聖地巡礼inテラ   作:狸帽子の旅人

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会議は踊る、されど進まず 前編

 

 テラに存在する国家は、どこもかしこも大なり小なりの問題を抱えている。

 

 ヴィクトリアは、テラの大地の中央部に位置し、比較的安定した気候と肥沃な土壌をもって安定している立地を持っている。しかし、ガリア、ウルサス、イベリアという帝国主義の国家に隣接していることから軍事的緊張が絶えない。

 クルビアという広大な植民地によって国力を下支えされているものの、諜報部によれば現地民による独立運動が根強いことから、それを抑えるのにヴィクトリアは躍起になっている。

 

 几帳面かつロマンティックな国、リターニアはアーツ研究も盛んではあるもの、西方に覇権国家ガリア、北方の山脈を超えた先には軍事国家のウルサスと隣接しており、ヴィクトリアと同様に軍事的緊張が常に存在している。

 しかし、幸か不幸か、巫王という凄まじく強大な術師の帝王が君臨していることで、その国土は50年にも渡って不落のままである。その暴君の圧政と引き換えにではあるが。

 

 覇権国家であるガリアは、広大な沃土と類を見ない国民の団結心が国を動かす原動力となっている。前世の記憶がある俺から見ても近代的な経済改革法を打ち出し、テラの大地の中で今もっとも勢いのある帝国であることは疑いようのない。

 だが、歯止めのない開発と経済の拡張と国民にまで浸透してしまった過剰な自尊心の行く先は、際限のない蹂躙か、それとも破滅の道か……図らずも俺はその答えを知ってしまっているが。

 

 

1028年 3月 ウルサス首都

 

「イベリアとの交流の末に持ち帰ったのがこの程度とは期待はずれもいいところだ」

 

「そもそもあの国と友好を結ぶ理由が何処にある! 技術者数人を拉致させれば良いものを」

 

「それではイベリアと外交関係の破綻、最悪戦争になるぞ!」

 

「イベリアと戦争になる? はっはっはっ! 財務大臣は戦争というものを知らないか。ウルサスがイベリアに敗北することなどあり得ない。そもそも過去の栄光であるボリバル遠征もリターニアへの大方陣も失敗に終わったではありませんか」

 

「……」

 

 ──プチッ、

 

「それに水の中にエーギルという国がある? しかもその国は陸上にあるどの国家よりも技術が進歩して窮地に陥っているなどと、冗談にもならない虚言なんてこの場に持ち込まないでくれ。会議の生産性が損なわれる」

 

 ──プチプチプチ、

 

「……議論は出尽くしたようだな。賛成多数により、以降のイベリアへの使節団の派遣は取り止めることにする。次の議題は軍事大臣が進言していたクルビア侵攻への具体的な計画案についてですが──」

 

 ──プッツン

 

 

 ウルサスは……広大で豊かな国土とガリアに比肩する軍事力を有しており、それらがウルサス国民の自信の根源になっている。しかし、国土の大半が未開発地区である上に、北側の大地は痩せた極寒の凍原が広がっているため、領土の割に国力は思いのほか脆弱である。

 

 そんな痩せこけた厳しい土地柄という致命的な欠陥を補うべく、ウルサスは南下政策を取り、他国に侵略した。

 

 1000年以上にも長きに渡る闘争の末、ウルサスは数々の国や自治領、民族を轢き潰していった。長い長い生存競争を経て、血で血を洗う殺し合いはウルサスを育んだ。いや、育み過ぎてしまった。

 

 もはや、どうしようもなく染まってしまうくらいに。

 

”ウルサススラング”(クソが)、何故理解しない、しようともしないのだあの連中は。国家の危機だぞ!」

 

 会議が終わり、真っ先に会議室を後にした彼女に追い付くと、随分と盛大に下劣な愚痴を吐き捨てていた。

 

「落ち着きなよ、アンジェラ。たしかにあいつらのことは”古代サルカズスラング”(死ねばいいのに)とは思っているけど」

 

「お、お前こそ落ち着けソルシア! 牙を、牙をしまえ! 怖くてビビるわ!?」

 

 ステイ! ステイ! と彼女が何か慌てているが、今の俺は不思議と口角が上がって思考も明瞭であり、怒りで我を失ってもいないから何に対して慌てているのかは分からない。

 

 ただ、脳内でどうやってあのクソ貴族共を大粛清出来るかどうかを冷静に考えて、失脚とか何とか関係なく文字通り赤の広場(血祭り)にしてやろうと本気で考えた。

 例え、貴族皆殺し(Gルート)をしたところで何の解決にも至らないのは分かっている。でも、怒りのあまりに、どうしてもそんな物騒で低俗な解決手段を一つや二つ考えてしまう。

 

「……はあ、10年やっても全然変わらないな。やっぱり無理なのかな」

 

「何を弱気になっている、奴らに屈するというのか」

 

