ダメなキミがスキだから   作:効果音

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珍しくアニメ放送後の更新になりました。
年末は六連勤術師だからもっと遅れるかもしれません。


アウト・オブ・コントロール

「はい、そこ。また新しく覚えようとしてることに一杯一杯で前回出来てたとこがおざなりになってる。

 一回休憩。脳ミソリセットしよ」

「わかりました……ふぅ……」

 

 世間の夏休み気分が薄れてきた頃。郁代は下北沢のスタジオで男からギターのレッスンを受けていた。

 夏休み半ば頃から郁代は、なんだかんだで教え方が上手く約一ヶ月でギターを上達させてくれた男のことを『先生』と呼び始めた。弄りはキツいが一応目上であることと、下手だと言いながらも特に文句も言わずに付き合ってくれている相手を敬称で呼ばないほどの無礼さを郁代は持ち合わせていなかった。

 ひとりを驚かせるためのレッスンである以上、時が来るまでは彼女が居る場でそう呼ぶことはない。

 

「先生。今日のレッスン時間延長してもらっても良いですか?」

「なんでまた。たかだか一、二時間延ばしたってステップアップはしないけど?」

 

 ギターの演奏も上達し、男に弄られる回数も減ってきて進歩が目に見えてあるものの、それでも郁代は満足出来ていなかった。

 

「いや、ギターの方じゃなくてパフォーマンスの方です。そろそろライブでやる曲も慣れてきて演奏中に余裕も出てきたんで折角なら何かやってみたいなって思ったんですけど……ダメですか?」

「『キター?』ってコールしながら中指で天を突いて、レスポンスで『イクヨー!』って言わせた後に観客全方位に向けて中指向ける?」

「ダジャレ!! そんなロックなパフォーマンスを私がやるならリョウ先輩の方が似合うでしょう!」

 

 結束バンドはロックバンドであるものの、郁代のやりたいパフォーマンスはガールズバンド的な他のバンドメンバーにちょっかいを掛けるタイプのパフォーマンスである。

 ついでに即興で考えた割にはすらすらと喋っているため、以前から発想だけはあったことを郁代は察した。

 

「一番陽属性っぽい喜多ちゃんがやるから面白いんじゃん。キター?」

「イキませんからね!?」

 

 それっぽく男が実践しようとするが、勿論郁代は乗らない。彼はそれなりに受ける自信があったのか却下されたことに対してかなり不服そうな表情で案を取り下げた。

 

「真面目な話。なんかやるにしても簡単なコール&レスポンスから始めた方が良いと思う。ギター持ちながらマイク持つのも大変だし。

 そもそも、そういうのってバンド全体で決めることだから今やるべきじゃない」

「こんな時ばっかり正論言いますね!」

 

 男に自発的にこうしたいと思ったことを否定する気はないが、狭いスタジオの中でやれることはたかが知れている。半端に新しいことを覚えようとするなら、しっかりやることを見据えて、それが決まった後に別の場所で行うという話で落ち着いた。

 

「そういや、学校でひとりってどんな感じなん?」

「別のクラスなので学校での後藤さんの生態を全て把握できている訳ではないんですけど……何もしないけど何もされないみたいな状況らしいですよ。あとたまに掃除用具置いておく用の謎スペースで溶けてます」

「何でだよ」

 

 そのまま雑巾で拭かれて絞られてしまわないか男は若干の不安を感じるが毎回郁代が発見しているのでそういった事件は起きていないらしい。

 一番多感な時期に一番多くの人間に会う場所。それが学校という場所だと勝手に彼は思っている。夏より前の記憶が無い以上、学校に行っていたという記録が残っていることは確認したものの、彼自身の学生時代の記憶はまるでない。

 

「学校ねぇ。俺ってどんな学生だったんだろうね?」

「うーん。学生バンドとかやってたんじゃないですか? 軽音部の部室占拠してバンドメンバーを強引勧誘とかしてそうじゃないですか」

「そんな漫画なんかじゃないんだから……そろそろ再開しよっか」

 

(漫画みたいな体質してる人が何か言ってる)

 

