聖地巡礼inテラ   作:狸帽子の旅人

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初投稿です。石投げないでください。

ただの思い付きの短編です。

あんまり続きは期待しないでください。


プロローグ 昔々の休暇の一幕

 

 俺は吸血鬼だ。

 

 世間一般的にはブラッドブルードと称されるとても恐れられている魔族だ。

 

 どれくらい恐れられているのかというと各国の一般家庭で子どもに対しての脅し文句としてよく使われているくらいにまで怖がられている。それこそ「嘘をついたら」、「早く寝ないと」の決まり文句の後に、「ブラッドブルードが血を吸いに来るぞ」なんて言われるくらいには。

 

 事実、過去にご先祖様方がたくさんやらかしたのか種族的特徴が明確に認知されている。白い髪に緋色の瞳、白い肌に鋭い八重歯、そしてサルカズの尖った耳。この特徴にいくつか合致しない同族もいるにはいるが、その者は混血や眷属にされた場合が多い。

 

 そんな恐ろしい見た目を取り繕わないで街中を散歩すると、良くて周りの人間が一目散に逃げる、最悪パニックが巻き起こって憲兵が飛んでくる。

 

 サルカズの生まれそのものが呪いに等しいとはいえ、さらに只人に恐れられる種に生まれ変わるなんて運命とは酷いものだ。

 ブラッドブルードの永遠に等しい寿命には感謝しているとはいえ、それでも陽光の下を満足に歩けず、四六時中他人からの目線を気にすることを強いられるのは辛いものだ。それに分類上近縁種であるサルカズたちからも恐れられ、避けられているなんて。いくら血を生きるために啜るとはいえ、派手にやりすぎましたよご先祖様方。

 

 おかげで、自分の種族を知った上で友達になってくれる人はとても少ない。出自を隠した上で友達になってくれている人はいるにはいるものの、ブラッドブルードと知って友達を続けてくれるものは何人いるか。

 

 そんな事情も相まって、ブラッドブルードは友となった者をとてもとーても大事にする。その者に烙印をつけてマーキングして愛玩(ヤンデレ)するくらいには。残虐で頑固な年寄りたちも流石に天涯孤独は辛いものがあるらしい。

 

 だから悲しいな、俺がこの大地を旅している目的の半分がその友達作りのためだ。

 

「・・・」

 

「ほら、たらふく食えって。ここ最近で一推しの麻婆豆腐だ。うめーぞ♪」

 

 だが、そんな友達作りも相手を選んで作らなければならない。例えば、やたら激辛料理を進めてくるこのクソ映画監督とか。

 

「これは、麻婆豆腐なのか?」

 

 ぐつぐつと溶岩のように煮えたぎる唐辛子色のえぐい配色。立ち上る匂いが鼻孔につくだけで、汗が噴き出そうな辛い風味。そのくせ、とても美味に見える見栄えも素晴らしかった。

 

 命の危険すら感じるほどの、味覚をぶっ壊しそうな予感すらする料理を目の前にこの大地に生きて約100余年、今世最大級のピンチに直面していた。

 

「どうしたんだよ、食べねぇのか」

 

「少し待て、舌の命の危機と親友との友情を天秤にかけているんだ」

 

「ほぅー、大きく出たな、なら、これを食べてくれたら私たちはズッ友ってことでいいか?」

 

 このいけしゃあしゃあと。文字通り比喩抜きで考えてんだ。

 

 俺は考える。大真面目に生まれてから一番考える。

 

 この殺人的な料理と隣でそれをおいしそうに、それでいて汗をジワリとにじませながら食する隣に座っているコイツ。真っ白い肌に長い赤い鬣がある尻尾、アメジスト色の瞳に赤い角、特に目を引くのが肘から手先までにかけて麻婆豆腐のように赤々としている腕。

 

 彼女の名はニェン。

 クソ映画監督で、天才鍛治職人で、無職な友人。

 

 別に、食べないからと言ってもニェンからは別に失望されたり、嫌われるようなことにはならないはずだ。彼女は結構人様の懐にずかずか踏み込むような人だが、本当に嫌なラインまでは踏み越えようとはしないはずだ、多分。

