こんにちは、こんばんわ。狸帽子です。
最近はアクナイアニメとアクナイ周回とアクナイ二次創作執筆と人生で一番アークナイツと向き合っている日々です。
そのせいか、海で溺れる夢であのクソ魚たちが出て来ました。
イェラグ。それは影の薄い雪山の小国だ。
雪に覆われる日が多く、それでいて険しい山脈群に取り囲まれるように存在している。その知名度は率直に言えば低い、あまりにも低い。
各国の貴族の殆どがその存在を知らず、上層部の閣僚らも知らない者がいるほど影が薄いその国を知るのは変わった物好きくらいなもの。
北にはカジミエーシュ、東にはヴィクトリアとガリア、西はヴィクトリアの植民地であるクルビアに囲まれた立地をしており、彼らから狙われていないのも大国間の摩擦によって蚊帳の外になっていることが主な理由だ。
「・・・綺麗だ。こんなに美しい山体が連なる光景なんて、ありえない」
双眼鏡で辺りを見渡して、私はその場所で感嘆の声を上げた。
そう、ありえない。ありえないほど美しい。
目の前の広がるイェラグの国土、連なる山脈、遠方に一段とそびえたつカランド山。その全てが私がリターニアで培った常識を崩すに足るものばかりで、遠ざかっていた学生時代の高揚が全身を包み込んでいた。
「教授は、なるほど・・・これらに神を見出したのか」
納得し、理解した。なぜ教授がこの地で神を幻視したのか、見出したのか。それはあまりにも美しく、綺麗すぎる絶景があるからだ。
テラの大地では天災という自然災害に直面する。大雨、砂嵐、大雪、大地震、隕石など一つの街はおろか、都市すらも粉砕するに十分すぎる威力も持った災害がこの尋常じゃないほどに頻発し、天災跡のその大地には感染者の元凶である源石が至る所に点在するようになり、危険な区域となる。
先人たちはそれから逃れるために、都市に源石エンジンを搭載し、足を持たせることで天災から退避し、安全区域を転々とする方法を確立した。
だが、自然の絶景たちはそれから逃げることはできなかった。
天災は人々だけではなく、この大地にも牙をむいた。
美しい山の大部分が度重なる天災によって100年単位で本来の姿を失い、源石まみれとなった。水脈は源石による汚染を免れず、移動都市外に住む者たちの生活をいとも容易く奪い去った。土壌はその清浄さを完膚なきまでに破壊され、そこに住む生き物たちの温床を引き裂いた。
教授はかつてこう話した。
『天災は我々から安住の地を奪っただけではない。そこにある自然への信仰すらも、神すらも、神の神聖なる居場所すらも殺したのだ』。
テラでは宗教自体がそれほど多く存在はしていない。神などという曖昧なモノを信じるよりは、素晴らしい皇帝や英雄などを信奉する。
神を見出すなんて、そんなのはラテラーノ宗教以外に聞いたことがない。
自然は、おろか神の絶対性すらも天災には叶わない。
だが、このイェラグにはその自然が生きている。あろうことか生きているのだ。
見える範囲の地表には剝き出しになっている源石もなければ、連綿となる山脈の殆どが欠けていないありのままで残っていて、あの遠くにそびえ立つカランド山に至ってはその美しさに翳りなど皆無であった。
術師として源石の研究も齧ったこともある私には、この地が天災による被災が極端に少ないのだとすぐにわかった。この大地で頻発し、人々を苦しめているあの天災が、このイェラグではその痕跡すら探すのに苦労する。
こんなの源石の、天災の権威のある学者が見れば卒倒するくらいに奇跡そのものである光景だった。
この景色に、教授が神を見出したのも納得だ。その上、この話を言い触らさずにいたのは単にこの神聖な土地が貪欲で恐ろしい一部のリターニアの学者に踏み荒らされるのを良しとしなかったからだ。
「カランド山よ、イェラグの神よ。異邦人でありながら我らの旅路を御守り下さり感謝致しました」
柄では無いが、私はカランド山の方角に祈りをささげた。敢えて言葉に出したのは単にそうしたかったからと、前にソルシアが言っていた言霊というものを試したかったから。
祈り終えたところで、特にコレといった変化はない。別に神になんか期待しているわけじゃないし、振り向いてほしいわけでもない。ただこの景色を、雪雲が所々を覆い尽くして、朝日を遮ろうとしているあいにくの曇り模様でも、拝めたことへの感謝だけがあった。
「あら、随分と可愛らしいわね」
「っ!?」
真後ろからいきなり顔にひんやりとした手を添えられ、驚きのあまりに全身の羽毛が逆立った。思わず護身用の杖状のアーツユニットを抜きかけるが、直ぐ真後ろに立たれていたため、いともたやすく頭を撫でられる。
「祈るなら一緒に帰りの無事を祈願なさい。貴方が思うほどイェラガンドは異邦人に厳しくないわ」
