お待たせしました、続きです。
なお、本シリーズはアークナイツの時系列を元に独自設定および独自解釈を多量に含んでおります。
その点、ご了承下さい。
鉱石病。悪性の伝染病であり、源石を媒介として感染が広がる致死率100%の病気。
感染したら体が徐々に石に侵されていく病であり、症状は痛みはもちろん、感染が重篤な部位によっては幻聴や過眠、感染部位の異常発達、難聴、体質の変化。脳や脊髄などの重要器官が蝕まれれば、性格の変化や二重人格までも症例に挙げられる。
感染経路はさまざまで、傷口に源石が入り込む、粉塵化した源石を吸い込む、または中長期に渡ってアーツユニットや源石が使われている製品に頻繁に接触を続けるなど。
さらには両親の片方、もしくは両方が鉱石病患者だった場合は、その子供が生まれながらの鉱石病を患って生まれてくる確率があるそうだ。
幸いにも私は未だに鉱石病に感染してはいない。
我らサルカズは、鉱石病に罹患しやすい。その上、鉱石病にある程度耐性を持ち、古い血族ほどその傾向が強まる。
致死率100%の癖に推定100年以上生きているやべー方々(褒め言葉)が故郷のカズデルに何人かいて、少なくともかつての主君であるテレジア殿下もその一人だった。
その性質からなのか、我らサルカズは鉱石病の感染を祝福としている。だからこそ、鉱石病に罹患していない私は同族から「それは不幸だな」と言われたりもする。
今手に持っている源石錐。これを体に刺すだけで祝福を得られる。しかもきちんと病状をコントロールし、抑制剤を接種し続ければなんら健康体と変わらない生活を送ることができる。
それが出来るだけの生活と環境が私にはある。
「大尉、源石錐を見つめてどうしたんです」
「いやー、これを体に刺した想像をちょっと」
「大尉!本気ですか!? そんなこと考えるの魔族くらいですよ!」
「俺はその魔族だぞ。あとサラッと刺してきたな、君」
炎国でも休暇から六日後。現在は夕刻。
彼女との激辛料理&B級映画ツアーを終えた私は、龍門からチェルノボーグへ、チェルノボーグから輸送装甲車両を乗り継いで、帰路に着いていた。
隣で運転するまだ新米というべきウルサス軍人は表情を青くする。それに私は思わず笑った。こんなやりとりは百余年の人生の中で何度も何度もあった。
一番酷かったのはウルサスにやってきたばかりのころ。当時の私たちは横暴な現場指揮官に命じられ、劣悪な戦場の最前線に身を置いた。何日にも渡って酷使され、日が照っている時でも問答無用で戦いを強いられた。
ただ、サルカズというだけで死ねと暗に言われ、手柄を立てたとしてもそれは私たちを管理していたウルサス将校の手柄。
彼は理解していたのだろうか? 私がサルカズの中でも最も凶悪な種族であるということを。国の威信、皇帝の威などを借りたところで、私の激情を抑えるには取るに足らないということを。
「誠に申し訳ありません大尉。失言、お許しを」
「いいんだ。すぐに謝罪が出来るだけお前は良い奴だ。それにこんなおっかない怪物が隣にいたら気が気じゃないさ」
源石錐を箱に仕舞って、カッチカチに凝固した輸血パックを取り出す。
凝固しすぎて半ば琥珀のような結晶化しているが。
「うーん、不味そう」
アーツで溶かす。程良くブヨブヨになったところで栓を開け、口に咥えてグッと半分ほど飲み込む。
味は不味かった。
本来は、ほのかな鉄の味と成人のウルサス人特有のアルコールが僅かに染み出す美味しさや蜂蜜の薫りがするそれが、まるで劣化し、酸化したお酒のような、食べられなくはない渋さが侵食していた。
「・・・前見て運転しろ。危ないぞ」
「す、すみません。・・・それ、美味しいんですか? 結構どす黒い色してますけど」
「不味いよ。食べられなくはない程度に不味い」
輸血パックを凝固させて中長期保存すること自体は昔から出来ることだが、いかんせん鮮度と味の劣化はどうしようもない。
鮮度と味の改善には仕事を片手間に実験を繰り返してはいるが、今のところ改善の兆候は不透明な状態だった。
「にしてもお前は、凄いな」
「へ? 私が凄い、ですか?」
「初対面で俺に何度も話しかけようとする人なんてそうそう居ないし、俺の噂くらいなら小耳に挟んだことくらいはあるはずさ」
「血の雨を降らせたとか、敵を丸呑みにした話のことでしょうか?」
「まあ、そんなところだ。あー不味い」
それを知ってよく話しかけれるなと思う。人だった頃にそんな怪物と乗り合わせるなんて、とてもじゃないがメンタルが保たない。
大抵、今まで私と相乗りした人はだんまりを決め込んでいただけに少し嬉しい気持ちで心が安らいだ。
そのせいなのか、またニェンにギリギリのギリギリまで付き合った代償で寝る時間すら切り詰めて帰路に着いたからなのか、どうも眠くなってきた。ウルサス国内で、なおかつ軍の輸送装甲車が襲撃される可能性もないとも言い切れないのだが、呑気に寝ている場合ではないのに瞼が重くなってくる。
「……悪いが、少し仮眠を取る。何かあったら叩き起こせ」
「え? は、はい・・・一度止めて毛布を持って来ましょうか?」
「必要ない」
しかし、見ず知らずの者の目の前で寝るのはいつぶりだろうか?
