ゼロの忠実な使い魔達   作:鉄 分

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第三章 寄る辺
第十一話 メガトロンの存在


 虚無の曜日同時刻、ルイズやキュルケ達一行が森の中の広場にて相対していた頃。

 

 

 緑髪が美しく伸びた妙齢の女性と中年の男性がトリステイン魔法学院内一角を占める塔の廊下にて四方山話に花を咲かせていた。現代日本でもよく見かけられる上司とその部下との他愛のない会話が交わされる風景。窓から射す光が彼女の長い緑髪を美しく煌めかせた。

 

 彼女はトリステイン魔法学院学院長であるオールド・オスマンの秘書を務めているミス・ロングビルという名前の女性だった。 中年の男性はミスタ・コルベール。トリステイン魔法学院のれっきとした教師の一人だった。図書館からの帰りであろうか彼は幾つかの書籍をその手に抱えている。

 二人はにこやかに時には笑いも交えて会話を楽しんでいた。

 

 

「いやあそれにしても、ミス・ロングビルはお若いのにとても博識ですなあ。」

「研究熱心な先生にはとても敵いませんわ。もっと色々なお話を聞かせてくださらないかしら?」

 

 

 

 ロングビルの言葉に気をよくしたコルベールはより彼女の気を引こうとしたのかもしれない。興奮した面持ちのままによく回る舌がより饒舌に語った。

 

 彼女はコルベールの話に相槌を打ちながらも時折質問を返し、会話を盛り上げていく。 会話に熱中するあまり会話として話していた内容がロングビルの誘いそのままに推移していたことにコルベールは終ぞ気づくことはなかった。

 

 

 

「そういえばミスタ・コルベール。宝物庫のことはご存知?」

「貴重で価値のある、もしくは危険性があるマジックアイテムを封印している倉庫ですな。それがどうかされましたかな?」

「ええ、あの場所にはあまりにも厳重に固定化や対魔法の術がかけられていると小耳にはさみまして、中には一体何があるのかと少し興味がありましたの。」

 

 

 

 コルベールはロングビルの期待に応えようと記憶を探り、かつて宝物庫に入った際に見分した品々を紹介していく。 宝物庫に入ったことがあるという彼の話を聞いた際、ロングビルの美しい瞳は一筋の妖しい煌めきを放った。

 

 

 

「確かに、そのような品々が保管されているのであれば、あれほどの厳重な管理も頷ける話です。宝物が傷つけられたり、盗難の被害に遭うことなど有り得ないのでしょうね。」

「ふむ、一見すればそうなのですが、私にはそうは思えないのですよ。」

「まあ、どういう意味です? ミスタ・コルベール。」

 

 

 

 そして、ロングビルに乗せられるがままにコルベールは以前宝物庫に入室した時に感じた宝物庫の弱点についての自説を話し始める。トリステイン魔法学院の教師であるコルベールに宝物庫をどうしてやろうといった意思はない。コルベールもまた会話の良いスパイスとして軽い気持ちで話したのであろう。情報が外部に漏れる心配も少なく、会話相手が名高い泥棒であるなどという可能性などコルベールも露程も思いついていなかった。 ロングビルはいかにも興味津々といった風に聞き入っていた。

 

 

「あの扉は魔法に対する対抗措置にばかり重きを置きすぎて、物理的な衝撃に対する予防をおろそかにしているような気がするのです。例えば………、」

 

 

 熱心に己の見解を喋り続けるコルベール。

 コルベールが話を終えるとミス・ロングビルはにこやかに笑って答える。

 

 

「とても興味深い話でしたわ、ミスタ。」

 

 

 会話を続けながら二人はその後も学院の廊下を連れ立って歩いていった。

 ごく自然な風景の中にこそ、危険が狙い澄ましたように忍び寄っている。この当たり前を自覚することは誰にとっても必要な考え方だがその普通を意識することはとても難しいことだった。

 

 

 ▲

 

 

 ハルケギニア大陸を持つ惑星より遥か彼方。遠い遠い遠い位置。光年という単位すら力不足となってしまう場所にその奇跡は存在していた。

 

 

 碧落の座標に存在する自然豊かな惑星。

 地表の七割ほどを紺碧の大海が覆い。残りの三割に広々とした大陸が広がっている。

 無数に散在する諸島の群れ。墨絵を思わせる外見を有した壮観な陸地達。

 膨大な生命にとって欠かせない揺籃の役割を果たした綿津見の塊。

 

 

 熱的な属性を持った惑星との距離が絶妙であるため、有機生命体にとって恵まれに恵まれた生態環境が整っている。

 哺乳類、鳥類、魚類、爬虫類、両生類、その他諸々の諸処族群――。

 地上や海中では各々の特徴をもった種族の有機生命体達が栄華を極めた繁栄を享受している。

 垂れ流された化学物質によって汚染された河川。原初の状態を保ち内に深層を孕む天然湖沼。 

灼熱の熱線が降り注ぐがために形造られた皓皓冽々たる粗砂の集塊。欝蒼と茂る原生林が蔓延った千仞の深山幽谷。

 混沌と多様性が薄皮一枚隔てて共生している奇跡の星。地球。

 