「イェラ、さん。心臓に悪いから気配を消して後ろに立たないで貰えるか」
「気配? ああ、ごめんなさいね。いつもの癖なの」
これがいつもの癖だって? なおさら貴女はなんなんだ。
にこにこと微笑む彼女は私が人生で見てきた存在の何よりも謎な人物だ。フィディアと思わしき尻尾をしているものの、顔にはその特徴は見受けられないし、他種族の特徴とも合致しない。瞬間移動やソルシアすら接近に勘づくことが出来なかったのも、その奇異さに拍車をかけていた。
──―この人、人間じゃないのでは・・・。
狂気の洞察が頭に浮かぶものの、流石にそれを口に出すのはあまりにも失礼だ。相手を問答無用で怪物呼ばわりする馬鹿な昔の私と同じになってしまう。
「勝手な偏見だけど、帝国のヒッポグリフは
「う、浮気?」
何を言っているんだコイツ、と思った。が、今の私は冴えていたのでそれが信仰のことについてのことだと考えが至った。
だが、そんな表現を? そんな俗っぽく、信者が言うことらしくない。
「浮気なんて表現初めて聞いたぞ。そもそもウルサスには神を崇める宗教なんて絶えて忘れ去られて幾星霜が経っている。比較的過去の歴史が残っている私の家でも『不死の黒蛇』という名称くらいしか残っていない」
その黒蛇を崇める宗教の存在の証明すら、確固たる証拠がない。
「『不死の黒蛇』ねぇ・・・懐かしい名前ね」
「──―懐か、しい? あなたは今は懐かしいと言ったのか?」
「ええ・・・そうなのね、もう名前くらいしか残ってないのね」
彼女はどこかはるか遠くに顔を向けて哀れむように目を細める。だが、私はそれどころではない。今、無駄に冴えてしまっている思考が今ここに転がっている状況証拠を寸分の狂い無く分析し、それを元に最も現実的で、いくつかの答えを用意する。
説その1、彼女はイェラグ宗教の信者であり、瞬間移動のアーツを持ち、黒蛇に関する知識を有する歴史学者のイェラグ人。
全くもって現実的じゃない。そんな信者いてたまるか。
説その2、彼女はイェラグ出身ではなく、各地を転々と回るトランスポーターであり、瞬間移動アーツを使用して、仕事柄黒蛇の噂を耳にした。
棄却だ、棄却。脳内の私たちの逃避案を泣く泣く破り捨てる。
説その3、目の前にいる彼女は神、またソルシアの知覚に引っかからない超常的存在である。
「──―あの、イェラ、様?」
「?」
「あ、貴女様は、その・・・イェラガンド様なのでしょうか」
こちらに向き直った彼女は目をぱちぱちさせ、続いて遠くで呑気にザックやアイゼンを手入れしている彼に目を向けるとしばらくして納得したように手をポンと叩いた。
「もしかして、あなたは彼から何も聞いていないの?」
どうやら残念なことに狂気の洞察が当たってしまいました。
「な、何をでしょうか?」
「そうなの、どうやら私の早とちりだったみたいだわ。怖がらせて申し訳ないわね」
肩をすくませるように申し訳なさそうにし、手を合わせて謝る。しかし、それすらも畏れ多くてたまらないので、慌てて辞めていただくようにお願いする。というか、なんでソルシアはあんなに堂々としていられるんだ馬鹿。気が触れたかアイツ。
「別にさっきまでのままでいいのよ。私だってこんなお喋りする機会なんてそうそうないから」
「は、はい。あの、イェラさん、のままでよろしいんですよね」
「ええ、なんならあなたのことはアンジェラと呼ぶわ」
父上、母上。私、アンジェラは異国の地の神から名前呼びされました。私は死ぬのでしょうか。
「あの・・・ソルシアからというのは、どういうことですか」
「そのままの意味よ。サルカズである彼とこのイェラグに来るくらいだったらそれくらい親しくて知っていると思ったのよ。ヒッポグリフとサルカズが隣を歩くなんて初めて見るものだから」
「・・・」
そう言われると納得せざるを得ない。数年前魔族呼ばわりしていて貶していた者と今では無理を言って共にイェラグ登山・・・言い逃れようがないほど親しそうに見えるし、実際に私は頼りにしてる。
その上、目の前の神・・・イェラさんですら初めて見るというのだ。ならそう捉えてもおかしくはない。
「というより彼、ソルシアは何を知っているのですか?」
「そうねえ・・・これも私の勝手な推測だけど、彼は私と似たような存在を見たことがあるような反応をしていたわ。私と相対した時、普通なら真っ先に非礼を詫びようとしないでしょう?」
そうだ。そんな暇あれば叩き潰す方が最も確実かつ安全だ。
いきなり現れた相手に対してほぼノータイムで謝罪なんてありえない。
「極めつけは、そんな存在から彼は随分と気に入られているわ」
「え・・・わ、分かるんですか? そんなこと」
「うーん、分かるというよりは感じるかしら。二柱・・・いえ、三柱かしら?」