 真顔になった郁代が心の中でツッコミを入れる。男の記憶喪失関係の話は本人が気楽に構えているせいで周囲も忘れがちではあるが、もっと重たい問題であるため迂闊に触れにくいと彼女は自制して口には出さなかった。

 それからいつも通りに男に指定された曲を郁代が演奏する。改善点や成長した点を挙げて自主練でやるべき内容を書き上げたメモを彼女が受け取り、帰る時間になったため二人はスタジオから出る。

 

「今日もありがとうございました!」

「どうも。っと、ちょい待って、電話」

「どうぞ」

 

 スタジオを出て解散しようとしたタイミングで男のスマホが着信音を発する。

 男の電話番号を知っている相手はかなり限られている上に電話を掛けてくるような人間は一人しか居ない。

 

『私は今、バッキンカレーの前に居ます』

「そうかい、自分の金で食べてくれ。じゃ」

 

 リョウから食事のお誘いという名のタカりのお誘いをおざなりに断り、通話を切る。一緒に居る状態で奢るのなら男も文句はないが、呼び出されてまで奢る気は一切無い。

 

「何の電話だったんですか?」

「タカり。なんでベーシストは図々しいやつばかり──」

「あっ、すみません。電話です……もしもし、喜多です」

『郁代。バッキンカレー前に来て』

 

 口裏を合わせるために二人のレッスンの時間を把握しているリョウは今度は郁代のスマホに電話を掛けてきた。

 スマホからぼんやりと聞こえてくるリョウの声を認識した男は半目で予想できる結果を待っていると、キラキラした目をした彼女に強引にカレー屋に強引に引きずられながら連れていかれるのであった。

 

「先輩! お待たせしました!」

「……喜多ちゃんさぁ。オトコ作る時は本当に気を付けなね」

 

 リョウに呼び出されて物凄くイキイキとタカられに来た郁代を、男は諦めの表情で郁代の未来を憂う。カレーの匂いを軽く嗅いで味は良いのだろうと推測できる。そのせいで今日の夕飯はここで良いかと舌をカレーの舌になっていた。

 

「……その前にちょっとコンビニ行ってきていい?」

「じゃあ先入ってるので後で合流しましょう」

 

 何となく腹部がゴロゴロとしてきた男は、流石にカレーを食べようという前にそういうのを口にしてしまうのは憚られたので、多少の嘘を混ぜて近くの公衆便所で用を足しに行く。

 用を足してから外に出ると、腹部に何かが突進してくる様な足音が聞こえたため、一歩身を引くと中学生くらいの身長の少女が盛大にズッコケた。

 男の身体があった位置で倒れるような動作をしていたのを見た男は、彼女のことを当たり屋か質の悪い押し売りパパ活少女だと判定を下す。

 どちらにしても碌でもない。だけどもそれに付き合う気のない彼はその場を後にしようとする。触らぬ神に祟りなし。気になって触れた結果良いことがあった試しがない。

 

「いったーい。お兄さんもしかして~……っておい! 避けてぶっ倒れてる人を見捨てる気!?」

「いったーい。のはお前の言動だろ……。当たり屋やるなら歌舞伎町の夜の繁華街でやってりゃいい」

 

 立ち上がって男の服の裾を掴んだ少女の手を冷淡に振り払う。彼女の顔をよく見るとくどくは無いが明らかに若作りを意識しているメイクをしている。外見年齢の若さを活用して他人の気を引こうとしているような人間を男は一切信じる気も無ければ時間を割こうという意識にもなれなかったため、そのまま二人の待つカレー屋に向かう。

 

「それ暗に人生終了しろって言ってない!?」

 

(パパ活押し売りにしても当たり屋にしてもそうなった方が良いだろ。世のため人のために)

 

 去り際に推定少女の放った言葉に対して心の中で唾を吐き捨てる。

 

「お待たせ」

「ん。もう注文しておいた」

「さいですか」

 

 先に入店していた二人が座っている席を見つけて合流し、ツッコむことも面倒になってきた男は溜息すら出さないままスマホでネットニュースを開く。

 一対一の場ならともかく、女子高生同士が居るならその二人で適当に会話しておいてもらった方が成人男性特有のキラキラアレルギーを多少は抑えることが出来る。

 

