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1020年1月
アンジェラから日記帳をもらった。日々多忙で毎日が追われる中、これを愚痴を書いてストレスの捌け口にするがいいと言われたがそれは日記帳として正しい使い方なのだろうか。
早速だが、愚痴を書かせてもらう。
戦争はクソだ。マジでクソ、コツコツ俺が積み上げてきた財政の健全化を一瞬でないものとしやがった。
最近大規模な戦争がなかったとはいえ、リターニアにカジミエーシュらと小競り合いが絶えない上に、ガリアやヴィクトリアからの外圧がえぐいえぐい。おかげで貴族どもはバランスの悪い軍拡を主張してくる毎日だ。
俺自身は上からの要望、今は上司のヴェスナー侯爵が提示した条件に出来るだけ沿って改革案を出す現場の官僚だから拒否権なんてない。
上が「戦争したいです!」と言えば、戦費の見積もりと軽い検討案を出すくらいしか許されていないのだ。
常勝無敗のウルサス軍に敵無し! と彼らは豪語するがその常勝無敗を支えているのは国庫なのを知っているのかあの馬鹿どもは。私たちのことを何でも叶う便利な道具だと思ってないか。
しかも、戦争で儲かってない。むしろ赤字になってるケースもある。大量の軍事費を掛けての戦争で何の利益も得られないなんてふざけんなよ。え? カジミエーシュにガリアの支援が入っていたって? 言い訳は大概にしろ無能な貴族が、うちに勝たせたくないから義勇軍なり支援物資なりするのは当たり前だろうが。
……はあ、鬱憤が溜まっていたのでついつい書きなぐってしまった。気分転換に良いことというか、心労が減ったことを書こう。
私が現在担当している仕事は、財務大臣やその他の貴族などに、政治試案を提出する官僚のようなことをしている。
一人では仕事が回らないので、若くて有能で貴族から干された官僚たちをスカウトしていたらいつの間に事務所を構えるくらいには同僚が増えた。
その他にも副業として、サルカズのトランスポーターをテラの大地のあちこちに派遣して諜報部の情報輸送を円滑にすることもしている。また、ヴェスナー侯爵の移動都市の治安顧問も兼ねているため、本当に心休まる日々がない。
そんな中、アンジェラが部下として治安顧問と官僚を掛け持ちする形で入職してきた。お腹痛い、侯爵令嬢が部下になるって色々やばいよ。
彼女曰く、直に学べと父上から言われたそうだ。
しかし、彼女はすごい。勢いがあって才気溢れてリーダーシップの取れる人が傍で仕事してくれるなんてなかったから大助かりだ。彼女は兄と姉から教わったと言っていたが、彼女は自身の才能をもう少し自覚したほうがいい。
おかげで仕事量がぐっと減った。その代わり、心労が倍化した。
1020年 7月
この世界では成人というのは国ごとによって変わるが、前世よりも早い段階で行われるようだ。二十歳になった彼女は15の時に成人を終えていたらしく、普通なら二十歳くらい前に嫁ぎに行くのが当たり前らしい。
気になって同僚にそのことを訪ねてみたが、アンジェラの武勇伝というか、伝説のことを熱く語ってくれた。
オタク特有の彼女の早口を要約すると、昔リターニアの留学時代にアーツ同士の決闘なのに至近距離でステゴロで殴り勝ったとか、貴族の社交パーティーでおさわりした貴族が全治2ヶ月の大怪我を負ったとか、……恐ろしいブラッドブルードを自身のカリスマで忠誠を誓わせたとか。
要はそんなじゃじゃ馬武勇伝に周りが怖気付いて、嫁入り話がおじゃんになったらしい。
同僚が「彼女との馴れ初めを是非!」と息を荒くしてメモ帳を取り出してきたが、納期に余裕を持って提出したら話してやると言ったら、爆速で次の日に仕上げてきた。だが残念、ミスがあったので突き返した。
自分も随分部下の扱いが上手くなったのを感じる。
1021年 3月
ウルサスの首都に出向いた。冬が明ける頃に各地の貴族たちが一堂に会する所謂総会というものが開かれた。
今回はアダム・ヴェスナー侯爵の代理として、アンジェラのお姉様と共に傍聴人兼書記、そして護衛として同行した。
御姉様は名をソフィーナという人で、妹のアンジェラと同じく雪のような白髪に碧眼で噂に違わず美人だった。ただ、妹とは違ってウルサス人の特徴が大きいのと、なによりガタイと筋肉がヤバイ。貴族の礼服とかで隠せないくらいムキムキのボディをしている。あと、何気に俺の身長より僅かに高い186cm。原作のホシグマの姐さんぐらいみたいだった。
