光速の走り屋オオサキショウコ   作:まとら魔術

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ACT.4 ドリフト走行会への道

 午後1時、和食さいとうは仕事の時間になった。

 おれと智姉さんはカウンターに立ち、仕事を始める。

 

「お客さんが来たぞ」

 

 仕事が始まってすぐ、耳に1台の車のエンジン音が聞こえてきた。

 耳が痛くなるほど激しいロータリーの音だ。

 

「いらっしゃいませ……!」

 

 お客さんはDUSTWAYのリーダー、雨原芽来夜だった。

 

「オオサキちゃん、ドリフト走行会へ参加するのか聞きに来たよ」

 

 もう答えは改めて決めている。

 

「参加するよ!」

 

 思いを込めて、言った。

 

「参加するのか、分かったぞ。じゃあ、金曜日の赤城山で待っているぜ!」

 

 おれの答えを聞くと、雨原は帰っていく。

 ドリフト走行会に参加することが決まった。 

 

 智姉さんは何か尋ねてくる。

 

「雨原に参加すると伝えたな。明日のことだが、予定ではなかったドリフト走行会の練習をしよう」

 

「はい。練習あるべきです」

 

 金曜日のために練習することが決まった。

 

 おれはそれを受け入れた。

 恥ずかしい思いをしないように、負けられない日々が始まった。

 

 3月18日の水曜日。

 時間は太陽が空に上ったばかりの午前6時だ。

 

 赤城道路ダウンヒルのスタート地点に、2台の車が停まっていた。

 

「昨日言った通り、今回の練習はドリフト走行会本番と同じようなルールで行くぞ。私のR35は4WDのトルク配分をリア寄りにした。さらにはレブ縛り(エンジン回転数縛り)も行う。エンジンを5500rpmまでしか回さない」

 

「絶対に先行では智姉さんを離し、後攻では着いて行きますよ! (ウェヒヒ……智姉さんがレブ縛りしてるならおれは勝てるかも……)」

 

 智姉さんがレブ縛り作戦と取ると聞いた時、おれは楽勝な表情をした。

 

 ただし逆のことになるのはまだ知らない……。

  

 練習がスタートした。

 

 まずはダウンヒル。

 おれのワンエイティが先行し、後ろをレブ縛りでスピードが出ないR35が走る。

 

「<コンパクト・メテオ>! イケイケイケイケイケイケー!」

 

 最初のヘアピンを時速160km/hのドリフトで駆け抜ける!

 

 後ろの智姉さんも<コンパクト・メテオ>をしながら攻めていく! 

 レブ縛りをしているのにもかかわらず、安定した速度で走っている!

 

 互角だった。

 回転数を押さえていたのにもかかわらず、速い速度だった。

 

 おれが遅いのか?

 いや、智姉さんの運転が速いだけだ。

 遅くない。

 

 その後もコーナーたちが2台に迫りくる。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

 レブ縛りしながら走っているにもかかわらず。智姉さんのほうが速い。

 

「おれは本気で走っているのに、手レブ縛りしている智姉さんには勝てないよ!」

 

 逃げられない!

 レブ縛りした智姉さんにもおれは敵わないようだ。

 

 第1高速セクション前のコーナーが来て、Uターンするとダウンヒルが終了する。

 そこを抜けると、2台は停車した。

 

 ヒルクライムがスタートする。智姉さんが先行だ。

 

「さっきは速すぎたな。

 ヒルクライムではさらに手加減して走ろう」

 

 ちょっと速かったことを反省しているようだ。

 

 智姉さんはまず、S字ヘアピンに入る。

 スピードに乗りながら慣性ドリフトで突っ込むが、ダウンヒルより手加減しているのでゆっくりめだ。

 おれも突っ込む。

 

 互角だった。

 

 コーナーが次々とやってきて、2台とも変わらないスピードで走っていく。

 

「手加減して正解だ」

 

 おれはついてこれた。

 

 そして最終ヘアピンが来る。

 レブ縛りを維持しながら智姉さんは突っ込み、ドリフトを発生させる。

 後ろにいるおれは左足ブレーキからの<コンパクト・メテオ>でついていく。

 

「やれやれだな。<コンパクト・メテオ>で私についてくるとは無謀だな!」

 