「そういえばレッスン中に先生のどんな学生時代だったかって話になったんですけど、先輩は先生がどういう高校生だったと思います?」

「彼氏の人の学生時代……年下の地味目な女生徒を食ってるバンドマンやってそう」

「おい、割と悪口だろ」

 

 二人共『え、何か違うんですか?』的な表情をしていたせいで男は泣きたくなってきた。いや、心はもう泣いてべしょべしょだったのかもしれない。

 この間、STARRYにて星歌とPAスタッフが結束バンドから正道を踏み外した大人扱いされていて、どんよりした雰囲気に包まれていたことを思い出した男は今度飲みに誘って愚痴会でもやろうと思うのだった。

 

「実際後輩を食い物にしてそうというのは冗談にしても、昔のこととか全然気にしてないですよね。普通記憶喪失とかって映画とかだと自分のことを知ろうとするじゃないですか」

「調べたって俺は俺でしかないし、それに時間を費やすなら、うまいもん食ってた方が有意義だろ」

「そういうのに対してドライというかなんというか」

 

 そのままぐだぐだと会話を続けて注文したカレーが到着すると、男とリョウは無言で食べ始め、郁代はスマホのカメラで数十枚単位で写真を撮り続け、自撮りもしてからも食べ始めたせいで少しラグはあったものの食事が終わって解散となった。

 男は自宅に帰らず、そのまま腹ごなしに下北沢の飲み屋街を散策していると、スマホに電話が掛かってきたため足を止めて電話に出る。

 

「もしもし?」

『あっ、後藤です……今ちょっと良いですか?』

「外だけど、別に用事ないから良いよ」

 

 ひとりからの電話をしてくるのはかなり珍しい。大体は男が呼び出すかひとりが承認欲求を拗らせてチャットの方で連絡してくるかの二択であるため、彼は彼女の親に存在がバレて怒りの電話でも来た可能性を少しだけ考慮していた。

 

『こっ今度、その……』

「うん」

『通っている学校の文化祭でライブ。したいと思ったんですけど……』

 

(電話だとなおさらテンポ悪いな……)

 

 文化祭で結束バンドとしてライブをしたい。けど悩んでいる。というところまでは察しが付いてしまった男は結束バンドとして活動して多少の変化はあったものの、相変わらずの会話スキルの低さに少しだけ辟易していた。

 

「出ればいいじゃん。それでエグいギター弾いて人気者になっちゃえばいい」

『そう。なんですけど、今回も来てくれますか? 来てくれるなら……そのやっても良いかなって』

 

 面倒臭い。男もひとりを依存させて好きなタイミングでギターが聴けるように仕向けたところがないわけではないにしても、今の彼女に思う所が無いわけでもなかった。

 こういう風にした以上、軌道修正も掛けるのは自分だと割り切って男はある提案をする。

 

「じゃ、ひとりがやりたいなら行く。そうじゃないなら行かない。自分で立つステージを決められないギタリストに興味はないかな」

『えっ、それってどういう──』

「教えてあげない」

 

 通話を切って男は目に入る居酒屋を全て無視して帰宅する。途中、きくりとエンカウントして飲みに誘われても断る。自宅に着いて、男はシャワーを浴びるでもなく、寝る支度をするでもなく記憶喪失初日に目を通したメモ帳を開く。

 

「『ひとりが演奏することに悩んだら親身になるな』……って一個前の俺は冷たいな」

 

 男はひとりのギターが好きではある。それがバンドを組んだことで変化するのなら、その変化は良しとする。今回に関しては文化祭でライブをしようと考えていることは確実に人として前に進んでいる良い変化ではある。彼氏ならば背中を押してあげるべきということも理解した上で、男は死んだ人間(前の自分)遺言(メモ)を優先した。

 それが良い方向に転がるかは男には分からない。それでも、きっとそうした方が輝きが強くなることだけは確信していた。

 




デアラの方も更新もしてしまえば得られるSP(承認欲求ポイント)は倍かもしれないんですけど、手間も倍なので今回のエピソードが終わるまでは更新しないかも……ちょっとくらいこっちサボっちゃダメですかね?

感想や評価あると嬉しいのでお願いします。お年玉出せるかもしれません。
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