寝るとは、最大の隙を晒すということに他ならない。比較的マシとはいえ、排他的な扱いを受けてきた私は信頼する者の前、もしくは一人の時にしか眠れない。
心的ストレスなのか、それとも血筋なのか、疲労がどれだけあろうとも寝ることができないのだ。
しかし、今私は寝ようとしている。
彼女と本音を語らううちにストレスが解消、もしくは本能的に彼らを信頼できると判断したのか。
なら、寝よう。寝れるうちに、寝れるだけ。
「寝ました。・・・本当に寝ちゃいましたよ」
『睡眠薬でも盛ったか?』
「恐ろしくてできませんよ先輩!? ミイラにされたくありません!」
『しかし、思ったよりまともだったな』
「は、はい。良かったです、配属先の上官が噂のような恐ろしい方ではありませんでしたし」
『お前は人を見る目は確かだが、信じていいのか?』
ちらりとリュックサックを抱きしめて寝ているブラッドブルードを横目見る。
「少なくともふんぞり返った貴族よりも誠実だと思います」
『なら大丈夫だな』
「でも、睡眠を妨げたら私たち死ぬかも」
『全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか!?』
(・・・ふっ、起きて喰っちまうぞコノヤロー)
拝啓
いかがお過ごしでしょうか。あまりにも遅すぎる初めての便りになってしまったが、俺は何とか元気にやっている。
最初こそ下の者らから不満こそあったものの、何も実績も信頼も勝ち取っていないウルサスに仕えたばっかりの頃とは雲泥の差だ。
どうやって心を掴んだか知りたいか? 案外簡単で少し努力すれば兄貴だって出来ることだ。
胃袋を掴んでやっただけ。やっぱり人身掌握には飯こそ最も効率的かつ親睦を深める第一歩だと思う。
シラクーザから伝聞越しで学んだのも大いに役に立ったが、聞くところによるとガリアではシラクーザ料理という名のゲテモノパチモン料理が原因で外交問題を勃発したらしい。
経緯は不明だが、自称シラクーザ料理のソレがガリアではシラクーザ料理と認識されていたらしく。シラクーザの高官との会食の際に振舞われ、シラクーザ人がキレたとのことだ。
因みにそのパチモンを食べたことも見たこともないので、実際に伝手でそのパチモンシラクーザ料理を再現することにした。諜報部は何大真面目に任務だと言ってきたが、暇なのかあいつらは。
実際に作ったが件の料理は案の定不評だった。これには美食家のシラクーザ人もキレる。というかガリアの諜報部及びトランスポーターは仕事しているのか知りたい。あいつら傲慢と野心で目が曇ったのか? 確かなことはシラクーザ高官は気の毒だったと思う。
完食するのも辛かったよ・・・。
ともあれ、前述したようにウルサストランスポーターの局長として各国の外交に付き添ったり、護衛、またその教育に明け暮れている。
また、戦場以外での場数を養うという名目のもと、陛下の会議に同席させられました。もちろん、意見を言う立場ではなく傍聴人、記録員として財務大臣殿に引っ張りだされました。大臣とは特に交友も面識もないのにいつ気に入られたのか。
胃に穴が開きそうだ。陛下らは俺をいい結果を出してくれる万能ロボットと思っていないか? いつぞやの兄貴たちもそうだったが、俺に任せれば大丈夫って思っていないか? 思っているよな? そうだと白状しなさい。
くそがー、陛下らの期待が重いし、欲深い貴族ども俺を遠ざけようと面倒だし、部下たちはいつのまに並みならぬ信頼を寄せてやがる。俺、サルカズでブラッドブルードだが!?