 

「これでお前のことを嫌いになったらどうするんだ」

 

「あー、それは考えてなかった。(こいつのことだから大丈夫だろ、多分・・・)」

 

「考えてなかったのかよ。(まぁ……嫌いになれねぇけど)」

 

 嫌いになれるものか。激辛料理を進めてくる性分も彼女の魅力だ。上位種(巨獣)にしては、おせっかいでお人よしでせっかちな彼女。そんな推しのお気に入りになったのだ。その上、推しからの据え膳は食わぬが恥だろう。

 

 蓮華を握り、皿を少し寄せる。ツンとつく辛い風味が一段と強くなり、人知れず喉を鳴らす。

 

 ドロドロに溶けきった溶鉄を思わせるドス黒い赤身が蓮華になみなみと盛られる。一瞬、その見た目にビビる。だが、男は度胸!と一思いにそれを口に入れた。

 

 

 辛いなんてもんじゃなかった。

 もはや、痛い。

 痛覚を直に引っ掻き回されるかのような感覚。

 針千本飲んでいると言われても俺は納得する。

 

 

「・・・ぁゕ゛」

 

「お、おい。大丈夫か」

 

「べづに"ぃ?」

 

 咀嚼し、ごくりと飲み込む。

 

 その際にジュッ、と言う音が聞こえてきそうな熱さと痛みが喉仏の内を通り、胃に送られていくのを直に感じる。

 

 二杯目を掬い、口に運ぶ。もう既に口内が沸騰していた。普段、汗っかきではない身体が既にジワリと汗を噴出し始める。

 

 三杯目、四杯目・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニェンは一瞬、少しだけあった心配が杞憂に終わったと思った。大の辛味好きとはいえ、ニェンにとっても辛いものは辛い。だけど、大前提としてニェンは辛い料理を嫌がらせ及び苦しませようとして辛い料理を勧めているわけではないのだ。美味しいから、好みを共有してほしいから、この滋味豊かな料理を布教したいから食事に誘うのだ。

 

 だが、いつもの余裕綽々な態度はすぐに消えることになった。

 

「オメー大丈夫か?いくらなんでも無理はよせよ」

 

「無理じゃな"い"・・・」

 

「泣きながら言う奴のセリフじゃねぇだろ」

 

 彼、ソルシアが8杯目くらいから涙をポタポタと流しながら食べ始めたのだ。

 

 ちょくちょく紙で鼻をかみ、涙を拭いているもそれらは収まる気配はない。これにはニェンも流石に心配して声をかける。

 

「辛いし、痛いよ」

 

 水を飲み気休め程度に涙が止まった彼はぽつぽつと喋る。

 

「移動都市同士の艦隊決戦、極北の地でボジョ兄と死力を尽くした日々、殿下と閣下の下で剣を振るった走馬灯を見たよ」

 

 9杯目を口に運び、涙がじわりとせりあがっても彼は続ける。

 

「ゲホッゲボ―――でも、それ以上に美味しいとも、ゲホッ。だって、俺に飯奢るやつなんて、ボジョの兄貴と長年の戦友ぐらいだし。君の奢りがとても嬉しかったんだよ、ニェン」

 

 

 

 

 

「あー、死ぬかと思った」

 

水筒をちびちび飲みながら隣の彼はしみじみとため息をついた。

 

「そういうが、旨かったろ?死ぬほどな」

 

「文字通りで困るんだが」

 

 ソルシアとはそれなりに長い付き合いに入る方だ。のんびりぶらぶらとしていた時にふとした縁で出会い。麻雀うったり、一緒に映画を見たり、彼の口から出る突拍子もないアイディアを形にするのは面白い限りだった。

 

 こいつは数々の土地を旅しているらしく、文明の境界線や南方の海域にも足を運んだこともあり、その話もしてくれた。

 

 しかも一番おもしれえところがこいつ、どうも只人じゃねぇみたいでな。時折口走る言葉や言動、極め付けにこいつの根底にある常識が他とは異質だ。

 