 

 そんな神の気紛れに愛されに愛された、その惑星を血眼で見つめているものがいた。

 

 

 それは有機生命体ではない何か。後背部に掲げられている鶴翼のような基幹部品が特徴的な知的金属生命体。

『情報参謀』サウンドウェーブ。

 彼は今全身が焼けついてしまうのではないかというほどの焦燥に駆られていた。

 冷静かつ沈着、どのような時でも平静の態度を崩さない立ち居振る舞いをすることで彼は有名である。

 

 

 しかし、そんな機械よりも機械然としている彼だが、今の面貌からはそのような落ち着きは欠片も感じ取ることが出来なかった。傍から見ただけでも分かるほどの焦りがサウンドウェーブを支配している。

 

 

 どのような有事に直面しても激することなく、物事を理性的に対処できるディセプティコンのブレインポスト。破壊大帝からの厚い信頼をも勝ち取っている彼の実力はお飾りのものではなかった。粒ぞろいのディセプティコン内でも一目置かれるほどの実力者。二つ名に含まれた参謀の文字は伊達ではないのだ。

 

 

 だが、そのような彼ほどのディセプティコンが不動心をかなぐり捨てて秩序だった動きからかけ離れた行動を取っている。

 否、取らざるを得ない状況に追い込まれるということがどれ程の異常事態なのかを正確に把握できるものは恐らくいない。言葉にすることが困難なほど、サウンドウェーブが追い込まれている現在の状況はそれほどまでに異常なのだった。

 

 情報参謀サウンドウェーブ。彼を含めた全ディセプティコンが今現在置かれている状況とは、

 

 

 

『破壊大帝、加えて斥候兵一体(個体識別ネーム・ラヴィッジ)の消失』

 

 

 

 、である。

 サウンドウェーブはこの事案を対処するために今の今まで忙殺されていたのだった。

 己が部下である斥候兵の行方が不明であることだけでも十分な異常事態である。兵員損耗の観点から見ても追跡と潜入のエキスパートであるラヴィッジを失う痛手は決して軽くない。

 

 

 だが、今の状況はそれを更に上回る。ラヴィッジの喪失がまるで些事に思えてしまうような出来事。貴重な戦力の喪失が色褪せてしまうほどの出来事。それが破壊大帝の消失だった。

 

 消失、消えて失せること。そう、破壊大帝メガトロンが地球上から消失してしまったのだ。

 

 

 その天変地異にも等しい尋常ならざる出来事をサウンドウェーブが知ったのはコンストラクティコン達の報告を受けてからだった。 最上級の警戒が施されたアメリカ海軍籍の保管基地から悠々とオールスパークの欠片を奪取する。その後に大海の底に投棄された大帝をオールスパークの欠片を用いてリビルドする。

 

 

 

 ここまでは全てディセプティコン建てた計画通りに物事が進行していた。 欠損を補うための素材となったコンストラクティコン一体の損失は発生したが、欠片に宿るエネルゴンが触媒となって体内の暗黒物質が再稼働し、破壊大帝は蘇る。

 実行された任務は恙無く進行。往年の実力を破壊大帝は取り戻し、完全復活の首領を得たディセプティコンは満場を以てその活動を再開する筈だった。

 

 

 

 コンストラクティコン達からの報告はサウンドウェーブを混乱させた。

 金属生命体である彼らは感情に惑わされることなく冷徹に事実を認識して行動する。何故メガトロンが消失したのかを彼らは考えない。彼らが思考を注力するのはメガトロンが消失したという事実だけである。その上でどうするのか、メガトロンなしのままに何ができるのかを考える。

 

 

 ドクタースカルペルが押し付けたオールスパークの切片。その欠片から発せられたエネルゴンの波動が大帝を包み込んだ瞬間。眩く光る何かが大帝を覆いかくした。

 

 

 彼らは知的金属生命体である。

 コンストラクティコン達が実際に体験した出来事を特殊に兌換して共有することは極々簡単なことだった。逆説的に言えば、コンストラクティコン達からの報告が嘘偽りのない現実の事柄であることが確実なものとしてディセプティコン達には分かってしまうのだった。

 

 

 破壊大帝が消えた、確実に、本当に、真実の出来事として消えてしまった。

 破壊大帝に多かれ少なかれ忠誠を誓っているディセプティコンにとって大帝の消失という事実を簡単に受け止めることは押し並べて出来ることではなかった。ディセプティコン達にとって破壊大帝の存在とはそれほどのものだったのである。

 

 

 

