ゼロの忠実な使い魔達   作:鉄 分

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第八話 強くなりたい

 イヤリング型の小型無線機を手に入れたルイズ。自身の学修と魔法の訓練とを並行して、積極的にメガトロンと交流を築き上げようと奮闘していた。その甲斐があったのかどうかは分からない。会話の端々から感じるあまりに高い知性からルイズは大きな隔たりを感じることもあった。

 

 

 だがルイズは怯むことなく体当たりでメガトロンとの交流を続けた。媚を売ったり自分を詐称したり、などの小細工を弄したところでした本当の繋がりをメガトロンとの間に築くことは出来ないとルイズは感じていたからだ。

 

 

 そもそもルイズにはさらけ出せるそのままの自分しか持っていない。等身大のままの自分を受け入れその上でどうやって成長していくのか。メガトロンやその他の彼らが誇れるような自分にいつか必ずなってみせる。その明確な目標に向かってルイズは毎日着実に邁進していた。

 

 

 とある日の出来事。魔法の研鑽と使い魔との交流を積み重ね続ける日常を送る中、ルイズはヴィークルモードへと変形したメガトロンに乗って自然あふれるハルケギニア大陸の景観を堪能していた。空からの風景を見てみたいという昔からの希望。ルイズの粘り強いお願いと、決してへこたれることのないひた向きさ。安直に言い切ってしまえばそのしつこさにメガトロンが根負けしたのかもしれなかった。

 

 

 もしくは、メガトロンがルイズの使い魔であるという点も影響しているのかもしれない。サモンサーヴァントの儀式によって召喚される使い魔をメイジは選択することが出来ない。だが使い魔とその主であるメイジは多くの場合強い絆で結ばれることになる。

 これは使い魔として召喚されるものは魔法によって主人と相性のいい存在を抜き出され、あらかじめの選別がなされているからだ。もしくは儀式による契約を果たした時点で使い魔とメイジの間には友好的な関係が結ばれるよう、お互いに魔法によるある種強制的な呪いがかかっているのかもしれなかった。記憶が失われているメガトロンにとって、このような魔法による誘いはより強力に働くのかもしれない。そうでなければメガトロンが少女にほだされるということもあり得ない事柄だからだ。あの破壊大帝が一定の主従契約を結んだとはいえ、ただの少女が強く望んだ周遊旅行に従っているなど、メガトロンを知る人が見れば愕然としてしまうだろう。それだけの光景がそこにあった。

 

 

 

 6千メイル級の山々が連なる火山山脈、ライカ欅と呼ばれる落葉樹を中心とした植物が多く群生したゲルマニアとの国境を埋め尽くす大森林地帯。荘厳な雄姿を誇る浮遊大陸アルビオン。

 まだまだ幼い少女であるルイズは無邪気な子どものようにはしゃぎまわり、年相応に空の旅を楽しんでいた。

 

 

 

「メ!メガトロン!!あっちよ!あっちに向かって飛んでちょうだい!!」

「広い……こんなに海は広かったのね………、」

「み!見て!!野生のヒポグリフの群れよ!!あんなにたくさん!!」

 

 

 

 ルイズをコックピットに搭載したメガトロンは概ね順調にルイズの気まぐれによるやや行き当たりばったり気味の旅程をこなしていた。

 メガトロンがルイズの嬌声に反応することはなかったが、それでも自身の使い魔と共にいられることがルイズにはうれしかったのかもしれない。たった一人だけの寂しい歓声ではあったがルイズも興奮した面持ちで旅を楽しんでいた。

 

 だが数時間もすると落ち着きを取り戻したのかゆったりと窓外の景色を眺めるようになる。これまで体験したことのなかった空の世界。自分が属している世界がどのようなものだったのか、今までの自分はその世界の一端を知るのみだったことをルイズは思い知る。

 いままでの自分が抱いていた世界が破壊され急速に広がりを見せるこの感覚。メガトロンとの交流と出会いはこれまでに積み重ねられた修練も手伝って元々のルイズを確実に成長させていた。

 だが、

 

 

 「足りない」

 

 