 後ろのおれを見て、それに負けないと<コンパクト・メテオ>を使った。

 カタパルトのように加速しながらコーナリングする技でおれを離していく。 

 

 同じ技同士のぶつかり合いは智姉さんが制し、2台の距離が離れる。

 

 ゴール地点へ到着し、ヒルクライムも無事終了した。

 

 資料館前の駐車場にて停車し、おれたちは車から降りる。

 

「手加減し、レブ縛りしたけど私が勝ってしまったな」

 

「いえいえ、ドリフト走行会は勝ち負けはありませんよ。ただギャラリーを楽しませるだけなんですよ」 

 

 智姉さんから反論された。

 

「けど、ドリフト走行会の中には勝負があるぞ。相手より多くギャラリーを喜ばせることが大切だ」

 

 喜ばれたら勝ち、バカにされたら負け。

 エンターテインメントで勝負しなきゃならない。

 

「今のお前は覚醒技に頼りすぎだ。バトルというものの駆け引き合戦だ。いつ覚醒技を使うか考えろ」

 

「駆け引きが大事ですか」

 

「そうだ。駆け引きが大切なんだ。」

 

 智姉さんは忠告してくる。

 

「あと、噂で聞いたんだが、DUSTWAYにお前に負けられないと考えて敵視している走り屋がいる」

 

「おれを敵視している走り屋っているんですかッ!?」

 

「嘘じゃあない」

 

「冗談じゃあないですよ、ヘビーですよ」

 

 智姉さんの言うとおり、嘘ではない。

 誰かがおれを敵視している

 

「その走り屋とは、黒のJZA80型スープラに乗っている走り屋だ。彼女は16歳なのにすごい腕を持っているから、お前を敵視しているんだ。DUSTWAYで雨原に並ぶ走り屋だ」

 

 スゴい走り屋が敵視……⁉

 おれはますます胸が痛くなる……。

 

「ドリフト走行会ではおれと走るのはこの走り屋になると言っていますか?」

 

「まだ組み合わせは決まっていない。けど、私の予感ではあいつがオオサキと一緒に走る相手になりそうだと考えている。ちなみに組み合わせは明日午前4時ごろに決まる。私は早起きして赤城に行く」

 

 おれの頭の中に、すごいスピードでドリフトする黒いJZA80が見えてくる。

 それだけではなくオーラが見えてくる。

 午後6時30分ぐらいに家へ戻った。

 

 朝ご飯を食べたあと、1階のリビングでD1のDVDを見ている。

 

 腰をソファに下ろし、黒いタイツの脚を脚組みさせながら、熱いバトルを見届けている。

 

 2年半前にお台場で行われた谷口選手のZN6と太吾選手のJZX100の対決だ。

 

 ちなみにおれは男性恐怖症だけど、有名人なら大丈夫。

 

「速いですねー!谷口選手のZN6!」

 

 谷口選手のZN6は600~700馬力、太吾選手のJZX100は1000馬力だ。

 しかし、谷口選手は先攻でも後攻でも太吾選手を追い詰めていき、勝利した。

 

 さすがに熱いバトルだった。

 胸が熱くなった!

 

「もう1回見ましょうよ! ねッ!」

 

「もう1度見よう。プロの走りを参考にしたほうが勉強になる。金曜日のドリフト走行会に役立つぞ」

 

「面白いです、このバトル!」

 

もう1回DVDを再生させ、バトルを見るとまた胸が熱くなった。

 

DVDを見ている最中に智姉さんが何か言い始めた。

 

「今日の夜10時にドリフト走行会の予行練習が始まるらしいな。オオサキは参加しないのか? 私は今日休みだからついて行けるのだが」

 

 しかしそれには……。

 

「参加しませんが、観戦はします。練習には選手としては参加はしませんが、ギャラリーなら参加します」

 

 と選手として走行会への参加を即断った。

 いい話だけど、断っちゃった。

 

「そうか。参加したほうがいいと思うのだが」

 

 なぜ断った理由はおれは話す。

 

「タイヤやガソリンを大切にしたいからです」

 

 そんな理由だ。

 

(参加しないのは別の理由があるかもしれない。相手の走りを参考にするとか)

 

 しかし、智姉さんはおれがギャラリーに行かない理由を考えた。

 

 さっき言ったのは表向きの理由だ。

 