日が出ていないことをいいことに、全身の日照防具を脱いで大きく伸びをする彼にイェラさんは不思議そうな表情でジッと見つめる。私もつられて見つめるがそんな繋がりなんて私にはさっぱりだ。
だが、イェラの目から見たら三つのつながりが彼を繋いでいた。一つは彼が身につけている鋳造物から、炎の暖かみが太く彼を護って繋いでいる。二つ目は彼の持つ仕事で常用している羽ペンから、一つ目程ではないが確かに彼を繋いでいた。三つ目は、あまりにもか細い、か細い線が見えた。それを繋がりと称していいのかイェラにも微妙で今にも千切れそうだったが、微かにその残滓を感じ取った。
こんな芸当が出来るのはイェラ自身が他の同類とは別でイェラガンド本体の現身であること、その権能が十全に行使できるイェラグ圏内であったことが重なって見えたことであり、実はニェンも知らないことである。
「あ、あいつは大丈夫なのか?」
「まあ、今すぐには実害はないと思うわ」
彼、いつか身体千切れないといいけど、とイェラさんが内心そう思っているのを知らずに安堵の溜息を付く。というか私へ飛び火するほうが不安だし、取り合いなんて勝手にやってくれと密かに思う。血をふんだんに与えている時点でもう手遅れなのを私は気付いてないが。
「もう行くの? 早いわね」
「すみません。予定があんまり余裕が無くて」
テントを手早く片付け、日の出から約一時間。本格的な朝ごはんをイェラさんと共に食べ、私たちは帰り支度をしていた。3週間という溜まった休暇とサービスしてくれた日にちは、ウルサスからカジミエーシュとヴィクトリアの国境地帯を縫った往復日数と、イェラグの国境山脈の登頂の往復日数であっという間になくなる。
彼はやるべき仕事の準備を数日前から行いたいと思っていたし、私は私で来年の入職する場所の話が父上越しに聞いていたので、帰ったら少し休んでその準備に取り掛からないといけなかった。
だから忙しくなる前にここに来れて本当に良かったと思う。
教授が見た絶景を目に収めることが出来たし、その上得難い経験と知見を得ることが出来た。それを口に出すことなんて彼との思い出話の中くらいだろうが。
「そう言えば、二人はどうしてイェラグに来たの?」
彼はちょっと黙る。彼の動機は聖地巡礼であり、逆にそれ以上の理由なんて無かったのが答えを少し詰まらせた。だから仕方なくそれっぽい嘘で誤魔化す。
「俺は・・・親友に勧められたんだ。ここの景色は絶景だと」
「私は教授が神を見出したというものを一目見ようと。これを逃せば当分ないと思ったのでな」
私は、その思いのままだ。生憎の空模様で十全に見ることは叶わなかったが、それ以上に楽しく、生涯の思い出となった。それくらい焼き付いたのだ。
「ソルシア、耳を貸せ」
「え? 恥ずかしいんですが」
「恥ずかしいなんてどうでも良い。ほら貸さんか」
イェラさんに聞こえない程度にヒソヒソ話をする。彼には頷くか、首を振るかの二択で応えてもらった。意味のないことかもしれないが、イェラさんに悟られず彼に相談したかった。
珍しく私が我が儘を言いたくなったのだ。
「大丈夫か?似たような友達を持つ俺が言うのもなんだけど」
「これがダメならば、今頃私たちは氷の彫像だ」
「それもそうだな」
クスッと笑って、イェラさんに目の前に立った。イェラさんは疑問符を浮かべているが、それを無視して彼女の前に私の我が儘を祈願する。
「イェラグの神よ。浅ましくも貴方様にお願いがあります」
彼女を見上げる。彼女の顔もいつの間にか真剣なものとなっており、その雰囲気は他の人々とは隔絶した格の高さを感じさせる。軽く震える。
「わ、私と、と、ともだ「俺とも友達になってください」おいソルシアァ!? 私の決死の我が儘をふいにしよって!!」
私がぶちギレて、彼をどつこうとするがひらりと軽く躱した。余裕そうに笠越しで笑っている彼に雪玉を投げると油断を突かれたのか顔面にぶち当たって転倒した。
そしてそのまま彼の鳩尾へと体を捻って蹴りを突き立てようとするが寸前の所で避けられ、カウンターで雪玉が私の顔面を捉える。
そのまま下らないもみ合いに夢中になっていく私たちを彼女は、呆気に取られた表情で見ていた。そして、とても嬉しそうに人知れず微笑んだ。
「──―ふふ、こちらこそよろしくね。アンジェラ、ソルシア」
アンジェラ
賢すぎてクトゥルフ神話ならアイディアが高くて発狂しかねい人。
その分鋼メンタルで肝が据わっている子。
ソルシア
今回は背景だった人。
今までの人生でイェラを除いて三柱くらいと関わりを持っている人。なお、気付いていない模様。
イェラ
異邦人が来訪してきたのと、ソルシアが身に付けていた鋳造物が気になって顔を出した。
友達になったら思った以上に嬉しかった。