「弱気にもなるさ。最初の頃は100年間コツコツとやれば出来ると頑なに信じてやっていたさ。何度嫌がらせを受けようと、何度経済改革案が棄却されようと必死にやれば結果は付いてくると頑なに信じていたんだ」

 

 だが、結果を出せば出すほど。少しずつ、やれる範囲で問題を解決すればするほど、この国のことを知れば知るほど、このウルサスの在り方を変えるということがどれほど難しいのかを思い知らされた。

 

 それと同時に、あの毒蛇公爵が語っていたウルサスの富国強兵論がどれほど合理的で真理とも言える理論なのかを、この国に対する理解を深めれば深めるほど痛い程実感したのだ。

 

 今の俺には、10年前のあの時のような熱量は消えてしまっていた。

 

「ソルシア、純粋な質問なのだが。ウルサスの何処がどう変われば、この国は変われる。ウルサスは、戦争に頼ることなく豊かにできる」

 

「……俺の絵空事に過ぎないことだが、それでもいいか?」

 

 隣で歩く彼女は、それに対しては構わないと言うように目線で応えてくれた。だが、心なしか期待を含むかのような目で見るのは少し止めてほしい。期待どころか、人によっては失笑を誘うかもしれない現実味のない話なのだ。

 

「……一つ目、ウルサスの極寒の気候でも一定の生産力を維持できる革新的技術の確保」

 

「思ったより現実的だな。一見、確保できそうに見えるが」

 

 うーん、と真剣に考える彼女はしばらく自力で考えていた。

 しかし、あ"ー、だとか、う"ーむ、とかの苦しそうに頭を捻り始めて、遂には降参と言いたげに肩を竦めてきたので、この計画の欠陥を打ち明ける。

 

「金だよ、金」

 

「し、資金に欠陥があるのか!? そんなまさか、悪い話ではないだろう!」

 

「確かに悪い話ではないが、悲しいことにもっと美味い『戦争』という話がある」

 

「!」

 

 この計画を実行に移すには、技術研究につぎ込む資金以外にも土地代や研究施設の建築費、人件費、源石燃料を安全に処理するための費用など積み重なり、年月をかけていけば莫大な費用が生じてしまう。

 

 恐らく10年くらいは赤字を垂れ流すこととなり、その赤字分まで採算を取り戻すにも十数年単位の年月がかかってしまう。それならば南部の国々との戦争で勝利し、割譲した領土で食糧生産施設を作った方が手間も費用も圧倒的にアドだ。

 

 実際に、この計画を公爵に対してプレゼンしたら「戦争で良くね(意訳)」とあっさり論破された。

 

 確かにそうだ。そうに違いない。

 でも、今の時代が過ぎ去って安易に戦争が出来ない国際情勢、国家情勢になった時代のウルサスには厳しい環境下でも食料を生産できる施設が必要になってくる。

 

 食料自給率の比率の多さは、多ければ多いほどありがたいのだ。

 

「二つ目、外資系企業の過度な参入の阻止。産業の充実化だな」

 

「が、外資系企業? なんだ、また新しい用語か?」

 

「簡単に言えば、外国の企業のことだよ。国有化や民営化された外国の企業もこの括りに入る」

 

「国有化? 民営化?」

 

 あ、しまった。新しい単語を解説したのはいいが、さらに初耳の単語を追加してしまい、彼女の目がちょっとぐるぐると回って混乱し始めた。

 地頭も良く、学んだことを直ぐに吸収する彼女であるが、知らない単語や専門外の分野を急に目の前にすると、時折こうやって頭がパンクしてしまうのだ。

 

「う"ーん、少し待て……つまりは国が運営するか、民間が運営するかの違いか?」

 

「大体その認識であっているよ。要はウルサスの未開拓領域を開発し、庇護することにある」

 

「しかし、ウルサスの未開拓地区に踏み込む他国の企業なんて、この大地の何処を探しても無いとは思うぞ」

 

「今はともかく、いつの日か訪れるさ」

 

 そう、いつかは訪れてしまう。原作と言う未来で、強国の一つとして台頭しているクルビアの大企業がウルサスの未開拓領域に目を付けたら? そして、彼らの手によって開発され尽くしてしまったら? 

 ただでさえ問題だらけなのに、広大で可能性がつまった領土すらも食い荒らされたら、もうウルサスはどうしようもない。

 

 それこそ、詰みかねないほどに。

 

「最後に三つ目は、戦争経済からの脱却、なんだが……。正直、ぶっちゃけていいか?」

 

「待て、10秒だけ心の準備をさせろ」

 

 1秒、彼女は大きく息を吸った。

 

 3秒、息を思いっきり吐いた。

 

 7秒、喉が渇いたのか水を飲み始めた。

 

古代サルカズスラング”! “古代サルカズスラング”!(意訳 この国クソ! マジでクソ! もうやだ転職したい!)」

 

「ぶっ!?」

 

 10秒経ったので溜まった鬱憤を大声で吐き出す。隣でアンジェラが咽せて咳き込んでいるが、10秒は待ったから後悔はしていない。

 

