ゼロの忠実な使い魔達   作:鉄 分

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第二十一話 アルビオン王国崩壊の前夜

 ニューカッスル城の真下、反乱軍側も気づいていない秘密の港にてルイズはメガトロンと睨み合っていた。

 巨大な戦車であるエイリアンタンクと向き合っているルイズ。並んでみればその戦車の大きさがより際立って見えた。

 

 キュルケはハラハラしながら成り行きを見守っていたが、話の決着は未だ平行線を辿っている。それにしてもとキュルケは思う。あのメガトロンとよくも対等に向かいあうことが出来るのはなぜなのだろう。 ルイズがメイジだからか、それ以外の理由があるのかキュルケには分からなかった。

 

 

「手紙を無事取り戻し、依頼された項目は全て満たした、アルビオンを離脱するぞ、」

「まだよ!まだ終わってないわ、」

「ほう、何が終わっていないのだ、」

「任務よ、手紙を取り戻して貴方への依頼は終わったかもしれないわ、でも私への依頼はまだ終わっていないのよ。ウェールズ皇太子殿下を説得してトリステインへの亡命を御決断いただくんだから、」

 

 

 何?とメガトロンは眉根を顰める。

 ウェールズへの亡命を促すということはマザリーニからの依頼では全く触れられていない内容だったからだ。最早手紙の件を依頼されたことすら隠そうとはしていないメガトロン。もしかすればそのメガトロンに対抗意識をルイズは抱いているのかもしれなかった。

 

 キュルケは驚いたようにして仰け反った。

 そんな依頼が無いであろうことくらいキュルケにも分かる。間違いなくルイズの独断だった。態々戦時下のニューカッスルで何を言い出すのか、もうすぐこの城は反乱軍と王軍が激突する主戦場となるというのに。 任務を終了しこのまま安全にトリステイン魔法学院へ帰還するものと思っていたキュルケは慌てる。

 メガトロンに声が届かないよう口を窄めながらルイズを問いただした。

 

 

 

「ちょっとルイズ。貴女いきなりどうしたのよ。このまま学院へ戻って任務終了でしょ? ニューカッスルはもうすぐ戦場になるのよ? さっさと帰れば安全じゃない。まだここで何かしなければならないことがあるっていうの?」

「そうよ。アンリエッタ姫殿下とトリステインのためにまだ私は帰れない。でもキュルケそれにタバサも学院へ帰りたいなら帰ってもいいわ。私は引き止めないから。」

「反乱軍の一斉蜂起までまだ時間はある。やれることは全てやってから後悔したいのよ。」

「ルイズ………、貴女はやっぱりお馬鹿さんね。でも嫌いじゃないわよ、そういうの。」

 

 

 

 溜息を吐きながらキュルケはルイズを見た。

 その様子は相変わらずだった。聡明で気品に溢れる雰囲気も、悩み苦しんで出した結論を梃子でも曲げない強情さもそのどれもがいつも通りのルイズフランソワーズだった。

 

 ここからキュルケが何をしても、こうなってしまったルイズを言い包めることは出来ない。その他の誰かでも結果は同じだ。出来るとしたらここにいるメガトロンだけだろう。交渉の手練手管に長けたメガトロンであれば苦も無くルイズを動かすことが出来る。

 しかし、当のメガトロンは、

 

 

 

「勝手にするがいい、」

 

 

 

 といって沈黙してしまった。

 秘密の港には物言わないエイリアンタンクが静かに鎮座している。何も言わなくなってしまったメガトロンを後にしてルイズは踵を返す。そして、ニューカッスル城にいるウェールズ皇太子の下へ向かった。

 ルイズの後を追ってキュルケも踵を返した。

 メガトロンのらしくない沈黙が気にかかった。あのメガトロンが何故何も言わないのかルイズの我儘な独断など普段からしているように無視してしまえばいいのに。何か特別な理由でもあるのだろうかとキュルケは考える。

 普段の姿からは想像もできないメガトロンの様子が気にかかったが、いまはルイズを助力することに集中しようとキュルケは思った。動かないメガトロンよりも動いているルイズだ。そう思い燃えるような赤い髪を掻き揚げるいつもの仕草を取っていた。

 

 

 ▲

 

 

 三方を急峻な崖に囲まれたニューカッスル城は天然の要害だ。

 急峻な崖が天然の防壁となり攻撃側は馬鹿正直な正面攻撃を強いられる。自然ニューカッスル城を攻め落とそうとすれば、それは大変な手間を擁することになった。

 圧倒的に優勢な反乱軍が一息に王軍側を襲撃しないのもそれが理由だった。攻める反乱軍とは異なり籠城する王軍側は正面に対する備えにだけ執心すればよくこのニューカッスルの恵まれた立地を最大限に生かしている。そのため如何な大軍勢を擁するとはいえ反乱軍は攻めあぐねているのだった。

 しかし、

 

 

 

「あっちゃーこれは無理ね。見渡す限り敵だらけじゃない。アルビオンが貴族派の手に落ちるまでもう秒読みって所かしら。いくらニューカッスル城が守りに易くてもこれじゃねぇ。」

 

 

 