 右耳に取り付けたイヤリングに音声が拾われることがないように、ルイズはぽつりと囁いた。

 自身の使い魔に乗って空をかけるルイズの姿は満ち足りていると同時にどこか寂しげであった。ルイズは地平線の果てまで続く広大な砂漠を物憂げに眺めながら考える。

 

 

 私はなんて弱いのだろう、と。

 

 

 誇れるような主になる、と大見得切ったにもかかわらず、自身が有している実力はその見栄とは全く釣り合いが取れていなかった。使い魔と比較することすら出来ないあまりにも小さな自身の実力がルイズは許せなかった。

 彼女は自分自身の力量と使い魔との隔絶した隔たりを埋めようと必死に努力した。使い魔の主であるメイジとしての誇りが、ルイズが弱い実力のままでいることを許さなかったからだ。

 

 だが、その積み重ねだけでは全く足りなかった。

 メガトロンやラヴィッジがもしあの決闘に介入していればどのような結末を迎えていたのだろうかとルイズは考える。何の労力もなく勝利を手にすることが出来たかもしれないし、自分が苦戦したゴーレムたちが何体出現しようと悉く引き裂きさかれて、蟻と象が戦うような勝負という勝負になっていなかったかもしれない。

 いつまでも成長が見られず使い物にならない自身の魔法、釣合の取れない自身の実力と存在を客観視してルイズは焦る。

 

 

 このままではいけない、と、

 

 

 その強い焦燥と思いがルイズを駆り立てる。より早くメイジらしい実力を身に着けて自身の使い魔たちに顔向けできるようになりたい。使い魔である彼らが使い魔であることを誇れるような存在に。

 そのためには、

 

 

 

「手段は選ばない、何が何でも、必ず強くなってみせる」

 

 

 

 その声は貴人のように高尚な気風を有し、凛とした彼女の雰囲気からは雑念の類は一切感じられない。

 それはゼロと蔑まれ続けても誇りと自信を失わずに、保ち続けてきた一人の少女の心からの誓いだった。相手を見下し、嘲笑う醜い感情を前にしても挫けることなく立ち向かい続けることが出来る彼女は強い心を持っている。今まで通り一人であれば傷つけられるのは彼女だけだった。自分一人が苦痛を味わうのであれば耐えることが出来る。

 

 

 しかし、今の彼女は一人ではない。自身の召喚した使い魔とメイジは一心同体の存在である。ともに戦い苦しみ喜びを共感する。自分だけが弱いのであればよかった。その弱さは自分一人だけの責任であり自分一人だけのものであるからだ。

 

 

 しかし、今のルイズは使い魔を召喚した立派なメイジである。

 もはや彼女自身の身柄は彼女だけのものではなくなった。自身の振る舞いや評価や存在が、そのまま使い魔にも影響される。自分自身でもあり自分ではない使い魔に自身の不手際や己の無力さによる被害が及ぶこと。貴族としての誇りを持つルイズだからこそ、それは耐え難いほどの苦痛であった。

 

 

 

「………!」

 

 

 

 振動とともに機体の方角が大きく変わったのを感じた。

つまり、漫遊旅行はこれで終わりということである。メガトロンが示した帰還の意思をルイズは遮ることなく沈黙していた。ゆっくりと西の果てへ沈みゆく太陽の断末魔を後にしながら夕闇に沈んでいるハルケギニアの豊かな自然に目を零す。

 

 

 加速度的に増すルイズの成長の始まりはこの日の決断から始まった。

積み重なる研鑽と鍛錬、人並み外れた覚悟のもとで行われる練習は嘘をつかず、何時かの花開く時を待っている。

 

 

 ルイズが魔法だけでなくその他のアプローチで強くなる方法を模索する中で、結局は自身の使い魔であるドクターに頼らざるを得なかったのはよい皮肉だったのかもしれない。人は一人では最後まで戦いきることができない生き物である。周囲の協力を上手く引き出し自分のものへと昇華したものが最後には揺るぎのない勝利を手に入れるのだった。

 

 

 そして舞台はトリステイン魔法学院から南へ5リーグの森の中へと移った。

 

 

 

 

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