかったっけ?」
「……最近、全然褒めてもらってないです」
最近は対バンの結果次第とはぐらかしていたのが仇になったのかひとりの承認欲求不満が爆発したらしい。
「はぁ……はいはい。偉い偉い」
「……」
特に返事もない。
動き難くはあるものの、玄関でずっとこうしている訳にもいかないので、無理矢理前進して何とか上着を脱いでベッドの上に転がれる状況にする。
「……色々考えて……思ったんです」
「何を?」
背中にひとりがくっついている以上、うつ伏せでベッドの上で転がっていると、小さい声で彼女が話を始めた。
「……対バンが終わって、私が選ばれたら、それで良いと思ってたんです……だけど、もう時間が無くて……」
「……それで?」
男はこの姿勢まま話を聞くのはアレとも思い、少し乱暴にひとりを振り払って向き合う形で彼女の方を向く。
「私には分からないことだらけで……出来ないことも多くて……だから……」
「ひとり?」
段々とひとりの顔が下に下にと、下がっていくのを見た男はいつもの物理的におかしいというよりもメンタルが致命的に不味い濁り方をしていそうなことを感じ取る。
「……だから、その、好きにして、く、くださいっ……!」
「なるほど……なるほどね」
目をぎゅっと瞑って何されても抵抗しません。
とでも言いたげな彼女の姿を見て何も感じない程、捨ててもいない男は、もう少しアプローチの仕方あっただろとか、音楽的な方向で勝つんじゃないんかいとか、色々思うことはある。
経緯と理由はともかくとして──。
「……長くなりそうだな」
どこかでそういう風に求められた事がある気がしなくもなかった。
サボりまくってた私が悪くはあるんですけど、感想数が露骨に減って悲しくて悲しい()ので承認欲求モンスターの養育費として感想と高評価とここすきが欲しいのでお願いします。