 そういってキュルケは溜息を吐いた。

 ニューカッスル城テラスの上、周囲の地形を一望できる場所だからこそ分かる現実だった。完全に包囲されたニューカッスル城。夥しいほどの軍勢が城の前方に陣取っている。物々しいその陣容から反乱軍側の軒昂な士気が見て取れた。如何にニューカッスル城が天然の要害であろうと300もいない王軍側があの反乱軍の大陣営を抗しきることが出来るとは思えない。

 

 

 風前の灯であるニューカッスル城には何時までも逗留することが出来ないのは明白だ。さっさと城を離れなければ戦火がこちらにまで及んでしまう。そうなってしまえば道連れは必至だった。幾ら褒章を貰っているとはいえ割に合わないのではないかとキュルケは思う。

 

 

 タバサは不思議な長い棒をテラスに持ち込んでいた。長い棒を構え何かを覗いている。反乱軍側の陣容を確認しているようだったがこの遠距離からそんなことが出来るのか、とキュルケは興味をそそられた。

 

 

 

「ねぇ、何してるのよタバサ、」

「敵情視察、」

「視察っていってもその棒で?こんなに遠くても見えるの?」

「見える、ドクターはスコープと呼ぶんでいた」

「どれどれ、……わぉ!本当ね、こんなに遠いのに兵士の顔の見分けまで確りと出来るわ。もしかしてそれもミスタから?」

「そう、依頼して作ってもらった、」

「ふぅんそうなのね、それにしても残念ねぇ。タバサのものだけじゃなくてこの件でもミスタに協力してもらえば何とかなりそうなのに。」

「そういう訳にはいかないのだ、残念だがね。」

 

 

 しげしげとタバサの棒を見るキュルケだったがそのキュルケの疑問に答えたのはタバサではなかった。後ろから聞こえてきた声に反応して弾けるように振り返る。

 

 するとウェールズ皇太子殿下の姿があった。

 恐らくルイズをいなしてきたのだろう。餅のように張り付いてくるルイズのしつこさにはあのメガトロンも根を上げたくらいなのだ、如何にウェールズが対人能力に優れていようと一朝一夕で対処することは出来ないのだろう。

 

 

 

 

「ウェールズ皇太子殿下!!こ、これは失礼をば。」

「ああ、構えなくてもいい。堅苦しい挨拶は抜きで構わない。」

 

 

 

 急に居住まいを正すキュルケに対して、ウェールズは椅子に腰かけ楽にしていいと投げかける。

 そういうウェールズの姿は随分と疲れて見えた。ルイズのバイタリティにやや辟易としているのかもしれない。

 何故メガトロンがルイズの使い魔をしているのか、その理由がよく分ったと苦笑しながらウェールズは前置きした。

 そして一転、真剣な表情と確固とした意志を感じさせる瞳が煌めく、

 

 

 

 

「メガトロン卿の付添であるとはいえ君たちもアルビオン王国最後の客人だ。メガトロン卿へ何故ご依頼をすることが出来ないのかも出来れば知っておいてほしいのだ。」

「反乱軍であるとはいえ、彼らもアルビオンの国民だ。その事実に何らの変りもない。メガトロン卿であれば反乱軍その全てを相手取り勝利を納めることが出来る筈だ。だがその彼らを排除してもらうことは出来ない。私は王族であり王族としての義務と誇りを持っている。」

 

 

 

 勝利を納めることが出来るといったウェールズに嘘はない、とキュルケは思った。ニューカッスル城その正面には幅深さ共に数メートルはあるだろう堀が延々と何百メートルにも渡って続いている。

 この堀も反乱軍の一斉蜂起を鈍らせる重要な一因になっている。そのことは想像に難くない。この堀を造ったのがメガトロン以外にいないことはウェールズに聞くまでもなく分かることだった。

 

 

 ウェールズがメガトロンに寄せる強い信頼もこういった助力が積み重なった末のことなのだろう。

 前もってルイズからメガトロンとアルビオン王室側の友好関係を聞かされていたのでメガトロンを語るウェールズの姿を見てもキュルケは驚かなかった。

 

 

 

 

「反乱軍を打倒しアルビオンを取り戻すことを、メガトロン卿よりも既に提案された。」

「だが、その提案だけは了承するわけにはいかないのだ。民よりの反乱を他力を用いて一蹴し君臨を続ける王政などにどのような意味があるのか。その提案を受け入れてしまえばアルビオン王家の誇りは地に落ち二度と戻ることはないだろう。反乱の度に他力依存する王政など民の為に滅んでしまった方がいい。」

「民からの反乱を自力で治めることが出来ない王政など既に王政として不適格だ。あくまでも此度の件は反乱軍と我々王軍側のアルビオン国内における内政問題だ。援助を乞うことは出来ても解決の糸口を他力に求めることは王家として許されないことだ。」

「そうよキュルケ、メガトロンに協力してもらうっていっても具体的にどうしてもらえばいいのよ、」

 

 

 

 