 立派な角に白髪、尖った耳、緋色の瞳というまさに吸血鬼に相応しい容貌だが、中身がそれじゃない。

 

 こいつを鋳造物に例えるとするなら吸血鬼の鋳型に人間味をドロドロに溶かして造ったようなものだ。

 

「そう言えばオメ―はブラッドブルードだよな」

 

「そうだけど、それが?」

 

「つい先日にブラッドブルードをテーマにしたホラー映画の構想を練っているんだ。その時にちょっと小耳に挟んだことがあるんだよ」

 

「流水に弱いとか十字架が苦手ってことならデマだぞ。それとも俺をキャストとして使う気なら全力で逃げるぞ」

 

 露骨に嫌そうな顔をするソルシアに対して、いやいやと私は首を振る。

 

「そんなこと聞いてどうすんだよ。私が聞きたいのはもっとマニアックな部類なんだ」

 

 はい?と言いたげに首を傾げるソルシアに対して私はもったいぶらずに一言。

 

「ブラッドブルードの一族が一生涯の友に対して焼印打つってほんとか?」

 

「ぶッ―――」

 

 ちびちび飲んでいた水を道路に吹き出しかけ、あからさまに動揺するソルシア。それを見て、私は確信に至った。直感で判断したと言っていい。

 

「へー、当てにならねぇ噂も役に立つ時があるもんだな」

 

「お前何処から聞いたそれ」

 

「監督業やってれば色んな所から根も葉もないモンが来るんだよ。で、ソレ持ってんのか?ん?」

 

 彼は少しの間逡巡した後、今日一の溜息を吐いた。彼の事だ、私のシラを切ったところでどうにもならないと悟ったに違いない。

 

 水筒をまたちびちび飲みつつ、口を開いた。

 

「噂の七割はあっているけど、細部が違う。まず、焼印じゃなくて烙印だ。それを押された者はブラッドブルードから庇護を受けているということを示し、遠く離れていたとしても烙印の匂いで判別することができる」

 

「へー、今烙印持ってんならちょっと見してくんねえか。映画の参考にするからよ」

 

 あ、その朱肉もな。そう付け足すと彼も納得した顔で近場の日陰がある露店の軒先で荷物を降ろし、その中から小さい小箱を取り出した。

 

 かなりの年季の入った代物であり、印にはサルカズの紋章が彫られた骨董品だった。

 

「おー、年季の割には側はシンプルな造りだな」

 

「意外と普通の見た目だろ、拍子抜けさせて悪かった・・・って、なにやって!?」

 

「よっと・・・(ハンコを押す音)」

 

慌てて止めようする彼をしり目にハンコを自分の身体に押し付けた。

 

「うーん、くすぐってぇな」

 

「何がくすぐってぇなだよ!何考えているんだ!」

 

「何って?私たち友達じゃねぇのか?」

 

「・・・いや、そうだけどさぁ」

 

 え、えぇ?というような困惑している彼は、私の顔と烙印が押されたお腹を交互に見て、どう反応すればいいのか分からないといった様子。と、思ったらすんすんとその場で匂いを嗅ぎ始めて、表情が八面六臂し始める始末。初めて見る彼に私はしてやったりとほくそ笑んだ。

 

「どうしたんだよ?そんなに烙印を押されて嬉しいか?」

 

「押すも何もその烙印使ったの初めてだよ」

 

「えっ」

「ん?」

 

   ・

   ・

   ・

 

「あ、ああ。一度も使ったことない。なんなら、初めて匂いも嗅いだ」

 

「いやーそのな、てっきり友達には噂通り烙印押しまくっていると思ってな」

 

   ・

   ・

   ・

 

「へ、へぇ、文字通り一生涯の友に使うシロモノだったなんて、な・・・。ま、まぁ、水とかで洗えば何とかなるんじゃねえか?」

 

「ボッチのご先祖様たちが水くらいで消えるマーキングを作ると思うか?」

 

   ・

   ・

   ・

 

「烙印の逸話の中には主従を刻む際に使われたこともあってな(大嘘)」

 

「・・・(ごくり)」

 

「その代表格に自ら烙印を負う場合は特にな効力が―――(大嘘)」

 

「わ、分かったから!どうにかしてくれ!こんなの兄弟姉妹に見せたら笑いものになっちまう!!」

 

「―――(必死に笑いを堪える)」

 

   ・

   ・

   ・

 

「これからどうすればいいんだよ・・・」

 

「お腹隠すファッションを愛用すればいいじゃん。」

 

隣でおめぇの所為だからと肘でつついてくるニェンを横目見るが、先ほどと打って変わって随分と塩らしい。あれ?こいつこんなに可愛かったけ?

