そして舞台はトリステイン魔法学院から南へ5リーグの森の中へと移った、
ハルケギニア大陸の漫遊旅行から帰還したルイズ。彼女は勉学だけでなく図書館へ泊り込んだりしながら、魔法だけではない様々な分野からのアプローチ方法を模索した。その努力は何の準備もなく始められた。ルイズの行った拙速な努力が直に目を出すことは本来ではありえないことだった。
しかし、失敗という本来あるべき結末には至らなかった。ルイズがその枠組みから抜け出せたのは自身の使い魔であるドクターの存在があったからである。図書館から持ち出したのであろう大量の書籍を前にして途方に暮れていたドクターを見てある提案をルイズは掲げた。
自身の持っているハルケギニアの知識とドクターからの助力との等価交換、
使い魔であるドクターに対して自身の知識を教える。
そのようなこと本来であれば積極的に無償でやることである。けれども、手段を択ばないという自身の誓いと一般的道徳とを天秤にかけたときルイズは前者を選択した。自身の心を痛めながらも意図的に不平等を押し付ける交渉によってドクターからの強い助力を取り付けたルイズ。それは召喚された使い魔であるが故の問題を抱えていたドクターを相手にしたからこそ通用したウルトラCである。ハルケギニアに関する前提知識を持たないドクターの足元を見たややえげつない取引だった。
ルイズの教えたハルケギニアに関する情報をドクターは芋づる式に引出、そのすべてを理解した。勉強熱心なルイズの教えが良かったのも幸いしたが機械生命体の中でも特筆して優れた頭脳を持っているドクターであれば当然すぎる結果でもある、
しかし、使い魔への知識の伝達が上手くいったからと言ってその逆が上手くいくとは限らない。
ルイズはメイジである。
だが未だ学生の身分であり実戦経験もなく身体も成長しきっていない、熱意と素質があるとはいえ幼い少女である彼女にできることは限定的だった。強くなると一言にいってもどのようにすればよいのか。ドクターはルイズとの対話と彼女の身体能力とを加味し、彼女に適しているであろうプランを提示するために頭を捻らなくてはならなかった。
長引くであろう指導と綿密さを求められるプラン、ドクターにとっては完全に徒労である。
だがメガトロンも逃れ切ることが出来なかったルイズのバイタリティとしつこさには如何にドクターでも逃げられなかった。餅のように張り付いてくるルイズにどこからそんな元気が湧いてくるのかと、やや辟易としながらドクターはプランを練る。
そして幾つかに分けて提示された計画の中から、銃器が含まれたものを選択したのはルイズであった。
これまでの人生の中でただの一度も見たことがない銃という武器の存在。その存在も何も知らない彼女が何故それを選択したのか、それはルイズ自身も分からなかった。
渡された銃の現物を見たとき、ルイズは確信した。
銃というパーツが自分の体を構成する様々な要素と組み合わさりピタリと嵌る感覚。自身が生涯にわたって使い続けるであろう重要な武器を、使い魔の助力のもとでルイズは手に入れた。
基礎的な体力トレーニングから銃の分解・メンテナンスなどプランの中からルイズが自身に課した訓練は多岐に亘った。授業が始まる前の早朝、終わったのちの放課後等の比較的自由な時間帯に訓練は行われたのだが、決して楽ではないそれらの訓練を彼女は歯を食いしばり、時には泣き出しそうになりながらも必死でこなしていく。
ドクターの提示したプランの中でもっとも辛いメニューを選んだのもルイズ自身だった、だが不思議と彼女から泣き言の類は一切発せられなかったという。使い魔に誇れるようなメイジになるという誓いと積み重ねる訓練が少しづつでも確実に為になっているという自覚がルイズを支えていたのかもしれない。
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ハルケギニア漫遊旅行から数週後。ルイズは休日である虚無の曜日を利用してラヴィッジとの模擬実践訓練を行っていた。無理矢理に巻き込む形でラヴィッジを連れ出すと、行おうとしている訓練の内容を共有する。ルイズの勝利条件はラヴィッジの身体にただの一回でもよいから用意されたマーキング弾を当てること。逆にラヴィッジの勝利条件はルイズからの攻撃を回避して、傷つけることなくルイズを身動きできないように拘束することだった。
その内容はルイズが自発的に行おうとしルイズ発案であるものらしく随分とルイズにとって有利なものだった。もしかすれば、自身の使い魔を負かしてやろうというある種の気概があったのかもしれない。ルイズはやる気満々であったがその対戦相手として選ばれたラヴィッジには彼女ほどのやる気は見られなかった。
そしてラヴィッジにやる気が見られないままに訓練は開始された。
訓練が始まってしばらくしての事。右手で銃を構えたルイズは木陰に己の身を隠して辺りの様子を伺っていた。
勝負が始まってはや十数分経過していたが未だにラヴィッジを見つけることが出来ないでいた。その焦りからかルイズの表情からは必死さが読み取れる。自分からまきこんでおいてあっけなく敗れるほど見っともないことはないからだろうか。
自身の使い魔に、これまでの修練の成果を見せてやろうとルイズは鼻息を荒くする。
だが、
「(ねえ、ドクター。本当にラヴィッジは森の中にいるのよね?)」
「はい、います、きちんと指定された森の中に」
「(うぎぎぎ、いないいない。でもさっきから全然見つからないじゃないどこに隠れているのよもう)」
一向にラヴィッジを見つけることが出来ないでいるルイズ。そのじれったさからイヤリングを使ってドクターに伺いまで立てるがラヴィッジを見受けることは出来なかった。歯ぎしりをしながらも周囲への警戒を怠ることなく近辺を隈なく探す。朽木のうろの中や樹木の根の隙間など。巨体を誇るラヴィッジではとてもではないが隠れられない、あり得ないと思うような場所もである。
しかし、ラヴィッジはルイズの直ぐ傍にいた。
舞台として指定された森の中、ルイズが意気揚々と侵入してきたその始めからルイズの背後で身を潜めていたのである。潜入と諜報のスペシャリストであるラヴィッジにとって穏身は十八番。ルイズの目を掻い潜りつづける程度の所作はお手の物であった。
「痛ッ!」
木の根に躓いたか?と前方に転んでしまったルイズは足元を見る。だが、ルイズの足首に巻き付いているものは見たことのある長い長い尻尾であった。
そのままずるずると引きずられるルイズ。地面の上を引っ張られながらもあわてて銃を構えようとする。だが、先ほど転んだ際に取り落としていた事にようやく気づいたルイズだった。巨体を支える四足の間まで引っ張られると、ラヴィッジの巨体がのっしりとルイズに伸し掛かる。ルイズを傷つけることがないように手加減しながらもそれは彼女の身動きを封じるのに十分だった。
「……まいりました」
暫くもがいていたルイズだが自身の力では抜け出すことが出来ないと感じると、悔しそうに負けを認める。ルイズの挑戦はまだ始まったばかりだった。
後に語り継がれる伝説のゼロも最初はこの程度の物だった。始まりは誰でもこのようなものである。