 午後9時55分、赤城山にて予行練習へ行く改造車の爆音が響き渡る。

 自然吸気やターボ、レシプロやロータリー、響くエンジン音は無差別だ。

 

 おれと智姉さんは第1高速セクション前のヘアピンでギャラリーしていた。

 

「あと5分で始まるぞ。待ってろ」

 

「もうすぐ始まることになると、緊張してきます――」

 

 時間の針はどっしりと動いていき、ついに練習は始まった。

 遠くから激しいエンジンが響いてきた。

 

 車が下ってきた。

 

「来た! DUSTWAYの2台!」

 

 2台とは、先行の雨原芽来夜の青と白のFD3Sと、後攻の黒いJZA80が攻めてくる。

 おれたちのいるコーナーへ突っ込む。

 

「来るぞ!」

 

 雨原とJZA80はヘアピンに入る前からクルマを角度90度にドリフトさせる。

 

「すごいよ雨原芽来夜……速いスピードを維持しながら90度にドリフトさせている」

 

 赤城最速・雨原芽来夜のすごさをおれはここで実感した。

 ドリフトを見ると体が震えてしょうがない。

 やばいよ。

 

 慣性ドリフトでパイロンの前を回り、Uターンと同時に2台は停車した。

 

 ヒルクライムが始まり、今度はJZA80が先行だ。

 すぐ高速セクション手前のヘアピンに突っ込み、そこをドリフトで攻めていく。

 

 直線を交えてS字ヘアピンに入る。

 先行するJZA80は車の旋回方向とは逆方向にハンドルを切りながらスライドし、フェイントモーション(※)を使った。

 

(※コーナー進入時に、一旦旋回方向とは逆にハンドルを切る行為。ラリーの世界でよく使われる技)

 

「うわァ~すげェーなッ! 葛西サクラさんのフェイントモーションッ!」

 

「葛西サクラさんはDUSTWAYで雨原さんに次ぐ腕を持つ走り屋だからな」

 

 このフェイントモーションに、ほとんどのギャラリーから大きな歓声が上がる。

 

 JZA80を見て朝の智姉さんとの会話を思い出しc続きを話す。

 

「おれを敵視しているDUSTWAYの黒いJZA80乗りってこれですか?」

 

「ご名答だな。彼女は葛西サクラ、赤城山では雨原に次いで2番の腕をも持つ走り屋で、大幅な軽量化とビッグシングルターボ化されたJZA80を手足にように操る。かなりの実力者だぞ」

 

「葛西サクラがおれを敵視している……DUSTWAYで2番目に速いとはなかなか強い相手ですね。ヘビーですよ」

 

 おれを敵視している走り屋の名前が葛西サクラだと分かった。

 スゴイ走り屋と戦うかもしれないと、心と身体が震えてしょうがない。

 

 2台はおれたちの眼から離れていく。

 

 ドリフト走行会予行は別の走り屋も走り、11時30分までは続いた。

 ちなみに参加者は当初雨原が悩むほど少なかったものの、おれが参加宣言した以降は多くなっている。

 

 自宅である和食さいとうに帰宅したのは0時過ぎだった。

 日は変わっている。

 

 帰ってすぐ、パジャマへ着替えていた。

 おれは顔以外包んだ紫色の全身タイツで、智姉さんも白い全身タイツを着ている。

 

 今日のことについての話をする。

 

「今日のドリフト走行会はどうだったか」

 

「楽しかったです」

 

 今日は激しいドリフトが目に焼き付いたのが良かった。

 

「参加したほうと観戦したほうはどっちが良かったのか?」

 

「分かりません」

 

 答えは出なかった。

 

 ちゃんとした答えではなかったので、

 

「何言ってるんだ! やれやれだな。お前は走ることが好きだから参加したほうがよかったかもな」

 

 智姉さんに叱られてしまった。

 

 けど別に、観戦しても良かった。

 

「じゃあ寝るぞ。

 お休み、オオサキ」

 

「お休みです。智姉さん」

 

 2人はそれぞれの部屋へ行き、そこで眠りをつくのだった――。

 

 3月19日の木曜日。赤城の空はオレンジに輝く。

 時間は朝6時、日が出ているのだ。

 

 起きてすぐ、パジャマの全身タイツから私服の赤いTシャツとグンパツな黒タイツ姿に着替えている。

 着替えた後はリビングへ着く。ソファに座った。

 