 

鼻孔には先程から程よい鉄の香りがしていて、どこか自分も上機嫌だ。ご先祖様も烙印を使う意味がやっと分かった気がする。なんというか、すごい優越感を感じる。

 

「俺が言うのもなんだが、いいじゃないか。晴れて親友になったんだし」

 

「・・・はぁ、気楽にいけしゃあしゃあと」

 

「良いこともある。炎国に来た時に君を見つけやすくなるとか?」

 

「気恥ずかしいことをよく言えるな。まあ、オメーらしいが」

 

そう言われるとちょっと恥ずかしいから止めてほしい。

 

あとそうだ!恥ずかしいと言えばニェンもさして変わらない。烙印を打った場所の関係上、なんというべきか、凄くそそる。よりにもよってなんでへそ下にするかなぁ!?と言いたかった。ご先祖様だったらその気なんですね?と早合点しかねないよ。

 

てか不味くね?「歳」と個人的に交友をするのは百歩譲って、烙印関連とかかなり不味くね?炎国のデリケートゾーンに思いっきし活性源石撒いたよな、俺。なんなら俺の勤め先の立場の関係上国際問題秒読み状態。……やばくね?そう思うと冷や汗垂れてきた。

 

別にサルカズの巫術や血を混ぜたりしない限り、烙印そのものに特別性はあまりないのだけどその実態を同族以外が知っていると言われればなぁ・・・。

 

「これやるよ」

 

「ん?護符か、これ」

 

「幻術の巫術の一種だ。本来の用途は痛ましい傷を負ったサルカズ戦士がサルカズの王に拝謁するために用いられた傷隠しらしいが、それを使えばこいつを隠せるはずだ」

 

ちょっと重いけど、と付け足して彼女に手渡す。

 

実を言うとコレは閣下からの貰い物の一つなのだが、俺にはもはや不要の物だ。別にいいだろう。

 

「これでチャラでいいだろ?」

 

「いいやまだだね。私をキズモノにしたのは高くつくぜ?それと私との友達料として安すぎやしないか?」

 

「それはそうだけど言い方!」

 

まさかたかってきた。しかも友達料ときたもんだ。だが、しおらしいのは彼女らしくないし、彼女らしい言い回しだと思った。それにまあ、俺から見てもなんというか、この優越感に比べればへそ下のソレは安すぎるとは思っていた。

 

「代価はお前が今考えろ。私が査定してやっから」

 

「あー・・・」

 

ある。多分、彼女のお眼鏡に合う俺から出せる代価はある。

 

これまでずっと断り続けていた分、多分つり合いが取れるものだからいけるはず。これでダメならしょうがない。お手上げだ。

 

「・・・お前が監修する映画。その一回分のギャラ、で……げっ」

 

大きく目は見開かれた後、目は細められ、愛用する赤い扇子を顎に据える。尾は大きく揺れ、その先端の炎は猛り、体から火が漏れ出るようにちろちろと空気に溶ける。

 

どうやらお眼鏡に叶ったらしい。だが、ここに来て肝心の俺はチキった。

 

「あ、脇役でよろしくな。演技力とかそういうのは」

 

「吐いた唾は呑ませねえよ、ソルア。安心しろ、とびっきりの大舞台とそれに相応しい主役級の役で、踊ってもらうからな。」

 

友達、いや・・・親友ニェン。

 

今日も今日とて彼女に振り回されっぱなしの毎日だ。

 

 

 

 

 

 

 





はい、推しの一人ニェンさんとのお話でした。

もしかしたら続くかも?


PS.久しぶりに再会しますので、少し話を修正を行いました。
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