彼女は当主の継承権第一位の方の筈なのだが、普段はカジミエーシュ国境地帯の占領地域の統治兼国境警備隊を務めているというバリバリの前線で活動している方だ。それでいて既婚者で家庭持ちという、純粋に凄い方だ。
名前と好みをアンジェラから事前に下調べしていたのが功を奏し、初対面で好印象を得ることができた。
具体的には、手作りの蜂蜜クッキーと極東の茶を包んで媚びを売りました。
「噂に違わず風変わりなブラッドブルードだな。貴殿、今からでも私の右腕になる気はないか? なれ」
なんか猛烈にスカウトを受けた。正直、嬉しい。
自分の事を種族に捉われずにしっかりと評価して、認めてくれる人が前よりも増えたとはいえ、真っすぐでドストレートにそう言われると嬉しくなる。
だが、それはそれでこれはこれ。
アンジェラが狂人になるか、まともなまま寿命で亡くなるくらいまで鞍替えしないつもりだから、「お嬢様は私に
ソフィーナ様はそれを聞いて目を丸くしたと思ったら、
「一発殴ってやろうと思ったが……」
「認めざる得ないな、父上と母上が見初めただけはある」
と物騒な言葉を吐いて、何故か負けを認めるように軽く両手を挙げた。
どうやら気を損ねるどころか、さらに絶賛されたようで朗らかな笑みで背中をバシバシ叩いてきた。
何故か弟分として見られたが、117歳ですといったらそれでも弟として見なされた。何故だ。
ふと思ったが、アンジェラとソフィーナ様は話し方が似ている。姉に尊敬の念を抱いていたようだったから、口調も自然に真似する様になって移ったのかもしれない。彼女がねぇ、と思ったが俺も昔は兄貴の真似をして恥かいた黒歴史があったから笑わないことにした。
1022年 7月
久しぶりに苦手な奴と会った。
会うたびに政治討論を吹っかけてくる貴族の公爵の女だ。こいつとは20年そこらの付き合いだが、未だに苦手な上に俺はコイツに気に入られているらしい。
上質な羽ペンもこの公爵から貰って、使い勝手がいいので今でも使っている。
社交パーティの警備をしているのに、わざわざ酒を持って会いに来るなんて俺を職務怠慢で首にさせる気かと悪態をつくが、こいつはいけ好かない笑顔で酒を俺の隣に置いてくる。
こういった時はいつもそうだ。
しかも、いっつも人払いをして一対一の場を作るから気が気じゃないし、ここを去ろうものなら貴族と言う立場を使って脅してくるから黙って彼女に付き合っている。
今日の議題もいつもと変わらず『ウルサスをどう繁栄させるか』と聞き飽きたもの。
昔の俺は、そんな疲れる討論に足りない頭で付き合ってその度に彼女の理論に論破されるを繰り返して来た。よく彼女の政治思想に染まらなかったなと今では思う。多分、前世と殿下閣下に仕えた経験が無かったらアウトだった。
「ウルサスが生き残るには激しい闘争に身を投じる他ない」
それが、彼女が論じ続けてきた理論であり、政治思想。
シンプルかつ単純な答えであり、多くの犠牲の上に成り立たせるというもの。事実、ウルサスの歴史がそれを物語っており、千年に渡る闘争の歴史の上で今の帝国が成り立っているのは否定するつもりはない。
「ウルサスが生き残るためには、闘争以外の道を探す他ない」
対して、俺が論じる理論……というよりも、理想論に過ぎない。
彼女が考える根拠や実現性、その全てが私にはない。
産業、雇用、経済などを俺がどれだけ良くしようが、それは延命に他ならなく、根本的な治療ではない上にその成果は一つの戦争でかき消されるほど脆く儚いもの。
戦争以外でウルサスを富ませる、なんて考えを彼女に嘲笑られる。
出来るはずがない、出来ようはずがないと。
愚かな貴族は皇帝に真に忠誠を誓っているのではなく目先の戦争の利益に忠誠を誓っている。国民は偉大な帝国の強大さに心酔しており、その自信の矛先を隣国に征服欲として向けている。軍人は我らウルサスの軍事力がもたらす戦果がウルサスを富ませると頑なに盲信している。
今も、昔も、未来も変わらないも不変なものであると。
「貴族なんて消えればいいのに」
「貴族が消えたとしても、貴族に代わる障害が立ち塞がるだけさ。傲岸無知な国民や憤怒に駆られた感染者がな」