 智姉さんがいなかった。

 

「智姉さん、おれがどんな走り屋と走ると報告してくれるんだろう……もしかして」

 

 早朝、ドリフト走行会の組み合わせが発表される予定だ。

 実は智姉さんは赤城に向かっている。

 

 誰と走るんだろう――。

 おれはそう考えると、モジモジしててしょうがない。

 黒い脚を激しくすり合わせる。

 

 行為をするうちに、VR38の音が聞こえてきた。

 

 智姉さんが帰ってきたようだ。

 

「おかえりなさい、智姉さん」

 

「ただいま、オオサキ。さて一緒に走る相手についてだが、私の予想通りだ。葛西サクラと走ることになった」

 

「おれを敵視していて、昨日予行練習でフェイントモーションを披露したJZA80乗りですか!?」

 

「そうだ。あいつと一緒に走ることになったんだ」

 

 昨日の朝の智姉さんの予感は的中する。

 凄腕な走り屋……一緒に走ったら緊張して運転できなくなるかもしれない!

 

 おれは寒さに怯えるように身体が震えてしまった。

 

 

 夕方の赤城山でDUSTWAYの練習が行われていた。

 資料館前の駐車場に青緑のFDとサクラのJZA80が到着する。

 

「速いよ。サクラさん。コーナーでの軽量なFDを追い詰めるなんて……」

 

 サクラに食い付かれた青緑FD乗りの女はゼェゼェ息を切らしている。

 

「サクラ、練習お疲れだ。あたしを除けばDUSTWAYで一番上手くドリフトできているよ」

 

 褒め称えながら、リーダーの雨原が来た。

 

「明日の夜では勝ってくださいよ!」

 

「16歳なんかに負けないで!」

 

 リーダー以外で一番上手いサクラに応援の声が上がる。

 一緒に走る相手は16歳、年下に負けたら恥だ。

 

「ああ……勝ってやるさ……当日では覚醒技を使わないつもりでいる」

 

応援にサクラは応じた。

 

(しかし明日の夜にはあいつに食付かれるかもしれない……普通の16歳ではないオーラが身体から感じ取れる)」

 

 しかしそれとは裏腹に彼女には不安もあった。

 オオサキのことを警戒しているようだ。

 

 暗くなって夜11時。

 おれとワンエイティが走っていった。

 

 ドリフトさせながらこの峠道を下っていき、迫りくるコーナーを次々と抜けていった。

 

 第1高速セクション前のヘアピンを抜けるとUターンしてからヒルクライムに突入し、ダウンヒルで抜けたコーナーをさっきとは逆の順番で登っていく。

 

 ゴール地点に着くと車を止めて休憩し、考える。

 

「葛西サクラはおれを楽勝な相手だと思っているから覚醒技を使わないかもしれない。けど、絶対に使わせてやろう。相手が使うまでこっちも使わないようにしよう」

 

 決めた。

 おれは16歳だからってなめられたくない。

 そうおれは心に誓った。

 

 10分後には休憩を終える。

 

「次は最後の練習にしよう。

 第1高速セクションまでは全力で走り、それが終わったらゆっくり走って帰ろうか」

 

 ワンエイティのシートに座り、練習を再開する。

 最後の練習と同時にヒルクライムは行わず、すぐ帰宅するつもりだ。

 

 おれはハンドルを握り、アクセルペダルを黒い脚で踏みつけて下っていく。

 第1高速セクションまではドリフトしながら走行して、そこからはゆっくり走って行った――。

 

 11時半、おれは和食さいとうに帰宅する。

 今夜の練習について智姉さんは尋ねてきた。

 

「おかえり、練習はどうだった?」

 

「うまくできました。葛西サクラとうまく戦えるかなって不安もありますけど……それは無くなりました」

 

 おれは答えた。

 年上で凄腕相手には負けられない気持ちでいるから。

 

「なるほど、当日は頑張れよ、負けるドリフトをするなよ。じゃあ今日は風呂に入って、パジャマの全身タイツを着て寝ろよ」

 

「じゃあお休みです。智姉さん」

 

「お休みだ」

 

 智姉さんに激励と就寝の挨拶をした後、お風呂に入り、パジャマの全身タイツに着替えて眠りについた。

 

今日の背中には当日が迫っていた。

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