 語り続けるウェールズに続いたのはルイズだった。

 何処からともなく現れたルイズを見てウェールズは天を仰いだ。最早躱し切れないとルイズのしつこさを受け入れてしまったのかもしれない。まるで最初からここにいましたとでもいうようにウェールズの脇にピッタリと寄り添い離れる気などないとルイズは主張していた。秘密の港でメガトロン相手に啖呵を切った後からずっとこうである。キュルケは早々に飽きて脱落していたがルイズは諦めていなかった。どれだけ断られても連れない態度をとられようとウェールズの亡命を粘り強く主張している。

 

 

「反乱軍の軍勢六万人を皆殺しにでもしてもらう?メガトロンだったら直ぐにでもやってくれるわよ、」

「でもねキュルケ。大きな力には大きな力に見合う責務と責任が伴うのよ。反乱軍を倒すようにメガトロンに命令するということは、六万人の命を奪い取るという途方もない大きな責任を背負わなければならない。その覚悟を持たなければならないの。だからそう簡単にメガトロンへ命令する訳には行かないわ。その命令を聞いてくれるかもわからないし六万人を一蹴できる力の矛先が私たちに向かない保証なんて何もないんだから。」

「ご、ごめんなさいルイズ。でも別に反乱軍を皆殺しにだなんてそういうことを望んでいる訳じゃあないわ。ただミスタに御力添えしてもらえば現状でも何とかしてくれるとおもっただけよ、」

「うん、分かってる。分かってるわキュルケ。ごめんねキツくあたって。」

 

 

 ほう、とウェールズは感嘆の息を吐いた。

 力に溺れるでもなく傲慢に身を浸すでもなく、しっかりと自分を律することが出来ている。

 力と責任に関する意識も幼い年齢からは考えられない程に成熟している。

 あのメガトロンを使い魔として使役できている理由はこの聡明さにあるのではないか、とウェールズは憶測する。

 キュルケに謝罪するルイズを見て納得の頷きをするウェールズ。ルイズに対するこれまでの認識を改めなければならないと自省した。

 そしてルイズに向き直りこれからの予定を話し始める。

 ルイズとウェールズ、ともに譲れない立場にあることを理解しての提案だった、

 

 

 

「ラ・ヴァリエール嬢よ。皇太子として私は様々な軍議や打ち合わせに参加しなければならない。譲れない貴殿の立場も汲み取れるが、余り貴殿の為だけに時間をとることは難しいのだ。」

 

「そこで一つ提案をしたい。」

 

「明日、非戦闘員を乗せた移送船イーグル号がここニューカッスルから出航する。降伏することなく最後まで戦うという我々の心積もりは変わらない。つまり最後の移送船になる。多くの非戦闘員が乗船しているそのイーグル号が反乱軍の牙にかかることがないよう、イーグル号の護衛を卿に依頼したいのだ。」

 

「非戦闘員を多数乗せた移送船は余り速度を出せない。その移送船を最後まで護衛できるのは卿だけだ。この依頼が受諾されればこれ以上心強いことはない。」

「必ず皆を説得し、ラ・ヴァリエール嬢の為に幾らかの猶予を作ると約束しよう。」

 

 

 断る理由などなかった。二つ返事で了承するルイズ。このままウェールズに張り付いていても有用な結果を得ることは出来ない。一度腰を据えてとことん話し合いをする席が欲しいと思っていたルイズにとってはその提案は渡りに船だった。

 

 ウェールズがルイズにその提案を投げ掛けたのはウェールズなりの配慮だったのかもしれない。通常のウェールズであれば態々ルイズを通してメガトロンに依頼などしない。そのまま直接メガトロンへ依頼するはずだ。

 一応はメガトロンを使役するルイズの面目を立てるためにルイズを介したのか、それともルイズを信頼をするに足るメイジとして認識したのか、そのどちらでもないのかルイズには最後まで分からなかった。

 

 

「はぁ取り敢えずはこれで話は纏まったわね。本番は明日からって所かしら。あまりウロチョロするとウェールズ皇太子殿下も迷惑だってことね。気をつけましょう。」

「そうね。出来るだけ私たちの部屋で静かにしましょう。メガトロンへの護衛の依頼もまだ残ってるし城内で作業をしている人達の邪魔をしたくはないしね。」

 

 

 そう言ってルイズたちは部屋へ向かった。

 所定の通路を通り設えられたあの手狭な部屋へのルートを辿る。

 

 

 ニューカッスル城内には戦闘に備えて作業に走り回る兵士の姿が見かけられる。兵士以外にもその家族であろうか幼い子供や女性の姿もその中にはあった。老いも若きも様々な男女が城内に避難している。人々は崩壊間際の王国を象徴する悲壮な表情を貼り付けていた。

 

 

その一様な表情を見てルイズは思う。崩壊する国家とはここまで惨めで哀惜に塗れたものなのか、と

 一歩異なっていればトリステインも同様の末路を辿ることになるのだった。 他人事ではないのだということを強く心に刻みつけ、ルイズは歩を進めた。トリステイン王家に杖を捧げるメイジとして。崩壊するアルビオン王国と同じ結末をトリステインへもたらす訳には行かない。

 そのためにルイズとしては何としてでもウェールズ皇太子殿下に亡命を御決断願わなくてはならないのだった。

 

 

 

 

 

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