 ディセプティコン達は元々軍事用ロボット群であるミリタリー・ハードウェアを祖先とする種族であった。トランスフォーム能力を獲得したのはオートボット達よりも後の事ではあったが、軍事用ロボットを祖先としているディセプティコン達は戦闘能力に関してオートボット達の追随を許すことはなかった。

 彼らとオートボットとの対立が顕在化した後も彼らは圧倒的な火力を武器にオートボット達を守勢に追い込んでいたのだ。

 

 

 だが、良く言えば我が強い。悪く言えば、纏まりがないディセプティコン達では統率された指揮系統を構築することが出来なかった。そのため戦闘行動は単体による散発的なものになり、一日の長がある高い戦闘能力を上手く活かしきることが出来ずにいたのだ。

 

 

 ディセプティコン達の能力が局地的にしか発揮できなかった問題をそこで解決したのが何を隠そう破壊大帝メガトロンそのお人である。荒くれ者ぞろいのディセプティコン達を叩き潰し、屈服させた彼の存在が無ければ現在の巨大勢力を誇るディセプティコン軍は存在しない。破壊大帝を頂点とする強権的な支配体制を得たディセプティコン軍は弱点を解消し、その後急速に勢力を拡大。オートボットとの戦闘を終始優勢に進めていった。

 

 

 

 メガトロン不在の弊害はディセプティコン軍がディセプティコン軍であるが故の特性に由来する。

高い戦闘能力を誇るディセプティコンの面々は確かに軍団で見れば恐ろしい存在ではあるが、個々で彼らを見た場合、あくまでも単なるディセプティコンにすぎないのである。彼らは強いが故に群れるのを嫌い、個人個人で行動したがる側面を持っているため、メガトロンという存在が無ければ組織だって行動することが出来ないのだった。

 

 

 幾ら個々が強くても集団で攻撃されれば一溜りもない。事実孤立していた所をオートボットの集団に攻撃されて破壊されたディセプティコンは山ほどいるのだ。

 

 

 だからこそサウンドウェーブは頭を抱える。

 

 

 メガトロンという司令塔の不在は最悪、ディセプティコン軍という組織の瓦解を意味するからだ。メガトロンの不在が限られた短期的なものであればまだ堪え得ることが出来たかもしれない。軍団の面々も大帝の威光の下、組織の規律を乱すような自由行動を控えるだろう。軍という集団の建前は保たれた筈だ。

 

 

 

 だが司令塔の不在が長期的で、帰還がいつになるかも分らない、となればどうなるのか。

 元来組織立って行動することに慣れていないディセプティコンの面々は直ぐさま自分勝手な行動に乗り出すだろう。大帝という枷の外れたディセプティコンは自由気ままに破壊に勤しみ、己の本能を満たすために唯々邁進することになる。ディセプティコン軍という集団は何もせずとも壊滅し、残った幹部連中が勢力争いを続けるだけの内部闘争に明け暮れる単なる一つの集団に成り下がるだろう。

 

 

 大帝の不在という間隙を縫ってオートボットの連中が勢力拡大に乗り出してくるかもしれない。総参謀を自称する胡麻擂り野郎がディセプティコン軍を統括する地位を正当に主張したすかもしれないなど数々の悩みの種は尽きることなくサウンドウェーブを苛んだ。

 

 

 

 大帝探索の任務に己が思考を振り分ける。

 大帝に絶対の忠誠を誓っていたサウンドウェーブにとって大帝の消失は事実であるが故に受け入れられないものだった。エイリアンサテライトにトランスフォームしているサウンドウェーブはアメリカ所有の軍事衛星に憑りついてありとあらゆる情報を再び掻き集めていた。軍事衛星を介することで無数に存在するネットワークその全てに侵入し、収められた情報を奪取する。衛星通信、流通データ、気象予想トラフィック、高解像度スパイ画像、

 

 

 

 荒れ狂う電子の海そのものを飲み干すがごとく、溢れ出す0と1の波濤をサウンドウェーブは泳ぎ回った。

 だが、それでも見つからない。所在の痕跡すら掴めなかった。強制的な回線強奪による大量の情報の収集をもってしても彼の御人を示すものは何も見つからなかった。つまりメガトロンはこの地球上のどこにもいないということである。命令が届く地上部隊から続報も無い。証拠らしい証拠も、希望らしい希望も、望みらしい望みも、目ぼしいものは何もなかった。

 

 

 

 己が忠誠を誓った司令塔を探すため、サウンドウェーブは止まらない。それが徒労だと理解していても今の彼には奔走に奔走を重ねることしか出来ないのだった。

 

 

「――――――――――どこだ、どこに在らせられるのだ。――――――――――メガトロン卿よ、」

 

 

 

 周囲に漏れ出ることのない電子的な絶叫。サウンドウェーブの悲痛な叫びは成層圏の空域に虚しくも響き渡った。

 

 

 

 

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