 無茶、無理、無謀。

 

 実際に口に出して言語化したら嫌になるほど実感してしまう。

 

 致命的な土地柄も抱え、活路を切り拓くために戦争に明け暮れ、戦果の甘い蜜に酔ってしまった貴族達がさらなる戦争を求めていて、国民も戦勝に目が眩み、北には恐ろしい怪物の大群が存在している国、ウルサス。

 

「……」

 

 そんな戦争でしか生きる術を知らない戦争マシーンウルサスをどうビフォーアフターすればいいのだろう。

 

 

 だが、サスサスと頭を撫でる感触を知覚した瞬間、そんなナーバスな感情は遠い彼方に吹き飛んだ。

 

「」

 

 言葉にならない衝撃にビクリと体と心が少し跳ねる。その間にもサスサス、さわさわと優しくもどこかぎこちなく撫でられる。

 

 真横からの心へのダイレクトストレートパンチをもらい、感情が先ほどとは別ベクトルで荒れる。いいストレート(精神攻撃)をもらった俺は何が起きているのかを確かめるべく、ギギ、ギギギ、と壊れたロボットのように隣へ顔を向ける。

 

 そんな事をしなくても、隣にいて、手を伸ばして撫でている存在を匂いで分かっているというのに。

 

「……」

 

 目が合った。

 

 肩が擦れ合うほど寄せて距離から、薄蒼いクリスタルのような碧眼がこちらを捉える。表情は僅かながら微笑するに留まっているにも関わらず、その瞳は満面の笑みを浮かべていて、こちらを離さないように、じっと見つめている。

 

 1秒、思考回路がジュッと焼き切れる音がした

 

 3秒、心が熱暴走を起こし、ぶすぶすと焦げ始めた。

 

 7秒、顔を背けようとしたら、ガシッと馬鹿力で角を握りしめられて逃げ場を塞がれた。痛い。

 

「──―(古代ウルサス語)好きだ、大好きだ

 

 10秒、何か聞きなれない言語を呟やかれたのと同時に、彼女は顔を真っ赤にして背けた(盛大に自爆した)

 

「? ……あの、角、痛かったんだけど」

 

「ッ! す、すまない! 咄嗟に手が滑ってしまった」

 

「一応繊細な部位だから優しくしてくれ」

 

 顔と心は未だに熱いが、力を籠めて角を握られた痛みがあったお陰で奇しくも感情の波はいささか落ち着いた。しかし、恥ずかしさと嬉しさ、それと同時に滲み出る自己嫌悪と昏い悦びによって、感情メーターがプラスに行ったりマイナスに行ったりと感情がごちゃ混ぜである。

 

 それよりも、咄嗟に手が滑った結果、デリケートゾーンの角を握り締めるってどういうことだ。

 

 

「い、今見た? あの令嬢、正気なの? 信じられない」「空恐ろしい怪物を飼っているってきいていたのだけど、あまりにも怖い物知らずね。そのまま食べて問題起こしてくれたらいいのに」「さ、流石ですわ、あれこそ私の憧れのブラッド・ロード(アンジェラ)様ですわ!」「(あの者が、ソルシアが転化させたヴェスナー侯爵の末娘か。……少し、接触して見るとするか)」

 

 

 どうやら会議室にほとんど残っていた貴族たちが退室を始めて、人気の少なかったこの場所にもちらほらその姿が見え始めた。

 

 一番不味いのがその中に毒蛇公爵、コシチェイ公爵がいることであり、思わず、げっ、と若干の拒否反応が出るくらいには会いたくない女だ。特にアンジェラには絶対会わせたくない。

 

「お嬢様、失礼ながらお手をお借りします」

 

「え? ちょ、ソルシア!?」

 

 彼女の手を引き、そのまま議事堂からトンズラする。

 

 後ろをチラリと見ると、笑顔の公爵が口パクで「また今夜、彼女によろしく」と軽く手を振っていた。

 

 もはや視線すら許せないので公爵から遮るように彼女を抱き寄せてやなこったと言わんばかりに睨み返した。

 

 俺は決めた。絶対にあの毒蛇公爵とアンジェラを二人きりにしないと。影でも造物でもなんでもいいから目を光らせ、何かしたら喉元にかぶりついて死守してやる。

 

「──ー! ──ーッ!?」

 

 だが、俺は知らない。守ると誓った彼女が、声にならない悲鳴と頭から湯気を出して既に悶絶していることに。

 

 それでいて、ぎゅっと抱き締め返されていることに。

 

 

 

 





ソルシア
・つのをにぎられてしょうきにもどった!

アンジェラ
・アンジェラはつかれはててこんらんした!

コシチェイ(女)
・コシチェイのこわいえがお! 効果は無いようだ……。

800人お気に入りありがとうございます!

年末、危機契約イベとやること一杯で次もペースを落とすと思います。申し訳ありません。

それでは、また。お休みなさい。

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