降参の愚痴を漏らしたがこれも完全に論破をくらって、何十度目かの討論も完全にボコボコに叩きのめされる俺の敗北によって終了を迎えた。
だが、彼女は今回も落胆した様子はなく、寧ろ楽しい時間を満喫できたようにいけ好かない表情で笑っている。
「私を落胆させないでくれよ、稀人のブラッドブルード」
俺の空っぽの頭と平凡な精神に期待しないでほしい。マジで。
だが、苦手でいけ好かない毒蛇のような奴を本当に嫌いじゃないのは、彼女が紛れもない愛、俺の理想なんてちっぽけに見えるようなウルサスに対する人類愛を持っているからだろう。
1023年 3月4日
久しぶりの戦場だ。アンジェラの初陣であり、友軍にはソフィーナ姉様やその兄貴のソコール殿など一族の総出の出陣である。
初めてソコール殿とはお会いしたが、ゴリッゴリの筋肉ムキムキマッチョマンだった。若い時のアダムの親父さんにそっくりなウルサスで彼の拳と肉体はかの帝国先鋒の携帯用対艦砲すらも弾き返すそうだ。
私の部下と彼の部下たちは冗談のように笑っており、彼も自慢げに肉体を見せつけてくるが私は笑えない。
アダムの全盛期は、自分の拳を潰すほど強くぶん殴れば極北の怪物が吹き飛ぶし、リターニアの金律法衛のアーツ攻撃を肉体で弾いたのも隣で見たから笑えない。
今回の侵攻目標はカジミーシュの辺境都市。
第8次カジミエーシュ・ウルサス戦争の勃発である。
俺たちは今回の総指揮官である大公爵が画策した奇襲作戦は、諜報部や俺が放ったトランスポーターが破壊工作や偽装工作が上手くいって成功を果たした。
カジミエーシュの都市防衛隊に迎撃の準備を整えさせる前に包囲。絶え間ない艦砲射撃で外に備え付けられている艦砲を悉く破壊し、都市内への侵攻を開始した。
彼らは圧倒的不利な状況にもかかわらず投降を拒み、決死の抵抗を試みて友軍以下俺たちも手を焼いた。だが、今回の陰の功労者はアンジェラだと断言しよう。誰も彼女に見向きもしないだろうが、それでも部隊を俺に代わり指揮を執り、俺に先駆けになるように命令したのは素晴らしかった。
おかげで久しぶりに存分に暴れられた。本当にありがとう。
余談であるが、めっちゃ理性削られた。やっぱり戦場は流血が多くて渇きをより一層刺激される。
1023年 3月6日
都市部の8割を制圧した。
この都市が落ちるにはあと半日もかからないだろう。しかし、3日も粘られるとは今後の侵攻に深刻な影響が出そうだ。早めの撤退と講和を準備したほうが良いと進言するか、絶対に大公爵らは頷くとは思えないがやるしかない。
それより気掛かりなのが偵察に赴いていたトランスポーターの内数名の連絡が取れないそうだ。
これは不味い兆候だ。歴戦の銀槍の征戦騎士が急行軍で駆けつけてくる可能性は大いにあり得るし、この戦いで荒れた移動都市では迎撃するのはあまりにも良くない。
ソフィーナ姉様たちだけでも今すぐに外の高速戦艦に戻るように──―。
矢が降ってきた。星が降ってきたように槍の雨が降ってきた
むせかえるような血の匂いがあたりを覆う。気持ち悪い、心地よい、気持ち悪い
仲間の足が消し飛んでいた、腕が転がっていた、首が貫かれていた。
俺は全力を尽くした。斬り払い、砕き、仲間を守った。無我夢中で槍を撃ち落とした。
気付けば槍の雨は止み、こんどは負傷者の悲鳴が雨のように響いていた
負傷者を纏めて今すぐにでも撤退しないといけない。俺は声を張り上げて指令を飛ばし、アンジェラがいた場所へ赴いた
そこでアンジェラが、血を流していて
血だまりがそこにあって
俺は……俺は、彼女に許されないことを
人として許さない……ことを
でも、背徳的で──―
この上なく満たされて──―
俺は……何を思った? 今何を思った?
いやだいやだ!! 認めない! 認めてなるものか!!
こんな昏く満たされる感情があってたまるか! 俺が悦んでいるなんて、許されない許されない
俺は怪物じゃない、人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ人間だ
俺は人間だ!!! ……俺は人間なんだ──―
俺が、全部悪いんだ。
初めての日記形式モドキでした。
いつの間にかお気に入り500人を超えていて今更ですが飛び上がるほど嬉しかったです。月並みの言葉ですが応援ありがとうございます。稚拙ですがこれからもよろしくお願いします。