胃が痛い。お仕事苦しい。プレッシャーやばい。ストレスで死ぬ。
……不本意だけど戦うことが性に合っているみたいだ。実をいうと陛下及び財務大臣からの命令とはいえ、兄貴らの戦列から離れたことに少なからず罪悪感を抱いている。
兄貴に直接言ったらきっと怒られるに違いない。同じことを炎国の親友にも話したら、堅苦しいと大笑いされた。
安い言葉だけど救われたよ。本音を気軽に話せる存在が今の俺には必要だったみたいだ。
だからこそ初めて手紙をこうして書いてみようと羽根ペンで書き綴って、こうやって思いを伝えている。
だからこそ、つい最近できた俺の夢について話そうと思う。
俺はウルサスを、テラの大地をより良いものにしたい。
我らがウルサスに根を下ろして早くも40年近い年月が経った。この国の輝かしい面も見てきたし、薄暗い日の当たらない面も目にしてきた。
陛下は我らサルカズであっても、分け隔てなく重用され、ウルサスのためならいかなる種族でも腕を振るうことを認めてくださる慈悲深い御方だ。
しかし、感染者はその中にはいない。
だが、サルカズですら認めてくださる陛下がただ感染者だけを排斥するだろうか。俺はそうは思わない。感染者であってもウルサスのために尽くすのであれば、それを無下にするはずがない。
なら、何故この場に感染者が立てないのか。
それはウルサスこそが、それを拒んでいると俺は解釈した。
陛下はウルサス皇帝であって、ウルサスではない。貴族、大臣、将軍、軍人、国民。そのすべての集合体がウルサスという国家であって、陛下は不敬であるかもしれないが国の代表者に過ぎない。
陛下はウルサスを意のままに操れているように見えて、ウルサスが了承する範囲内でしか陛下は操れない。俺は今はそう見える。
だからこそ、俺は一人、また一人に感染者の必要性を説いていき、ウルサスをテラの大地に感染者や迫害される者の居所を作ろうと思う。軽く100年以上の時を擁してようやく芽が出るような遠大な計画だが、幸いにもブラッドブルードは時間がたっぷりあるから困ることはないだろう。
もう既に、部下に数人感染者がいる。彼らには感染者ということを一旦隠し、誰もが彼らを認めざるを得なくなったら公表して、感染者がウルサスを支える者になれることを認めさせたい。
この夢はあっけなく潰えるかもしれないし、成功したとしてもそう簡単に変わることがないのかもしれない。
けれど、源石という祝福であり呪いのエネルギーを使い続ける限り、いずれ彼らは行き詰まる。行き詰まってからでは遅いのだ。
最後に、極北で命を燃やす家族と親愛なる兄、ボジョカスティ。自慢の部下と共にあなたたちとの再会を心待ちにしています。
追伸
この手紙と共に炎国のお酒数本と写真を同封した。よかったら遠い異国の酒をみんなと味わってくれ。
追々伸
大臣から外交官と共にイベリアに出向くようにと言われた。くそが、楽させろ。ということでイベリアに視察に行ってくる。お土産、期待して待っててくれ。
「・・・嬉しそうだな、ボジョカスティ」
「当たり前だ」
雪降る、白い雪原と斑点のような黒い雪が見渡す限り広がる凍原。
ポツンと光る薪に身を寄せるように、ウェンディゴの群れが一つの酒を分け合い、彼らは歌っていた。古の、サルカズの英雄の歌を。
今日の戦果を高らかに叫ぶように、今は遠く離れた同胞に乾杯するように。
一人のウェンディゴが、愛する義弟の笑顔が写るそれを心穏やかに眺めていた。
ソルシア・ツェペシュ
転生者であり、元アークナイツ大好きオタク。原作知識は細部までは覚えていない。そもそも現状役に立たない。
イケメンになりたかったが、若干女顔。
ボジョカスティ
公式よりタイマン最強と明言されている作中最強の男。オリ主に兄貴と言われ続けて、根負けしたアークナイツで最もかっこいい男(オリ主主観)。
因みに原作は1096年12月23日です